第1章 その49 幼稚園からの世界史入門(結)
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『とおいむかし、ふるき、その、というせかいがありました。たいようしんソル、つきのめがみルーナのみまもる、せかいです』
『みんなは、ながいきして、べんりなくらしをしていました』
『ですが、いつのまにか、かみがみをわすれ。だいちや、くうきをよごし、みずをきたなくしていきました。えねるぎーがなくなると、ひとびとは、だいちのめがみのなかにねむっていた、きんじられたえねるぎーをほりだして、かいほうしてしまいました。それは、おおむかしのひとびとが、あまりのおそろしさにふういんしていた、せかいをほろぼしてしまうものだったのです』
『かいほうされた、わざわいのもとは、めにみえないどくで、だいちをおせんしていきました。みずは、ちのようにあかく、くうきは、くろく。やがて、てんくうのかなたから、わざわいがつぎつぎとおしよせました』
『かみがみの、いかりが。いわのあめ、ひのあめとなって、ふりそそいだのです』
『だれもいなくなったせかいを、あわれんだのは、つきのめがみ、ひとりだけでした。めがみさまは、だいちのめがみさまと、したしかったのです』
『つきのめがみさまは、だいちにおり、なみだをながしました』
『すると、どうでしょう。なみだから、にじが、うまれました』
『つきのめがみさまが、にじのはしのすそをみると、だいちのふところでねむっていた、おさなごたちをみつけます』
『そして、しろき、うでに、みどりごたちをかかえ、ひとり、うつろな、そらのうみをわたっていきました。たいようは、つきのめがみをひきとめようと、ちのなみだをながして、まっかに、ふくれあがっていき、《あおき、だいち》まで、てをのばして、だきしめました。せきしょくきょせいと、いう、なげきのすがたです。もう、たいようのいのちも、おわろうとしているのでした。たいようは、つきを、ひきとめることはできません』
『つきのめがみは、ながいながいたびをつづけました。なかば、ねむり。なかば、おきて。たびのあいだに、めがみは、じぶんのこどもをそだてていました。やがて、あたらしいとちが、みつかったなら。ねむるこどもたちと、ともにそだてようとねがうのでした』
『やがて、とおくから、こえがきこえてきました。ゆくてに、あたらしいいのちをもやしている、あおじろく、わかい、たいようがかがやく、あたらしい、きれいな、とちがある、そこにおいでと、こえは、さそいました』
『そのとおりに、みつかった、あたらしい、あおいだいちに、めがみさまは、こどもたちをつれて、おりました』
『こどもたちは、そのせかいの、だいちのめがみと、はなしあいました』
『やくそくが、かわされました。だいちのめがみセレナンは、にんげんをほろぼさないとやくそくし、にんげんは、だいちをよごさないと。やくそくがおわると、セレナンのめがみは、おくりものとして、こどもたちに、ふるいせかいにあった、しょくぶつや、どうぶつを、そして、ものがたりのなかにいきていた、まぼろしのけものたちを。そのすべてに、せいめいをあたえ、ゆたかなだいちに、はなちました』
『セレナンは、いいました。このだいちは、すべて、おまえたちのものである。だが、にんげんだけのものではない。そのことをわすれるな』
『わがせかいの、だいりとして、せいれいぞくを、つかわす。かれらは、わが、てあし、め、みみ、そして、ことばをはっする、くち、である。せかいの、いし、それこそが、このせかいの、しゅじんであると。あとは、すきに、くらすがよい』
『そしてひとびとは、それぞれはなしあい、きそくをつくり、あたらしいだいちに、ひろがっていきました。いつしか、くにがうまれ、ひとびとはふえ、さかえていきました。それが、このせかいの、はじまりです』
『つきのめがみさまは、たびのあいだにそだてていた、こどもをそらにうかべました。ひとびとは、つきのめがみさまをイル・リリヤさま、めがみさまをたすける、そのこどもをセラニス・アレム・ダルとよびました。ひとびとを、そらからみまもっていてくださるのです』
『イル・リリヤさまは、おっしゃいました。そらに、にじがかかるとき、ふるき、そので、こどもたちをまもっていた、にじのめがみのことをおもいだすように。わすれないかぎり、にんげんは、ほろびないだろう、と』
テキスト《レニウス・バルケス・レギオン著『幼稚園からの世界史入門』(1)「古き園、新しき世界」より》
絵本・幼稚園からの世界史入門、完結です。
次回からはリトルホーク、男子寮生活の始まりです。




