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きんぱつ、ぶじゅつ。



「佐々木銀次郎! あなたにドゥエーロを申し込みますわ!」



 だから、なんだよそのなんとかエーロって奴。それを説明することなく、金髪縦ロールは言葉を続けていく。


「ホーの名前は、シェイクスピア・エリザベス。あなたのせいでホーのソレラがあんな姿に……! ですので、あなたに対してドゥエーロを申し込むと――――」


「だから、なにを言ってるのか分からないって言ってんだよ。なにか伝えたい事があるなら、ちゃんと日本語で喋れ」


 ホー?! ソレラ?! それに、またドゥエーロ?

 ちゃんと相手に意思を伝えるのならばその相手に伝わる言葉で話さなければいけないだろうが! 独りよがりで喋ってんじゃねぇよ! 分からねぇよ……。


 俺が少し怒りの気持ちを加えてそう伝えると、彼女は呆気に取られたようにポカンとした表情をこちらへと向けていた。


「――――あら、そう? そうね……お姉さまにもそれだけは直せと言われていたわね。全てに完璧な私ではあるけれども、そこだけは直せと言われてたわ」


 意外にも話をちゃんと聞いてくれていたらしい彼女は、俺の言葉で自分が間違っていたとちゃんと理解してくれていたようでごめんなさいと謝り、ごほんと一息吐いて再び言い直した。



「改めて……私のお姉さまを賭けてあなたにドゥエーロ、つまり決闘を申し込みますわ!」



「あっ、決闘。そう、決闘なんだな」


 エーロ、エッロ、とか言ってるからてっきり少年誌では書けないようなエッチいことでもしてくれるんじゃないかと期待したわけなのだが、残念ながらそんな事はしてくれないみたいである。まぁ、顔が怒り気味だからそんな事はないと思っていたのだが……少し期待してしまったじゃないか。

 もっともこんなBカップを相手にするのだったら、隣のHカップの方が良いのだがな。


 ――――と言うか、お姉さま?

 このエリザベスと言う名前の女は《お姉様》のために俺と戦うみたいだが、俺としてはそんな人物に当たる人物に心当たりはないのだが……。


「気のせいじゃ、ないのか? 少なくとも俺はお前のお姉さまに会った覚えがないぞ」


「そんな事はありませんわっ! あそこまで強く、気高く、誇り高いお姉様の存在をあなたが忘れているはずがありませんわっ!」


 ……そうは言われても全く心当たりがない訳なのだが。

 そう言えば、俺が戦ってきた古武術使いの中に《お姉様》というあだ名で呼ばれていた女が居たな。


「そうか、あいつの妹分という訳か。

 しかし、あんな冬の野良山で鮭を取って生計を立てるような女に、こんな金髪ドリルみたいな女が居たとはな。驚きだ」


「そうそうっ! その野良山で鮭を……って、オン・サルモーレ? 何故今鮭が?」


「だって、あいつと言えば鮭だろう?」


 海で水着で遊ぶよりかは、山で裸一貫で鮭を捕る漢女(おとめ)

 あいつの事を人はこう呼んだ、《お姉様》と。


「全然、ありえませんわぁ! もしや、あなたお姉様と言われて別の奥方を思い浮かべているんではなくって!? ごく最近、そうごく最近の出来事ですわよ!」


「ごく最近会った女性……と言うと、夜になると性別が変わる男か、自称最強の神嫌いのどちらかだな」


「何故、その二択を?! 違いますわ、有栖川! そう、有栖川お姉様ですわ!?」


 有栖川……? 有栖川と言うと……。

 その言葉で俺の脳裏に浮かんで来たのは、


『クヒヒィ! またしても哀れな獲物一匹ゲットなりぃぃ♪』


 と言ってわるぅい笑顔を浮かべる、桃色ツインテール幼女の姿であった。




(いやいやいやっ! あり得ないって!)


 有栖川聖歌、恐らくあの幼女は俺がこの島に入って会って来た女の中で一番《お姉様》という言葉と縁遠い人物である。あんな将来性の見込めない、幼女体型幼女の、どこに《お姉様》の要素があると言うのだろうか?


「……それに、どうして俺が責められるんだ? 悪いのはあいつの方だろうが」


 将来性の見えない、《お姉様》とは縁遠い女である以上に、この少女が俺に対して決闘を申し込む意味が分からない。そもそもあの有栖川が俺に対して能力を使って縮めて、あまつさえ人を殺そうとしたのだである。どちらかと言えば悪いのはあちらの方であろう。

 それなのに、このエリザベスはどうして敵討ちみたいなテンションで向かって来るのだろうか?


 俺はそう聞くと、彼女は「あんたは、なにを言ってるのよぉ!」と頭に怒りのマークを浮かべていた。


「ちゃんと聞いているのよ! 皆が言うには、あんたは強姦魔で、女が迫って来たら襲わずにはいられないと言う変態でしょう!? だからそんな変態なあんたから皆を守るためにお姉様が立ち上がり、お姉様はそのせいで……そのせいでぇ……!」


 「うぅっ……」と若干涙目になりながら、エリザベスは哀れみの感情を露わにして見つめていた。その様子を見ていたクラスの連中は俺に対して少々の侮蔑を見せていた。


――――女の敵。

――――変態。

――――死んじゃえ。

――――死んじゃえ死んじゃえ。


 こそこそと、ひそひそと。

 陰口をたたく、クラスメイト達の痛い視線。


――――これ以上、この教室に居たらいけない。


 俺はそう思い、机から立ち上がる。


「……分かった、真偽はともかくとして決闘とやらは受けてやろう。それでこの決闘を勝利したら、俺はなにを貰えるんだ?」


「もう既に勝った後の相談なんて! 俗物的とはいかにも下賤な男子が考えそうなことですわね!」


 ぶるぶると身体を振るわせながら、エリザベスはこちらをギロッと睨み付けていた。そう言う訳ではないと言いたいのだが、変な風にこちらを見ている彼女にはなにを言っても聞く耳持たないだろう。

 だからこうなったら決闘で勝って、俺の言う事を聞いてもらうしかないだろう。


「……良いでしょう! それならば私のお姉様の仇をこの私の『淑女の嗜み(マイフェアレディ)』にてあなたを倒してみせますわぁ! おーほほほほっ、ゲホギボッ……」


 大丈夫なのか、この女?

 ちょっとばかり咳したにしては、聞いてはいけないような声を聞いた気がしたのだが……。




「――――じゃあ、勝負と参りますわよ!」


 エリザベスへと運動場へと連れてかれた俺。運動場は天然の砂地が敷き詰められており、トントンと何度か叩いてみるもしっかりとした良い地面だ。ここが人工的に作られた島と忘れるくらいには。


「しっかしまぁ、良くもまぁ、これだけの場所を確保できたな」


 運動場には、既に戦いの場が作られていた。

 しっかりとした縄で囲われた2人が戦うには十分すぎるほどの円状のスペース、それはまるで相撲場を思わせる戦場である。さらにはご丁寧にバスケットとかで使うような表示式のタイマーがある。


「そのタイマー、体育館から持ち出して来たのか? 結構な距離あるだろう?」


 体育館と運動場のこの会場までの距離はさほどは遠くはない、けれどもあくまでもさほど(・・・)である。バスケットに使う黄色い重いあのタイマーを、ここまで持ち込むのはかなりの重労働だと思うのだが……。しかし、彼女はまるで苦でも無いと言った様子で、「ふふん!」とあまり大きくはない胸を張る。


「このくらい私の異能力、『淑女の嗜み』を使えば問題ありませんわ。

 ――――さて、ではルールを決めましょう」


 と、彼女はどこからか取り出した銀縁丸眼鏡をかけていた。そしてタイマーを操作して『10:00』と時間をセットして、相撲会場の右側に立つ。


「簡単なルールとしましては、相撲に近いものとします。けれどもそれだと勝負があっさりと着いてしまいますので、ポイント制と致しますわ」


「……ポイント制?」


 そう言って、エリザベスは簡単にルール説明をし始めていた。


『・時間は10分間

 ・相手を枠内から押し出したら2ポイント、

  足と手以外の部分が地面に着いたら3ポイント

  それ以外に相手が自ら円を出るなどの自滅行為は1ポイントとする

 ・ポイントを取った後はポイント確認のために、一度仕切り直すために時間を一度停止する

 ・10分以内に敗北を認めるか、もしくは10分後のポイントが多い方を勝利とする』


「……以上が、この勝負の簡単なところでしょうかね?

 面倒そうな、ルールの穴を吐くような奴はその都度相談という事でいかがかしら?」


「悪くはない……」


 一応、ポイント制で話を着けようとしているのも良いし、もしその間に負けを認めればすぐさま終わりに出来る手段を用意しているのも良いだろう。少なくとも今のところルールの穴とやらは見受けられないし、もしあったとしたらお互いに話し合うという事を決めて置くのは良い事だろう。


「――――が、どうしてそこまでルールにこだわる? お前の立場からして見れば、ルール無用で葬る事だって出来るんじゃないか?」


「それは簡単な事よ」


 と、彼女は別に特別じゃない事のように言う。



「どんなに憎らしい相手だとしても、ルールに沿った戦いにて戦う。それが淑女(レディ)の矜持と言う奴ですわ!」



「……なるほど、良い心がけだな」


 そう言った誇りを持った奴は素直に尊敬できる。もっとも尊敬できるだけであって、こんなちっぱい女を認めるという事ではないが。


「ふんっ! あなたに褒められようとも、嬉しくもなんともありませんわっ! さっさと準備に着いてくださるかしら!?」


「了解した」


 俺はそう言って、彼女に向かい合う形にて相撲場へと足を踏み入れる。

 彼女は不敵な笑みを浮かべる、そして言葉にはしていないが口の動きで彼女が言いたい事は大体分かった。


 彼女はこう言ったのだ。

 ――――私の勝ちよ、と。


 まぁ、居るよな。戦う前から自分の勝ちを疑わない奴は。俺はその程度に思っていたのだが……。

 お互いに向き合ってそろそろ勝負が始まるかとした時、俺は1つの疑問を思い浮かべる。


「……なぁ、おい。今、この場には俺とエリザベス、お前しか居ないよな?

 2人しか居ないのにどうやってタイマーを動かしたり、止めたり――――」


「――――始め、ですわ!」


 いきなりかよ、とそう思って俺は腰を落としていつでも技を放てるようにする。

 しかし、彼女は動かない。いやこちらに攻めて来ようとはしてこなかった。むしろ優雅にその場に立っているだけであり、こちらに攻め込もうとはしてこない。


(これでどう倒すつもりだ……? いや、そもそもが俺は男で、あいつは女。普通に力関係で言えば男である俺の方が有利だが、『淑女の嗜み』ってのはどういう――――)


 と、俺が深読みして相手の出方をうかがっていると、彼女は人差し指を前に出して手で銃の形を作ってこちらに向ける。なにをするつもりだと勘ぐっていると、彼女は「ぱーん」と、


 そう、ぱーんとなにかを撃ち出す真似をした。


 ――――次の瞬間、俺は枠の外へと押し出されていた。


「はぁっ?」


「枠外に出た、これで2ポイント先取ですわ」


【佐々木銀次郎 0 - 2 エリザベス・シェイクスピア

 残り09:35】

金髪女vs古武術家の対決は、

次回にも続きます。

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