第三話
いよいよゴールデンウィークになった。
予定していた通り、実家に帰る。
「お母さーん、ただいまー!」
玄関を開け中に入ると、お母さんが一人でテレビを見ているところだった。お母さん、全然変わんないなぁ。
「あんた、もう帰ってきたの?駅に着いたなら連絡しなさいよ。」
「まぁいいじゃん。部屋はそのまま?」
「うん。そのまんまよ。荷物とか早く持っていきなさい」
分かってるよ!と言いたい気持ちを抑えて、2階の自分の部屋にいった。扉を開けると、実家を出た時とまったく変わってない。
「うわぁ、懐かしい...」
こんなに懐かしくなるものなんだ。帰ってくるの久しぶりだし、なんか変な感じ...。
部屋の中は整理されていて、埃もなかった。
掃除しといてくれたんだ...。
とりあえず、荷物だけ置いて下に降りていった。
ソファに座ってテレビを見ていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。お母さんが玄関に行き、対応していた。笑い声が聞こえる。
近所の人かな。
「ゆりー!ちょっと、来なさい」
お母さんに呼ばれた。なんだろ。
玄関に行くと、萩のお母さんが立っていた。
「あら、友里ちゃん!久しぶりねぇ」
「おばさん、お久しぶりです」
ほんとに久しぶりだなぁ。萩のお母さんに会うの。2年ぶりぐらい?
「友里ちゃん、綺麗になったわね!いいわねぇ、女の子。うちも華はいるけど、あの子は全然オシャレとかしないから...」
「でも、華ちゃんまた大会で優勝したんでしょ?凄いじゃない。」
え?華ちゃんが優勝?
「華ちゃん、陸上やってるのよ。こないだも、地区大会で優勝したの」
「え?!凄いじゃないですか!」
「まぁね。その点では自慢なんだけど...。もう少し女の子らしくして欲しいわぁ」
この後も話をずっとしていた。お母さんもおばさんも、前よりしゃべるようになってるし。元気だなあ。
井戸端会議を抜けて、携帯をみると美紀から連絡がきていた。
〔こっち帰ってきてるんでしょ?今日皆で飲も!〕
〔もちろん!皆に会うの楽しみー!〕
返信と。皆に会うの3年ぶりだな。就職してからこっちには1回帰ってきたけど、その時は会わなかったし。今日の夜楽しみ〜。
「お母さーん、今日の夜皆と飲んでくるから、ご飯いらない」
「あらそう。萩ちゃんも来るの?」
「萩?さぁ...。詳しいメンバーは聞いてない。でも、美紀から誘われたから多分来るんじゃない?」
「あぁ、美紀ちゃんね...」
ん?なんか、お母さんの顔が微妙なんだけど。まぁいっか。そうだ、リップきれてたんだよね。
「お母さん、近くにイ○ンあったよね?ちょっと行ってくる!」
「はぁーい」
カーディガンを羽織り、パンプスを履いて外にでた。
イオ○に行く道って、高校への通学路と一緒なんだよね〜。懐かしい...。あ、あのたこ焼き屋さん、しょっちゅう行ってた。
化粧品コーナーに行くと、リップ売り場に向かった。あ、あった。よかった~。なかったらどうしようかと思ったよ。お会計を済ませて、雑貨屋さんを少し見ていると、後ろから声をかけられた。
「あの、もしかして、友里?」
後ろを振り返ると、男の人が立っていた。
こんな知り合いいたっけ?いたら覚えてるはずなんだけど...。
困って曖昧に笑うと、向こうも笑った。そして、笑った顔には見覚えがあった。
「え、もしかして、萩?」
そう言うと、その人はクスッと笑った。
「やっぱり気づいてかなったんだな。愛想笑いするからびっくりしたよ」
萩だったんだ...。なんかというか、カッコよくなった...?なんか、シュッとしてるし、こんなカッコよかったっけ?
「久しぶりだね。3年ぶりぐらい?」
「あぁ、そうだな。お前、就職で上京したし。」
そっか、萩はこっちに残ったんだよね。高校の時につるんでいたメンバーで上京したの、私だけだったし。
「一人で買い物に来たの?」
「いや、俺は...」
ん?1人じゃないの?友達ときたのかな。
誰と来たのか聞こうとすると、女の人の声が響いた。
「しゅうー!もう、勝手に居なくならないでよ」
パタパタパタ〜っと走ってきたのは、高校の頃つるんでいた美紀だった。
「お会計済ませたらいなくなってるんだもん。びっくりするじゃん!」
「あぁ、ごめん。美紀、友里だよ」
美紀と目が合った。
「あれ?友里?久しぶりだねー!今日飲もって連絡してたけど、やっぱり直接会わないと実感わかなくてさぁ〜!」
「久しぶり、美紀。びっくりしたよ。二人で買い物に来てたの?」
ずっと気になっていたことを聞いた。
まさか、付き合ってるとか...?まぁ、高校卒業してから3年たったし、可能性としてはなくはないけど...。
気になって聞いてみると、美紀が少し頬を赤くさせた。
「...うん。今日久しぶりに4人揃うし、その前にちゃんと準備したいなぁ~って思って」
ねっ?と美紀が萩を見ると、萩も頷いた。
「あぁ。久しぶりに4人揃うしな。」
へぇ〜、そうだったんだ...。
なんとなくもやもやする気持ちを押し込めて、今日楽しみだね、と二人に笑った。