第九十三話 追憶令嬢14歳
ごきげんよう。
レティシア・ルーンです。ステイ学園三年生です。
茶会はエイミー様が1位でした。
今までたくさんの人を勝利に導いてきたエイミー様の優勝は誰もが予想していたことでしょう。それでもきちんと準備をして期待を裏切らない結果を残すエイミー様は流石です。
エイミー様の優勝をラウルと一緒にお祝いに訪ねたレオ様を眺めます。
エイミー様には失恋の痛みを味わってほしくないです。幸せになってほしいと思います。レオ様の言葉に頬を染めて嬉しそうに微笑んでいるエイミー様。ラウルに心配そうに見られているため優雅な笑みを浮かべます。貴族は心を見せてはいけませんわ。どんなときも笑みを纏って、背筋を伸ばして淑女らしく振舞うものですわ。
それでもリオにはまだ心の準備ができないため会ってません。
セリアの協力で前より避けるの簡単です。
ニコル様達は明らかにリオを避けている私を見て心配していましたがセリアが反抗期だからと説明したら苦笑しながら協力してくれました。
前も思いましたが、反抗期ってなんですの?私の質問には誰も答えてくれないので、クラム様の笑顔で気にするなと言う言葉を採用しました。いつも明るいクラム様の笑顔を見ていると心が明るくなります。人生は知らなければ幸せなことばかりですもの。私は恋なんて知りたくありませんでした。
心は晴れずにモヤモヤするので訓練室に向かいます。
こんな時は体を動かすのが一番です。
生徒会の日なのでリオに会うことはないでしょう。
リオに会わないようにシエルに予定は調べさせているので抜かりはありませんわ。
ありがたいことに開放日なので監督生がいなくても訓練できます。
ニコル様達は予定があるので今日は一人です。
ルメラ様も訓練室には用がないので会うことはないでしょう。
誰にも会いたくないので気配を消して訓練室に向かいます。
マルク様の天使の話に付き合う心の余裕もありませんので。
訓練室はいつもは人で賑わっていますが今日はそんなに混んでいませんね。
ノア様とグランド様が手合わせしているのを見つけて仲の良さに笑みがこぼれます。
私もいつかエディと出来るでしょうか。最近はますます頼もしく成長しているエドワード。もう少しで身長も抜かれてしまいますわ。嫡男としては相応しい成長は誇らしいですが昔の可愛いエディに癒されたいですわ。駄目なお姉様ですわね。エディの前では絶対に口にしませんよ。
明日はお菓子を持ってアナ達に癒されに会いに行きましょうか。でもルメラ様の被害者保護の会になってますのよね。当分は色恋に関わりたくありませんわ。
準備運動をしていると手を振ってノア様がグランド様と一緒に近づいてきました。今日はノア様に渡すお菓子は持ってませんわよ。最近は昔のようにノア様に警戒されてません。うちの料理長の絶品のお菓子に胃袋を掴まれたおかげだと思います。訓練室では礼儀や身分は関係なしなので挨拶はしません。
「ルーン嬢。一人でどうしたの?」
「体が動かしたく。暇なのは私だけでして」
「リオは?」
「その名前を聞きたくありません」
いつもはリオに付き合ってもらっていましたので疑問に思われる気持ちがわかります。私がうっかり即答してしまったのでグランド様とノア様が固まりました。
令嬢モードで優雅に微笑みごまかします。
まだいつもみたいに自然に笑えません。令嬢モードでも穏やかな笑みが自然に作れないので一番得意なアリア様直伝の優雅な笑みしかできません。よわよわしい笑みもうまく浮かべられず駄目ですわね。
いつまでも失恋を引きづるなんて愚かな公爵令嬢。私の公爵令嬢らしくない態度にリオに追いかけ回されましたがお説教を聞ける心境ではなく必死に逃げました。最近は私に呆れ果てたリオに追いかけられることもなくほっとしています。胸は痛みますが自分の中で整理がつくまではお会いできません。
「失礼しました。気にしないでくださいませ」
「ノア、今日はここまでにしよう。宿題終わってないんだろう」
「わかった。兄上。ありがとうございました。ルーン嬢また」
「ええ。お勉強がんばってくださいね」
手を振って立ち去るノア様を見送ります。いつもは遅くまで訓練をしたがるノア様がこんなに早く切り上げるなんて珍しいですね。また課題を溜めているんでしょうか?1組になって課題が増えたと嘆いていましたが。
「ルーン嬢、訓練付き合うよ」
ノア様を見送ったグランド様の言葉に驚きました。相手がいるのはありがたいです。
これからリオ以外の訓練相手を見つけないといけませんから。
エイベルなら付き合ってくれるでしょうか。最近はエイベルは殿下の傍にずっと控えてます。面会依頼を出して相談に行きましょう。最近はいつも部屋に訪問しても留守ですから。
「いいんですか?」
「もう少し動きたいから付き合ってよ」
「ありがとうございます」
笑顔のグランド様の誘いに甘えましょう。運が良いですわ。
準備運動が終わったのでグランド様に案内されて訓練の森に足を進めます。監督生が予約をして使用できる場所なので生徒は私達だけでした。
魔法使ってスッキリしたいですが、駄目ですね。
魔法は一人の時しか使えません。監督生の資格が欲しいですが私の実力では難しいです。私は武術の成績は壊滅的ですから…。
グランド様に木剣を渡されたので受け取ります。
「いつでもどうぞ」
グランド様に斬りかかると軽々と躱され、もう一度。
「よく見て、よく集中して」
一瞬嫌なものが脳裏に浮かび、消えるように剣を振り降ろすと剣を弾かれ手から落ちました。
「休憩しようか。全然集中してないみたいだけど、どうかしたの?」
グランド様の声にため息を我慢してごまかすように精一杯の笑みを浮かべます。心配そうに見られる視線に耐えきれず視線を逸らしてゆっくりと足を進みます。
グランド様の指摘通り全然集中できていません。最近は人並みの弓さえ的に当たりません。
せっかく付き合ってもらってるのに申し訳ないです。駄目ですわ。どんどん気持ちが沈みます。目の前には池がありほとりに腰を下ろします。水の中に手を入れるとピチャと音が鳴り手を動かすと、ポタン、ピチャっと聴こえる音に耳を傾けます。手を包み込んでくれる温かい水が冷えた体を包んでくれる気がします。
水の音が沈んだ心を慰め、心が癒される気がします。水は全てを受け入れるもの。後から私を見ているのはグランド様。沈んだ心が少しだけ浮上しました。
水面に映る心配そうな顔のグランド様はリオの味方。リオの為に私の横恋慕を断ち切る方法を一緒に考えてくれるでしょうか。失恋は時間が解決してくれると思いましたが全然変わっていませんわ。時間は有限ですのに。
「内緒にしてくれますか?」
「もちろん」
隣に座り優しく笑う先輩。両手を水の中に入れたまま目を閉じると水が大丈夫と言っている気がします。もしかしたら前に進めるかもしれません。水の温かさに触れながらゆっくりと口を開く。
「約束ですよ。私、失恋しましたの」
「え?」
隣から聞こえる驚く声。公爵令嬢が恋をしたなんて言われれば当然の反応ですわ。貴族令嬢に必要のない感情ですもの。
「愚かな片恋です。すでに想う方がいる方に心を奪われるなんて」
そっと髪を揺らす風は恋しい色を思い出させます。ずっと痛い胸。涙が出そうになるのを堪えて、水の中で手を動かす。耳に響く水音に意識を傾ける。ポンと置かれる手が優しく頭を撫でる感覚が恋しいものに似て現実に引き戻されます。もうあの手に触れられることはないでしょう。
「ちゃんと祝福しようって決めました。でも難しくて。祝福できるようになるまで近づかないって決めましたの。優しい人だから私を気に掛けているのはわかってます。でもいつもの優しさが今は辛くて、痛いのも全然消えなくて」
胸が痛い。自分のしていることが無礼なこともわかってます。
リオが探してるのを知っていても顔を見るのが辛くて、セリアにお願いしてます。家の用事は全てシエルを通してマール公爵家とやりとりを。
社交のエスコートはエディにお願いしています。マールの夜会を代わって欲しいと頼んだらお母様は怒るかな。でも今の私にはリオのエスコートを受けるなんて無理です。
「いままではずっとそばにいるよって言ってくれましたのに、けっきょく最後は・・。大事にされてるとは思ってたんです。いつかその手を離さなきゃいけないってわかってたのに、こんなに特別なんて知りませんでしたわ」
ずっと甘やかされ、大事にされてました。年下の従妹だから。でももうだめ。気づいたから。
「ルーン嬢は相手に気持ちは伝えたの?」
「いえません。こんなドロドロしたもの。りおにげんめつされたら生きれません」
リオに冷たい視線で睨まれ視界にも入るなと言われるの想像をして一気に体が冷えて震えます。もう無理ですわ。こぼれた涙が見えないように膝を抱えて顔を埋めます。
「幻滅されないと思うけど」
グランド様が頭を撫でながら慰めてくれてます。
さすが優しいリオのお友達です。
「リオは優しい。でもわかりません。恋ゆえに。それにもうルメラ様がいます。こんな不純な思いをもった従妹はりおにはいりません。邪魔なだけです。ちゃんと祝福できるようになるまで顔も見れません。気づかれたらいけないから。ちゃんと断ち切るって決めたのに、全然だめで、もうどうしたらいいか…」
私の言葉に呆れ果てたグランド様は何も話しません。ポロポロと零れ落ちる涙と一緒に消えてなくなって欲しいのに、痛みも邪な想いも消えません。頭を撫でる手がなくなり、必死に嗚咽を堪えているとため息が聞こえました。
「だから止めたのに。本当にバカなやつ。ルーン嬢ごめんね。いるんだろう。出て来いよ」
恐ろしい言葉に息を飲むと後から覚えのある人の気配がします。
嘘でしょ?涙を拭いて恐る恐る顔を上げて振り向くと一番恋しくて会いたくなかった色の持ち主が…。
リオの顔が怒りで赤くなっています。まだ拒絶も失望も受け入れられる準備ができてません。
横恋慕を断ち切らせてほしいと思ったけどさすがに荒療治すぎませんか!?リオに不純な思いを抱えてたので怒ってましたの!?
信じてもらえないでしょうがリオ達の邪魔するつもりはありませんのに。リオの優しさに甘えて側にいた罪?
もう仕方ありません。覚悟を決めましょう。潔さも大事ですわ。
消えましょう。私は十分生きました。あと数カ月で死にますし、水も私を呼んでます。自分の死に場所が選べるのは幸せなことですわ。
怖くないよ!!勇気を出してって優しい声が聴こえますもの。
お父様、お母様、今世も先立つ不幸をお許しください。
ルーン公爵家はエディがいるから大丈夫です。優秀な弟に感謝しますわ。こぼれる涙を拭いて立ち上がり礼をします。
「グランド様お世話になりました。さようなら」
「え?」
池に足を進めます。水に溶けてしまいましょう。
水に溶ければ遺体も残らず、想いも全て消えますわ。全てを包み込むのが癒しの水の精霊ウンディーネ様の水ですもの。名案ですわ。
私がいなくなればリオも安心です。邪魔者は不要ですわ。
水も応援してくれていますわ。私も仲間に入れてくださいませ。
魔力を水に同調させると足元にあるはずの水がありません。目を開けると足元には地面があり、腰には覚えのある手が…。
リオに腰を抱えられて池に入るのを阻まれている現状はなんですか!?
「離してください」
「あとは任せて大丈夫?わかってるよね」
「あぁ。サイラスありがとう」
グランド様が立ち上がりましたわ。どういうことですか!?
「グランド様!?」
「またね。ルーン嬢」
「待って!!行かないでくださいませ」
この状況で帰りますの!?
笑顔でまたねと手を振って帰るグランド様の背中に声を掛けても歩みは止まらずどんどん遠くに行ってしまいます。せめてリオも連れてってください!!
こんな荒療治酷いですわ。せめて見届けててくださいませ。
見えなくなった背中に絶望し、もう仕方ありませんわ。
魔力を纏い魔法を使ってリオの手を解き、そのまま池に入ります。飛び込みたいですがもう少し進まないと痛いだけですわ。足に触れる温かい水だけが私の味方ですわ。
後には軽蔑したお顔がありますもの。
「シア、待って、危ない」
腕を捕まれ強い力で引き寄せられて腰を抱かれます。
「離してください」
魔法で腕を解こうとするとリオの魔法で相殺されました。魔法の腕もリオのほうが上なんです。リオの力が強くて振りほどけない。
「お願いだから放っておいてください」
「無理だ」
「離してください!!」
「危ないから、」
魔法を使おうとすると全てを相殺させるリオを睨むと怒りで顔を赤くしたリオに睨み返されています。逞しい腕の力は緩むこともなく、解くために必死に思考を巡らせると気付きました。
よく考えれば、ここで消えたら迷惑がかかりますわ。
必死に止めるのは当然ですわ。今は水に溶けるのはやめて冷静になりましょう。
私の立場は従兄妹件婚約者です。止めるのは当然ですわ。公爵令嬢として許されませんが、破棄の手続き進めてもらいましょう。
お父様ごめんなさい。私はお父様の命に背きます。今までお世話になったリオのためですわ。リオ以上に家の利になる相手を探さないと…。
もう外国に友好のために嫁ぎましょうか。生前は王妃教育も受け、外国語も得意、魔力がなくても利用価値は幾らでもありますわ。私がさらに良縁を見つけての破棄ならそれほど醜聞にはなりませんわ。
息を吸って、令嬢モードを装備して静かに怒っているリオに向き直ります。
「マール公爵家には迷惑をかけません。きちんとしかるべき手続きもしますわ。婚約破棄の批難もルーン公爵家が受けます。ご安心ください。お父様を説得するとお約束します。邪魔もしません。申し訳ありませんが今はリオの顔を見たくないので放っておいてくださいませ」
令嬢モードなのにうまく仮面が被れていません。令嬢モードが纏えなくなることがあるなんて……。
ひどい言葉ですが気遣う余裕なんてありません。お母様は怒るでしょう。
決めました。もう嫌われましょう。きっと話を聞かれた時点で終わりですもの。優しくされずに側にも寄られないほうが断ち切れる気がします。さらに胸が痛くなりましたが、この後はセリアを頼りましょう。幻滅は怖いですがセリアがいます。きっと大丈夫ですわ。グランド様の策に乗りましょう。
覚悟を決めて、無言のリオを睨みつけます。
「優しさはいりません。甘やかさなくて結構です。もう子供ではありません。単なる従兄妹なんです。リオは自分の想い人だけ大事にしてください」
「俺は優しくない。大事なのはシアだけだ」
リオの優しさが嬉しいのに胸が痛くて辛いんです。自覚はなくてもリオは優しい。
でももうやめてほしい。これだとうまく断ち切れない。勘違いしそうになる。邪な想いを捨てられなくなる。
「お願いですから。ちゃんと、いつかは断ち切るからそれまで近づかないで」
「嫌だ。断ち切らないで。その想いは俺に頂戴」
信じられません。想い人がいるのに。ひどい。
「ありえません。どうしてわかってくれませんの」
「俺はシアが好きだ。昔から、ずっと。シアの心が欲しかった。
俺への想いを捨てようとしないで。頼むから」
ありえませんわ。マールとルーンは今後も友好的なお付き合いは続きますわ。私は失恋してリオがルメラ様を妻に迎えても家として意地悪なんてしませんわ。疑われておりますの?
それとも家の利のために必要な縁談ですか?嘘をついてまで?私が知らないとでも思ってますの…。
「ちゃんとけじめをつけますわ。マール公爵家に非がないこと、批難も中傷も私とルーン公爵家で引き受けます。ご安心ください。これからも」
「絶対に婚約破棄なんてさせない。俺はシアが好きだから」
嘘なんていりませんわよ。惨めなだけですわ。人をイチコロさせるのが得意なルメラ様ならきっとマールにも迎えられますもの。リオと婚姻してルメラ様とリオの傍で社交だけをこなして生きるなんて耐えられませんわ。同じ邸宅なんて耐えられません。意地悪するかもしれません。殿下が離宮にどんなに妾を迎えても許しましたが、立場が違いますわ。
「私は将来リオだけはお飾りの妻になるなんてごめんですわ。リオの立場なら男爵令嬢を妻に迎えられますわ」
「俺が将来妻にするのはレティシアだけだ。愛人も持たない」
「嘘ですわ。もうルメラ様に攻略されたの知ってますの」
「あれは、事情が」
「ずっとルメラ様の傍にいたの知ってますもの。りお、なんて」
二人の様子が脳裏に浮かぶ。視界がどんどん歪んでいきます。
リオが涙を拭おうとする手を振り払おうとすると空を切りました。顎を押さえられて、唇に触れているのはなに?目の前にはリオの顔があり、口づけされていることに気付いて胸を思いっきり叩く。離れたいのに腰と顔を押さえられた手が解けない。ようやくリオの顔が離れて顔から手が離れても、腰の手は解けません。手を口で隠して下を向く。
「ひどい。最低ですわ」
口づけは想い合っている者、夫婦になる者がすることです。
リオの酷い行為に涙がどんどん落ちていく。
「ごめん。俺の話を聞いて。頼むから。俺が好きなのはシアだけだ」
「従兄妹としての同情ならいりません」
「違うよ。従兄妹としてじゃない。誰よりもシアが好きだよ」
「嘘ですわ」
「嘘じゃない。シアの気持ちが嬉しいよ。シアが俺のことで頭がいっぱいなんて幸せだ。泣いてるシアには悪いけど、シアの言葉に俺は顔がにやけるの止まらなかった。昔からシアだけが特別な女の子だった。従妹として見た事なんて一度もない。俺はシアよりドロドロしてるよ。俺だけを見てほしい。ほかの奴になんて笑いかけないでほしい。シアに触れるやつは消したくなる」
物騒な言葉に顔を上げるとリオは笑っています。幻滅している感じはありません。
「リオが?」
「ああ。シアが好きだ。シアと俺だけの世界になればいいと思ってる」
「物騒ですわ」
「だろ?」
甘い瞳に見つめられ微笑む顔にどんどん体が熱くなります。ずっと痛かった胸は鼓動がどんどん速くなっていきます。
こんなリオ知りませんわ。リオの指が涙の痕を優しく拭って、顔がどんどん近づきます。
「シア、好きだ」
吐息がかかるほど近さで甘く囁かれ、恥ずかしくて目を閉じると唇がまた重なりました。
「エドワードに殺される。信じてくれる?」
「随分余裕なんですね」
目を開けると余裕のある笑みを浮かべるリオを精一杯睨みます。
リオが私の手を取り、リオの左胸に当てるといつもの静かな鼓動とは正反対のものがありました。
「全然余裕じゃない。ほら?」
「お揃いですわね」
額に口づけを落とされ、私の鼓動はさらに速くなり顔が赤くなるのがわかりました。恥かしくて目の前のリオの胸に顔を埋めます。今までは平気だったのにリオの行動の一つ一つが私をおかしくします。
「だめだ。可愛すぎる。婚姻まで我慢とか拷問すぎる」
「リオ?」
「なんでもないよ。信じてくれる?信じられないなら信じさせるまでだけど。シアが俺を好きなら我慢する必要ないしな」
耳に聞こえるリオの声が甘くて胸の鼓動がどんどん速くなっていきます。どんどん体が熱くなり無理ですわ。これが惚れた弱みですの!?恥ずかしい。先ほどとは別の意味で死にそうです。
リオに肩を押され顔を覗き込まれます。銀の瞳から視線を逸らします。
「目、真っ赤だな」
真っ赤な目の公爵令嬢なんてありえません。たぶん真っ赤なのは目だけではありませんわ。
「俺の所為?」
嬉しそうに笑っているリオの顔を睨みます。リオの手が私の目に置かれて温かい魔力に包まれ治癒魔法が発動しました。
「うん。これで平気」
シエルに怒られずにすみますわ。手が離れて目の前の満足そうに微笑むリオの顔を見てまた自分の顔が赤くなっているのがわかりますわ。
むずむずして、くしゃみがでましたわ。この雰囲気で我慢できなかったくしゃみに羞恥で死にそうですわ。
「シア!?」
勢いよくリオに抱き上げられて池から上がった途端に寒さに襲われます。暖かい風に包まれ風魔法で服が乾きましたが寒気は止まりません。
気付いたらリオに抱き上げられて寮まで送り届けられ、シエルに湯あみをさせられました。温かいお湯の中でふと笑みがこぼれました。胸の痛みはなくなりましたが、まだ鼓動が速いです。
リオが好きって。嬉しい。
もし夢でも構いません。今だけはこの幸せに浸りましょう。




