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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第七十八話 後編  追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園の2年生です。

平穏な生活を夢みる公爵令嬢です


魔法の授業でマートン様達の策に嵌められ落とし穴に落とされるなんて屈辱です。

悔しいので次からは華麗に躱せるように訓練しようと思います。

保健室で治療を受け、シエルが用意した制服に着替えた頃には授業も終わりました。

顔に傷のある令嬢は珍しいのでいつもより視線を集めていますが気にしません。優雅に堂々としていればいいのです。淑女は顔に傷を作るような行為は許されませんが、怪我をしてはいけないとは教わってませんもの。外見を利用する貴族の中では平凡な顔の私は自分の外見を利用することはできません。生前は情報と話術が武器で戦ってきましたもの。ルーンの美しい瞳以外は平凡な顔に未熟な体はどうにもなりません。傷が治るまではいつも以上に優雅に見えるように所作に気をつけますわ。

視線を集めながら歩いていると五年一組に着いたので教室を覗きます。


「ルーン嬢?」


耳心地の良い声に視線を向けるとグランド様が茶色い瞳を大きく開けて驚いた顔をしています。理由は頬の切り傷でしょう。いつもよりも丁寧な所作で王族を相手にするように笑みを浮かべて礼をします。


「ごきげんようグランド様。」

「か、顔、どうしたの?」

「授業中に不幸な事故に巻き込まれまして。不甲斐ないですわ。グランド様、これからお時間ありますか?」


驚いていたグランド様の顔が真っ青になりました。


「か、体は大丈夫なの?」

「はい。先生に診察していただきました。何も心配いりませんわ。お気遣いありがとうございます。お時間がありましたら訓練に付き合っていただきたいんですが」

「あー、うん。ごめんね。今日は訓練はちょっと。リオが付き合ってくれると思うよ。もう用事も終わってるだろうし、部屋にいるんじゃないかな?」

「いえ、リオはお忙しいですね。またの機会にしますわ。ありがとうございました」

「忙しくないから大丈夫。リオの部屋に行こう。頼むから。部屋まで送るから行こう。送らせて」


踵を返そうとしましたが、腕を掴まれ懇願されています。必死なお顔も百面相するグランド様は初めてですわ。リオが私に用があるんでしょうか?ここまで懇願されるとお断りするのは申し訳ないのでリオに面会しましょう。もしも時間があるなら訓練に付き合って欲しいですし。


「わかりましたわ。リオの部屋に伺いますわ。一人で大丈夫ですわ」

「訓練に付き合えないお詫びに送らせて」

「いえ、あ、はい。ありがとうございます」


なぜか物凄く安堵しているグランド様と一緒にリオの部屋に行くと留守でした。緊急性はありませんし、踵を返そうとするのをまた止められました。


「呼んでくるからここにいて。お願いだからここで待ってて!!」


必死な形相のグランド様の言葉に頷きます。今日のグランド様の様子がおかしいですわ。

しばらく待つとリオが帰ってきました。

リオが私の顔を見て息を飲みました。

この顔を見たら驚きますよね。無属性設定のため自分で治癒魔法が使えないのがはがゆいですわ。

礼をしようとすると勢いよく肩に手を置かれて、腰をかがめた同じ高さにある顔は眉が吊り上がり、銀の瞳が零れそうなほど大きく見開いています。こんなお顔は初めて見ましたわ。


「シア、顔、傷、」


目尻から顎にかけての切り傷は浅いですが目立ちます。ガーゼで覆うほどではないのですが、隠した方がいいでしょうか?先生には痕は残らないと言われてるので問題ありません。

リオを動揺させるなんて悔しいですがさすがマートン様ですわ。

私の策では、こんなにリオを慌てさせられませんわ。


「擦り傷です。痕も残らず、すぐに治ると言われましたわ。グランド様は?」

「帰ったよ。何があった!?」


切羽詰まった声のリオも初めてですわ。肩に置かれている手に私の手を重ねて笑みを浮かべて銀の瞳を見つめます。


「落ち着いてくださいませ。リオ兄様。中に入っても?」

「あぁ。ご、ごめん。どうぞ」

「グランド様にリオに会うように頼まれましたが、ご用件はなんでしょうか」

「え?いや、その怪我のことを説明してくれないか?」


落ち着きのないリオを落ち着かせようとお茶の用意をしようとすると先に説明と言われました。ソファに座り事情を説明しているとリオの侍従がお茶を置いてくれたので口をつけます。

不幸な事故ですと伝えると詳細を細かく聞かれました。

リオはお茶に口をつけません。リオの質問に答えれば答えるほどリオの目が据わっていきました。そして部屋の空気がどんどん冷たくなります。

結局リオの尋問に負けて、マートン様達の策に嵌まったことを話してしまいました。不甲斐ない結果を聞いてリオは呆れる顔はせず、物凄く怖い笑みを浮かべています。

温かく淹れなおしてもらったお茶を口につけ、冷気を出すリオに微笑みます。


「終わったことは気にしませんわ。魔法を躱す訓練に付き合ってもらえませんか?次は華麗にかわしたいんです」


「用事ができた。これは俺への挑戦だよな。すぐ戻ってくるから待ってて」


リオが怖い笑顔を浮かべたまま立ち上がりました。

この笑顔は危険です。物騒なことを企んでます。

リオは身内に甘いので、怪我のこと抗議しに行きそうですわ。今日のリオはおかしく、冷静でないので注意がいりますわ。出ていかないように立ち上がったリオの手を掴みます。


「リオ兄様、落ち着いてくださいませ。この件は手出し無用です。これは私の問題です」

「婚約者に危害を加えられて黙ってるわけにはいかないんだけど」


いつものリオらしくありませんわ。リオの手を解きます。部屋に常備されているチョコレートを一つ手に取りリオの口の中に入れます。

騒いだら負けです。落し穴を作ってそこに落とすための策も巧妙でした。

中に仕掛けた異臭のする泥水も含めて。マートン様が抱える魔法がうまい取り巻きに感心しますわ。


「リオ兄様座ってくださいませ。お茶が冷めてしまいますわ。証拠がありません。用意周到であり、今回は私の負けです。この件はすでにもう片付いています。リオ兄様ならわかりますでしょう?騒いでも事故として片付けられ、何も得るものはありません。学園では証拠のないことを裁けません。証拠があっても故意という証明はできません。負けを認めず惨めに足掻くよりも次の策を用意するものですわ。マートン様達へかける時間があるなら、その時間は私にください。もうこんなことにならないように訓練してください。私はもう2度とこんな屈辱はごめんですわ」


じっと見つめると立ち上がったリオが座りました。

リオの懐に入れた人間への優しさはすごいですわ。ありがたいことに私は身内枠で大事にされてます。


「魔法の授業の見学をやめないか?シアには必要ないだろう。レポートの件はロベルト先生達には俺が相談するよ」


武術の授業で必要なことです。例え、私にとっては無駄な授業でもきちんと魔法を学んだ上で武術の授業を受けているというイメージは大事です。これ以上武術の成績が落ち、先生の評価が下がることはしたくありません。それが一番安全な方法でも選べません。負けたまま逃げるなんてルーン公爵令嬢として許されません。そして私も譲れませんわ。


「いいえ。見学は続けます。逃げて笑われるのはごめんですわ。この喧嘩は受けると決めました。手出し無用ですわ。次は絶対に負けません」

「怒ってるの珍しいな」

「クラム様に言われて気付きましたわ。マートン様達の掌の上で転がされていたんですのよ。我慢なりませんわ。巧妙な嫌がらせに屈服しないと決めましたの。リオ兄様、訓練してください。負けたくないんです」


リオの怖い笑顔が崩れました。


「わかったよ。叔父上に俺がその訓練していいか確認するから、3日待ってくれる?不服そうだけどビアードに頼んでも許可が出てないから無理だよ。それに今日は休んで」


3日もですか?私はやる気満々ですのに。


「でも・・・」

「躱す訓練なら風魔法の訓練が一番だろ?サイラスは地属性だし、魔法の腕は俺の方が上だ」

「わかりました。あの2倍返しの結界やめていいですか?」

「なんで?」

「事故の時に相手に致命傷を与えるのは申しわけないですし、瀕死の重体になれば過剰防衛で責められます」

「過剰防衛を責められた時は俺が対応するよ。先に警告しているから自業自得」


楽しそうな顔で笑ってます。リオも時々物騒なことを平気で言います。

だめですわ。きっとこれは譲ってくれませんわ。


「マートン嬢達も凄い執念だよな。訓練を受けていない令嬢が巧妙に仕掛けてくるんだから。シア、避けることは優秀なのに」

「優秀?」

「魔法なし、風読みなしで避ける勝負したら俺より上だよ。叔父上達はシアには避けることを徹底的に鍛えているからな」

「本当ですか?」

「あぁ。持久力が続けばだけど」

「結局リオに負けてますわ」

「シアに負けるわけにはいかないからね」

「リオ、この件は絶対に手出し無用ですわよ。私の喧嘩ですわ」

「わかったよ。手出しはしないけど、また攻撃されたら教えてくれる?攻撃の仕方によってシアへの訓練方法が変わるから」

「わかりました。よろしくお願いします。リオ、仕事は大丈夫ですの?」

「俺は優秀だからね」

「流石ですわ」


今後の予定も決まったのでリオにお願いをして訓練の森を使う手続きをしてもらいました。今日は訓練はしないので制服のままです。私が数時間前に衝突した大樹だった枯れ木の前に立ちそっと触れます。

綺麗な花を咲かせられなくなった細くなり命が尽きるのを待つ枯れ木を抱きしめます。


「どうか安らぎを。残りの時間に祝福を。再び巡り会う時までどうか」


ルーンでは治癒魔法が効果がない時は祈りを捧げます。

全ての命を救うことはできません。それでも限りある時間が幸せなものであるように。次の生は真っ当できるように。

次に木を見た時にすでに消えていました。木の命が尽きたのは寂しかったですが新芽を見つけました。命は脆いけど強いもの。新たな命に祝福の祈りを捧げました。



伯父様から許可が出たのでリオとの訓練が始まりました。

クラム様に羨ましがられましたが今回は遠慮していただきました。

1対1なので伯母様との鬼ごっこよりも楽かと思えばそんなことありませんでした。

最初は怪我しないように気を使われましたが、断固抗議したら折れてくれました。

私の訓練なのに、時々ロベルト先生が参加しリオと二人で訓練するのは諦めました。

リオとの実力差に落ち込みたいですが、今はマートン様達に負けないことのが重要ですわ。

今後は華麗に避けますので覚えていてくださいませ。

令嬢モードが剥がれないように気をつけなけばいけません。

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