冴川さんは黒幕感が半端じゃないようです。
16話投稿です!
謎の同好会が出来ましたね…
「冬華姉さん、用って──、冴川さん」
「あら、春斗君じゃない。お久しぶり」
「どうも」
なんて冴川さんはほほ笑むけど、こっちはそれどころじゃない。
あの生徒会室での一件以来、この人に対する苦手意識が半端じゃない。
「ふふ。そんなに警戒しないで欲しいかな? 今日は、何もしないから」
『今日は』って強調するあたり、警戒してくれって言ってるようなもんですよね!?
ちょっと離れて座ろう。
「そんなに肩ひじ張らなくてもいいと思うの。それとも、お姉さんと仲良くするのは、嫌?」
「そうですね。冴川さんと仲良くし過ぎると夏希姉ちゃんから怒られますし」
って言っておけば少しは距離を置いてくれることを期待。
この人に対しては警戒心しかないわけで、夏希姉ちゃんには悪いけど、第一印象が悪すぎたと思って諦めて欲しい。
「あらら、つれないわねぇ。まあ、それはいいとして、春斗君はどうしてここに? 君も志木先生に用事?」
「君もってことは、冴川さんもですか?」
それにしても、せっかく生徒会室には近づかないようにしてたのに、まさか生物準備室で会うなんてツイてない。
「私といるのはそんなに居心地悪い?」
とか言いつつ、目の前でこれ見よがしに足を組まないでくれません!?
「冴川さんこそ、俺にそんな態度取って楽しいですか?」
「ええ、とっても」
だからそういうとこだって、距離を置きたくなるのは!
「やっぱり俺、あなたのこと苦手です」
「へえ、意外とはっきり言うのね。人の事を傷つけるの苦手だと思ってたわ」
ええ、そうですよ。でもあなた相手に加減するととんでもないことになりそうですからね!!
それに、
「あなたならこの程度で傷つかないと思ったんで」
「あら、信頼してくれるのね。嬉しいわ」
くすり、とした笑いも無駄に足を組み替える仕草も、全部が挑発的だ。
「ふふ♪」
「!?」
なんで今、舌なめずりした!?
「かわいい。食べちゃいたい」
冬華姉さん、早く来てくれないかな!?
この人、得体が知れなくて嫌なんだけど!!
「すみません。お待たせしました」
「冬華姉さん」
「ああ、春斗君来てくれたんですね。ありがとうございます」
やべえ、冬華姉さんやべえ。めっちゃ安らぐ。
「安心した顔しちゃって。かわいいんだから」
「冬華姉さん、用事って何?」
「ふふ、無視するの?」
いや、あんたはちょっと黙っててくれ。
意味わかんないから。ふふって何さ、ふふって。意味深に笑えばいいと思ってないか!?
「そうですね。みんな揃いましたし、始めましょう」
え、待って。
「『みんな』ってことは冴川さんも?」
「ええ、もちろんです。何しろ今日は、私たち三人でゲーム同好会を発足する記念日ですし」
…………………。
…………。
……なんて?
「活動場所はここ、生物準備室にします。他の先生方に邪魔される心配もありませんし」
「先生のおかげで思う存分、ゲームができます」
「まさか冴川さんが同好の士だと思っていなかったので、とても嬉しいです」
「って、待って待って! 何? ゲーム同好会? 何それ!?」
「その名の通り、ゲームをする同好会ですが……?」
冬華姉さん、そういうことを聞いてるわけじゃないからね!?
「さっき『発足』って言ってたよね? え、何。作るの!?」
「はい。当校における同好会設立条件は、二人以上のメンバーと顧問の認可が必要ですから」
ああ、いや。だからそういうことを聞いてるんじゃなくてね!?
「志木先生。春斗君が聞いてるのは、『どうして俺が巻き込まれてるんだ?』ってことだと思いますよ」
「ああ、それなら簡単です。私が春斗君と一緒にゲームをしたいからです」
「お、おお。そっか」
「ふ~ん、春斗君って直球の方が苦手なのねぇ」
余計な茶々を入れるんじゃない。
「わかった。俺が呼ばれた理由は理解した。でも、冴川さんは!?」
ゲームなんてしないでしょ、この人。
「あら、私だってゲームは楽しんでるわよ。恋愛とか、人生とか、ね」
それゲームじゃなくて実践だから!
ていうか、そんなこと言う人と一緒にゲームを楽しめる気がしないんですけど!?
「それに、なっちゃんから聞いちゃったのよね。誰のことを一番『姉ちゃん』って呼ぶか競ってるんでしょ?」
夏希姉ちゃん何言いふらしてんの!?
「私、そういうのすごいそそられるのよねぇ」
しかもなんか一番知られちゃいけない人に知られてるよ!!
「冴川さん。それは『さらにラブラブ強化期間』と言って、私が考案した、義姉弟の義姉弟による義姉弟のための取り組みです。一番になると、なんと春斗君を一日独占出来てしまうんです。ものすごいご褒美です」
ああ、しかも冬華姉さんまで余計なこと口走ってるし!
「血が繋がってないからこそ、姉弟としての愛を確かめるんですね。先生。私、そういうのとても素敵だと思います!」
「冴川さんみたいに理解のある生徒と出会えて、先生はとても嬉しいです」
ズレてる! 会話がズレてるよ!!
冴川さん、絶対に自分の欲望に忠実なだけだから!!
「そんな話を聞いたらいても立ってもいられなくなりましたので、ぜひ先生のお手伝いが出来ればと思って、この同好会の発足を相談させていただいたんです」
「ええ、私も学内で春斗君と二人きりになれる場所がなくて困っていたんです。だから冴川さんが同好会に参加してくれると聞いて、とても嬉しかったんです」
ああ、なんか手に手を取り合って学園青春ドラマっぽい絵面に!
違うからね? 冬華姉さんは冴川さんの手玉に取られてるだけだから!!
「私は生徒会もありますし、放課後たまに顔を見せる程度にするので、それ以外は志木先生と春斗君でゲームを楽しんでくださいね」
「冴川さんは、それでいいんですか? せっかく同好会を作ったんですから、みんなで楽しむのもいいと思っているんですが……」
「大丈夫です。私、ゲームをするのも好きですが、見るのも好きなので。ということで、発足を見届けましたので、私はこれで失礼します。実はまだ生徒会の仕事を残していますので」
言いつつ立ち去る冴川さん。
すっげぇ楽しそうな顔してた。
「何て言うかさ」
「はい?」
「怖い人だよね、冴川さんって」
「そうですか? いい子だと思いますよ、私は」
……冬華姉さんって意外と見る目ないのかも。
「さてと。それじゃあ春斗君、ゲームをしましょう! あ、今は二人きりなので、ちゃんと『姉ちゃん』って呼ばないとダメですからね?」
「……了解」
まあ、冬華姉さんが楽しそうにしてるからいいか。
こうして俺はゲーム同好会に入ることになった。
……誰のなんの企みかは知らないけど。
17話は明日の21時投稿予定です!