義姉さんたちとの家族旅行。二日目! ~夕暮れは秋ねえと~
遅れましたが38話投稿です!
「ちゃんと水分摂らないと具合悪くなるよ」
「わ~、お水~。はる君、ありがと~」
だからってそんなにゴクゴク飲むもんでもないけどね!?
「久しぶりに運動したから疲れちゃった~」
「運動って。ちょっと自転車漕いだぐらいじゃん。ここから崖までの往復だけ」
「疲れたから運動なの~。ほら~、はる君も疲れたでしょ~? 一緒に休憩しよ~」
「崖の上でも散々寝てたじゃないか」
ひたすら昼寝をしてたのは、どこの誰でしたっけ!?
「隙有り~」
「ちょ、秋ねえ!? 危ないから!!」
狭いビーチチェアで抱き合えるわけないだろ!?
「あ~、呼び方~。今はふたりきりだよ~」
「わかった。わかったから放してってば」
「ちゃんと呼んでくれなきゃ、やだ~」
「『姉ちゃん』いくつだよ。そんな子どもみたいなこと言わないで」
「まだ成人前だも~ん」
も~ん、ってアンタ……。まあ、いいけど。
「うお、すごい景色」
「ね~。きれいだよね~。とーかちゃんとなっちゃんも見に来ればいいのに」
「二人は今、夕飯の準備中。あと、冬華姉さんの特訓」
「料理の~?」
「そう。悔しかったんだって。おにぎりすら満足に作れないのが」
「わ~、なっちゃんが大変だ~」
「『姉ちゃん』は教えてあげる気はないんだ……」
「私~、教えるの苦手だから~」
普段勉強を教えようとしてくるのに何言ってんだか。
「のんびりしてて気持ちいいね~」
「うん。風が気持ちいい」
「ちょうど建物の陰になってるしね~。西日が直接当たったらサングラス必須~」
「『姉ちゃん』はそういう恰好も似合いそうだけどね」
グラビアアイドルみたいな体つきだし。
ていうか、さっきから秋ねえが動くたびに胸がすごいことになってる。
まさかとは思うけど、そのTシャツの下、何も着けてないってことはないよな!?
「明日には帰らなきゃだね~」
「冬華姉さんは仕事あるからね」
俺ら学生組は絶賛夏休みだけど。
「私たちだけ残っちゃう~?」
「そしたら帰りの足がなくなるよ」
行き帰りは冬華姉さんが運転する車だし。
「その時は~、タクシー呼ぼ~」
「冗談でしょ? いくらかかると思ってるのさ」
「大丈夫~。私に任せておきなさ~い」
そうやって胸を打つのやめない?
ぽよんと跳ねましたけど!?
「……ぶっちゃけさ、『姉ちゃん』ってどれぐらいお金持ってるの?」
「う~ん? 聞きたい~?」
「そりゃ、まあ」
金を使うことに、それだけ遠慮がなければ誰だって気になるって!
「う~ん。……ちゅ~」
「って、何!? いきなり!?」
なんで唐突にキスを求めてきた!?
「ほら~、情報には見返りが必要でしょ~?」
「どこの悪徳情報屋だよ!!」
そこまでしてまで知りたくないからね!?
「う~ん、この作戦はダメか~」
「何さ、“作戦”って……」
秋ねえ、昨夜は映画でも見てたの?
「はる君を~、私の虜にする作戦だよ~」
「そんな晴れやかな笑顔で言わないでくれない!?」
しかも本人を前にして!
「だって~、はる君とふたりで旅行に行きたいし~」
何でもないよう告げられる言葉に、思わず口を噤んでしまう。
「ドキッとした~?」
「そう見える?」
「顔は赤いよ~」
「夕日が反射してるからね」
それを言ったら秋ねえの顔だって赤いじゃないか。
「はる君はさ、もう選ぶつもりなの~?」
「“もう”ってどういう意味?」
「む~。わかってて聞いてるでしょ~?」
「あはは。ばれた?」
さすがにそこまで鈍くはない。
「私はさ~、はる君がそうしたいって言うならいいと思うよ~」
「含み、あるね」
「そう思う~?」
「だって、こっちに背中向けてるし」
そっぽ向かれてそんなこと言われたら、誰だって勘繰るだろうに。
「はる君のば~か」
「なんで!?」
いきなりそれはひどくない!?
「女の子がこういう態度に出る時は~、見て見ぬ振りするもんでしょ~?」
「や、さすがにそこまではわからないし」
乙女心ってなんなんでしょうね?
「私はさ~、もうちょっとこのゆる~い関係を続けててもいいと思うよ~」
「家族四人で仲良くって?」
「そこまでは言わないけど~」
「まあ、それもわかるけどね」
心地いいし、今の義姉さんたちとの関係は。
「それに~、楽でしょ~?」
「……そりゃあ、ね」
言っちゃえば、勝手に好意を向けてきてるわけだし。
それに対してこっちが何かを返さなきゃいけない関係でもないし。
「安全だよね~、義弟と義姉の関係って~」
「居心地いいよね」
そう。ちょうど今の秋ねえとの間に流れる空気のように。
「ぬるま湯で~、ストレスなくて~、お互いがお互いを大事に思ってる“だけ”~」
「心地よくて、安心出来て、ほっとする」
「はる君は尚更だよね~。だって~、私たちは絶対に何があっても~、はる君が一番だもん~。とーちゃんもなっちゃんも、絶対にそうだし~」
沈黙。
そこに疑問は挟めない。いや、挟みたくない。
「この間デートしたでしょ~?」
「うん」
「どう思った~?」
逡巡。答えるべきか否か。
「あれだけじゃないなって思った」
でも、答える。
「『姉ちゃん』だけじゃないよ。冬華姉さんも夏希姉ちゃんも。きっと話してくれただけじゃないなって、そう思った」
だって、俺が過去に三人と会っているのは確かかもしれなくても、それはほんのすれ違いのようなものだから。
「どうだろうね~?」
「さあ? 俺にはわからないや」
だけど、ぼかす。
そこを明確にしたら、きっと変わらなきゃいけないから。
「でも~、はる君が選ぶなら~、いいよ~って思うな~」
「秋ねえじゃなくても?」
「それは嫌~」
「あはは。そこは正直だ」
「そりゃそうだよ~。だって~、はる君のこと好きだもん~」
その言葉も、そっぽを向いたまま。
「だから~、はる君が私を選んでくれたら~、……嬉しいな~」
その微かな呟きに応えるのは、夕日に崩れる波の音だけだった。
39話は明日7日の19時です。
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