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第2章 その3 寮案内。あえて空気読まないモルガン君


          3


 ムーンチャイルドと《呪術師》(精霊グラウケーが身代わりをしているほう)が、おれ、リトルホークへの差し入れを持ってシャンティ寮長と護衛のミハイルを訪問していることなど、おれはまったく知るよしもなかった。

 わかっていたら寮長の部屋を突撃訪問したのに!


 その頃のおれはヒマをもてあましていたので、ルームメイトになった二人、ブラッドとモルガンを相手に、世間話などに興じていたのだった。


 ガルガンドはどんな国か?

 そうだなあ、とにかく脳筋だよ。おれの生まれた村と同じ。


 生まれたところ?

 え、そこ突っ込む?


 高山の上。ひたすら辺鄙なところだよ。

 森林限界超えてるって、わかるかな?

 ものごころついたときから、みんな働いてて。牧童をやって暮らしてた。

 両親からもらった自分のパコ……年に二回、毛を刈るし、羊みたいなもんかな。

 パコって呼んでるその家畜を育てて繁殖させてゆくゆくは増やしたり売ったりするのさ。いずれは出稼ぎに行くから、その前にやっておく仕事だな。


 男は十四、五歳で『成人の儀』っていうのを終えて、一人前という許可を得たら出稼ぎに行くのが当たり前。

 兄が婿入りしてたんでガルガンドに決めたんだ。


 ところが、もう、ごっつい厳しい訓練で。

 入ってから気がついたけど、軍だった!


 死ぬかと思ったことは何度もあった。

 実際、部隊の仲間と一緒に行軍してるときに、氷河に開いた『裂け目』に落ちちまってさ。落ちた先に『凍った湖』があってさ~。仲間に助け上げてもらったときには心臓が止まってた。

 死にかけたよホント。


 モルガン君、いつまで笑ってるのかな。

 そこ笑うとこじゃないから。


「すごい体験ですね!」

 キラキラと目を輝かせているのはブラッド。

 ものすごい育ちの良い貴公子様。

「ねえ、モルガンもそう思うよね?」

「おう。一日中、身体を鍛えれるって羨ましいな!」


 おまえの食いつき所は、そこかよ!


「ところでリトルホーク。荷物はまだ来てないんだろ。だったら」

 モルガン君が、目を細めて。

「寮の中を見学しに行かないか。ま、そんなに見るところもないから、すぐ部屋に戻ってこれるよ」


「夕食まで待つだけってより、だんぜんいいね」


 というわけで寮の中に繰り出す、おれ、ブラッド、モルガン。

 寮生のための部屋がいっぱいあるけど空き部屋も多いらしい。

 将来、生徒が増えるだろうって見込みで確保してあるの?

 気前いいな。


 部屋の他には、シャワーと大浴場。トイレ。

 洗濯してほしい衣類は、名前を書いた袋に入れて部屋の前に出しておくと、集められて、翌日には元通りに置かれているそうだ。

 ちょっとしたものを洗うための洗濯桶や、洗面台もある。


 ゲストルーム。

 みんなで集まって話し合えるホール。

「夜はゲームもやる。なんか新しいゲーム持ってないか?」

「ガルガンドでやってた、ルーンストーンを使った占いなんかどうだ?」

「そりゃいい。みんな喜ぶ」

「難点は、当たりすぎて怖いことかな」

「それ言わないほうがよさそうだよ……」

 ブラッドが、背筋をぶるっと奮わせた。



「ま、こんなとこかな!」

 なぜか胸を張るモルガン。

「腹減ったから食堂行こうぜ! 食堂はさ、男女一緒だから男子寮部分にはないんだ」

「部屋に戻るんじゃなかったのかよ」

「悪い。ハラヘったら他に何も考えられないんだ~」

「モルガン、行儀悪いよ」


「いやいや、モルガンくんならいつでもガルガンドに行ける。きっと」

「へー。考えてみようかな。心引かれるんだよ」

 などど言いながら、おれたちは回廊を歩いた。

 生徒の数が増えていく。

 みんな夕食かな。


「食堂が終わるのは夜ですから、ゆとりはあるんですけどね。欲しいだけ取れる大皿方式なので、早い内にみんな行っておきたがるんです」


「ちょうどいい。夕食前に、そろそろ集まって来てるからさ。みんなに自己紹介しろよ」


「みんなって誰?」


「ナンバーズ、二期生、ちびっこ、そのほか。ま、会ってみればいいよ」

 陽気なモルガン君。

 おれはナンバーズって呼ばれてる一期生のサファイアとルビーに睨まれてるから、ちょっと気が重いんだけど。


「で、リトルホーク、ぶっちゃけた話だけどさ」

 早くもくだけすぎな感じの漂うモルガン君。


「なんで、シ・イル・リリヤに来た? 何か調べにきたのか?」


 どういうことだろう。

 確かにスノッリ親父は、おれが動くだけで勝手に何かが起こる。あぶり出されるだろうと言ってたが。


「ぶっちゃけすぎだよ……」

 貴公子ブラッドは、モルガン君の『あえて』空気読まない発言に、額を抑えていた。


 気の毒に。

 頭痛が癖にならなければいいのだが。



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