秋ねえはクラスに燃料投下していきました。
21話投稿です!
「も~、はる君遅いよ~。何してたの~?」
「それはこっちのセリフだよね!? 秋ねえこそ、うちの応援席で何してんの!?」
父兄観覧席に案内したよね!?
「ん~? 応援? でも~、今やってるの、はる君の競技じゃないしな~。何してるんだろ~?」
いや、こっちが聞きたいんですけどね!?
「春斗」
「よう佑樹。暑苦しいから肩なんて組まないでくれるか?」
「俺とお前の仲だろ、気にすんなよ。それよりもな、わかるだろ俺の言いたいこと」
「いやー、俺とお前の仲でもさすがにテレパシーで繋がってるわけじゃないからなー」
ていうか、痛いんだけど。
なんでさりげなく関節極めてんだよ。
体育祭で場外乱闘するほどヤンチャじゃないぞ。
「俺はお前と親友だと思ってたんだよ。もう付き合いも長いしな」
「実際は中三の時に同じクラスになって以来の仲だけどな」
「過ごした時間よりも重要なのは、どれだけ相手を信頼してるかだと思うんだよ。なあ、春斗」
わかった。わかったから手を放せ。なんかギシギシ軋む音がしてるから。
「さて、そこで俺は春斗に聞きたい。お前、なんでこんな大事なことを俺に黙ってた?」
「……“大事なこと”とは?」
いや、わかってる。
わかってるよ、それが秋ねえのことを指してるってことぐらいは。
でもほら、万が一ってこともあるじゃん?
「お前にもうひとり美人の義姉がいたってことだよおおおおおおおおおお!!!!!!」
絶叫。そして呼応するクラス男子達の雄たけび。
お前ら聞いてたのかよ!?
もっと競技に興味持てよ! ほら、先輩方が頑張ってんじゃん!!
「おかしいとは思ってたさ、俺たちも!! “春斗”、“夏希”と来ての“冬華”だからな!! “秋”の正体について5時間以上にも及ぶ議論もしたさ!!」
さすがにそれは暇過ぎると思う。お前らの青春、そんなんでいいのか……?
「しかし俺たちもバカじゃない。“秋”が抜けていることについては、何か事情があるのかもしれない。もしかしたらそこには深い悲しみがあるのかもしれない。そんな風に考え、あえてツッコむような無粋な真似はしないと誓ったんだ!!」
お、おう……。そうか。
「そんな俺たちの気持ちを、お前は何だと思ってるんだああああああああああ!!!! 3人目の義姉だと!? しかもご多分に漏れず美人で、し、しししかも!! おっぱいが!!!! おっぱいが、こうドーンッて!!!!」
「一気にバカっぽくなったな」
「うるせえええええ!!! だぁれが、童貞じゃああああああああ!!!!!!」
「知らないし、いい加減ウザい」
「ぬお!?」
妙な声を上げながら、佑樹はひと時重力から解放される。
そして、落下。
「痛てぇッ!?」
「お~、はる君いつの間にそんな投げ技を覚えたの~?」
「秋ねえに投げ飛ばされる度にかな」
人間、何かを覚えようと思ったら体感するのが一番手っ取り早いと思う。
「あはは~。でも~私はベッドにしか投げないから大丈夫だよ~」
「そういう問題じゃないから!」
まずは人を投げ飛ばすなって話じゃない!?
「ベ、ベベ、ベッド!?」
「今度は優美か……」
さて、今日は後何回、頭痛に悩まされることになるのやら。
「ベッドって! ベッドって言ったよ!?」
「はる君のベッドだよ~」
「秋ねえは口を挟まなくていいから!」
ややこしいことになるってなんでわからないの!?
「は、春斗のベッド……ッ!?」
さーて、どうやってこの場を切り抜けようかなぁ。
「あのな、優美。落ち着いて聞いて欲しいんだが──」
「わ、私は春斗と一緒にお風呂に入ったことあるもん!!」
…………。
何をカミングアウトしてんの!? バカじゃねぇのッ!?
「お前ら、ちょっと黙れ!!」
血涙流しながら哀訴に泣くな男子!!
黄色い歓声上げてんじゃねぇぞ女子!!
「ふ~ん? はる君と~、お風呂~?」
あ、なんかヤバい。
秋ねえが変な迫力纏いだした。
え、なにこれ。へ、変身でもするんです……?
「春斗が右腕から洗い始めることだって知ってるんだから!!」
「優美お前ホントに黙れ」
何ちゃっかり人のプライバシーぶっちゃけてんの!?
個人情報保護って概念、知ってます!?
義務教育受けてきました!?
「春斗に体を洗ってもらったことだってあるんだから!!」
「いやホント黙ろうか!?」
え、なにこれ。体育祭ってこんなに羞恥に塗れたものだった!?
「ていうか、お前は一体いつの話をしてんだよ!!」
「しょ、小学校の頃」
「だよね!? お互いまだ男女の意識もない頃だよね!?」
「わ、私はその頃から春斗を男の子だと思ってたよ……?」
それで俺はお前にどう反応すりゃいいんだよ!?
「は~る~君」
「今抱きついてくるのは、明らかに火に油だよね!?」
冬華姉さんと言い、バカスカ燃料投下するのが流行ってるの!?
「いつもベッドに潜り込んで~、ごめんね~」
「何で今このタイミングで謝ったの!?」
「お詫びに~、今日はお風呂で背中流してあげる~」
「それも今言う必要ないよね!?」
ヤバい。秋ねえが喋るほどに追い込まれていくのを感じる。
「春斗」
「佑樹……」
クソッ、余計なやつが立ち上がりやがった。
「なあ、今日お前ん家に泊まっていいか? そんでさ、一緒に風呂入ろうぜ。男同士の裸の付き合いってやつだ」
「真顔で何キモイこと言ってやがるッ。却下に決まってんだろうがッ!!」
「頼むよ春斗。後生だ。俺も、俺にもおっぱいを恵んでくれよぉ」
「泣くなよ!!」
やっすい男泣きだな、おい!!
「は、春斗……?」
「優美。これ以上何も喋るな。な?」
「こ、ここ今夜、うううちに、と、ととと、……泊まらない?」
きゃー!!じゃねえんだよ、女子!!
盛り上がるな喝采を叫ぶな歓声を上げるな! ハイタッチとかしてんじゃねえ!!
「てか、何このカオス……」
佑樹を筆頭に男子はむせび泣き、女子連中は優美を中心に輪になって踊っている。
どう見てもヤバい集団にしか見えない。
「う~ん。懐かしいね~」
「秋ねえ?」
こうなってくると背中に抱き着いたままの秋ねえで逆に落ち着く。
その時点でおかしいんだけど!
「私が通ってる時も~、こんな感じだったな~」
「……マジで?」
さっき夏希姉ちゃんに聞いた時も思ったけど、これが伝統ってうちの学校ヤバくね?
学食に変な薬でも混ぜられてんじゃないだろうな……?
「あ、春斗見っけ! って、秋奈姉さん?」
「なっちゃんだ~」
「夏希姉ちゃん。どうしたの?」
「そろそろお昼だから呼びに来たの! って、なんかすごいね春斗のクラス。みんな楽しそう!!」
この状況を楽しそうで済ませる夏希姉ちゃんの器のデカさがはかり知れない。
「ほら、春斗行くよ! 秋奈姉さんも自分で歩いて!」
「え~。私ははる君の背中がいい~」
「歩きにくいからちゃんと歩いて」
そう言いつつ歩く道すがら見た応援席は、どのクラスもうちと似たり寄ったりの盛り上がり方をしていた。
……ホントにこれが普通なんだ。今更ながら、ヤバい高校に進学してしまったんじゃないかと思う。
次回は今週末か週明けに!
そろそろ話が動いていくかも…?




