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リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険  作者: 紺野たくみ


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第1章 その23 おれはまだエルレーン公国の民じゃないから


          23


「お引き取り願いたい。カンバーランド卿。ここは学院だ」


 幼い子どものように、ムーンチャイルドを腕に抱えたコマラパが、不機嫌を全面に押し出した怖い顔で、言った。


 しかし貴族様というのはひるまない。くじけない。自分が嫌われているとも気づかない様子である。

 カンバーランド卿は、笑みを崩さず、立ち上がって、素早くムーンチャイルドの手をつかんで、その華奢な手の甲に、唇を寄せた。


 とたんにムーンチャイルドは、身震いをして手を振り払う。

 正式には、手の甲に実際に口をつけるのはマナー違反である。ムーンチャイルドは、彼を信用はしていないようだ。見れば目に涙を浮かべて、何度も、手を振り払うしぐさを繰り返していた。

 熊おじさんの、あまりの早業っぷりに、おれは呆れ。生真面目なブラッドくんたちは、非難の眼差しでカンバーランド卿を射殺さんばかりに睨み付けた。


「卿に重ねて申し上げる。お引き取りくださらんか。ムーンチャイルドは、身体が弱いのでな。昼時には休ませてやらねばならぬ」


「おお。さようでござった。姫にお会いできた喜びで天にも昇る心持ちでしてな。ときにお父上どの。お許しをいただければ、この我が輩が。お抱えの薬師に診せましょう。さすれば、たちどころに身体も整い丈夫になりましょう」


「ご親切は痛み入りますが、お断りする」

 我慢の限界に達したらしいコマラパが、きっぱり答えた。


「叔父上。引き際を心得ていただけませんか」

 ブラッドが耐えかねたように進み出て、言い放つ。

「だいたい叔父上は、ご自分の行動一つ自由にはできないお立場なのに、なぜ連日、学院に押しかけてこられるのです」


「それはもちろん、純愛ゆえに」

 カンバーランド卿は、満面に、嬉しそうな笑みを広げる。


「コマラパ殿。どうかご一考を。ご息女を、今すぐにでも、わがもとにお迎えしたい。后などと面倒な役割を押しつけは致しません。我が館にお迎えできましたならば、外へも出る必要はありません。何もなさらなくて良いのです。ただ、我が輩の傍らにて、心安らかに日々をお過ごしいただきたく」


「ほう」

 低く、凄みのある声が響いた。

「外へも出さぬ? ただ館に閉じこもって日々を過ごせと申される?」


 あ。

 この瞬間、カンバーランド卿は、コマラパの逆鱗に触れてしまった。


「おたわむれが過ぎましたな、カンバーランド卿ともあろうお方が」


「コマラパ殿?」

 カンバーランド卿は、失態に気づいていない。だから平気で問い返せるのだ。


「お気づきではございませんでしたか。卿は我が娘を卿の館に幽閉し、鳥籠で飼い殺しになさるおつもりか。外へも出さない、何もさせない。ただ、夜ともなれば卿の訪れを待つ身。それは普通ではござらぬ。そんなものは……生きていると言えますかな」


「コマラパ。我が輩が下手に出ているのをいいことに、思い上がられては困りますな」

 急に、カンバーランド卿の口調が変わった。

 逆ギレしたな~。

「この首都の権力を握る我が輩に、素直に娘を差し出し媚を売るがよい」


「ふざけんな、エロ親父」

 頭が、かっと熱くなって。

 気がついたらおれは、カンバーなんとか卿の前に立っていた。


「なんだ、おまえは。この国の国民なら、わが権威に屈するべきであろう!」


「ふん。悪いがおれは、ここの国民じゃない。あんたの言うこと? 権威? 知らねえな。それ食えるのか」


 わざと、肩をそびやかして、見下ろす。

 きっといろいろとしがらみのあるコマラパにはできないことだ。

 だから。

 ここは、おれが戦う!


「なっ! 何を申すか!」

 驚き慌てる、貴族様。


「バカか。おっさん。さっき自分がなんつったか考えてみろ」


「……は?」


「外へも出さない、何もさせない。やることって言ったら、夜に、あんたを迎えることだけ。ムーンチャイルド自身が何をしたいか、考えてもいないだろ! おっさんは、ムーンチャイルドを自分の性奴隷にしたいのか!?」


「せ……せいどれい!?」

 純情で清廉なブラッドはアゴが外れそうなくらい驚いている。


 ……悪いな。少年たちには刺激が強すぎることだったかも。

 だけど、おれはまだエルレーン公国の民じゃない。義理も恩義もしがらみもない。

 だから、大声で言う。


「このエロ親父が、ふざけんな。おまえにムーンチャイルドは、渡さない! おれが彼女に結婚を申し込む!」



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