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第1章 その1 きっかけは赤信号と黒いワゴン車

「イリス・アイリス」のスピンオフです。そして「黒の魔法使いカルナック」の第5章(まだぜんぶ書いてないですが……)の4年後からの話です。

むちゃくちゃハッピーなほのぼのラブコメが書きたくなったからです。いまいちハッピーばかりじゃなくて陰謀が暗躍したりしますが。


  1


 おれ、沢口充は、運の悪い男だ。


 悪運は強いのかな?

 何度も死にかけるようなできごとがあったりした。たとえば、二階のロフトから落ちてテーブルの角で頭を打ちそうになったり、尻を打っただけで危うく助かったり。


「気をつけてね、充くん」

 付き合っている彼女に、何度も忠告された。

「きみは人が良いの。でも危険の縁を歩いているのよ。世間は安全じゃ無いわ。気をつけて。わたしより先に、死なないで」


 わかってるよ。

 絶対に、○○○さんより先に死んだりしないよ。

 そしたら心残りで、いてもたってもいられないからさ。


「ふさけないで」

 悲しげな、彼女の顔。きれいな繭を潜めて。

「あなたは、わたしのものなんだから」

「じゃあ、○○○さんは、おれのもの?」

「そうよ。わたしは、きみのもの。どちらかが先に死んだりしたらダメなのよ」

 初めてキスした。

 後にも先にも、そのとき、一度だけの。



 きっかけは、歩行者用の信号。

「ちくしょう、いつまで待たせるんだよ」

 思わずグチが出るほど、長い赤信号。


 おれはそのとき、彼女と待ち合わせをしていて、時間を気にしていた。

 街角にクリスマスソングが流れるようになった12月の始めだった。


 クリスマスがやってくる。誰も彼もが浮き足立って。


 彼女と同じ大学に入れるかどうか、おれの成績は疑わしくて、おかげで彼女に勉強を教えてもらえるのは、幸運だったけど。

「クリスマスプレゼント。喜んでくれるかな……」

 ほんとは知ってた。彼女は、心をこめて選べば、何でも喜んでくれるって。


 そのとき。

 急に、あたりの音が、消えた。

 ふと周囲を見回す。


 足先だけ靴下をはいたように白い、黒猫を抱いた、中学生くらいの女の子が、おれと並んで、歩行者信号が青になるのを待っていた。

 

「まだだめ」

 ショートカットの少女は、急に、おれを見上げて言った。

「気をつけて、おにいさん。あなた……」

 色の薄い目が、おれを射貫いた。

「魅入られている。……偶然という名の、死に神に」 


 次に聞いたのは、急ブレーキの音。

 黒いワゴン車が、信号が変わり始めた交差点に強引に進入して、ハンドル操作を誤ったのか、歩道に乗り上げてきたのだ。


 そのとき、おれは何を思っていたのか。

 何も考えてはいなかった。

 ただ、隣にいた少女と、そのまた隣にいたおばさんを押しのけていた。

 かわりにおれは、ワゴン車が迫ってくるのを、ゆっくりと見ていた。


 衝撃が、きた。

 正面から、おれは車と激突した。


 彼女に渡すはずだったプレゼント。

 彼女と過ごすはずだったクリスマス。


 心残りがないと言えば、嘘だ。

 でも、どこかでおれは、納得していた。

 おれは、運が悪かっただけ。


 ……本音は、諦められるはずは、なかったけれど。



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イリス、アイリス ~異世界転生。「先祖還り」と呼ばれる前世の記憶持ち~

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黒の魔法使いカルナック
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