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リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険  作者: 紺野たくみ


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第1章 その30 ガルガンド氏族長スノッリ


          30


「おめえがリサスの弟か。小僧っ子。しっかりやんな」

 会う前から、スノッリ・ストゥルルソンの噂は聞いていた。リサス兄からだけではない。彼は有名人だったのだ。

 北方部族の長、勇猛果敢な戦士として。


 出会ったのは三年前、彼の娘エンヤと結婚して婿入りした、おれの二番目の兄リサスの紹介だった。


 意外に小柄なのには驚かされた。

 しかし、その小さな身体から放つ威圧には、並々ならぬ迫力があった。


 いくつかの氏族が集まって形成するガルガンド連合国における最大氏族の長、スノッリ・ストゥルルソン。

 色の薄い金髪で色白、背の高い者が多いので『精霊に似た』という意味で、他国からは『精霊枝族セ・エレメンティア』と呼ばれることもある、ガルガンド連合国には珍しい黒髪、黒目、縮れた黒い顎髭。肌の色は白い。

 ずんぐりむっくりの四十歳。

 大口を開けて陽気に酒を飲み、がはがは笑う。

 そんなに酒に強くないのは、ちょっと飲んでも顔を真っ赤にしているから、わかった。村にいる、おれの父親を思い出したりした。


 十五歳で村を出たおれに、父母は元気か、故郷が恋しくはないか、困ったことはないかと、何かと気に掛けてくれた。孫を見るような気がしていたそうだ。


 おれの出身地の『欠けた月』と呼ばれる村は、事情があって今は閉じられている。外との交流をしている窓口は、ガルガンドだけである。

 外へ出稼ぎに行くのも、いったんガルガンドを経由して、身分証を発行してもらうことになっていた。

 この世界に生きていくのは、なかなか厳しいのだ。


 スノッリは、時々、ひどく疲れて見えることがあった。

 彼自身も、氏族長の養子だったのだという。

「わしの黒髪、黒目は珍しいじゃろ。わしは流れ者でな。先代のスノッリに拾われたのさ。長じて、その名前と地位を受け継ぐことになったが。そういうわけで、ガルガンドでは人種も身分も、こだわらない。みな、家族さ!」


 まさに大家族のようなものだった。

 おれは養父になったスノッリ親父から、傭兵の心構えも、実践に匹敵する訓練も、全て教わったのだ。


 ……あげくに死にかけて、瀕死状態で、前世を思い出したけどさ。


          ※


「おまえには、少々頑張ってもらわなくてはならない」

 銀髪の美女が言う。

「学校も寄宿舎も初めてだろうが、手続きはしてある。二日後まで待て」


「わかった。やるしかないんだろ。がんばるよ」

「よしよし」

 レニウス・レギオン(仮)は、上機嫌だ。

「素直な子は好きだよ。そうだ、私の名は、精霊、グラウ・エリスだ。もっとも、レニウス・レギオン(仮)の姿のときには、その名前で呼ばれても、応えない。当然ながら」


「そりゃそうだろ……」



 グラウ・エリスは、自分を第一世代の精霊だと名乗り、少しだけ事情を語ってくれた。

 この都に来た当初は、コマラパと、魔女カオリだった。

 しかし都に出てからはガルデルの末子レニウス・レギオンとして立ち回ることが要求されるようになり、新たな乖離かいりが起こった。


 人格が分離したのだ。

 ガルデルの起こした事件のときに、もしも殺されなかったら。

 末の男子として恙なく成長したならば。

 レニウス・レギオンは、成人しているはずだった。

 だから、成人のレニウス・レギオンと、十七歳の少女であるカオリとが、二人とも存在するということになった。

 そして、1年後。

 夜になると、村を去ったときのまま育っていない少女、ムーンチャイルドが、現れるようになったのだという。


「会いたかったから」

 ムーンチャイルドである、おれの嫁、ルナが、すがるように、おれを見る。

「おまえに会いたかった。けど、再会したとき、おれが大きくなってたら、きっと、わかってくれないって思って」


「なにを言ってるんだ。ルナ。おまえが育っても、育ってなくても。おれが、おまえのことを、わからないはずなんか、ないだろ?」


「ごめんなさい。だって……おれは、逃げたんだもの」

 ああ、ルナ。

 泣くな。おまえが泣くのは、つらい。

「だいじょうぶだ。おれはすぐに強くなるし、有名になるから! 誰からも認めさせてやるよ。おまえの伴侶にふさわしいって!」 


 おれ、リトルホークは、どのみち、がんばるしかないのだ。

 ルナを人質に取られているようなものである。


「リトルホーク。会いにいくから!」

 涙ながらに、おれを慕ってくれる、可愛い嫁がいるからには。


「なんとかなるわよ。いえ、なんとかして、成り上がって! カルナックのために」

「だいじょうぶですよ。リトルホーク。才能がありますよ」

 そう、このように、ルナの育ての姉と兄である精霊ラト・ナ・ルアとレフィス・トールも、心から応援してくれているのだ。


 ともあれ今夜は、おれは例の、監禁されていた部屋に戻された。

 明日か明後日には、手続きも終わり、晴れて魔導師養成学校の寄宿生となるらしい。

 しかも個室ではないので、誰かとルームメイトというのになる。


 それにしても、いつの間にか留学生?

 寄宿舎?

 ルームメイト?

 知らないことだらけの、初体験である!




いよいよ明日? から寄宿舎。ルームメイトは、男子です。

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