秋ねえとは何者なのか。
秋ねえの謎に迫る(?)エピソードです!
「すごい、秋ねえの学生証だ……。本当に大学生だったんだ──ッ」
「そんなに驚かないでよ~」
「いや、驚くって! もっと普段の言動を省みようよ!」
「え~、めんどくさい~」
そういうとことかさ!
「大学なんて通わなくても大丈夫なのに~」
「いやいや、そこは行っとこうよ。じゃないと将来大変でしょ?」
就職とかも大卒の方が有利って聞くし。
「大丈夫だよ~。大学を卒業しなくても、ちゃんとはるくんは養えるから~」
「そんな心配は誰もしてませんよ!?」
秋ねえはなんで俺を養う前提なのさ!?
「だが、志木なら大卒なんて肩書に頼らなくてもいいのは事実だよ。おっと、そう言えば君も志木だったね。失礼、弟君」
「あ、いえ。大丈夫です。えっと……」
「百合ヶ丘優梨愛。この大学で教授をやってる。よろしく」
そう告げる百合ヶ丘教授は、白衣を着た長髪の女性だ。髪先が跳ねていたり、ところどころ抜けている印象が、どことなく秋ねえと気が合いそうな人だ。
「志木春斗です。よろしくお願いします」
「は~る~く~ん」
「秋ねえ!? 今挨拶してるとこだから!」
所構わず抱き着いてくるの、やめてって!
「ふむ。話には聞いていたが、あの志木秋奈がそうまでなるとは。中々どうして君もやるじゃないか、弟君」
「感心されてるポイントがわからないです」
「そうかい? 私の研究室に所属する学生なら、瞠目ものな光景なんだがな」
「ね~、もういいでしょ~? 帰ってはるくんとイチャイチャし~た~い~」
もうすでにしてるよね!?
イチャイチャってか、ユサユサだけど!
ていうか、揺れると胸の存在感がうなぎ上りなんですけど!?
相変わらず破壊力が高い!
「まあ、もう少し待て。弟君も使いっぱしりにされた直後で疲れてるだろう?」
「家と学校往復しただけなんで、大丈夫です。秋ねえのキャンパスが高等部と同じ敷地内でよかったです」
「そうか、君は附属の生徒か。そうなると進学先はうちの大学か?」
「そうだよ~。はるくんとキャンパスライフ送るんだ~」
「いやいや、それ秋ねえ留年してるから! ちゃんと卒業しようよ!」
「え~」
不服そうにしないでください!
「私は歓迎だがね。志木ほどの才能が留まってくれるなら、それほど喜ばしいことはない」
「あの、秋ねえがめちゃくちゃ優秀っぽく評価されてるのは、どうしてなんですか?」
「どうしても何も、まさしくその通りだからさ。志木秋奈ほど優秀な学生に、私は会ったことがないよ」
「……嘘でしょ?」
このぐうたらを絵に描いたような義姉が!?
いやいや、またご冗談を。
「弟君の反応で、志木が普段どんな風に過ごしてるのか想像して余りあるな。だが事実だよ。彼女の場合、奨学金も特別でね。学費も無償だよ」
「マジで……?」
「すごいでしょ~」
「え、マジで……?」
このゆる~い人が?
ぐうたらでだらしなくて、一日の大半を寝て過ごしてるような人が?
今だって自分の足で立つのがめんどくさくて、俺の背中にぶら下がってる人が?
──、おっぱい以外に取り得あったんだ!?
「……ふむ。ところで弟君。君のご両親は働いているのかい?」
「ええ、はい。忙しそうにはしてますけど」
それが何だって言うのか……?
「こう言っては失礼かもしれないが、君のご両親がこれまでに稼いだ賃金より、志木が稼いだ金額の方が上だと思うよ」
「………………冗談でしょ?」
「えへへ~、事実~」
ぶい~、じゃないよ!?
何呑気にピースとかしてんの、この人!?
「本来なら日本の大学でのんびり学生なんてやってるような人間じゃないんだよ、志木は。世界中の大学や企業から声がかかってるからね。毎日のように、『百合ヶ丘優梨愛はどうやって志木秋奈を繋ぎとめてるんだ』って連絡を受ける私の身にもなって欲しいよ、全く」
「はるくんがいるからね~。はるくんがいないとこに行っても意味ないし~」
「待って! それはちょっと待って! え、そんな理由!?」
マジで!?
いいのそれで!?
「弟君の感想は正しいよ。それが『普通』の感覚だ。だが残念なことに、この『天才』の考えは違うらしい」
「私は~、はるくんを幸せにしたいの~。だからいいの~」
それは、そう言ってくれるのは嬉しいけど……。
えー、マジで……?
「喜んでいいんじゃないかい? 志木秋奈は持てる才能の全てを君のために使うと言ってるんだから」
「いやいや、今の話の後にそんな気楽に構えられないですって!」
家でぐうたらしてるだけだと思ってたのに!?
「大丈夫だよ~。はるくんは私が養ってあげるから~」
秋ねえお決まりのセリフも、途端に現実味を帯びてくるから怖い。
いいの?
それでいいの?
「志木は独特だからね。説得なら弟君、君がしてくれ。私はもう諦めたよ」
「仮にも教授がそれでいいんですか!?」
「私に出来るのは、少しでも志木の選択肢を増やすことだけだ。そこから何を選ぶのか、それとも自分で見つけた選択肢を選ぶのかは、志木が決めることだ」
かっこいいこと言ってるけど、要は放棄したってことですよね!?
「さて、と。私はこのあと用事があるから失礼するよ。ああそうだ。弟君、志木が家に忘れたUSBを届けてくれてありがとう。これがないと、今日研究室に来た意味がなくなってしまうところだった。もし時間があるようなら、少しゆっくりしていくといい」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それじゃあ。あー、それと志木。お前はもう少し登校するように」
「え~、はるくんいないなら来る意味ない~」
「だ、そうだ。弟君、早いとこ大学に進学してくれ」
善処、出来る事じゃないよな、それは。
立ち去る背中をひきつった笑みで見送る事しか出来ない。
「秋ねえ」
「む~、呼び方~」
「『姉ちゃん』」
「なに~?」
「『姉ちゃん』って、何者……?」
「はるくんの『姉ちゃん』だよ~」
あ、はい。
次話は3/1 21時投稿予定です!




