義姉さんたちとの家族旅行。二日目! ~夜は冬華姉さんと~
40話投稿です!
「春斗君。いますか?」
「……冬華姉さん?」
風呂上がり、部屋でのんびりしていたら窓がノックされた。
「どうしたの?」
「どうもしませんよ。少しおしゃべりしたいと、そう思っただけです」
「わかった」
ベランダに出れば、冬華姉さんも風呂から上がったばかりなのか、微かにシャンプーのいい匂いがした。
「夜になってもきれいですね、ここは」
「うん。いい眺めだ」
月明りに輝く水面を眼下に、天上を見上げればそこには一面の星空が広がっている。
「明日で帰ってしまうなんて、なんだかもったいないですね」
「『姉ちゃん』が仕事をさぼるって言うなら、もう一泊してもいいけど?」
「ふふ。それもいいかもしれませんね。……私も学生になれればよかったんですが」
「それは無理でしょ」
年齢的に、とは言わない。そういのは何て言うかデリケートだから。
「春斗君。旅行は楽しかったですか?」
「もちろん」
あんだけ色々はしゃいで楽しくなかったなんて、それは嘘になる。
「それならよかったです。感謝しなければなりませんね」
「だね。まあ、親父たちは親父たちで楽しんでるよ、きっと」
“弟か妹が出来ても許せよ”なんてメッセージを送ってきた時は、はっ倒そうかと思ったけど。
息子になんちゅー下ネタを送ってんだ、あのクソ親父は。
「……」
「……」
「……」
「……」
言葉はなく、互いに夜の空気を楽しむ。
虫も静まり、微かに聞こえるのは遠く波の崩れる音ばかり。
「秋奈と夏希とは、何か話しましたか?」
数分ばかりの沈黙を破ったのは、冬華姉さんのそんな一言だ。
「そりゃまあ、一緒にいれば会話もするさ」
「……。そうですか」
小さな答えが通り過ぎ、またしばらくの静けさが訪れる。
「冬華姉さんはどう思ってるの?」
「何をですか?」
「俺が旅行に行く前に決めたことについて」
秋ねえと夏希姉ちゃんからは聞いた。
じゃあ、冬華姉さんは……?
「私は、春斗君が決めたことならそれでいいと思っています」
「そっか」
「まあ、本音を言えば、私を選んで欲しいと思っていますけど」
その声音は、どこか明るく茶化したような響きだった。
「ですが、春斗君が“こうだ”と決めたことに対して、とやかく言うつもりはありませんよ」
「それは俺を尊重し過ぎじゃない?」
「そう思うのなら、私を選んでください。そしたらとびっきりにワガママな姿を見せてあげますから」
「胸張って言う事? それ」
「どうでしょうね。ふふ」
聞こえた笑みにつられ、俺も自然と笑みを漏らしていた。
「秋奈も夏希も、きっと自分を選んでもらいたがっているんでしょうね」
「多分ね。『姉ちゃん』と同じだ」
「三姉妹ですから。それに、同じ男の子を好きになりましたし」
そっと大切な響きの言葉。
遠く聞こえる波の音のように、優しく染み入る声。
「自分で言いだしたことだからね。ちゃんと決めるよ」
「ええ、そうしてください。そして、まつ次も同じように選んでください」
「──。“次”があるって思ってるの?」
「当然です。優しい春斗君が、全てを決め切れるなんて思ってませんから」
「それ、微妙に情けなくない?」
「そんなことありません。それが、私たちの好きな春斗君なんですから」
まるで本当にそうなることがわかっているかのように自信に満ちた言葉。
冬華姉さんが思う俺は、俺が思う俺とは、少し違うのかもしれない。
でも、冬華姉さんのそんな言葉が、なんだかとっても嬉しかった。
41話は明日9日の19時投稿です!
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