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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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110/207

第八十七話 追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園の2年生です。

平穏な生活を夢みる公爵令嬢です。


休養日になり私はレオ様とエイミー様のお忍びに隠れて同行しています。

私の少し前を制服のまま髪色を変えたレオ様がエイミー様をエスコートして歩いてます。私はレオ様がクロード殿下のように自然にエスコートをできるとは思っていませんでした。王宮行事でエスコートというか公務をする姿をほとんど目にした記憶はありません。録な教育を受けていなくても自然なエスコートが身に付けられるとは。さすが王族です。これが貴い血というものでしょうか。エイミー様はほのかに頬を染め、無邪気な笑みでエスコートするレオ様にずっとうっとりされています。

私はレオ様達に見つからないように変装しています。髪を解いてリオの用意した帽子を被り、見たことのない模様の入ったワンピースを着ています。マールで新しく取り入れた他国の刺繍だそうです。リオも帽子とシャツとズボンのみです。いつもは乱れなく着こなすのに今日は着崩しています。休憩中のケイトみたいですわ。普段は絶対にしない軽装です。



「リオ、これで大丈夫ですの?」

「会場では帽子を脱げばいい。ルーン公爵令嬢の服装じゃないけどな。うん。可愛いな。似合っているよ。俺から離れるなよ。ほら」


青い空の下で見慣れない着崩した服装の所為かリオの笑顔がいつもと違って見えます。美しい銀の瞳に吸い込まれそうな初めての感覚がします。


「シア?」


近付く顔になぜか気恥ずかしくなり慌ててリオに差し出された手を握り歩き出します。頬が熱い理由は熱気の所為ですよね。空いた手で帽子を深く被ろうとすると前が見えなくなると窘められてしまいました。

自衛道具は短剣しか持ってないので、リオと離れないようにしっかりと手を握ります。気持ちを切り替えてきちんとお付き添いしましょう。私の少し前を歩くレオ様達、髪色を変えても制服を着た美少女と美少年は人目を集めています。


「今日の記念にどうかい?」

「急いでいるんで」


私はレオ様達を見ているのですが先ほどから商人にずっと声を掛けられます。王都の露店はいつ見ても珍しいものが多くて楽しいです。露天商が髪飾りの詰まったショーケースを目の前にグイッと突き出しました。色とりどりの花や雫、星など様々な形の物が並べられています。


「可愛い彼女に、一つどうだい?」

「これを一つ。そのままで」


リオが銀と青の花の飾られた髪留めを買いました。帽子を脱がされ空いている手に渡されました。片手で髪を梳かれて買ったばかりの髪飾りを髪に飾られました。満足そうに笑ったリオの手に帽子を取り上げられ再び被されました。私の手を繋いだまま髪飾りを飾る器用さがうらやましい。店主もリオの器用さに感心して笑っています。


「似合ってんな。気前のいい彼氏だ。嬢ちゃん愛されてるな」

「まぁな。行くよ」


リオに促されて露店から離れ足を進めます。足を進めれば進めるほど話しかけられますが全てリオが応対しています。段々レオ様を見守る余裕がなくなり、人混みと話しかけてくる人との近さに目が回りそうになりました。私は勢いよく話す方は苦手みたいです。

会場に着いた時にはリオに腰を抱かれフラフラと歩いていました。

エイベルの言う通り、一人のお忍びは無理でしたわ。これは難易度が高いです。王都は今日は特に賑わっている日らしいです。

会場に着いたので、帽子を脱ぎました。人混みから解放されようやく自分の足で歩いている気がします。リオにエスコートされるまま会場の席に座りました。


「シア、大丈夫?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「可愛い。似合ってるよ」


私の髪に指を絡ませ弄んでいるリオの笑顔が眩しいのが不思議でたまりません。二階にある王族席には国王陛下夫妻とクロード殿下が着席されています。ルーン公爵令嬢ならご挨拶するべきですが今日はお忍びなので必要ありません。私達は1階の一般席にいます。銀髪は珍しくないので私が見つかることはないでしょう。

美しい演奏に耳を傾けます。耳心地のよい演奏に眠気に襲われ、頭を撫でる手にさらに惑わされ耐えきれずに眠気に目を閉じました。殿下の隣にいた時は眠気に襲われることなどありませんでしたわ。静かにリオに起こされて目を開けると最後の曲でした。眠った私を見て、優しく笑うリオの肩に頭を預けたままぼんやりとしているとコンサートは終わりました。

コンサートが終わったので会場を出て、レオ様達の後を付けています。先ほどよりも人混みが少ないのが救いです。相変わらず私達は店主に声を掛けられるのにレオ様達は誰も声を掛けません。やはり王族オーラというものでしょうか?


「レオ様達はオーラがあるから声を掛けられないんでしょうか?」

「制服だからだろ。商人達も良家子女には声を掛けないよ。俺達は富裕層の子供か観光客に見えてるだろう」


それは盲点でしたわ。観光客ならそれは声を掛けられますわね。旅行中は記念にと買い求める物が多いですから。


「兄ちゃん、かわいい彼女連れてるな」

「俺達にも貸してくれよ」

「お断りします。シア、走るよ」


リオに腕を引かれて走ります。

レオ様達と離れてしまいました。大柄な男性に追いかけられていますがどういう状況ですの!?息切れがして足がもつれそうになるとリオの足が止まりました。


「ほら」


いつの間にかリオの手には果物にストローが刺さった物があります。受け取り飲んでから気付きました。

美味しいですが、飲んで平気ですの?外での食事はシエルに禁止されています。


「毒味してあるから大丈夫だよ」

「リオ兄様が毒味はいけませんよ」

「まさか。忍ばせてあるよ。お忍びの醍醐味は楽しめた?」

「はい?」

「怖い男に追いかけられて逃亡するのは定番だろう?」

「初耳ですわよ。そんなのいりませんわよ。レオ様を見失ってしまいましたわ」

「大丈夫だよ。少し休憩しよう」


楽しそうに笑うリオに手を引かれて足を進めると行列のあるお店がありました。

行列を整備している店員にリオが声を掛けると礼をされそのまま中に案内されます。並んでいる方々の視線が突き刺さるんですがよろしいんですか?店内は美しい音楽が流れており、可愛らしい家具や花が飾られ令嬢が好きそうな雰囲気です。お客様は貴婦人や令嬢ばかりです。

2階にエスコートされ椅子に座るとリオがニヤリと笑いました。


「シア、あそこ見てみな」


リオの視線の先を辿るとレオ様とエイミー様がお食事されています。


「今日のお忍びの相談受けてたからな」


レオ様のお忍びも全てプランを考えたんですね。きっと護衛の手配もしてくれたんでしょう。

目の前にお茶とケーキやお菓子が置かれました。

チョコのお菓子もあるのできっとリオが手配しましたのね。用意周到なリオですもの。もう何が起こっても驚きませんわ。


「毒味は終えてある。食べよう」


下ではエイミー様が愛らしく微笑みレオ様が楽しそうに話しています。お菓子を食べて甘い物が好きな二人がさらに笑みを深めました。これがきっと夫人達が盛り上がっていたデートというものですわ。お二人にとっての記念すべき初デートですわね。

レオ様達を見ながら、目の前に置かれたケーキを一口食べると衝撃を受けました。口に広がる蜂蜜のほのかな甘さにレモンの風味。蜂蜜は学園では食べられません。今はお忍び中なので顔を作らなくてもいいですね。心のままに満面の笑みを浮かべます。


「リオ!!これ!!これ!!」

「好きだろう?」

「はい。ありがとうございます。幸せですわ」

「これもどうぞ」


優しく笑ったリオが一枚のクッキーを手に取り私の口に近づけるので食べると蜂蜜とチーズの風味が広がり初めての味ですが美味しいです。

蜂蜜は貴重で手に入りにくいので置いているお店はほとんどありません。ルーンの蜂蜜は王都には卸していません。秘蔵の販売ルートを見つけたこのお店は凄いですわ。

最近は蜂蜜は食べてなかったので尚更格別です。領主一族とはいえ貴重な蜂蜜を独占しませんわ。きちんと領民の富になるようにするのが務めですもの。私が蜂蜜を好きなのを知ってるのはリオとシエルだけですので献上されることもほとんどありません。幸せですわ。


「まさか、こんなお店があるなんて知りませんでしたわ」

「シアが望むならまた連れてくるよ」

「リオ、大好きですわ!!」

「俺もだよ。そろそろ移動しないとな」


私は王都へのお出かけは社交以外ではありません。ここなら学園から遠くありませんし、学園から帰る途中に寄れますわ。素敵なお店を見つけてくれたリオに感謝ですわ。蜂蜜にうっとりしていると、レオ様達が動いているので、私も追いかけないといけません。リオの手を握って追いかけるとレオ様達がお店に入りました。外からでは様子が見えないのでそっと中に入りました。箱や動物、花束など様々な形で作られたオルゴールが並べてあります。店のなかには澄んだオルゴールの音が響いています。オルゴールの専門店でしたわ。音楽好きのエイミー様ならきっと喜ぶでしょう。柱の影から気配を消してレオ様達に近づくとレオ様がオルゴールを購入してエイミー様へプレゼントしています。

さすがですわ!!拍手して盛大に褒めたいですわ。ノア様に見習ってほしいですわ。レオ様にイチコロされて欲しいのに、エイミー様がイチコロされてます。エイミー様がオルゴールを両手で包んで幸せそうに抱いていますわ。人を喜ばせる気遣いもお優しさも素敵ですわ。

あら?レオ様がまたオルゴールを購入しています。そんなに大量に贈らなくてもよろしいかと。サラ様へのお土産にしても量が多すぎませんか?すでに5つは追加で購入してますが、まだ選んでいますわ。

できればエイミー様だけに贈ってほしかったですわ。オルゴールはお値段もお安いですが買いすぎではありませんか?そういえばエイベルから貰ったオルゴールは音が鳴らなくなってしまいました。ここに持ちこめば直るでしょうか。でも一人でここには来るのは危ないですよね。今日もリオがいなければ私だけで対処できたか怪しいですもの。でもオルゴールは気に入っていたので、


「あれ、レティシア?」


顔を上げるとレオ様がいました。

まずいですわ。見つかりましたわ。隣にいたはずのリオがいません。リオ、どこいきましたの!?この中に入る時は隣にいましたわ。とりあえず動揺を隠して令嬢モードで笑顔を作ります。


「ごきげんよう。レオ様、エイミー様」

「ちょうど良かった。これを渡したかったんだ!!」


無邪気な笑顔のレオ様からバイオリンの形のオルゴールを渡されましたわ。あんなに幸せそうに笑っていたエイミー様の前で受け取るのは…。エイミー様のお顔は怖くて見れません。せめて違う場所ならお土産を戴いても嬉しかったんですが。今は受け取るのは…。


「レオ様、申し訳ありません」


手が伸び、背中からそっと抱きしめる温もりの主に安堵しましたわ。私はこの状況をどうすればいいのかわかりません。なんとかしてくださいませ。


「マールにもあるんだ」

「気持ちは嬉しいんですが、今は俺達お忍びデート中なんです。今日のレティシアは俺のなんで、今日は贈り物やめてください」


無邪気なレオ様の言葉を容赦なくお断りするリオの手を嗜めるようにそっと叩きます。エセ紳士モードで話す言葉は不敬です。


「今日はレティシアには俺のことだけ考えて欲しいんです。では二人ともまた学園で」

「お忍びにはルールがあるんだな。わかった。あぁ。またな」


レオ様が頷かれ無邪気な笑顔のまま手を振りました。リオの腕が解かれて、手を握られました。強い力で手を引かれて外に出ます。

お忍びルール?


「リオ、さすがに…」

「不敬にはならないよ。大丈夫だ。それより今日は俺のことだけ考えて」

「いつまでそのお芝居続けますの?」


じっと抗議をこめて睨むとエセ紳士顔からいつもの顔に戻りました。


「先は長いな。ほら、やるよ。見てただろ?」


手の上に置かれたのはエイベルからもらったオルゴールに似た形のものでした。蓋を開けると、懐かしい曲が優しい音で響き笑みが溢れました。リオみたいなオルゴールですわ。


「もらってばかりで申し訳ないですわ」

「遠慮するより、素直に喜んで受け取ってほしいんだけど」


リオが不満そうに呟きました。そうですわね。今日は淑女はお休みです。素直になりましょう。自然に溢れる笑みのままリオに抱きつき、銀の瞳を見上げます。


「ありがとうございます。嬉しいですわ」

「喜んでもらえてよかったよ。レオ様達は大丈夫だから、デートしよう?」

「デート?」

「そう。時間もあるし、せっかくだから楽しもうよ。叔母上には内緒で」


レオ様達は問題もなさそうですわ。悪戯を誘う時のリオのお顔に色々気にするのはやめました。リオが大丈夫と言うなら大丈夫ですもの。

お忍びなんて、当分は来れませんわ。楽しそうな誘いに頷き、リオと手を繋いで王都を歩きました。お行儀悪く、買い食いをして歩いたまま物を食べました。初めての経験です。心のままに笑って拗ねて甘えて幸せですわ。

レオ様の見守りが気づいたら目的が変わっていましたわ。幸せな時間をくれたリオに感謝ですわ。

 

レオ様はサラ様と私も含めて、お友達にオルゴールをお土産に買っておりました。

エイミー様がレオ様の優しさに惚れ直していました。リオの不敬は気にせず、というか気づいてませんでした。二人のお忍びの話を聞いてノア様と違って私が同行しなくても大丈夫そうですわ。部屋に3つのオルゴールを並べました。エイベルのオルゴールだけ音が出ないのが寂しいですわ。生前とは違う時間が流れています。監禁まであと一年。人は突然変わるものなので何がスイッチかはわかりません。どうかレオ様がエイミー様にイチコロされますように。ブラコンだけはならないでくださいと祈りを捧げました。

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