秋ねえが体育祭の応援に来たようです。
18話投稿です!
秋ねえはマイペース……
「なあ、春斗」
「なんだ? 我が親友、相葉佑樹よ」
「お前こそなんだよ、その呼び方」
「いや、忘れられてると思って」
ある種の様式美でもあると思うんだわ、こういうやりとりも。
「まあ、いいや。それより見ろ、これを」
「なんだよ、肩なんか組んで。仲がいいって勘違いされたらどうするんだ」
「さっき親友って言ってたよな!?」
「冗談だ。唾を飛ばすな。で、なんだって?」
ほら、ちょっとは親友っぽい仲の良さをアピールしとかないと、なんちゃって親友だと思われるだろ?
「さっきグループで回ってきた画像なんだけどな、どうよ?」
「ッ!?」
いや、ちょっと待て!!
「佑樹、この画像どうした!?」
「ああ、俺が所属する『志木春斗が妬まし過ぎて一周回って羨ましい会』。通称『SNIUK』ってグループから回ってきたんだがな」
いや、待て!
画像に関してもそうだが、お前今何て言った!?
「すっげぇ、美少女じゃね? やべぇわ。夏希先輩並だろ、こんなのっ。て、春斗どこ行くんだよ!?」
「便所!!!」
言い捨て応援席を飛び出す。
「クソッ!」
電話にぐらい出てくれって!
「どこだ?」
辺りを見渡しても見つからない。
生徒は全員体操着を着てるから、画像で見た制服姿なら逆に目立つはずなんだけど──。
「ああもう、人が多すぎる!」
体育祭だからしょうがないけど、もうちょっと見晴らし良くならないもんか!?
「春斗?」
「優美!」
「ど、どうしたの? そんなに慌てて」
「お前こそ、もう大丈夫なのか?」
さっき夏希姉ちゃんに泣かされてどっか行ってたけど。
「うん。あのね、私思ったの。敵は強いけど、絶対に負けちゃいけないって。私だって、その、き、気持ちでは負けてないって!」
「おお、そうか」
まさか優美がそんなに燃えてるとは思わなかった。
優美が競技してる時は、ちゃんと応援しないとな。
「そ、それでね春斗。一個お願いがあるの……ッ。学年対抗リレーで夏希先輩に勝ったら、私とデー──ッ!?!?」
「!?」
優美が何か伝えようとしてる最中だった。
何かの競技が始まるピストルの音と共に背中に感じる重み。
「は~る~くん」
そしてこのゆるんだ声と甘い匂い。
「秋ねえ?」
「そうだよ~」
振り返れば秋ねえがいる。
しかも、うちの制服に身を包んで。
「よかった。やっと見つけたぁ」
「はるくんも私を探してくれてたの?」
「友達から写真を見せられてね。慌てたよ」
「ごめんね~」
まあ、何事もなくてよかった。
「あ、あああのッ!」
「ああ、悪い優美。なんだっけ?」
「はるくん、誰この娘~?」
秋ねえ、人が喋ってるときに頬ずりとかやめて。
「な」
「な?」
「夏希先輩だけだと思ってたのにぃぃいいい!! うわあああんっ、ライバル増えたああああああああ!!!!」
「優美!?」
って、なんだその健脚!?
お前そんなに足早かったのか!?
「いいの~? 走ってっちゃったけど~」
「まあ、後で会うし……」
さすがに秋ねえを背負った状態で追いつけるスピードじゃなかった。
あいつがいれば学年対抗リレーも勝てるんじゃなかろうか。
「ていうか、秋ねえこそ何してんのさ」
「む~、呼び方~。『姉ちゃん』でしょ~?」
「よく見て秋ねえ。周り、たくさん人いるから」
Notふたりきり。
「誰も見てないのに~」
「それはさすがに無自覚過ぎるでしょ……」
さっきからめっちゃ見られてるからね!?
もっと自分の容姿に関心を払ってくれない!?
「はるくんがイケメンだからだよ~」
「どう見ても注目されてるのは、『姉ちゃん』だから」
「えへへ~」
呼び方ひとつでなんでこんなにご満悦になるかね。
幸せがお手頃すぎる。
「ていうか、『姉ちゃん』は何しに来たのさ」
「決まってるでしょ~。応援だよ~」
「大学は?」
「サボり~」
「堂々と言う事じゃないから!!」
百合ヶ丘教授に一度お灸をすえられればいい。
……意味ないかもしれないけど。
「ほら、移動するから歩いて」
「わ~い、はるくんからの呼び出し~。屋上~? 体育館裏~? 渡り廊下もいいよね~」
「何の話してんの?」
「告白スポットに決まってるじゃん~」
だからそういうことをさらっと言うのやめません!?
「青春っぽいことしたいよね~。せっかく制服着てきたし~」
「そうそれ!!」
「?」
いや、きょとんとしないで!
色々ツッコミどころ多くて後回しになったけど、そこも十分にツッコミどころだから!
「なんでうちの制服着てるの!?」
「学校来るんだから~、制服でしょ~?」
「あなたもう卒業しましたよね!?」
OGに制服着用の義務はない!
「……似合わない?」
「似合う。似合うよ!? めっちゃ似合ってるけど、そういうことじゃないよね!?」
嬉しそうにしてくるのは、俺も嬉しいけど!
正直、秋ねえの制服姿はめちゃくちゃかわいいけど!!
そうじゃない!!!
「今度~、制服デートしよ~?」
何その魅惑のワード。
したいけど、だが今はその時じゃない。
「ほら、着いたから」
「何ここ~」
「父兄観覧席」
「え~、はるくと一緒がいい~」
「わがまま言わないでください」
今の秋ねえをクラスメイトのとこなんかに連れて行けるわけないだろ。
さっきの優美の反応を思い出して欲しい。
「せっかく制服着てきたのに~」
最後までぼやく秋ねえを父兄観覧席に置いてきた俺は、スマホの着信数とメッセージ数と垣間見えたその内容に戦慄した。
佑樹。知ってるか?
嫉妬と羨望を垂れ流すのはとても見苦しいってことを。
「応援席に戻りたくねえ」
呟きは応援の声に紛れて消えていく。
19話は明日の20時です! 予約投稿しているので確実!




