第三話 聖具アンハート
康太はネマルに言われたように、【HP】の値を確認した。
すると元々のHPが135だったのに対し、95762まで上がっていた。
そしてMPの値を見ると元の84のままだった。
「このゲームのHPって案外すぐに上がるんだな。」
「ナマケくん・・・それ上がりすぎですよ。」
俺のHPを確認したネマルが目を大きく見開いている。
「え? こんなもんじゃないのか?」
「ナマケくんの現在のレベルは1です。あなたの今のHPの値はMAXレベルの1000レベルに匹敵します・・・。それに装備にはレベル制限があるので、レベル1でそのHPの上がり方をする装備があること自体がありえない事なんですよ!」
「嘘だろ? まぁでも言われてみればレベル1がつけられる装備にしてはやけにかっこいいな。」
「私自身、今まで見たことがない装備でした。もしかしたらとてもレアな装備なのかもしれません。街の方に住んでいる私の知り合いに装備にとても詳しい方がいます。一度その方に見てもらいませんか? 」
「わかった。とりあえず腹も減ったし村の方に向かうか。」
(ゲームの中のはずなのに、五感や空腹まであるのか・・・。それに今思えば会話も出来てる。本当にゲームなのかこれ。)
そんなことを思いながら先を行くネマルについていった。
少し歩くと街の入り口らしき扉が見えてきた。
「おお! 意外とデカいんだなネマルの住んでる街ってのは! ん、ソレイユ?」
「でしょ! ここはクロニクル国で3番目に発展している街ソレイユです! 様々な素材を打ってくれる雑貨屋や装備を作ってくれる鍛冶屋、それにレアな物を扱う質屋もあります! 何でも揃ってるんですよ!」
「すごいな! じゃあこの装備もどこかに売ってるんじゃないか?」
康太はさっき身に着けた鎧装備を指さした。
「たぶん、売ってないと思いますよ。クロニクルカースから排出される装備はこの世界から取れる素材からは作れないんです。もし仮に売っているとしたら転売屋ですかね。まぁ私は怪しそうなので行ったことがないのですが。」
「そうなのか。120年にもわたる内戦を止めたクロニクルカースの優位性にも納得がいくな。そういえばさっき言ってたネマルの知り合いって人はどこにいるんだ?」
「こっちです!」
それから少し歩くと街の大通りのような所に出た。
そしてネマルは大通りに出てすぐの角にある古びた家に入っていく。
「ナマケくん! ここです!」
「なんだかボロボロで不気味な家だな・・・。」
「ボロボロで不気味で悪かったね坊や。」
「え、誰!?」
その家に入ってすぐに背後から年配の女性の声が聞こえてきた。
するとネマルが康太とその老婆の間に割り込んできた!
「あ、エマばぁ! お久しぶりです!」
「きてたのかいネマル。こちらの男性もネマルの連れかい?」
「そうです! ちょっと装備の事で聞きたいことがありまして!」
「そんな事だろうと思っていたよ。まぁまぁ上がってくれ。小汚い場所で申し訳ないね。」
「あ、ありがとうございます。」
康太はエマばぁと呼ばれる年配の女性に一礼し、部屋の中央に配置されたテーブル横のイスに座った。
「あの、先ほどは失礼な事言って申し訳ありません。」
「かまわないよ。声には出さないが街のみんなが思っているだろうよ。自己紹介がまだだったね。私はエマ、エマばぁとでも呼んでくれ。よろしくね。」
「俺はNMKって言います。ナマケって呼んでください。よろしくお願いします。」
「さぁ、自己紹介も済んだことですし、本題に入りましょう! 今日はエマばぁに見てほしい装備があって、このナマケくんがつけてる・・・」
「その鎧装備の事だろ? 一目見ればわかるよ。私も実物は初めて見る装備だ。ちょっと待ってておくれ。」
エマばぁそう言うと、部屋の隅にある古そうな本が大量に詰まっている本棚に行き、首からぶらさげた眼鏡をかけながら何かの本を探し始めた。
「あ、これだ。ナマケさんが身に着けてる装備は確かこの本で一度見たことがある。」
エマはイスに座ると、テーブルに本を置、埃を払う。
「歴代クロニクル王伝記、って書かれてますね。こんな本に俺の装備が載ってるんですか?」
「あぁ、確かね。えっとどの辺だったか・・・。あった、これを見ておくれ。」
康太とネマルがその本を覗くとそこにはクロニクル5世の主な伝記が綴られていた。
おそらくこの本は、クロニクル1世から何世までかの伝記が綴られた本である。
そして5世の最後のページに『受託聖具』という項目を見つける。
「授与聖具、アンハート。この聖具はクロニクル4世の聖具パトロンを用いた<聖具召喚の儀>により神からクロニクル5世に授与された。この鎧には傷一つもつけることができず、儀式が行われた瞬間まで無傷であったと言われている。」
「ナマケくん下の方に写真が載ってますよ。ってこれまさか・・・。」
「そのまさかだよネマル。その鎧はクロニクル5世が内戦の中身に着けていた鎧、アンハートだ。他の装備が出すオーラとは格段に違う神のオーラが見れる。私は聖具というものを一度も見たことが無かったが、何故か今これが聖具だということは分かる。ナマケさん、あんたはもしかすると神に認められた存在、王の器なのかもしれない。」
「う、嘘でしょ。なんで俺が・・・。」
「何故かはわからない。だが、この装備を授けられたという事は何かナマケさんに起こるという事だろう。」
康太とネマルはそこで本を閉じ、それからすぐ長居せずにネマの家を出た。
「ん? 何か街が騒がしいですね。」
<ああ、王様!! 国を守ってくださりありがとうございます!>
<こんなところまでお出向きになられたとは! ははぁ!>
<私が今生きていられるのは王様のおかげですありがとうございます!>
街の奥の方からたくさんの民衆の声が聞こえてきた。
「なんだなんだ?」
「あ、ナマケくん道の端に逸れてください! 王様の巡回です! 道の中央に立っていたら殺されちゃいますよ。」
「こ、殺される!? まじか!」
康太とネマルは急いで道の端に逸れた。
奥の方を見るとたくさんの民衆が道の端で列を作っている。
民衆の声で街中が埋め尽くされていた。
その光景を茫然と眺めていた康太にネマルが話しかける。
「でもおかしいですね。こんな街中まで王様が来るなんてこと滅多に無いんです。何か事件でも起きたのでしょうか・・・。」
「そうなのか。デスカイザーとの内戦がまた始まったとか・・・?」
「そんな不謹慎な事言わないでください! あ、王様が来ましたよ。」
王様とその一行は群を成し、康太達の目の前を通り過ぎていく。
しかし、通り過ぎてすぐにその群の動きが止まった。
「おい、そこの少年! そこの銀の鎧を身に着けた君だ。こっちに来い。」
王様はどういうわけか乗馬したまま振り返り、康太の方をじっと見ている。
その目線と共にたくさんの目線が康太に突き刺さる。
「「え?」」
康太とネマルはその状況に頭が追い付かない。
(何だよこの状況・・・。ただ王様を無視したら殺されちまうかもしれない。)
「わ、私ですか王様。」
「ああ。そうだ君だ。少しこっちへ来てくれるか。」
「わ、わかりました。」
俺は立ち上がり、震える足で王様の元へ向かった。
王様の元へたどり着くと王様は少し黙って俺の方をじっと見ている。
カキン
(何が起きたんだ。あれ、王様を見てたはずなのに空が見える。)
康太は地面に倒れこんだ。
王様の方を見ると鞘に剣を収めている。
(どうやら俺は王様に切り付けられたみたいだ。はぁ俺はここで死ぬのか・・・。もう痛みも感じない。ただこれゲームの世界だよな。どうなるんだろう・・・。)
「おい、起きろ少年。お主の身に着けているその鎧、どこで手に入れた。」
「え・・・。あ、はい。先ほどクロニクルカースから授かったものです。」
康太の体はなんと先ほど手に入れた聖具、アンハートにより守られていた。
王様は俺の発言に大きく表情を変える。
「そ、そんなばかな・・・。その鎧を身に着ける時なにも体に異常は無かったか?」
「い、いいえ。特には・・・。」
「まさか、そんなはずが・・・。急用で申し訳ないのだが、少し私と宮廷まで来てくれないか?」
「え、今からですか!?」
「ああ。そうだ。ここに乗るがいい。」
康太は断れるわけもなく、何故か王様の後ろに乗馬させられた。
振り返ると、ネマルがとても強張った表情で康太を見ている。
大丈夫っといた顔つきでネマルを見つめ、少し手を振りながら別れを告げた。
王様が指揮を執り、今までと逆の王様が来た方に群が移動する。
歩き始めたと同時に近くにいた王様の側近のような人が口を開く。
「王様、あの件はもういいのですか?」
「ああ。もう大丈夫だ。帰るぞ。」
「わ、わかりました。」
(おいおい、なんだこの状況。俺の予想だが、この鎧が関係しているのは間違いなさそうだ・・・。あぁ、生きて返してくれ神様。)
あぁ、この先どうしよう。