夏希姉ちゃんとラブコメのノルマを達成しました
20話投稿です!遅れてすみませんでした!
「春斗! こっち!!」
「夏希姉ちゃん!!」
ありがたい!
「とりあえず生徒会室に行こう。そこなら大丈夫だから」
「なんかごめん。すごい騒ぎになっちゃった」
「あはは。でも、こういうのも楽しくいいよね!」
その前向きっぷり、見習いたい。
「体育祭って毎年こんななの?」
「うん! 大体こんな感じ!!」
マジか。
大丈夫か、うちの高校……?
「イベントだからね! やっぱりみんなも楽しみたいんだよ!!」
「だからってさっきのはやり過ぎだったんじゃない?」
生徒会長をやってる夏希姉ちゃんに迷惑がかかってないといいけど……。
「こんなのまだ大人しい方だよー。本番は秋の文化祭だからね!」
「マジで……?」
これより盛り上がるの?
「春斗もそのうち慣れるって!!」
「あんまり歓迎したくないけどね」
「もー、そんなこと言ってー」
いやいや、そりゃそうでしょ!
あんな奇怪な盛り上がり方されたら、普通は引くって!!
「私も最初はびっくりしたけど、小百合に言われたんだ! せっかくなら楽しまないと損だって!! そう思って飛び込んだら案外いいものだよ?」
「飛び込むのにかなり勇気がいるけどね」
来年にはあれが普通になってるのだろうか。
いいんだか、悪いんだかわからないな。
「あ、ほら。もう次の競技が始まってるよ!!」
「嘘!?」
うわ、マジだ。
さっきまであんなに大騒ぎしてたのに、もう元に戻ってる。
対応力が高いというのか、飽きっぽいというのか……。
「冬華姉さんも秋奈姉さんも言ってたよ。『うちの高校に来れば、究極のモラトリアムが楽しめる』って!」
「あれをモラトリアムと言うのかは疑問過ぎない……?」
もっと別の何かだと思う。
「さて! せっかくふたりきりだし、練習しよっか!!」
「え、何の?」
「二人三脚!! 午後にあるでしょ? 私とペアで参加するやつ。縦割り競技のやつだよ!!」
「ああ、そう言えば。最初は混乱したよ。中学の頃は縦割りのチーム分けはあったけど、学年混合の競技なんてなかったから」
「せっかくなら春斗と一緒に楽しみたいからね!」
あれ、ていうか男女混合なんだっけ?
「今日ほど生徒会長をやっててよかったって思ったことはないよー。春斗と一緒に競技に参加できるようにするの、苦労したんだから!」
おい。今この義姉、なんかすごいこと言ったぞ。
「夏希姉ちゃん」
「む。呼び方」
「『姉ちゃん』」
「はい、なんでしょう?」
秋ねえと言い、毎回毎回このやりとりしなきゃダメ!?
「今の、どういうこと?」
「今のって?」
「苦労したって」
「ああ! 元々、この縦割り競技って男女別だったんだ。男子は綱引きで、女子は大玉転がし。でも、それだとせっかく春斗と一緒のチームなのに、競技が別々になっちゃうでしょ? それじゃあつまんないから、生徒会長特権を使いました!!」
「……マジで?」
「マジです!!」
そんな自信満々に言わないで!
冬華姉さんや秋ねえと比べて、夏希姉ちゃんは常識的な人だと思ってたのに!!
「さすがにやりすぎかなーって思ったんだけど、体育祭当日だとこういうテンションになっちゃうのわかってたし、だったらやらないよりやっちゃう方が後悔しないかなって! やっぱりやって正解だったよ!!」
「いやいや、おかしいってそれ!」
「大丈夫!! 全てはモラトリアムだから!!」
モラトリアムを便利に使い過ぎだ!!
「さ! そんなことより練習しよ!!」
「ここで?」
「ここで!!」
生徒会室ですが……。
「よし、準備出来たよ!」
「全ての行動が早すぎる……」
いつの間にハチマキを足首に巻いたのさ。
「えへへ、なんか照れるね」
ここまでしといていきなりそれ!?
「ほ、ほら。秋奈姉さんはよく春斗に抱き着いてるけど、私はその、そういうのはあんまりしないから……」
「そうでもないよ」
「え、そんなことないよ!?」
「そんなことあります」
よーく自分の行動を思い返してください。
人のベッドに潜り込んできたり何だり、結構ありますよ?
……まあ、秋ねえほどじゃないってのは、その通りだけど。
「春斗、顔赤いよ?」
「『姉ちゃん』こそ」
変な事言うから意識しちゃってるだろ!?
くそ。いつもの秋ねえの感触と違うやわらかさとか、甘い匂いとか、なんか無駄に緊張するんだけど!?
「じゃ、じゃあ一歩目ね。かけ声で動こう」
「了解」
心なしか、夏希姉ちゃんの声も強張っている。
「せーの、きゃあ!?」
「──ッ!?」
ええ、まあ。こうなる気はしてましたよ。
いわゆるお約束ってやつですね。
知ってました。
多分、ここからの展開も──。
「あたた……。春斗、大丈夫?」
「ああ、うん。『姉ちゃん』こそ、ケガは?」
「ケガはない、けど。えっと、その……、あはっ」
はい。夏希姉ちゃんは笑ってごまかそうとしてるけど、大方の予想通りですね。
俺が夏希姉ちゃんを押し倒した格好になり、なぜか夏希姉ちゃんの服がはだけて微妙に下着が見えているところまで含めて、いわゆる様式美ってやつですね。
「ごめん」
「う、ううん。大丈夫」
「すぐ立つから──っ」
予想通りだからって、冷静でいられると思うなよ!?
夏希姉ちゃんほどの美少女を押し倒して平静でいられるほど、人生経験豊富じゃないからな!?
生は違うんだよ、生は──ッ。
「あ、春斗足ッ!!」
「うお!?」
「きゃあ!?」
ええ、はい。忘れてましたよ、ハチマキの存在を。
冷静をなくした頭でそこまでの配慮が出来るわけないだろ!?
「は、春斗──ッ」
「ごめッ、──むぐ」
「ちょ、待って。動かないでぇ……」
これもまた様式美なのだろうか。
一回目に転んだ時よりさらにすごい恰好になっている。
何て言うかこう、四十八手全集とかに載ってそうな格好だ。
……学校でこんな格好していいんですかね!?
「春斗。私は大丈夫だから。だからその、ゆっくり起きて……?」
「わ、わかってる」
くっそ。動揺してんのバレバレじゃんかよ。
「ちょっと待って。今、ハチマキをほどくから」
「う、うん」
夏希姉ちゃんがしおらしい。
あーもう。違うから! そうじゃないから!
転んで動揺してるだけだから! いつもと雰囲気が違うからって、特別かわいいとか思ってるわけじゃないから!!
「ほどけた」
「ありがと」
「……」
「……」
「……」
「……」
──緊張感ッ!!
なんだこの空気!?
「あはは。本番は失敗しないようにしなとね」
「本番で同じことしたら、今度こそ殺されるよきっと……」
冬華姉さんとあんなことがあったのに、夏希姉ちゃんとまでなんて、全校の男子からフルボッコにされても文句は言えない。
「じゃ、じゃあ練習しよっか!!」
「そうだな!!」
変な空気を吹き飛ばすためにあえて声を張る。
モラトリアム!! これもモラトリアムだから!!
まあ、結局この後も何回か同じことを繰り返したんだけどな。
最後の方は夏希姉ちゃんの息も乱れてて、なんていうかその、ヤバかった。
21話は14(木)の21時予定です!