義姉さんたちとの家族旅行。初日! ~まだまだ今日は続きます~
34話投稿です!
「さすがに疲れましたね」
「一歩も動きたくない~」
「もう、姉さんたちはしょうがないなぁ。春斗。お昼の用意手伝って!」
「了解。冬華姉さんも秋ねえも、水分補給はちゃんとしといてよ」
せっかくの旅行なのに、脱水症状でダウンとかシャレにならない。
「楽しいとあっという間だね!」
「なんだかんだぶっ続けで3時間近くも遊んでたってのが信じられない」
我ながらよく体力が持ったもんだ。
義姉さんたちがあれだけ絡んでくるのに、ずっと付き合ってたんだから。
「お昼、どうしようか。今の時間だと軽くでいいよね?」
「もう14時半だしね。今食べると、夕飯が食べられなくなりそう」
「そんなもったいないのダメ! 夜は浜辺でバーベキューなんだから。お肉も買ってあるんだよ!」
「わかってるって。そしたらサンドイッチとかでいいか」
「うん! そうしよう」
さすがにホテルじゃないから、勝手に料理が出てくることはない。
でも、こうして普段とは違う雰囲気でする料理ってのも新鮮でいい。
「夏希姉ちゃ──!?」
「春斗。今は、ふたりきり、だよ?」
「わかったよ。『姉ちゃん』」
「うん! なに、春斗?」
「いや、具材どうしようかって、相談」
「簡単でいいんじゃない? とりあえず野菜とハムはあるし、卵ゆでる?」
「この恰好で火を使うのって危なくない?」
二人揃って水着姿だし。
「エプロンつければ大丈夫!」
「……うわ」
エロ。
なにこれ。水着エプロンってこんな感じなの?
……ぶっちゃけ、裸エプロンにしか見えない。
「ほらほら、春斗。ボーっとしてないで」
「あ、ああ。そうだな」
その恰好の夏希姉ちゃんを前にして、それは無理な相談だと思うんだ……。
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「はる君~、私もバーベキューの準備、手伝うよ~」
「え、秋ねえが!?」
「む~。私だってやる時はやるんだよ~。それと呼び方~」
「あ、ああ。ごめん、『姉ちゃん』」
秋ねえが浜に降りてきたってことは、食材の準備は夏希姉ちゃんと冬華姉さんか……。
大丈夫かな、冬華姉さんで。
「とーかちゃんなら、頑張ってたよ~」
「なんで考えてたことがわかったのさ」
「ん~? 姉ちゃんの勘だよ~。はる君、これどうするの~?」
「あ、着火剤はそのままで大丈夫。袋開けないで」
しっかし暑いな。
もう17時回ってるってのに、全然日が落ちない。
「きれいだね~」
「うん。すごい夕焼け」
生憎と夕日は山の向こうだけれど、それでも橙色に染まった海は目に焼き付くほどだ。
「楽しかったね~、今日」
「秋ねえは結局後半はずっとダウンしてたけどね」
「だって~、疲れたんだもん~」
「しんどいなら、まだ休んでていいんだよ」
「それは嫌~。だって~、せっかくはる君とふたりきりになるチャンスだし~」
しれっと言われると、それはそれで身構えてしまうから勘弁して欲しい。
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ~」
「って言いつつ抱きつくのやめてってば!!」
今、水着だから!
肌と肌が触れ合うから!!
「え~、いいでしょ~?」
「これから火を起こすから! こんなくっついてたら危ないだろ!?」
「いじわる~」
こっちはこっちで色々と事情がありますんで!
水着なのに勃ったら、それはそれでマズいだろ!?
「春斗ー! 準備出来たー?」
「今、火を起こすとこ!!」
夏希姉ちゃん、ナイスタイミング!!
「ちぇ~、せっかくふたりきりだったのにな~」
「旅行はまだ続くんだし、今は家族の時間を楽しもうよ」
明日も明後日も、俺たちはここで過ごすのだ。
ふたりきりになる瞬間なんていくらだってあるだろうに。
「お待たせー!」
「ちょうどいいタイミングだよ。って、冬華姉さんは何でそんなに凹んでるの?」
「……春斗君。どうやら私は料理が出来ないみたいです」
なるほど。
「……なんかあったの?」
こっそり夏希姉ちゃんに聞いてみる。
「うーん。なんて言うか、……大変だった」
「そっか」
その表情から深くは聞かないことにした。
人間、得手不得手はあるものだ。誰だって料理が出来るわけじゃない。
「さて、と。じゃあ、焼こうか」
喋っている内にも手を動かしていたら、きちんと火が炭に燃え移ってくれている。
バーベキューは火の準備が一番大変だと思う。
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「春斗君~。今度、私にも料理を教えてください~」
「わかった! わかったから離れて冬華姉さん! 今、トング持ってて危ないから!」
「冬華姉さん。ちょっとはお水とかも飲んでね」
「いやですよー。久しぶりにお酒飲んでるんですよ。もったいないじゃないですか~」
冬華姉さんって飲むとこんな感じなんだ。初めて知った。
「とーかちゃん、家だと飲まないからね~」
「なんでなの?」
「年上の威厳がなくなるからって言ってたよ~」
「普段はあると思ってるの? それ」
「ありますよー。春斗君は私をなんだと思ってるんですかー。先生ですよー」
その姿に、そう思える要素はゼロだけどね!?
「違うよ春斗。冬華姉さんは春斗に酔ってる姿を見せたくないから飲まないんだよ。前にそう言ってたもん」
「あー、夏希! それは秘密にしてくださいって言ったじゃないですかー!?」
「もう飲んじゃってるし、今更でしょ~」
「秋奈まで!? 春斗君、ふたりがお姉ちゃんをいじめます!!」
「はいはい。それじゃあ、焼き立てのカルビをあげるから」
「うわーん! 義弟にもあしらわれましたー!」
「あー、春斗が冬華姉さんを泣かしたー!」
「人聞き悪い事を言わないでくれないかな、夏希姉ちゃん!?」
「なっちゃんひどい~」
「秋奈姉さんは誰の味方なの!?」
「もちろん、はる君だよ~」
って、だからその恰好で抱きつかないでって言ったよね!?
「お腹いっぱいになってきたね!」
「結構、焼いたからなー」
「ひどいです。みんなしてお姉ちゃんをいじめるなんて」
まだいじけてるし。
「冬華姉さん。片付け終わって風呂入ったら、ゲームしよう」
「本当ですか!? さすが春斗君です!」
立ち直りはえー。チョロすぎない?
「とーかちゃんだけずるい~。はる君、私は~?」
「秋ねえは昼間に散々相手したでしょ!?」
暑いって言うからひたすら団扇で仰いでたのを忘れたとは言わせない。
「ほらもー! 早く片付けちゃうよ」
「は~い。なっちゃん、お母さんみたい~」
「うう、夏希の方がしっかりしてます……。お姉ちゃんの威厳が」
「っとに。秋ねえ、冬華姉さんを連れて先に戻っててもらってもいい?」
「わかった~。ほら。行くよ、とーかちゃん」
大丈夫か、冬華姉さん。
ビールの缶を片手にフラフラしてるけど。
「結局、片づけは二人ですることになっちゃったね!」
「多分こうなるだろうなって、気はしてた」
何しろ冬華姉さんはこういうことに関してはポンコツで、秋ねえは多分やりたがらないし。
「へー、春斗は私と二人っきりになれるって、そう思ってたんだ~?」
「『姉ちゃん』、からかってるでしょ?」
「どう受け取るかは、春斗次第だよ」
とか余裕そうにしてるけど、重ねてきた手が震えてるよ、夏希姉ちゃん。
「冴川さんの入れ知恵?」
「な!? なにを言ってるのか、ちょっとわからないかなー?」
「そこで目を逸らしたら、図星って言ってるようなものじゃん」
「そ、そんなことないから! 私だってお姉ちゃんなんだよ? これぐらい余裕だし!」
顔真っ赤にして言うセリフじゃないよなー。
「ねえ、春斗。ダメ、かな……?」
「いや、それは……」
あ、あれ。夏希姉ちゃん、そういう感じ?
夜の海岸で二人きりってシチュエーションに後押しされちゃってる?
「……春斗」
「っ」
まずい。この流れは、まずい。でも──。
「ん……」
「あ、青のり」
「え?」
「あ、や。ごめん。『姉ちゃん』の口元に青のりが……」
さっき食べてた焼きそばのやつだろうなー。
「あ、あ……」
「あー。なんて言うか、ごめん」
今、顔を真っ赤にしてるのは羞恥心だろうなー。
「ああああ、もーっ。いやああああっ」
静かな海岸に響く叫び声。
砂利に足を取られながら走り去る背中。
そして取り残される俺と、片付け途中のバーベキューセット。
「……さて、片づけますか」
ま、これも夏の思い出ってことで。
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