第1章 その18 コマラパは四年ぶりに再会した婿を叱責する
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「リトルホーク。情けない。ガルガンドで傭兵などして、すさんだか、もう少し見所のある婿だと思っていたが、わしの買いかぶりか」
容赦の無い叱責を浴びせるコマラパ。
4年ぶりに会ったのがこの状況では、言い訳のしようもない。
「お義父さん、これはその」
「黙れ」
おそるおそる、おれは振り向いた。
怒ってはいるが冷静な態度を崩さないコマラパと、その腕に、ぎゅっと強くすがりついている、ルナ。
「ルナ、ごめん」
「…………」
謝っても返事はない。おれを見て怯えた顔をする。
「どうしたね、ムーンチャイルド」
さっきおれを叱りつけていた激しい顔とは別人のようなコマラパは、優しく、ルナの頭を撫でた。
「ぱぱ。こわい」
幼児に戻ったかのように、ひたすら父親にすがる。
「大丈夫だよ。パパはこここだ。誰にも傷つけさせはしない」
コマラパは幼児をあやすように、ルナを抱き上げ、揺すって、なだめる。
「馬鹿者めが、リトルホーク。《呪術師》が案じた通りだ。昨日も襲われそうになったというのに、それでもおまえのことを恋慕っている。きっと会いに行くだろうと、そこの二人と、わたしに、万が一のために護衛を頼んだのだ。この子の従魔、牙と夜は、おまえに懐いてしまっているからな」
大きく、ため息をついた。
傍らに控えている、二人の美少女に目をやり、
「サファイア、ルビー。ご苦労だった。良い腕だ。やはり《呪術師》が信頼を置いているだけのことはある」
と、ねぎらいの言葉をかけるのを忘れなかった。
危うくおれは、この美少女二人に、投げナイフで串刺しにされるところだったのだ。
「光栄です」
慎ましく答えるのは鳶色の髪の、サファイア。
「お役に立てるなら、なんなりとお申し付けください」
「そうだよ! ムーンチャイルドは、魔導師協会みんなのアイドルだもん。変な男に引っかかってるなんてかわいそう。《呪術師》様が心配するのも無理ないわ。手が早いったら。サイテー男!」
ぷりぷり怒っておれを睨んでいる、赤毛のルビー。
しかし言われるとおりなので申し開きもできない。
「だが、ナイフを投げられた状況で、この子を庇ったことは、評価してもいい。リトルホーク。伴侶としてこの子を守ると、精霊様に誓ったことを忘れないならば、わたしも、不本意だが、認めてやらんでもない」
「お義父さん」
こう呼ぶと、やはりコマラパは、嫌そうな顔をする。
「この子が、言いたいことがあるそうだ。さあ、ムーンチャイルド」
「ん……」
父親の首にしっかりとしがみついたままで、ルナは、まだ怯えの残る眼差しを、おれに向けた。
「あのね。おれ、リトルホークと、『でえと』したい」
恥ずかしそうに、言った。
「この都では、好きなひとと『でえと』するんだよ。公園とか森に、ぴくにっくにお出かけしたり、お弁当を一緒に食べたり、『かふぇ』に行ったりするの。おれも、そうしたい。リトルホークと。おつきあいしてるって、みんなに知ってもらいたいんだ」
「……なるほど。それもいいかもしれんな」
意外なことに、コマラパは頷いた。
「はい?」
「リトルホークも、部屋に閉じ込めたままだから欲求不満がつのるのかもしれん。この、魔導師協会本部の中庭でなら、『でえと』を許そう。外へは出ないという条件で。伴侶だというのは伏せて、ここで出会ったということにすればいい。まず、おつきあいから、やり直すのだな」
こうして、おれとルナは。
交際の始めからやり直すということになったのだった。
裁判が終わるまでは、魔導師協会本部の建物の外へは出られないという条件付きで。