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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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111/207

第八十八話 追憶令嬢14歳 

ごきげんよう。

レティシア・ルーンです。14歳になりました。

ステイ学園二年生です。



恒例の武術大会です。

今年も団体戦だけ参加します。

チームはニコル様とクラム様と一緒で今年こそは打倒エイベルですわ。

私の真似をして武術も選択したアナ達も武術大会に参加するそうです。大会中は助けることはできません。賢く努力家なので3人なりによく考えて作戦を練っていると思います。ノア様が色々アドバイスしてくれるかもしれませんね。お友達は助け合いが大事ですから。私は相談されればお手伝いしますがそれ以上は口を出しませんよ。過干渉は厳禁です。なにより私は武術は落ちこぼれなのでお手伝いしてあげられませんが。できるのはエイベルを紹介するくらいです。リオにはレオ様に勝手に紹介して怒られたので本人の了承なく紹介はしません。エイベルは気にしないので助かりますわ。単純なので取引も簡単ですし。



予選の宝探しは去年と同じ作戦です。私は人の気配を読むのも逃げるのも去年よりも成長できていると思います。それなのできっとうまくいくと思います。

私達の作戦は成功して宝は去年より簡単に手に入れました。私は見つけただけで実際に取ったのクラム様。クラム様は自分で宝が取りたいタイプなので、私はニコル様と一緒に提案だけして応援してました。後は会場に行き殿下に確認していただけば予選突破です。会場にはどこから入場してもいいそうです。森からは爆音が響きチームの潰し合いがおこっているので、巻き込まれないように油断せず進まないといけません。


人の気配を避けて走っていると気配を感じて足を止めます。

会場に行くには必ず通らないといけない場所があります。それがスタート地点です。木に隠れて動かない気配の主を確認すると人影があります。目を凝らして見ると人が倒れています。

生徒会役員が監視しているので重傷者は保護されるはずですが。


「レティシア?」

「人が倒れてます。ニコル様、どうします?」

「仲間がいないね。僕が見てくるから二人は警戒してて」


治癒魔法が使えるニコル様が倒れてる生徒に近づいて行きました。

人の気配がしたので弓を構えて矢を放ちます。矢は避けられましたが気配があります。

ニコル様が倒れた生徒の治療をしてます。治癒魔法は集中力がいる魔法なので使用中は無防備になります。これはクラム様にニコル様の傍に付いてもらったほうが安全ですわ。矢を放っても先ほどから全て躱されていますもの。動きが速い相手なら私のほうが適任です。


「クラム様、私が行きますのでニコル様達をお願いできますか?」

「わかった。気をつけろ」

「マートン様に鍛えられたから大丈夫ですわ」


真顔のクラム様にセリアの真似をしてパチンとウインクを決め飛び出しました。剣を抜いて気配のする方に駆け、勢いをつけて飛びあがり斬りかかります。シュッと音がしましたが手ごたえはなく空中に4本の髪が舞い地面に落ちました。振り降ろされる剣を受け止めます。体が熱くなり、クラム様がスピードとパワー上昇の魔法をかけてくれましたわ。これなら勢いをつけなくてもいけますわ。首を狙って振り降ろされた剣を薙ぎ払い後ろに跳び、頭上の枝を切り落とします。落ちる枝に気を取られている隙に足払いをかけて、転ばせます。剣を跳ね飛ばして、首元に剣の刃先をあてます。物騒ですが、私の首を狙っていたのでお互い様です。見覚えのない赤毛の細身の年上だろう男子生徒を見つめゆっくりと口を開きます。


「目的はなんですか?」


魔法の気配に、後に跳んで躱すと私のいた場所に火球が落ちてきました。

私が転ばせた赤毛の生徒は無傷です。剣を飛ばしたので武器はありません。魔法の主は起き上がる赤毛の生徒は仲間なのでしょうか。戦闘不能にはできてないので、2対1を覚悟しないといけませんか。一度逃げますか?

人の気配に警戒していると真っ赤な髪の背が高く赤い瞳の男子生徒が姿を現しました。瞳が赤いので先ほどの魔法はこの男子生徒かもしれません。気配を消している赤髪で赤い瞳の男子生徒のほうが強者の気がするのでさらに警戒しないといけません。


「これはこれはルーン嬢。ごきげんいかがですか」

「ごきげんよう。どなたでしょうか?」

「名乗るほどの者では」


物凄く嫌な予感がします。じっと私を向ける視線に敵意があります。飛ばした剣を拾った赤毛の生徒が戻ってきましたわ。


「レティシア!!」


クラム様の声が聞こえます。できればこっそり近づいてほしかったとは突っ込みません。


「ニコル様は?」

「もう終わった。ロンも無事だ」

「ロンでしたの!?アナとリナは?」

「お探しはこの子かな?」


赤髪の生徒が茂みに手を入れると傷だらけのアナがいました。アナの襟首を掴んで首元に剣を当てています。気を失っているアナへの仕打ちに怒りに負けそうになるのを冷静に、思考を止めたら終わりです。

覚えのある魔法の気配に、飛び出す準備をして剣を握る。水の刃がアナに向けられた剣を飛ばしたので、地面を蹴って赤髪の生徒に斬りかかる。アナを盾にされて慌てて剣を引く。

クラム様が斬りかかりますがもう一人の赤毛の男子生徒と剣を合せています。もう一度剣を振り降ろしてもアナを盾にされて身動きが取れません。楽しそうな顔の赤い瞳を睨みつけます。


「殺すのは規定違反です」

「大人しくしてくれれば殺しはしない。コレを取り返しても、もう一人いるから無駄だ」


アナはロンとリナと組んでました。

やはりリナも人質ですか。アナを取り返してもリナに手を出されれば…。

仕方ありません。剣と弓を地面に置きます。剣で斬り合うクラム様に向き直ります。


「クラム様、やめてください」


「懸命だ。もう一人いるだろう?出て来いよ」


アナに結界を発動させようとしていたニコル様が出てきましたわ。ただ結界が構築するまえに壊されていました。ニコル様は静止したものへの結界魔法を鍛えて貰いました。大会では動くものへの結界は必要ないと思いましたが甘かったですわ。

人質がいるなら従うしかありません。

仕方ありません。予選は諦めましょう。人命救助優先なので左腕に付けている腕輪に念じます。規定違反です。入口付近です。手に負えないので生徒会役員を送ってください。

連絡したのですぐにリオが生徒会役員を送ってくれるでしょう。それまで時間を稼ぎましょう。


「地の精霊、ノーム我が声に答えよ。かのもの達を拘束せよ」


赤毛の男子生徒の魔法を避けるために集中します。


「ルーン嬢、よく考えて行動しろ」


赤髪の生徒の声に大人しく空中に発生した木の蔓の拘束を受け入れます。体に巻き付く蔓は細いのでそこまで魔力は強くないでしょう。地属性を持ち豊富な魔力を持つクロード殿下はもっと太くしっかりした枝で拘束しますわ。この蔓なら簡単に解除できますが、あえてこのままでいましょう。


「宝ならお渡しますわ」

「宝なんていらない」

「武術大会の予選突破が目的ではありませんのね。後輩を傷つけてまで成し遂げたい目的とは?」

「ルーン嬢は気配を読むのと避けるのが得意だろ?捕まえるには撒き餌が必要だ」


私のことを調べてあるのならもしかして?目的を教えてくれる親切な方に笑みを浮かべます。

赤い瞳の男子生徒の言葉に一筋の光が見えましたわ。


「用があるのは私だけですか?」

「察しの通りだ」

「わかりました。アナ達を見逃してくださるなら従いましょう」

「見逃さなければ?」


赤い瞳を細めて楽しそうに笑っている顔に、笑みを崩さず見つめ返します。この場の空気を支配させません。優位な立場にあるのは赤い瞳の男子生徒ですが、主導権を持てるとは限りませんよ。


「逃げます。ご存知でしょう?この程度の拘束は魔力のない私でも解けますのよ。私は逃げることには自信がありますのよ」

「お優しいルーン嬢が後輩や仲間を見捨てられるのか?」

「私は優しくありませんわ。私を捕まえられなければ困りますでしょ?せっかくの撒き餌が無駄になりますわよ。取引ですわ。貴方達がリナも含めた五人に手出ししないなら従ってもよろしくてよ?それに私はルーン公爵令嬢です。もしも怪我をされたなら責任もって治しますわ。ルーンの治癒は王国一。お父様も叔父様もルーンの治癒師も私の治療要請を断ることはしません」

「噂と違い度胸もあるのか」

「強がってるだけですわ。怖くて震えが止まりません」

「健気なルーン嬢に免じて応じるよ」

「感謝しますわ」


「レティシア!!」

「大丈夫ですわ。リナ達をお願いします。」


クラム様の真顔にニコル様の心配そうな顔に優雅に微笑みます。本当のことは言えません。きっとリオがなんとかしてくれますわ。安心して待っててください。



「お嬢様、巻き込みたくないなら移動しますか?」

「是非。ご配慮感謝致しますわ」

「本当に公爵令嬢かよ」

「ええ」


楽しそうな顔ではなくなった赤髪の男子生徒について歩きます。監視の魔道具の死角を進んでいます。きっと準備をしていたんでしょう。こんなことをしなくても呼び出してくだされば応じましたのに。赤毛の男子生徒はそれほど強くないので大丈夫でしょう。警戒するのは気配のない私の前を歩く男子生徒。リナも心配ですがリオと殿下が動けば大丈夫でしょう。どこまで進むんでしょうか。

クラム様達は見えなくなりましたわ。さてこれからどうしましょうか。


「本当に逃げないんだな」

「取引しましたから」

「そうか。潔さに免じて選ばせてやる。魔法と剣、希望はあるか?」

「殺される理由を教えてほしいですわ」

「俺にも事情がある」

「もしかしたらお力になれるかもしれませんわ。私を殺せばルーン公爵家が黙っていません。捨て身はお勧めしませんわ」

「公爵令嬢にできることなど」

「私は貴族社会の伝手は結構ありますのよ。お金もあります。公爵令嬢として一番力のあるルーン公爵令嬢ですわ。事情を話してもらえませんか?」

「魔法と剣とどっち?」


懐柔できません。私の言葉を聞くつもりがない感じが伝わってきます。

生前も思いましたが私は取引の才能ないのかしら?レオ殿下との取引も失敗するとは思ってませんでしたわ。


「戦闘したいです」


不満そうな表情に変化はありません。怒らせてアナ達に何かされても困ります。諦めましょう。


「わかりました。魔法でお願いします」


魔法ならうまく避けられるかもしれません。

私の魔法を使えばルーン公爵家に迷惑がかかりますので結界は駄目ですわ。


「潔さに敬意をしめして、一瞬で終わらせてやるよ。我願う、火の精霊サラマンダー、地獄の業火―」


火の魔法なら透明な水の膜で体を覆えば打ち消せますわ。近くに魔法鏡もありませんし、人の気配もありません。煙が発生するので目くらましにもなります。この距離なら男子生徒には気付かれないはずです。

魔力を纏い口元を隠して小声で詠唱しましょう。


「我が親愛なるウンディーネ。我に聖なる水の加護を与えんことを祈り給う」


「魂の浄化を願い給う。かの者へ裁きの炎を降り注げ」


男子生徒から発生する巨大な魔力の渦が巨大な火球を生み出しています。避けられませんわ。この辺り一帯が火事になりますが……。でも生徒会が消火にあたるので問題ありませんね。自分の魔力で作ったものが術者を傷つけることはありません。両手を組んで目を閉じ周囲に認知されることがないように集中して魔力を纏う。

今世も先立つかもしれない不幸をお許しください、お父様、お母様。近づいてくる熱に呑まれないように冷たい魔力で全身を覆う。

ウンディーネ様、嘘をついてごめんなさい。それでも通したいものがありましたの。ウンディーネ様はお怒りにならないと思います。もしも思う所があるなら全ては私一人の罪にしてくださいませ。どうかルーンはお許しください。私以外のルーンの心はウンディーネ様と共にあります。


「あとは俺が引き受けるよ」


一番安堵する声に目を開けるとリオの背中がありました。風を纏うリオは走馬燈ではありません。


「リナ達は?」

「無事だから心配するな。よく耐えたな」


リオが私を縛る蔓に風を当て、蔓が消えました。私の周りに風が集まり結界に包まれます。私のほうを振りむかずに無詠唱でこなすのは流石ですわ。リナ達が無事なことに安堵して体の力が抜けてフラフラと座り込みます。ずっと纏っていた魔力を解きます。


「規定違反。投降するなら手を出さないが」


火球が飛んできますが、風魔法で消されます。


「武力行使でも構わないが」


大きな爆発音がして赤い瞳の男子生徒が爆炎に包まれます。自爆ですか?魔法によっては自害できるようにコントロールできますが。風が吹いて爆炎が晴れるとリオの結界に包まれて無傷でした。結界の中で風で拘束してますわ。いつ見ても手際良く拘束しますわ。さすがリオ兄様。


「シア、無事で良かった」


振り向いたリオの手が伸び勢いよく抱きしめられました。力強く抱きしめられ苦しいです。あら?リオの体は冷たく震えています。


「心臓止まるかと思った。間に合って良かった」


安心して忘れてましたが、死にかけましたのね。リオの背中に手を回します。


「助けてくれてありがとうございます」


「頼むから自分の命大事にして」


リオが私の肩に頭を乗せて動きません。重たく苦しいですが心配をかけたようなので何も言わずに気がすむまで待ちました。

しばらくして顔を上げたリオの腕が解けたことに安堵して笑みが零れました。リオの瞳に暗さがなくて良かったです。いつもの穏やかな顔にニッコリ笑いかけるとまた抱きしめられました。料理長にチョコケーキを作ってもらいましょう。しばらくして腕が解かれたのでリオと一緒に戻りました。すでにお昼は過ぎており、予選終了のアナウンスが流れています。

残念ながら二年生の武術大会は予選落ちです。打倒エイベルはまた来年ですわ。

会場に戻ると怖い顔のクラム様とニコル様が待ってました。二人の恐怖のお説教を受けました。その後はセリアに本気で怒られ、アナにも泣かれてしまいました。リオに視線を向けると涼し気に微笑まれ助けてもらえないのがわかりました。予選敗退のショックよりも恐怖に襲われましたわ。

恐怖で食欲がありませんでしたが、リオの食事の誘いを断れませんでした。その後は事情聴取を受けました。唯一の救いはリオが殿下に報告してくれること。

偶然会った本戦前のエイベルには声援を送りました。怖くないエイベルに安堵したのは内緒です。


アナ達に危害を加えた先輩達は厳重注意。

私を狙った理由はお金で雇われたみたいです。

雇い主は不明でしたがこれ以上私に関わることはないとリオが断言しました。それならこの件は終わりですわね。機嫌の悪い殿下と向き合わずにすむので一安心ですがもっと強くならないといけませんね。

目的がお金でしたら用意しましたのに。どうして私の話を聞いてくださらないのでしょうか。

社交での取引はうまくいくのに肝心な時に失敗するのは…。交渉術を学ばないといけませんわ。予選落ちですがたくさんの課題が明らかになる武術大会ですわ。

監禁回避と平穏を手に入れるために頑張りましょう。

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