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第五話 監獄の中で

 「おい、画面が暗くなったぞ。急いでエンジニアを呼んで来い!」



何台ものパソコンが置かれた薄暗い部屋で男が怒鳴る。

それを聞いた部屋の隅でプログラミングをしていた女性が焦った顔で走ってきた。



「す、すみません! 一括装備を押すとゲームが落ちてしまう不具合がありまして……。今即急にプログラムを書き換えてきます!!」


「おい、社長が見たら俺もお前クビになるぞ! 本来この後は大事なイベント戦だろ。復旧したら被験者には何とかわからないようにストーリーをつなげろ。早く持ち場に戻れ」



その女性は急いで戻り、イスに座りため息をつく。



「あ~もうなんでこんな実験に参加するなんて言っちゃたんだ……。大企業ファクターに入れたはいいもののちょっとお金に目がくらんだなぁ~。あぁ~考えてる暇ない今は急がなくちゃ。」


女性は視線をモニターに向け、猛スピードでキーボードを叩く。

その額からは汗が流れ、とても集中しているのが見て取れる。



「なんとか復旧作業はできた。」



女性の顔から少し安堵の表情が伺える。



「う~ん。ストーリーをつなげることはなんとかできそう。でも、本来あったはずのイベント戦の報酬はどうしよう……。もうこうするしかないか……」




 「こ、ここは……?」



康太は見慣れない場所で目を覚ました。

あたりは薄暗く、冷たい地面を見るとストライプ状に光が差し込んでいる。



「ここは監獄か? なんで俺捕まってんだっけ。あぁ、たしか敵のダジルとかいうやつに王様がやられて、俺は生け捕りにされたのか。はぁ」



少しため息をつき、天井を眺める。

そこで自分の体を見てふと気づく。



「鎧やっぱり盗まれてんな~。他の装備は……」



【アイテム】からボックスに何か入っているか確認する。



「全部消えてる。そうか俺あの時一括装備したんだった。気絶して全部あいつらにパクられたのか。最悪じゃん……。あれ、何かメールが来てる」



よく見ると【メール】項目の右上に印のようなものがついている。

するとこのようなメールが目の前に現れた。



【運営からのお知らせ:特定の条件時、一括装備を押すとゲームが落ちてしまう不具合が報告されております。お詫びとして今回、復活の秘薬10個・転移石50個・時止の勾玉3個を配布しました。【プレゼントボックス】からご確認下さい。ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。今後ともクロニクルカースをよろしくお願いします。】



「ということはあの時気絶したんじゃなくて、ゲームが落ちてたのか。とりあえずプレゼントボックスにアイテムが届いてるはずだよな」



【プレゼントボックス】を開く。

するとさっき届いたアイテムとその詳細が目の前に現れた。



【運営からのお詫び】


復活の秘薬×10:死んでもその場で復活できる秘薬。自動で使用される。


転移石×50:自分が一度行ったことがある場所に自由に転移できる石。


時止の勾玉×3:30秒間、自分以外の全ての時間を止めることができる勾玉。



「ほうほう、やっぱりファクターさんわかってんな。お詫びは大事だよな。それに結構いいアイテムっぽいし。復活の秘薬か……そういえば死んだ時の事考えてなかったな。ゲームの世界だけど、実際に俺が死んだら現実世界でも死んだってことになるのかな。また今度ネマルに聞いてみるか」



康太は【一括受け取り】を押し、アイテムボックスに移動しているかを確認した。

そしてその場で寝そべった。

すると太もものあたりに何か違和感を感じる。



「ん、何か入ってる」



ボロボロズボンのポケットに手を入れ、中からその何かを取り出した。



「なんだこれ石か? こんなもの入ってたっけ」



それは赤色に輝く小さな宝石のようなものだった。



「詳細は見れないのか。まさか、この石で血を操れるようになったりすんじゃねぇか? んなわけねぇよな。んま、いいや。それよりもこっから先どうしようか……」



康太はポケットに宝石をしまい、寝転んでいた。

すると監獄の奥の方で怒鳴り声が聞こえてきた。



「うるさいわね! 独り言がデカすぎなのよあんた! ずっと我慢してたけどもう限界いつまで喋ってるの!?」


「えっ、誰!?」



康太は声がした方に目を向ける。

するとそこにはボロボロの汚れた白い服を着た女の子が壁にもたれて三角座りしていた。

薄暗くて表情がわかりづらいがたぶん声からして怒っている。



「それはこっちのセリフよ! 私は早くここから出たいの。あんたが警備員に喋ってるとこ見られてもし出るのが遅れたらどうするの!」


「ご、ごめん」



(もしかしてプレイヤーか? そういえばこの世界に来て一人もプレイヤーに会ってなかった。いやでも待てよ。これがストーリーの一部だとするとCPUって可能性が高いよな……)



「……」


「……」


「なんか喋りなさいよ! 気まずいじゃない!」


「え、でも君がうるさいって」


「うるさい。気まずいのはもっと嫌なの。それに君って呼び方やめて。私にはコレアっていう名前があるの」


「わ、わかった。俺のことはナマケって呼んでくれ。よ、よろしく」


「……」


「……」



康太が黙っているとまたその女の子からのキツい視線を感じた。



「こ、コレアはどうしてここに入れられたんだ?」


「知らないわよ。ただ街で買い物してたらここの奴らに捕まえられたの。何もしてないわ。あんたこそどうしてここにいるのよ」



(ゲームの事について触れない辺り、たぶんコレアはゲーム内の住人だ。だとすると本当にCPU? いやでも人間味がすごいというか、今時のAIではここまでの技術を作ることは不可能だろ。それじゃここは異世界ということか?)



康太は首を横に振る。



(いやありえない。あの時ファクターからメールが返って来たのは事実だし、あの時スマホ画面で見た、ゲーム名でもあるクロニクルカースっていう石碑もあるんだ。まぁでもゲームの世界に入るってことも十分ありえないことなんだけど)



「ちょっと聞いてるの!?」


「あ、ああ。ごめん少し考え事をしてて。俺は……」



――ドン!



急に康太の背後にあった鉄格子が音を立てる。



「うるせぇぞお前ら! 俺の眠りを邪魔すんじゃねぇよ。仲良く監獄でイチャイチャしやがって。あぁ~イライラするぜ」



どうやら看守のようだ。

かなり太っている。

男はイスから立ち上がり、鉄格子の前に立つ。

すると鉄格子の間から手を伸ばし康太の胸ぐらを掴んだ。



「お前余裕ぶっこいてるとブン殴るぞ? 聖具かなんだか知らねぇが、こんなクソガキに何が出来るってんだ。殺されないことをダジル様に感謝するんだな」



そういうと康太を突き放した。



(いやおっかねぇだろ。普通に怖いんだが。あと普通に痛いし。痛覚も五感もあるってどんなゲームだよ……)



康太はそそくさと部屋の隅っこまで逃げる。

となりでコレアが何か言いたげな顔でこちらを見ていたが、黙っていた。


喋るわけにもいかず俺は少し眠ることにした。

ゲームの世界で眠れることに驚きながらも、康太は少し夢を見た。


それは現実世界の夢だ。

大学生活ではりきって一人暮らしをするために喧嘩した事。

一人暮らしをしても大学で彼女も出来ずに勇作やネットの友達とずっとゲームをやっていた事。

ゲームが生きがいでバイトもせず、自堕落な生活を送っていた事。



(大学生活が始まってから俺何もしてねぇじゃん。それに今の状況、ゲームに呪われたのかな俺……)



康太はそんな夢を見ながら少し自分の生活を後悔していた。




――ガシャン



檻が開く音が聞こえる。



「はいはい、起きてください。ナマケくん」


「お、お前は……」



目を覚ますと見覚えのある長髪の男が目の前でしゃがんでいる。



「先程もお会いしましたね。ダジルと申します。あの節はどうも」


「何の用だよ。」


「いやいや、そんな不機嫌にならないでくださいよ。実はあなたを釈放してあげようと思いましてね。デスカイザーに多大なる貢献をしてくれましたし。ただ、一つ聞いておきたいことがあるんです」


「……?」


「私の部下があなたから装備を取り上げたんですよ。それはそれはものすごい成果がありました。何故あなたが持っていたのかはまるで意味不明ですが、まさか聖具を一度に9個も手に入れることが出来るなんてねぇ!!」


(俺から聖具を9個奪った? 何を言ってるんだ?)



ダジルは続ける。



「でね、聖具はこの世に確認されているのは10個なんです。つまり何が言いたいかというと、あなたまだもう一つ聖具を隠し持っていますよね? すみませんねぇ。身体検査をしなかったもので。そちらを渡していただいたらあなたを釈放してあげますよ」



(こいつは俺が10個の聖具を持っていたと言いたいのか? クロニクルカースからありえない確率の聖具が10個も俺の元に排出されたと? それに俺は今装備なんて持っていない。いや待てよ)



さっき見つけたポケットに入っていた石の事を思い出す。



(もしかしてこれの事を言っているのか? いやでも9個もの聖具を盗られたんだ。もし仮にこれが聖具だったとしたら絶対に渡すわけにはいかない。ゲームオーバーになるかもしれない。それに何故か渡してはいけないって直観でそう思う)



「持ってないです」


「本当ですか? なら大丈夫です。疑ってしまって申し訳ありません」


「え……」


ダジルは立ち上がり檻から出て行こうとする。

そして振り向きニヤッと笑った。



――パンッ



部屋に銃声が響き渡る。



「面倒くさいことは嫌いなんです」



その言葉とコレアの悲鳴が頭の中に流れる。



(え、どうなったんだ……? てか、コレア、いたのか)



そこで康太は頭が焼かれる程の痛みと共に意識を失った。


楽しくなってきた。

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