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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第八十話 後編 追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

平穏な生活を夢見るルーン公爵家の令嬢ですわ。



うちで保護していたロキ達の素性がわかりました。

ローナ様は海の皇国の攫われた側妃様。9年前に政争の末に攫われたと。

私が殿下に話した二日後に面会の予定が組まれました。急遽ですが海の皇族の強い希望のため予定が組み替えられました。

私は面会日に皇女様と朝食をすませ、マール公爵領にお見送りした後に殿下達をお迎えするためにルーン公爵邸に帰ってきまし

た。皇女様はアリア様とマール公爵夫妻が接待をされています。今頃は観光名所の多いマール領を楽しまれていると思います。

ローナ様達の準備はお母様とエドワードが整えてくれていました。

ローナ様達は朝から磨きあげ正装させました。一日でドレスは仕上がらないため、商人を呼んでサイズの合うものを用意させました。オーダーメイドでないのは申し訳ありませんが品質は最高級なので許していただきたいと思います。ドレス姿は美しく、平民には見えません。ロキとナギも立ち会いを希望されたので磨き上げました。ロキは困惑した顔でナギは新しい遊びと思ったようで楽しそうに笑っていたそうです。

今日は両親も滞在しています。王族よりも優先する社交はありません。ロキ達を遠目から見ることはありましたが、近くで会うのは久しぶりです。

二人とも大きくなりきちんとお肉もついて、出会った頃とは大違い。整った顔立ちなので将来が楽しみですわ。貴族の礼を教えるとロキの所作はエドワードによく似ており、思わず笑みが溢れました。


先触れの使者が来たので、扉の前で礼をして控えます。

扉が開くとクロード殿下と皇子様が足を進め、私達の前で止まりました。お父様が歓迎の口上を述べ殿下とのやりとりも終えたので顔をあげます。

客室にご案内し、皇子様の希望ですぐにローナ様達を呼びました。ローナ様が扉から入ると皇子様がローナ様に駆け寄りました。


「母上!!ご無事で」


ローナ様の手を握り見たことないほど明るい笑みを浮かべる皇子様。ローナ様は困惑した顔で固まっています。お父様が二人に近づきました。


「恐れながら皇子様、ローナ様は記憶がございません―」


お父様の説明に皇子様が悔しそうな顔で目を閉じました。しばらくして顔を上げて、ローナ様の手を放しました。


「母上が無事であっただけで充分です。母上を保護していただきありがとうざいます。これからまた親子の時間を作っていきます」


そろそろ席に案内しましょうか。いつまでも殿下を立たせておくわけにはいけませんわ。

あら?

いつの間にか隣にいたロキが私のドレスの袖を掴んでいました。震えている手に気づきロキの頭をそっと撫でます。

唇をキュッと結んでローナ様の所に行かずに耐えている子供らしくない姿にうちの教育が心配になりました。


「お母さん!!」


ナギがローナ様に駆け寄り抱きつきました。


「ナギ、駄目だ」

「お兄ちゃん、でも…」

「立場を忘れるな。今は我慢して、お願いだから」


辛そうな顔で泣きそうなナギを止めるロキ。

ここではロキ達を抱き締めて慰めることはできません。ローナ様に抱きついて、目に涙を溜めているナギ。ようやく動き出したローナ様が抱き上げてナギをあやしてます。皇族であるローナ様の行動を止める者は誰もいません。


「構わないよ。君もおいで。私は君達の兄だから。名前を教えてくれないか?」


ロキの方を向いて、優しく笑う皇子様。クロード殿下を見ると、不敬は問わないと笑みを浮かべて言いました。

膝を折り、視線を合わせて不安そうなロキに優しく微笑みます。頑張ってと囁くとロキが頷いたので背中をポンと叩く。ロキのずっと不安そうに伏し目がちだった黄色い瞳がきちんと開いて、背筋がピンと伸びました。


「お初にお目にかかります。ロキと申します。妹はナギです。幼いゆえに無礼をお許しください」


立派に挨拶する姿に、ロキの成長に感動して笑みが溢れます。私を振り返ったロキに拍手を送りたいですが空気を読んで、頷いてよくできましたと伝わるように満面の笑みを浮かべて微笑みます。


「しっかりしてるんだな」


皇子様が近づいてロキの頭を撫でるとロキが嬉しそうに笑いました。


「母上と一緒に海の皇国に帰らないか?今まで兄としてなにもできなかったから、これからは家族として過ごしてくれないか?苦労はさせないと約束するよ」


ローナ様がよわよわしく微笑むと泣き声が響きました。


「お母さんとお兄ちゃん、連れてかないで」


ナギの瞳からポロポロと涙が流れ、ローナ様が抱きしめて宥めてます。帰国って過去のことに触れてると発狂するのに大丈夫ですか?今回は面会の話だけでしたが。いずれ帰国するかもしれませんが急すぎませんか?戸惑う私がおかしいのですか?


「お嬢様」


ロキが皇子様から離れて私のドレスの裾を震える手で掴んでます。先ほどから無言のお父様は傍観してます。皇族のやりとりに口を出せません。クロード殿下が近づき、私の前に立ちました。きっとなんとかしていただけますわ。縋るように顔を見ると穏やかな笑みを浮かべているので大丈夫ですわ。

クロード殿下が屈んでロキと目線を合わせました。


「不敬は問わないから、言いたいことを言ってごらん」


クロード殿下の優しい声にロキが私を見たので頷きます。殿下は優しいから大丈夫と意味を込めて。


「俺は母さんとナギと一緒にいたい。俺達を助けてくれたお嬢様の力になりたい。将来は俺達を助けてくれた旦那様達に恩をかえしたい」


殿下の顔を見つめて堂々と話すロキの成長は嬉しく思います。子供であってもきちんと伝えないといけません。私は善意ではなく、義務で助けました。ロキ達は被害者なので恩を感じなくていいのです。



「ロキ、私達のことは気にしないでください。こんなに立派に成長した姿を見せてくださっただけで充分ですわ」

「お嬢様は俺がいらない?」


縋るような声に言葉を遮られました。私が皇子様の立場なら自分の権力が使える安全な場所で不幸な生い立ちの弟を保護したい気持ちもわかります。やはり皇族なら帰国させないといけませんか?戸籍はなくてもロキも大事なルーン領民。


「大切ですわ。私も弟がいますから皇子様の気持ちもよくわかります。可愛い弟とは一緒にいたいものですのよ。そして優しい世界を作ってあげたいという気持ちも」

「姉様」


嬉しそうに私を見たエディが空気を読んで抱きつくのを我慢しました。エドワードはしっかりしてますが、抱きつき癖のある

甘えん坊な子供らしい所があります。頼もしさの中に子供らしい可愛いらしさを見つけるとつい嬉しく思ってしまうダメな姉ですわ。


「これからゆっくり家族としての時間を作っていくのはどうでしょう?我が国はいつでも歓迎致しますよ」

「今の母上には国に帰るのは酷かもしれない。だが…」


妃が攫われる海の皇国が安全とはいえません。行方不明の妃の扱いってどうなんでしょう?

殿下と話をしていた皇子様がロキを見つめました。


「ロキはルーン公爵家に仕えたい?」

「はい。お嬢様の執事になりたいです」

「ナギも?」

「お兄ちゃんとお母さんと、いっしょにお嬢様につかえます」


二人の言葉に冷たい汗が流れました。数日前までなら可愛いお願いと微笑ましく思えました。おそれ多くも皇族に仕えられたくはありませんわ。


「ルーン公爵、私をレティシア嬢の婿に迎えていただけませんか?」

「そんな不純な動機で姉様に、近づくことは許しません」


エディ!?即答した冷たい声の弟にさらに血の気が引きました。無言で冷たい笑みを浮かべるエディを見るお母様の視線に寒気がします。恐怖のお説教が。


「皇子様、申し訳ありません。ありがたい申し出ですが娘には魔力がないので、ルーン公爵は息子が継ぎます。また娘にも婚約者がおりますので、ご容赦ください」


お父様が静かに謝罪されました。無属性設定で良かったですわ。お母様の怖い視線がエディから逸れましたわ。エディも冷たい笑みではなく社交の顔に戻ってます。


「皇子様が許されるなら三人は客人としてうちで預かりましょう」

「旦那様、私は今まで通りで」

「使用人として扱うことはできません」

「俺はお嬢様にお仕えできないんですか!?」


ロキの純粋な質問に必死に頭を働かせます。ルーンらしく。取引の基本は互いの目的と利益を押さえること。双方の希望は。

私は仕えられたくない。ロキは仕えたい。平行線ですわ。確かロキはうちの役に立ちたいと言ってましたわ。それなら、


「ロキ、たくさんお勉強して皇族としてたくさんの人を助けて頂きたいですわ。私はロキに仕えてもらうより、困ったときに助けていただけるほうが心強いですわ」


皇族に仕えられるなんて、勘弁してくださいませ。


「俺がお嬢様を助けられるの!?」


私に仕える意思を変えていただけるだけで十分ですわ。


「ええ。頼りにしてますわ」

「お嬢様に仕えるのはだめ?」


意思の強い瞳に見つめられ、うまく誘導できませんでしたわ。


「私は将来嫁ぐので、ずっとは無理ですわ」

「俺はリオ様とお嬢様についていきたいです」


リオにも懐いてるのは初耳ですわ。

マール公爵家とはいえ、皇族に仕えられるのは……。レオ様を遠慮なく動かすリオなら平気でしょうか?私はリオほど図太くありません。リオ兄様、助けてくださいと念じても頼もしい笑みが思い浮かぶだけ。一緒にいる、そうですわ!!リオは未来の外交官ですもの。


「私に仕えるのでなく、一緒にお仕事をしましょう。それなら一緒にいられますわ」

「お嬢様、助かる?」

「とても助かりますわ」

「シエルより頼りにしてくれる?」

「ええ。シエルより頼りになりますわ」

「俺、頑張る」

「頑張ってくださいませ」

「お兄ちゃんがんばるなら、ナギも頑張る!レティ様助けるの」

「お嬢様だ。ナギ」

「ありがとう。頼りにしてますわ」


これで恐ろしい未来は回避ですわ。クロード殿下が楽しそうに見ているのは気づかないフリをします。腹黒殿下…。大事なのは心の平穏です。


「さすがだよ。ルーン嬢。皇子、どうされますか?」

「陛下と相談しなければいけないが…。海の皇国の伯爵家が亡命しても、迎えいれてくれるか?」

「事情があるなら受け入れましょう」

「感謝する」


皇子様がロキの前に跪き、目線を合わせます。


「ロキ、皇帝にはなりたい?」

「皇帝ってなに?」

「王様のこと」

「将来王様になるのは殿下でしょ?」

「まだ、難しいか。ありがとう。私のことは兄上って呼んで」

「兄上?」

「賢いな。また会いにくるから母上を守って」

「はい」

「頼むよ」


皇子様はロキの頭を撫でて立ち上がり、ローナ様とナギに向き直りました。


「母上、また会いに来ます。ナギもまたね」


ローナ様はよわよわしく微笑み、ナギは元気に手を振ります。


「ルーン公爵、母上達を宜しくお願いします。準備を整えてまた伺います」


殿下達が去るのを見送ろうとすると殿下に手を差し出されました。私はこの後は王宮に行かないといけませんでしたわ。忘れていたのが見つからないように笑みを浮かべて手を重ねました。

馬車の中でロキ達のことを聞かれましたがあまり答えられず困っているのを察したクロード殿下が話題を変えてくれました。

その後はマール領で買い物を楽しまれた皇女様の話を聞き、我が儘に冷たい汗をかきながらも無事に役目を終えました。


お父様は賓客としてローナ様をもてなすように命じられました。

ローナ様は拒まれましたがお父様は許しませんでした。

これからどうなるかはわかりません。

ルーン公爵家が皇族監禁の罪に問われなかったので一安心です。

まだ行程は残っていきましたが皇子様達は帰国しました。

休み中の一番大変なお役目が終わり、しばらく王宮に行かなくてすむので一安心です。殿下から花束とお菓子が届いたのでローナ様達に渡し代筆してお礼の手紙を書きました。

殿下からの海の皇族への内密なもてなしですわ。お預かりしている大事なお客様なので、殿下が心を煩わせずにすむようにきちんとおもてなしをしたいと思います。

私は留守が多いのでエドワードが頑張る予定ですが。普段は頼もしい弟なのできちんと役目を果たすでしょう。

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