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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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122/207

第九十八話  追憶令嬢14歳

おはようございます

レティシア・ルーンです。平穏な人生を目指す公爵令嬢ですわ。


私は相談がありリオの部屋に来ています。面会依頼を出して許可はもらいましたが扉を開け中に入ると先客がいました。リオの正面に座っているのは暗い顔をしたラウル。

私もラウルのことで相談がありますが後にしたほうがいいでしょうか?こちらを向いたリオが穏やかに笑って手招きしました。隣に座れと視線を送られたので空気を壊さないように気配を消してそっと座ります。私に気付いたラウルと目が合ったので笑みを浮かべます。


「ラウル、お久ぶりですわ。礼はいりませんわ」

「ルーン嬢、お久しぶりです。お邪魔してます」

「ラウルならいつでも歓迎しますわ。お顔が優れませんが、」

「お恥ずかしながら行き詰ってまして。マール様にご相談に」


ラウルの困っていることは畑の件です。

ラウルは農学の研究生です。作物の品種改良の研究をしています。

ラウル達の管理している畑がルメラ様と取り巻き達により荒らされています。

ルメラ様はラウル達の畑の野菜を使い親しい生徒に食事を作って振る舞っています。

ラウル達の畑は細かく管理されており、収穫時期も綿密に決まっています。

収穫した野菜はあらゆる検査をしてから食べます。

私がいただいたカボチャも検査後のもの。

農学の研究生は平民ばかりで男爵令嬢には逆らえません。

先生方がどうして関与しないか不思議でなりません。私はシエルに調べさせた時に乗り込もうと思いましたが、シエルに止められました。先にリオに相談をと。

ラウルからリオへの相談を聞くと鎮めた怒りが再び湧き上がってきますわ。絶対に許せませんわ。


「シア、生徒会で動くから勝手に動くな」

「ルーン嬢、お気持ちだけで充分です」

「ですが」

「お願いですから。私は大丈夫ですから」


宥めるようにリオが私の肩に手を置きました。それでもラウルが無理して笑っていることのほうが胸に痛みます。

私が無理を言ってラウルを困らせてはいけませんわ。怒りを今は呑み込んで、令嬢モードの笑みを浮かべます。


「わかりましたわ」


リオにポンポンと優しく頭を叩かれ、ラウルは無理矢理な笑みを浮かべて感謝の言葉を告げました。そしてリオとラウルの相談が再開しました。


「ラウル、レオ様が傍にいても駄目なのか?」

「彼女達はレオ様の言葉を聞きません。レオ様を巻き込んで傷つけてしまいました。これだと今年の研究はもう駄目です。来年の予算も減らされます。最近は望む食材がないと暴力を受ける被害も。教授は留守ですし、帰ってきたら恐ろしいですが…」

「気付くのが遅れて悪かった。生徒会の手落ちだ。ラウル達の努力を無駄にしてすまない」

「マール様、頭をあげてください。生徒会のお蔭で私達は研究できているんです」

「今までの加害者と被害状況をまとめてくれるか?相手が貴族でも関係ない。お前達に手出しはさせないから」


謝罪するリオと恐縮するラウル。この状況を作っているルメラ様達への怒りは表面に出ないように自制します。感情に呑み込まれたら終わりですわ。

ラウルが紙の束をリオに渡しました。


「昨日までの現状です。証言だけなので証拠としては弱いかと」

「充分だ。今後の被害状況は意見箱に早朝に入れてくれ」


リオが引き出しから紙を取り出しラウルに渡しました。


「表は適当に。裏にこの暗号文で書けるか?」


ラウルが紙をじっと見てリオに返しました。


「わかりました。この暗号で書きます」


もう覚えましたの!?

リオは驚くこともなく意見書用の書類の束をラウルに渡しています。


「今年度の研究にかかった金額の一覧も用意して欲しいほしい」

「こちらでよろしいですか?」

「予算は心配しないでいい。今年の研究も途中経過で構わないからきちんとまとめを。研究が邪魔されなければどんな結果になったかも別にまとめてほしい。研究生で協力してでいい。教授には生徒会から説明する」

「ありがとうございます。マール様を利用してしまってすみません」

「利用してもらって構わない。利用することを覚えないと上にはいけないよ」

「恐れ多く」

「用件は以上だ。自衛だけは気を付けろ。何かあれば生徒会に」

「ありがとうございます。失礼しますね」


力のない笑みを浮かべたラウルが礼をして退室しました。


「ラウルは、」

「落ち込んでるな。研究員には絶望的だ。報復するけど時間は戻せないから」

「できれば土壌の回復に土属性の生徒を派遣してあげてください。きっと土壌も荒らされていますわ」

「わかったよ。よく知ってるな」

「ダン達に教わりました」

「そっか。シアの用件は?」

「いくつかありますわ。これを。まずはラウルの相談なんですが」


料理長の用意したチョコケーキとお菓子をリオに渡します。


「ありがとう。すごい量だな。ラウルの件は生徒会が動くから安心していい。あとは?」

「シエルをルーン公爵邸に帰したいんです」

「は?なんで?」

「もうすぐ15歳になります」

「シア、待って。人払いを。フウタ、結界を頼む。それで?」


リオの侍従が礼をして出ていくと結界で覆われました。


「またシエルに危害を加えられるかもしれません。だから学園から離したいんです」

「公爵令嬢が侍女を連れないのはまずいだろう」


問題はわかっているんです。リオがお父様を説得してくれればと思いましたが…。このお顔は無理ですわ。そうすると、やはり自分で考えるしかありませんわ。


「ルーン公爵家に迷惑をかけずに、ルーン公爵令嬢ではなくなる方法…」

「俺と結婚するか?」

「成人してないのでありえません。例外がありますがそれは両家の醜聞になります。嫁いでも公爵家のまま。侍女がつかないような辺境伯と婚姻する?妾話を受ける?駄目ですわ。家の利はありませんし、お父様の領分で私の一存では決められませんわ。非現実的ですわ。シエルに嫌われる?シエルに酷いことしたくないです。勘当?ルーン公爵家の醜聞ですわね。留学?卒業してからでないと無理ですわ。シエルに縁談を持ちかけ、結婚のための一時的な里帰り。名案ですわ!!リオ、失礼しますね」


そうと決まれば動かなくては。

時間がありません。立ち上がると腕がリオの手に掴まれてます。


「私は忙しいので失礼しますわ」

「待って」


私は暗闇の中に一筋の光を見つけ進もうとするのを阻む手を解いてくれないリオの顔を見ると背中に冷たい汗が流れていきます。目が据わっているリオに嫌な予感がしますがお説教されるようなことは言ってませんわ。

もしかしてシエルの縁談を整えるのが嫌なんでしょうか?

シエルは有能ですものね。手放したくないですよね。それはよくわかりますわ。


「ご安心を。卒業する頃にはシエルを呼び戻しますわ」

「俺は聞きたいことがありすぎて困ってるんだけど。まず軽いのからな」


穏やかな声ではなくいつもよりもトーンの低い声にゾクリと寒気がしました。

か、軽いの?

やっぱり怒ってますの?


「今から何をしようとしてた?」

「面接に行きますわ。シエルを任せられる方を探してこようかと」

「シア、自ら?」

「はい」

「シエルは縁談望んでるのか?」

「いえ、シエルからそんな話は聞いたことはありません」

「シアの仲介はシエルにとって命令になるのわかってる?」


リオの言葉に怒っている理由がわかりました。盲点でした。私の言葉は強制力があるのを忘れてましたわ。両者が不服でも笑顔で了承するしか許されない道でしたわ。


「申し訳ありませんでした。縁談は諦めますわ。他になにか…」

「シエルはシアより強いよ」


頭を下げるリオの言葉の意味はわかります。ルーンの家臣は自衛も教え込まれます。それでもシエルは傷つけられました。ルーンの教育だけでは足りない。


「シアの迷子や誘拐、他にも色々に巻き込まれた時にシエルは守りきれなかったことを悔いて叔母上に鍛えてもらってるよ。ビアードにも引けをとらないと思うよ」



お母様がエドワード以外の指導をしているのは初耳でしたわ。お母様は武術が嫌いだと思ってましたが違うんでしょうか。いえ、それは知らなくていいことです。大事なのは、


「シエルが?」

「ルーン公爵家でもターナー伯爵家でも技を磨いてたけど、そんな忠臣(シエル)を手放すの?」

「でも傷ついて欲しくありません」

「シアを守りたくて修行しているシエルの思いは?」


主は家臣の忠誠に報いるべきです。シエルの忠誠は生前も今も変わりません。私が死んだ後にシエルがどうなったかわかりません。震えそうになる手を隠すようにギュっと握りしめる。あの時、傷つけられたシエル、連れ去られたあとどうなったか。あんなことは絶対に許せません。私はシエルが大事ですもの。


「譲れませんわ」

「頑固だな。シアもシエルも守るから安心して」

「でも…」

「俺を信じて。絶対に守る。もしも捕まっても絶対に助けるから。シアもシエルも死なせない。今までも間に合っただろ?」


頭にポンと置かれる手の持ち主はいつも危ない時は助けてくれました。

リオがいれば大丈夫でしょうか。今世こそ守れるでしょうか?


「シア、大丈夫だよ。俺はビアードに魔法を使わなくても勝てるよ。シアができないことは俺がするよ。どこに隠されようと絶対に探し出す。前とは違うんだろう?」


許されるならシエルにはこれからも傍にいてほしい。リオがいてくれます。リオはエイベルも瞬殺します。きっと助けてくれます。前とは違いますもの。


「わかりましたわ」


顔をあげると、リオの怖い笑顔に寒気がしました。

もうシエルの件は終わりました。反省しましたわ。

なんでまだ目が据わってますの?

助けてください!!グランド様!!


「シア、辺境伯と妾の話ってなに?」

「社交界の戯れですわ。社交会でよく見かける私を見て、公爵家に疲れたらいつでも受け入れますよって。うちはそんなに忙しくないからって」

「名前は?どの社交会?」

「わ、忘れましたわ。そんな戯れを真に受けたら身が持ちませんわ」

「まさか一人で社交会に?」

「エスコートはエディが務めてくれますわ」


社交会は婚約者、家族、親戚、執事等のエスコートで参加するのが一般的ですわ。最近はエドワードの人脈作りと情報収集のためにお父様達の名代での参加がほとんどです。

リオが大きなため息をつきました。


「今度から社交会に行くときは俺に声かけて。シアのエスコートは俺の役目だ」

「いえ、必要ありませんわ」

「それは俺の役目だ。エドワードにも譲りたくない。俺にエスコートされて」

「ルーン公爵家のお役目ですから、マール公爵家の力は借りれませんわ」

「わかった。俺は醜聞なんて気にしないから、既成事実を作ってすぐに結婚でもいいけど」

「リオ?」

「マール公爵家の人間になればシアが俺なしで社交会に顔を出すこともなくなるよな」

「落ち着いてくださいませ。そんなの両家の醜聞ですわ。許されません」

「ルーン公爵家の務めに、俺が不要なら仕方ないよ。さっさとマールの人間にしてしまえばいい」


まずいですわ。リオの顔は本気で戯れではなさそうです。がしっと肩に置かれた手は私が逃げないように拘束されてる気がします。

そんな醜聞は公爵家の婚姻で許されませんわ。

そんなに社交会に参加したいんですの!?

でもエスコート役なら招待状は不要ですし、伝手作りに有効。

メインの招待客でないなら主催から過剰な接待を受ける必要もないため動きやすいですわね。マールのためでしたのね。それなら教えてくれればいいのに。でもマールにも色んな事情があります。同派閥は協力し合うもの。それなら頷くのが道理ですわ。思惑が知りたいなら自分で調べるもの。私は興味がないので調べませんわよ。


「わかりましたわ。社交会の時は連絡します。エスコート、宜しくお願いしますわ」

「俺は結婚でもいいんだけど」

「時期尚早です。それに婚姻のことはルーン公爵とマール公爵次第です。リオ、そんなことよりレオ様とエイミー様の婚約の件を」


リオがため息つきました。据わっている目でも怖い顔でもなくなりましたが、興味のない顔をしています。今日のリオはおかしいですわ。

疲れてるのでしょうか?


「二人の婚約は俺達が動かなくても二人が望めば整うよ」


サラリと言われたことに意味がわからず、首を傾げます。


「母上達が動いてる」

「嘘!?いつから?」

「本格的に動き出したのは今年かな。二人の気持ち次第だって」

「教えてくださればよかったのに」


興味のない様子のリオに抗議するようにじっと睨みます。


「それは二人への試練だよ」


リオの態度は酷いですがレオ様達の様子を思い出したらどうでも良くなりました。両家の了承があるなら幸せな形にまとまります。望めないと言ったレオ様、幸せそうに笑うエイミー様。いつの間にか冷たい汗も止まり脳裏に浮かんだ光景に笑みがこぼれます。


「そうですか。二人が幸せになれるなら良かったですわ。レオ様も立派になりましたわ。まさかエイミー様を好いていたとは気づきませんでした」

「シア?」

「告白としては情けなかったですが、エイミー様は喜ばれてましたわ。真っ直ぐに想いを伝える姿は素敵でしたわ。それに」


両頬をリオの手に包まれてリオの銀の瞳が目の前にありました。もしかしてまだシエルのことを怒ってますの?せっかくの幸せな気持ちに浸りたいですわ。


「色々思うところはあるんだけど、そんなにうっとり他の男のことを語らないでほしいんだけど」

「はい?レオ様の成長をお祝したいんです。レオ様は」


あのモテない王家が殿方に人気のエイミー様を手に入れるなんて奇跡ですのよ。

リオにはこの凄さが伝わらないかしら?リオは大人気なのでわかりませんわね。


「なぁ、シアが好きなのは俺だよな?」


リオの言葉に意識しないようにしていたことが蘇ります。正面にある顔に自分の胸の鼓動が大きくなり、言葉が出ないのでコクンと首を縦に頷きます。

覗きこまれるリオの瞳が甘くなり、恥ずかしくて、顔を背けたいのに顎に手を固定されてます。どんどんリオの顔が近づき、胸の鼓動が速くなり、目を閉じると唇が重なりました。いつもより長い口づけに息がもう苦しい…。


「シア、息、鼻でして」


唇が離れて思いっきり息を吸うとまた重なりました。鼻で息?息ってどうすれば。体がふわふわしていき力が入らなくなり、唇を解放されて腰に手が回って抱きしめられました。足に力が入らず、リオの胸に体を預けます。


「エドワードに殺されるな。トロンとしたシアが可愛いすぎる」


リオが何か言ってますが聞きとる余裕はなく、胸の鼓動はどんどん速くなり、体が熱く足に力が入りません。


「俺のことでいっぱい?」

「もうなにも考えられませんわ」


満足そうな笑みを浮べるリオに顔を覗き込まれ、甘さの籠もった銀の瞳にどんどん自分がおかしくなるのがわかり、リオの胸に顔を押しつけます。

リオが優しく頭を撫でてくれましたが、落ち着くはずのリオの腕の中が全然落ち着きませんわ。

胸の鼓動は激しく響き恥ずかしくてたまりませんがリオの腕の中にいられることは幸せですわ。今だけルーン公爵令嬢は休んで真っ赤なことも顔が緩んで笑ってしまうことも許してもらいましょう。唯一の救いの腕の持ち主は真っ赤ではありませんが胸の鼓動が速いのだけはお揃いですもの。

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