幼馴染だって負けません!
42話投稿です!
幼馴染がヒロイン競争に本格参戦……!?
「おい、春斗。夏希先輩に会えるからって来たけど、雑用ばっかで全然会えないじゃねぇか!! 夏休みにわざわざ学校まで来てんだぞ!?」
「はあ? 佑樹が冴川さんに『男の子だもんね♪』なんて言われて頷いたからだろうが!」
「あんな美人な先輩からお願いされて断れるわけないだろうがッ!!」
「そんな力いっぱい叫ぶことじゃねえッ!!」
あー、クソ。余計に暑くなった。
ただでさえ体育館は熱がこもってるって言うのに。
「つーかよ、俺は思ったんだわ。これ、運動部の連中がやるべきことじゃね? なあ、そう思うだろ、春斗」
「思うけど、その運動部連中が全員合宿に行ってるからな」
「つまり、誰が悪いんだ?」
「学校じゃね?」
そう。いつだって俺ら子どもは大人の都合に振り回されるのだ。
「春斗ー。いるー?」
「優美」
「あ、いた。って、うわ。なんなのここ。暑くないの?」
暑いに決まってんだろ。と、言い返す気力もない。
あっちーな、本当に。
「冴川先輩がちょっと来てって」
「うへー、マジか。なあ春斗、もう無視して帰らね?」
「さっき美人な先輩からのお願いは断れないって言ってたのは誰だよ」
「だってここに冴川先輩いないし。来たのは湊だし」
「む。それってどういう意味かな?」
「なんでもねーよ」
暑いわ疲れたわで投げやりになる佑樹。
その気持ちは痛いほどわかるから何も言わないけど。
「で、冴川さんはどこに来て欲しいって?」
「え、プール」
「よっしゃ行こう! すぐ行こう!! さあ行こう!!!」
「やっぱり相葉って最低……」
すまん。俺もちょっとテンション上がった。
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「知ってたよ! こういうオチだってのは知ってたよ!!」
「だから騒ぐな鬱陶しい」
「これが騒がずにいられるか!? プールだって言われて来てみれば、プール掃除だぞ!? これこそ水泳部の連中がやるべきことじゃねぇの!?」
「だから運動部は夏合宿中だって言ってんだろ!」
いいから黙って作業しろ。
暑いのはお前ひとりじゃないんだ。
「ていうか、呼び出した冴川先輩はどこ行ったんだ? そして夏希先輩はいずこに……?」
「生徒会の仕事でもしてんじゃない?」
「なあ、もう帰ろうぜ。大丈夫だってちょっとぐらい汚れてたって。塩素がなんとかしてくれる」
塩素ってそういうもんだったか?
「あら、相葉君は帰っちゃうの? それは残念ね」
「冴川先輩!? どこに!?」
「こっちこっち」
と、声に振り向けば──。
「どう? 水着」
「いや、何してんですか。優美まで」
「うう。巻き込まれた……。恥ずかしい」
体を隠すようにする優美に対して、冴川さんのなんと堂々としたことか。
「春斗! 今日来てよかったな!!」
「お前……」
まあ、いいけど。
「相葉君はともかく、春斗君の反応がいまいちね。やっぱり昨日までなっちゃんの水着を見てたから?」
「え、何それ。春斗どういこと!?」
「あら、聞いてないの? 春斗君、昨日まで旅行に行ってたのよ。美人三姉妹と二泊三日の。しかもプライベートビーチに」
「聞いてないッ!」
そりゃ言ってないからな。だって、言うと──ッ。
「はぁるぅとぉお? てめえ、そりゃ一体どういことだァアッッッ!?」
「うお!? あぶねえだろうがっ!」
「ふっふっふ。怒りのデッキブラシを食らうがいい。羨まし過ぎんだろうが、この野郎ッッッ!!!!」
カァンッ、と木製のブラシを打ち付け合う音が響く。
「こらこらー。ケンカはダメよー」
「冴川さんが焚きつけましたよね!?」
「あら?」
「何すっとぼけてんですか!?」
ていうか、佑樹。お前どんだけガチだよ!?
「あああのね春斗! 私その、一緒に行きたいとこがあって」
「待って今の状況見て!」
話を聞く余裕ないよ!?
「夏祭り! 夏祭りはその、一緒に行きたいなぁって。ええと、……二人で」
「だから待って! 話なら後で聞くから!!」
佑樹お前、いい加減に──ッ。
「夏祭りもなっちゃんたちと一緒に行くんじゃなかった? さっき生徒会室でそんなこと言ってたわよ」
「ええっ!?」
「春斗君の夏休み。大半以上がお義姉さんたちとの予定で埋まってるみたいよ」
「そ、そんなぁぁぁああああ」
夏空に優美の声が響く中、俺は足を滑らした。
プールでチャンバラなんかするもんじゃないな!!!
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「いてっ!?」
「ああもう。動かないでってば。絆創膏が貼れない」
「うわ、こんなとこも擦りむいてる」
「え、わ。本当だ。待ってて、今消毒するから」
プールですっ転んだ俺は優美に付き添われて保健室に来ていた。
佑樹? あいつは冴川さん監視の下でプール掃除中。
「はい。お終い」
「おお。悪いな優美。サンキュー」
「もう、本当だよ。急に『今日は学校来てくれー』なんて呼び出されたと思ったら、こんなことになるんだもん」
「マジ助かった。後で夏希姉ちゃんもそう言うと思う」
俺を呼び出した時も本気で申し訳なさそうにしてたし。
「ふう」
「? どうした?」
「ううん。なんでもなーい」
一息ついた優美がベッドの縁に腰掛ける。隣同士、肌が触れそうな距離だ。
なんか久しぶりだな、優美とこんな近くで話すのも。
「なんか久しぶりだね。こんな風に二人っきりになるのって」
「それ、今俺も思ってた」
「え、ホントに~?」
「本当だっての。なんでお前に嘘吐かなきゃいけないんだ」
その疑り深い眼差しをやめろ。
「ねえ、春斗」
「なんだ?」
「さっき言ったことだけど」
あー、そう言えばプールでなんか言ってたな。
「悪い。佑樹のせいでなんも聞いてなかった」
「もうっ。もうっ」
「いた!? ちょ、そこケガしたとこ!」
「ふーんだ。……夏祭り、一緒に行きたいなって。そう言ったの!」
なんでちょっと怒り気味なんだよ!?
「いいじゃん。行こうぜ」
「え、でももうお義姉さんたちと行くって」
「近所のはな。別にそれだけじゃないんだし、タイミング合うやつを見つけて行こうぜ」
「──。いいの!?」
「お、おお」
なんだその満面の笑み。
「約束! 絶対約束だからね!!」
「お、おう。わかった」
そんなに喜んでくれるんなら嬉しいかぎだけどさ。ちょっと興奮し過ぎじゃないか?
「? なんで顔を逸らすの?」
「……今の自分の恰好と体勢を振り返れ」
「え。あ。──ッ!?!?」
飛びのく優美。顔は真っ赤。
「そろそろ戻ろうぜ。その、着替えたいし」
「そ、そうだね!」
ええ、まあそうなんですよ。
プールから直行したので、水着なんだよね、二人とも。
「いいい、行こっか」
「動揺し過ぎ」
「う、うるさいなー! もう!」
「あはは」
俺たちの賑やかな声が無人の廊下に響く。
夏休み。誰もいない校舎。なんだか清々しい気分だ。
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その後プールに戻り、佑樹を手伝い掃除を終わらせ、最後にご褒美として生徒会室でお菓子とお茶をごちそうになった俺たちは帰路に着く。
16時過ぎ、まだまだ日が高い帰り道。
別れ際。優美の一言も夏空のように爽やかだった。
「春斗。約束、忘れないでね!」
夏休みだった。
次話の予定は未定ですが、なるべく早くあげられるようにします!




