体育祭が終わったようです。そして──
遅れてすみません…! 23話投稿です。
ここから義姉たちの思い出の場所について話が進んでいきます。
「春斗」
「優美。……教室に用事か? まだ男子が着替えてるぞ」
教室前の廊下にまで騒ぐ声が聞こえてくる。
体育祭が終わったばかりだってのに、元気なことだ。
「春斗を待ってたの」
「そうか」
「うん」
「……とりあえず行こうぜ」
ここじゃあ、いつ教室から男子が出てくるかわかったもんじゃないしな。
「いやー、しっかし盛り上がったな。体育祭があんなになるなんて思ってなかったわ。午後の競技もなんかひたすら慌ただしかったし」
まあ、大体がうちの義姉さんたちのせいなんだけど。
なんでああまで俺を巻き込みたがるのやら。
「春斗、大変じゃないの? お義姉さんたちと一緒にいるの。今日も色々走り回ってたじゃん」
「大変っちゃ大変だな。あんだけ色々あれば」
いやもう本当に疲れた。
秋ねえがグラウンドに出てきた時はどうしようかと思ったし。
「すごかったもんね。三人とも」
「お恥ずかしい限りです」
俺の競技が終われば、やれ水分補給だやれケガはしてないかだの、構ってきたからなぁ。
少しはおとなしく出来ないんですかね!? うちの義姉たちは!!
「とは言え、楽しかったりもするから。義姉さんたちといるの」
「そっか。あーあ、負けちゃったー!」
「なんだよ、いきなり声上げて」
びっくりしただろうが。
「ねえ、春斗。私、学年対抗リレーで夏希先輩と勝負してたんだ」
「あのお遊び競技で?」
うちの体育祭は縦割りが基本だが、エキシビジョン的な競技で部活対抗や学年対抗の種目もある。
優美が言ってるのはそれだ。
「そう。私も夏希先輩も同じ組で走るから。だったら勝負しましょうって言ったの」
「だからあんなに本気だったのか」
ふたりだけなんか空気が違ったしな。
「ねえねえ、どんな勝負したと思う?」
「ジュースおごるとか?」
「外れだよー」
「宿題やるとか?」
「私と夏希先輩は学年違うってばぁ」
「うん。知ってる」
「もー、考える気ないでしょ」
バレたか。
「何だったんだよ、勝負の内容って」
「知りたいー?」
いや、優美から振ってきた話題じゃん。
「何だったんだ?」
一足先に階段を降り切った優美は夕焼けの中、振り返る。
「勝った方が春斗をデートするって。そういう勝負」
「はあ?」
「多分、この後夏希先輩から誘われるから。そういうことだから」
「いや、そういうことって言われても……」
なんで俺の周りの女子は俺を景品にしたがるわけ?
もうちょっと俺の意志を尊重してくれてもよくないですか!?
「じゃあ春斗。また来週」
そして優美は一足先に上履きを履き替える。
「あ、おい。優美!」
「ばいばい」
何だか切なげな笑みを残して、優美は夕焼けの中、立ち去る。
そのシルエットとすれ違うように、校門ではひとりの女生徒が誰かを待つように佇んでいた。
「あ、春斗!」
「……夏希姉ちゃん」
「もー、遅いよ!」
「待ってたなら連絡くれればいいのに」
うちの義姉たちは、たまにスマホを使いたがらない。
「えー、やだよー。春斗をこうやって待ってるのが楽しいんだもん!」
「何それ」
笑顔の夏希姉ちゃんは本当に楽しそうだ。
「帰ろ」
「ああ」
そして、俺たちも帰路に着く。
優美の姿はもうどこにも見当たらない。
「楽しかったねー!」
「あんなに盛り上がるとは思わなかったけどね」
「いいよね。体育祭って年に一回のイベントだし!」
「来年もあれがあるのか」
覚悟しないとな。
たった一日の出来事なのに、えらい疲れた。
「秋ねえは先に帰ってるってさ。冬華姉さんは?」
「まだやることあるって言ってたよ!」
「やっぱり先生って大変なんだ」
「ねー」
帰り道をゆるゆると夕風が吹き抜ける。
「ねえ、春斗。私、リレーで勝負してたんだ。優美ちゃんと」
「聞いた。いつの間に俺を景品にしたのさ」
「あはは。ごめん。でも、私勝ったよ?」
知ってる。なんか最後めっちゃデッドヒートだったし、よく覚えてる。
「だからデートしようって?」
「うん。ダメ?」
ダメ、とは言えないよな。
こんな顔されたら。
「いいよ。いつにする?」
「やった! じゃあさ、じゃあさ、明日でもいい?」
「いいけど、休まなくて平気?」
あれだけ必死になったら、疲れも相当だと思うけど。
「大丈夫! 私、こう見えて体力はあるんだから!」
「わかった」
「へへへ~」
「っと。いきなりどうしたの?」
「ううん。春斗とこうやって一緒に帰るのも久しぶりだなーって思ったら、腕組みたくなっちゃった。ダメ?」
そうやって上目遣いで甘えてくるのは反則だ。
夏希姉ちゃんは、もうちょっと自分のかわいさを自覚した方がいい。
「いいよ、別に」
「やった」
昼間の一生懸命な姿を見たせいか、いつもより夏希姉ちゃんが可愛く見える。
「明日はどこ行こっかなー。春斗はどっか行きたいところある?」
「そうだなー。『姉ちゃん』──って、どうしたの?」
「えへへ。春斗がちゃんと『姉ちゃん』って呼んでくれて、嬉しいだけだよ!」
くそ。なんか照れくさい。
「まあ、約束だし」
「うんうん。そうだよね、約束を守るのは大事だよね!」
全く。
この程度でそんなに嬉しそうにしなくてもいいのに。
相変わらずだな。
「あ、そうだ! ねえ春斗。私行きたいとこがあるんだ!」
「行きたいとこ?」
「うん! 昔の、私と春斗の、思い出の場所」
「それって……」
「春斗、知りたがってたよね」
そうだ。
冬華姉さんがいきなりこんなことをやり始めた時に話してたこと。
俺と義姉さんたちの、思い出。
「教えてくれるの?」
「……さすがに黙り続けてるのもねって、冬華姉さんと秋奈姉さんとも話したし。ちょうどいい機会だからね。まずは私から!」
夏希姉ちゃんの満面の笑みが眩しい。
「楽しみだね、明日!」
「うん。そうだね」
緩やかなやりとりを交わしつつ、俺たちは家路を行く。
24話は3日(水)の20時投稿です。
まずは夏希ですね。