ゲーム同好会の活動日誌。そのいち。
お待たせいたしました…!
今回は冬華回です。
カキーン、と乾いた金属音が遠くから聞こえる。
「運動部が頑張ってるのに、自分だけこんなにダラダラしてていいのかなぁって、そう思わないかしら?」
「そういうリアルな発言はいらないですから。ほら、冴川さんの番ですよ」
「パーティーゲームって気楽でいいわよねぇ。好きよ、こういうの」
なんて言いつつ振られたサイコロは中々にいい数字だった。
冴川さんの操作するキャラクターが画面の中をぴょこぴょこと動く。
「でも、冴川さんが本気でゲーム同好会の活動に参加するとは思いませんでした」
「あらそう? でも、こうやってダラダラ過ごす時間も、私は気に入ってるわよ?」
「生徒会、忙しそうですもんね」
夏希姉ちゃんもいつもバタバタしてるし。
「だからこそ、こういう息抜きが必要なのよ。週末にデートしたりね」
……ん?
「随分、楽しそうにしてたわよねぇ。春斗君も、もちろんなっちゃんも」
「……見てたんすか?」
「あら、偶然よ。あのショッピングモール、私もたまに行くの」
いや、そうなんだろけど。
冴川さんの場合、それだけじゃなさそうなところが怖い。
「それより、春斗君の番。ふふ、それとももうゲームには飽きちゃったかしら?」
「そう言いながら密着してくる意味がわからないんですが……」
「ゲームとは別の放課後の過ごし方、興味ないかしら?」
「あるって答えたら、どうなるんですか……?」
「試してみる?」
いえ、結構です。
「!?」
「あら?」
準備室のドアが開く音に飛び上がる俺がいる一方、余裕そうな冴川さん。
一度でいいからこの人が驚く様を見てみたい。
「ふぅ。お待たせしました。全く、突然用事を思い出すなんて、教頭先生にも困ったものです。どうしました? お二人とも、こっちを見て」
「いや、冬華姉さんも毎回いいタイミングで来るなーって思って」
あるいは冬華姉さんこそが救いなのか。
冴川さんに流されたらとんでもないことになりそうだし。
「そんなことより何のゲームで──って、もう始めてるのですね。今日はパーティーゲームですか。いいですよね、色んなミニゲームで楽しめて」
「冬華姉さんも来たし、初めからやり直しましょうか?」
「どうしようかしらね?」
って言いつつ、さらに体を密着させてくる冴川さん。
なぜ。
「いえ、そのまま続けてくれていいですよ。私、人のプレイを見るのも好きなので」
冬華姉さんが俺を挟んで冴川さんとは反対側に座る。
「先生もこう言っているし、続けましょうか?」
「そうですね」
そしてそう言うなら、もうちょっと離れてくれません?
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「ああ、春斗。ダメです! そのままだと落ちちゃいます! ああ!!」
そう言うなら組んだ腕を解いてくれない!?
「ふふ、どうしたのかしら。春斗君の腕前はそんなもの?」
あんたは確信犯だろ!?
くっそ。こちとら毎日秋ねえに抱き着かれてるんだ。腕に胸が当たってたって気になんかしないからな!?
「!? 春斗君、これはラッキーですよ!!」
ああ、うん。
確かにそうだけど、アイテムを手に入れるたびに抱き着いてくるのはやめようか。ほら、画面見づらいし。ね?
「へぇ」
「!?」
いや、なんで今無駄に足を絡めてきたんですか!?
画面外での悪質な妨害は訴えますよ!?
とまあ、そんなこんなで。
冬華姉さんは事ある度に抱き着いてくるし、冴川さんも無駄にくっついてきたりするしで、正直、ゲームに集中するどころじゃありませんでしたとさ。
『ゲームで盛り上がる』ってもっと違う感じだと思ってたんだけどなぁ。
▼
「いやぁ、盛り上がりましたね。次は私も参戦しますよ!」
なんて腕まくりをする冬華姉さん。
白い肌が目に眩しい。
「先生。それなんですが、私はこれから生徒会の用事があるので、失礼します」
反対にコントローラーを置く冴川さん。
これまで感じていた彼女の温もりが離れていく。
……いや、残念とかないからね!?
「そうですか。残念ですが仕方ないですね。冴川さん、次は一緒にやりましょう」
「はい。春斗君も、また今度遊びましょうねぇ」
言いつつ、冴川さんは準備室を後にする。
ゲームでは買ったけど、別のところで負けたと感じるのは、気のせいだろうか?
「さてと」
冬華姉さん。なんでわざわざ部屋の鍵をかけるのさ。
「さあ、春斗君。ゲームを始める前に、まずは『姉ちゃん』と呼んでください!」
……めっちゃウキウキした顔してんね!?
「夏希に差をつけられてばかりもいられませんからね。さあ、春斗君!」
「……『姉ちゃん』」
「えへへ~。なんでしょう、春斗君」
頬、緩み過ぎじゃね!?
他の生徒に見せられない顔してるけど大丈夫!?
「ていうか、なんでそんなにくっつくの?」
今、離れたばかりじゃん。
「ダメですか?」
……そうやって甘えた声出すのは反則だと思います。
「これだけくっついてたらゲームしにくくない?」
今更? ってツッコミは無しの方向で。
「別にゲームをしなくてもいいと思いますよ」
「この同好会の意義がなくなるけどいいの?」
作った張本人が存在意義を揺るがさないでくれません!?
「もちろんゲームは好きですが、私は春斗君と二人きりになりたくてこの同好会を作ったんですよ?」
「職権乱用もほどほどにしないと怒られるよ」
「その時は春斗君に慰めて貰うから大丈夫です!」
そもそも怒られないようにしようって考えはないんですかねぇ!?
「何かをしようとしなくていいんです。私は春斗君と一緒にいられるだけで幸せなんですから」
「大げさすぎるでしょ、それは」
「好きな人と同じ時間を過ごせる女の子は、みんなそう言うと思いますよ? あなたがいてくれる。それがどれほど嬉しいか」
言いつつ冬華姉さんは、こちらにもたれかかってくる。
いい匂いがして、ちょっとドキドキする。
ていうか、なんか雰囲気が違くない?
「この間、夏希から話を聞いたと言っていましたが、それはどんな話でしたか?」
「どんなって。昔の話だよ。俺のおふくろが死んだばかりの頃の話」
まさか義姉さんたちも昔はこの街に住んでたなんて思わなかったけど。
「あれ。もしかして、俺って冬華姉さんとも前に会ったことがあるの?」
「ええ、そうですよ」
マジか。
夏希姉ちゃんがそうだったから、もしかしてって思ったけど。
「ただ、今その話をするのは嫌です」
「え、なんで?」
俺はめっちゃ聞きたいんだけど。
「夏希だけデートをして、なんて言うのはズルいと思います」
あー、そういう。
「つまり、私ともデートをしろと?」
「はい!」
うっわ、めっちゃいい笑顔。
「次の週末。どっか行こうか」
「はい。実は春斗君と行きたいところがあるんです」
ってな感じで、冬華姉さんとデートをすることになりましたとさ。
GW中に複数エピソードアップできる予定です