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義姉たちが全員重度のブラコンだった。  作者: 個味キノ/藤宮カズキ
共通ルート 第一部
36/51

義姉さんたちとの家族旅行。二日目! ~朝は夏希姉ちゃんと~

36話投稿です

 


「うっわ、ひでぇ」

 目を覚ますと、昨夜のゲーム大会が盛り上げりすぎた代償が目の前に広がっていた。


「ぅん……」

「す~、く~」

「……これは、見なかったことにしよう」

 冬華姉さんも秋ねえも、雑魚寝するにするにしても、もうちょっと年頃の女性らしさがあってもいい気がする……。


「あ、春斗。起きたの?」

「夏希姉ちゃん」

「呼び方ー。二人とも寝てるし、今は私と春斗のふたりっきりだよ」

「寝起きぐらい勘弁してよ、『姉ちゃん』」

 さすがは夏希姉ちゃん。

 ふたりと違ってしゃっきりと目覚めている。


「って、どこか行くの?」

 服もちゃんと着替えている。このワンピース姿はきっと、全校男子がイメージする“志木夏希”の姿なんだろうな。


「早起きしちゃったから、ちょっと散歩でもしてこようかなって思って。春斗も来る?」

「行く。着替えてくるからちょっと待ってて」

「うん。わかった」

 二階に上がり、部屋へと入る。

 ていうか、昨日部屋決めでひと悶着あったのに、結局ここで寝なかったな。



「お待た──」

 せ、という言葉が途中で途切れる。

 なぜって?

 目の前の光景に目を奪われてしまったから。



 朝日を浴びてきらめく海を見つめる夏希姉ちゃん。

 夏らしいワンピースに、どこか遠くを見つめる眼差し。強い日差しによって描かれるコントラストが、夏希姉ちゃんの存在感をより一層際立たせる。

 一枚の絵画のような情景が、そこにはあった。



「春斗? 降りてきてたらな声かけてよ」

「あはは。ごめん、ちょっとボーっとしてた」

「? まあ、いいや。行こっか!」

「そうだね」

 見惚れてたってのは、秘密にしとこう。


「ふたりは大丈夫かな?」

「子どもじゃないし、平気だよ! ほらほら、早く!」

 サンダルをつっかける夏希姉ちゃんを追いかけ外に出る。

 その瞬間、夏が俺を出迎えた。


「夏だねー」

「うん。夏だ」


 蝉時雨に陽炎が揺らめくアスファルト。木々が濃い影を落とし、粘り気のある空気に負けたように草花が頭を垂れる。薄ぼんやりとした青空の中、白い雲だけがくっきり象られている。

 紛れもなく、夏だ。


「でも、風が気持ちいい」

「海っぺりでよかったよね。親父にも感謝しなきゃ」

「ね。ふふ」

「どうしたの?」

「ううん。冬華姉さんと秋奈姉さんだったら、こんな会話しないだろうなって思って。多分、ふたりとも踵を返して、コテージに戻ってるんじゃないかな。『クーラーがないと死んじゃうー』とか言いながら」

 ああ、確かに。その光景は目に浮かぶようにイメージ出来る。


「確かに暑いけど、私は好きだな。夏」

「名前にも入ってるし?」

「うん!」

 どこを目指すわけでもない。ただ延びる道を歩いていく。


「お、こっから上に登れる」

「ホントだ」

 ひび割れた階段を昇れば、そこは堤防の上。

 道路沿いを伝うそこから見る海は、生ぬるい風と共に潮の匂いを運んできてくれる。


「気持ちいいねー!」

「うん」

 前を歩く夏希姉ちゃんの髪が揺らめく。

 その後ろ姿は、なんだか眩しい。


「春斗、どうするつもりなの?」

「どうって、何が?」

「誰と一緒に旅行に行くか。──決めてるの?」

「全然」

「そっか」

 背中越しにかけられた言葉。

 夏希姉ちゃんがどんな表情をしているのか、俺にはわからない。


「私はさ、春斗が自分で決めたんなら、それでいいと思うよ」

「『姉ちゃん』が相手じゃなくても?」

「そりゃ、一緒に行きたいに決まってるじゃん! でも、だからって無理矢理するつもりはないよ。もちろんチャンスは逃さないけど」

 夏希姉ちゃんはゆっくりと歩く。蹴り出すように一歩一歩を踏みしめながら。


「でもね、私が本当に嬉しいのは、春斗に選んでもらったっていう事実。なんとなくそうなったって言う曖昧なものじゃなくて、春斗が私と一緒にいたいって思って選んでくれたなら、それが一番嬉しいな」

「わかった。ちゃんと決める」

「よろしくね。そのために、あんなルールにしたって、私は信じてるから」

 ……なんでバレたんだろう。


「今、『なんでバレたんだ』ってそう思ってる?」

「図星だって事に気づかれてるのにも、戸惑ってる」

「普通バレるよ、あんなの。『姉ちゃん』って一番呼ばれるかどうか、なんて。そんなの春斗の気持ち次第でいくらでも変えられるし」

 はい。まさしくその通り。

 これがゲームなら、ひどい欠陥だろう。


「多分、冬華姉さんと秋奈姉さんも気づいてるよ」

「それでも義姉さんたちは強引に来ないんだね」

 縛り上げられて無理矢理に呼ばせようとしてくる、ぐらいは覚悟してたのに。

 ……いや、さすがにそれは言い過ぎか。


「きっと二人も私と同じなんじゃないかな。『春斗に選ばれたい』。それだけだと思うよ」

「責任重大だ」

「そうだよー。女の子の気持ちに応える以上に、女の子の気持ちを斬り捨てなきゃいけないんだから」

「プレッシャーを強くするのやめない?」

「それぐらい跳ねのけてよ」

「そんなに簡単なわけないじゃん。義姉さんたちとのことなんだから」

「──ッ。ふふ。あはは!」

 どうしたんだ、突然笑い出して。


「うふふ。ありがと、春斗。私たち姉妹のことを大切に思ってくれて!」

「……お礼を言われるようなことじゃないし」

「いいの! 私が嬉しかったんだから!」

 表情が見えなくてもわかる。今の夏希姉ちゃんは、きっと笑ってる。


「あーあ、なんか満足しちゃった。本当ならこのまま春斗を連れてどっか行こうと思ってたのに!」

「そんなこと考えてたの?」

「そりゃそうだよー。せっかく二人になれるチャンスだもん! でも、春斗がそういう考えならしょうがない。帰ろっか!」

 そうしてくるりと振り向いた夏希姉ちゃんは、やっぱり想像通りに笑顔を浮かべていた。



 ▼



 そして、オチ。

「まだ寝てるとは思わなかった」

「秋ねえはともかく、冬華姉さんまで」


 けれど、そんな二人の姿すら微笑ましく、俺たちは互いに笑みを交わした。



37話までは毎日21時投稿です

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