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第9回 華麗なる駐妻達 山本澄香と松野恵子

アフタヌーンティーを飲みながら澄香は微笑んだ。ウェッジ・ウッドのティーカップに注がれたアールグレイから落ち着きのあるベルガモットの香りが溢れ出す。今日は駐妻会の集いとして昼食をとり、その後、夫の上司、松野宅にアフタヌーンティーに招かれたのだ。彼女達の話題の大半は『夫達の仕事』『子供と学校の事』、そして『お稽古事』である。実を言うと澄香はこれらの話に興味は無い。しかし、渡英直後に受けた上司の奥様の言葉が頭の中でこだまするのだ。「内助の功とは重要で、妻達が協力して夫を支えなくては夫は良い仕事が出来ませんのよ。お分かりですか、山本さん。この駐妻会は夫の仕事を支える妻達の会です。必ず参加してくださいまし。」というのがそれである。澄香は渡英して3年が経った今も、恵子や他の奥様達の話を聞きながら作り物の笑顔を浮かべている。あの頃と変らないアールグレイの香りに包まれながら。


第9回リーガリアンズでは駐在員の妻達をご紹介しよう。彼女達の立場は他のリーガリアンよりも若干複雑である。と言うのも一概に英国に住みたくて住んでいる人だけとは言い切れないからである。『違いの分かる男・山本孝治』を夫に持つ澄香は元々海外生活に興味は無かった。むしろ英語も話せないこともあり、夫の辞令を知ったときは落胆したものだ。そんな彼女だから渡英後もロンドンに馴染むことが出来ないでいる。恵子に釘を刺されたこともあり、月1回の駐妻会には参加するものの夫と2人暮らしの澄香は他の奥様達の子供の話を聞いても面白くもなんともないのが本音だ。彼女にとって頼みの綱の孝治は仕事と言って毎日11時近くに帰宅し、休日もゴルフに出掛けてしまう。ここで言っておこう、そんなこともあって澄香の仲間には鬱になって帰国する人が意外と多くいるのである。お馴染み某日経不動産会社勤務H嬢の話では、「また山本婦人から電話があったのよ。毎朝30分、あれこれ電話してくるのよ。あれは話し相手が欲しいんだわね、きっと。」と寂しいエピソードが毎度のごとく付いてくる。


一方、必要以上に英国生活を楽しんでいるのが松野恵子である。駐妻会で重要な『夫の役職』もかなり高く、在英歴も長い彼女はいわゆる駐妻の女王蜂である。あらゆるお稽古事をかじり(全て長続きはしないのだが)、夫の部下の妻達を連れてハロッズ、リッツホテルなどを巡回する彼女は優雅そのものである。おまけに英国で子育てをしている彼女は日本人学校の先生方も殆ど知っていて意見力も高い。彼女の一言で世界が動くという具合で、駐妻勢力図や夫の会社の人事、更には日本人学校での授業のあり方などに大きな影響を与えるのだ。そんな女王蜂の彼女が英国を楽しんでいる証拠に、彼女達は夫が日本帰国した後も子供と共にロンドンに残るのである。

・・・ただ、こんな恵子も戦わなくてはいけないときがある。他の会社の駐妻のトップ(同じ会社なら夫の役職で順位が決まる)が常に彼女のポジションを狙っているからだ。

華麗なる駐妻の世界で色とりどりに咲き乱れる駐在員の妻達。なかにはドクダミや食虫植物のような咲き方をする人もいるのだが・・・。

一見華やかな彼女達の生活も一歩踏み込めば弱肉強食の野生の王国なのである。


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