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第10回 嵐を呼ぶ撫子 京子・トンプソン

皆さんもきっと京子・トンプソン58歳をご存知だろう。 彼女達は日本生まれでイギリス人伴侶を持つリーガリアンだ。一般的に60歳前後の彼女達だが、その年齢で上手に英語を操り、イギリス人のご主人を持っているのは伊達ではない。人によっては20代に日本を飛び出し、以後40年以上も英国に滞在していると言う生きた化石のようなお方もいる。恐竜が闊歩し、大八車が行き交う日本国からエゲレスにやって来た彼女達は当時相当おきゃんな『ハイカラさん』だったことだろう。

私の知人のミセス・トンプソンはデザイナーのコシノ姉妹と同じボブカットで、黒い下着にシースルーのブラウスを羽織った姿で出社してくる。若いミソラでそのカッコをした日にはただの売春婦だが、60歳のミセス・トンプソンだからこそ許されるのであろう、それについて誰も意見する者はいない。


ミセス・トンプソンは英国にある日系企業に必ず1人は生息している。彼女達は社歴の長さ、英国生活の長さから会社の生字引として、そしてお局様として君臨している。新任の駐在員などが彼女から嫌われてしまうと一気に仕事がしづらくなり、ロンドン生活自身、相当辛いものになってしまう。まだ英国に住み慣れていない彼らにとってミセス・トンプソンの手助けはライフラインなのだ。そんなことからも、彼女達は日系企業内で所長よりも実権を握っている事は言うまでも無い。

会社での打ち上げ等は、彼女の気に入っている日本食レストランで海鮮丼を頬張る彼女の笑顔で締めくくられるのである。


さぁ、ここでミセス・トンプソンの説明に欠かせないもう一つの大きなキーワードを説明しておこう。『ラングエッジ:言語』である。英国生活の方が長い彼女達。お客様だろうが何だろうが関係なく失礼なことを言ってのけるのである。それなりに良い生活をしている彼女達はお上品な日本語を話そうとするのだが、あくまでも上から目線で言い放ち、更には日本語の使い方が間違っていたりもするから切なくなる。 電話での会話の例を挙げると下記の通りである。


「トンプソンでございます。」 この言葉から会話は始まるのだが、普段話す言葉より数段高いトーンで話しだす。

「資料をお送りしますので、拝見してくださいませ。オホホホホ」 ご覧下さいではなく拝見と言ってのける。

「はい畏まりました。では、また。オホホ (はー、メンドクサイわねー!! ホントいい加減にして欲しいわー。)」 受話器を置く前に同僚と話しだすのでたまにこのような会話か聞こえてくる。

「オー マイ ゴット!! 私、英国での生活は40年でございますけど、このような屈辱は初めてですわ。リデキュラス!!」 気分を害すると英語と日本語が混ざった、長嶋茂雄語になる。


冒頭でお話の通り、ミセス・トンプソンは元祖日本人リーガリアンである。私達には、もはや彼女を日本人と呼ぶことは不可能だ。彼女達がどんなに日本人とズレてしまっていても、どんなに電話で失礼な態度をとろうとも、嵐を呼ぶ撫子をきちんと敬ってあげてほしい。彼女達がリーガリアンのパイオニアとして活躍してくれたから、今の私達の生活があるのである。


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