たいほされる、なう。
やった、お気に入り1件入った!
……これが外されないように、また増やすために頑張ります。
――――名前は?
佐々木銀次郎、です。今日からこの夢島高等学校に入学するためにやって来ました。
――――なるほど。それじゃあ彼女、有栖川聖歌ちゃんとの関係は?
初対面……です。校門に入ると襲われたため、志に従って相対しただけのこと、です。
――――ふむ、それでは行きずりの犯行である、と。
「だからっ! なんで結局、そんな結論に達するんだよぉ!」
ばんっと鋼で出来た金属製の机を叩きつけると、目の前に座った青い制服の男……この学園のガードマンは「落ち着けっ!」と叱咤される。
警備員であるこの男に捕まった俺は、学園の近くにある警備員達の宿直室へと連れてかれた。ここで尋問をするつもりらしく、俺は椅子に座らされる。照明器具などの部屋の雰囲気も相まって、尋問されてる雰囲気である。
「あなたの、佐々木銀次郎くんの言い分は十分理解した。
"校門に入ったところ、いきなり縮小されてしまうという攻撃をされたために奮戦した"というのが、あなたの言い分でしたよね」
「そうだっ!」
突拍子もない話なのは分かっていた。だけれども、ここで嘘を吐いてはいけないだろう。
故に俺はこの人に対して、嘘偽りなく答えている。そのはずである。
「――――でもねぇ、それじゃあこれはどういう事だ?」
ガードマンが差し出して来た、アイパッド。そこには学園前の、俺と有栖川が相対した映像である。
有栖川は俺の事を罵っていたが、その言葉の内容は聞いた事があるものばかり。つまり加工した映像ではなく、本物なのだろう。それだけならば良かった。
「――――なっ?!」
そこに映っていたの、間違いなく俺だった。しかし、俺の体験とは別に……俺の身体は縮んでなどいなかった。
「君の言う通りだとすれば、ここに映っているはずなのは彼女と……縮小状態の君なはずだろう? けれどもここに映し出されている中だと、君の大きさは変わってないが?」
「そ、そんな馬鹿なっ! 俺は確かに……嘘などっ!」
「しかし、この映像は君とは違って嘘偽りなど吐くはずもない、公正な第三者機関からの映像だ。勿論、裏で2,3の映像加工はあっただろうが、それでもこういう仕事は信用が大事なのだから。
――――さて、問題だ。君よりも遥かに信用がおけるこの管理会社からの映像よりも、君を信じる理由はなんだい?」
そういうガードマンの目は、完全に犯罪者を見る瞳であった。
一方の俺はと言うと、完全に混乱していた。
(――――なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだっ!
俺の目は正しかった俺の頭は正しかった俺の心は正しかった……なのに、映像だと縮小していない? これはいったいどういう事なんだ?)
俺の目は正常だ、だが映像は違う。
俺の頭は正常だ、だが映像は違う。
俺の心は正常だ、だが映像は違う。
――――なにを信じれば良いのか分からない。
「だ、だが嘘は言ってないんだ! 本当だ!
俺はこの学園の入学許可も貰ってる、ちゃんとした生徒だ!」
「ほぅ、それは可笑しいな。
ここは夢島女学園、その名の通り女生徒が通う学園のはずだが?」
「なっ……?!」
それは本当に可笑しな話だっ! おかしいおかしいおかしいっ! 流石の俺でも《普通の学校》と《女学園》の違いくらいは理解しているはずである。
それなのに……夢島女学園だって? どうして、この学園を警備している者が自分の警備している学校の名前を間違えるんだ? それも、そんな大きな部分を。
「さぁ、ロリコン犯罪者さんよ。いや、女学園という女の園に侵入した事も含めれば、さらに罪は重くなるか。
――――言い残す事はあるかい?」
「くっ……!」
完全に打つ手なし。俺に出来る事はなかった。
ガードマンさんの言うことを認めれば、俺は《女学園に侵入して幼女を襲った変態》という事である。けれどもそれを否定出来るほどの証拠はないという事である。
(どうすれば、良いんだぁ!)
「さぁ、どうするんだ? 少年よ」
うぅっ……といううめき声を上げるしかない俺。
迫る警備員の魔の手。
そうして机にバンッと、憤りのない感情をぶつけていると扉が開いて光が差し込む。
「ちょっと待って貰えるかな? 警備員さん」
そうして光と共に現れたのは、銀色の髪を頭の後ろで三つ編みにした白いセーラー服を着た女の子。頭に薔薇のような髪飾りを左右両方に付けた彼女は、しっかりと両の眼を見開いて、俺とガードマンの2人を睨んでいた。彼女はニコリと笑うと、白いセーラー服の中から1枚の紙を取り出していた。
「ガードマンさん、ちょっと席を外して貰えますか?
そこの彼に2,3、聞きたい事があるんですよ」
「しっ、しかしっ!」
「大丈夫、いざとなればこちらで責任を取ろうじゃないか。
それにお子さんに言いたくはないだろう? 一夜の過ち、いや猫女達との共演を」
彼女が囁くようにして耳打ちすると、途端にサッと青くなるガードマンの顔。そして必死に弁明した後、それが通じない相手だと悟ったのか、そっと部屋から出て行った。
(何者だ、この女?)
入った時から、只者ではないオーラは感じていた。
彼女の持つ気迫から俺は、彼女を強者だと感じていた。それは武道を嗜む男が持つ、強者を見抜くセンスが発動したからだ。
「……さて、ジャマモノが居なくなったところできちんとした、大人の話し合いに行こうじゃないか。佐々木銀次郎君」
「お前の……名前は?」
俺が強者にそう尋ねると、強者は不敵な笑みを浮かべる。
「私の名前は、新居智恵理。
やっとここに辿り着けたわ、佐々木銀次郎君。あなたの今後の運命を左右する、重要な場所に」
彼女は強者の証、人の腕を掴めるほどのEカップを机の上に乗せながら、俺にそう尋ねた。
机に乗るほどの大きさのおっぱい。
それは神に愛された者の証であり、同時に男の視線を引きつける立派な物の証明である。
「しかし君も災難ですなぁ、まさか有栖川聖歌に初っ端から出会ってしまうとはね。
彼女はうちの学園の中でもかなり性的と言うか、女の子なのに女の子が好きすぎると言うか、男の子に対して過激的に排除したがると言うか……まぁ、彼女の能力が幻惑という、旗からは証明し辛いものなのも変なのだが」
なんか申し訳なさそうな目でこちらを見ているが、俺はそんな事はどうでも良かった。
だって! 乗ってるんだよ!
おっぱいが、机の上にしっかりと乗ってるんだよ! それも彼女自身はさも当たり前のことのように!
(恐ろしい女だぜ、まったく……)
もし仮にだが、有栖川聖歌の代わりにこの新居智恵理が相手だとしたら、俺は多分やられていた。
おっぱいだけじゃねぇ、身体の放つ強さのオーラというのがあんな胸と一緒でぺらっぺらの有栖川とは大違いだ。勿論、おっぱいが一番重要な所ではあるが。
――――さて、これ以上やると露骨すぎるから止めて置こうか。
「……まず聞きたいのは、この夢島高等学校はさっきの警備員が言うように女子高なのか?」
「そこから聞くのかい? まずは、自分の身体がなにか異変があったことを聞くべきだと思うがね」
確かに、あの縮小については聞いておきたい所ではある。しかし、それも大事だがこの学園が女学校か、共学校なのかも俺にとっては重要な情報である。
なにせ、俺はこの学校以外は受験していない。イコール、もしこの学校の入学が認められないとしたら俺は学校に入学出来ない。つまりは浪人生になってしまう。
1年の浪人、それは男にとっては非常につらいのだ。親とか、世間とか、それから親とか……。
「……あれは、ね。あの警備員に対しては記憶違いと言うべきでしょうか。
安心してください。この学校は5年前までは女子高だったけれども、現在は共学校。無事にあなたはこの学校に入学出来ますよ」
「良かったぁ~。浪人生活だけはやりたくなかったからな」
「――――それが本当に良かったかどうか、微妙な所ではありますが」
新居智恵理はそう言って、1枚の書類を取り出していた。そこには俺が戦った、有栖川聖歌の情報が書かれた書類であった。
「有栖川聖歌。聖歌と書いて《のえる》と書くのは、誕生日が12月25日生まれだからこそ両親がしゃれた感じに名前と漢字を操作した結果だそうです。まぁ、両親の年代的な意味合いもあるかも知れませんがね。
――――有栖川聖歌、高校1年生の15歳。能力名は『近いようで遠い異世界』。相手の脳内に対してムリヤリ錯覚を引き起こし、自らが丁度良いように相手に異世界を与える能力」
「さっきからスキル、スキル……とは言っているが、それはなんだ?」
俺の質問に対して新居智恵理は「そこからですか……」と手で頭を押さえていた。頭が痛いのか、それともそんな所から説明しなければならないのかという事なのか。
まぁ、そんな事はどうでも良いのだが。
「この世には世間には知られてはいないが、能力者と呼ばれる未知の力を持つ者が居る。何故だかは分からないんですが男性よりも圧倒的に女性に多く見られるのだけれども、なんらかの確立において生まれ出でる能力者というのはこの世の理屈を歪んで捻じ曲げる力がある。
――――有栖川聖歌も、またそう言った能力者の1人。彼女の能力は光を歪ませて、捻じ曲げて、脳に錯覚という形で洗脳させるという能力です。この能力を受けると人は第2の世界に連れて行かれて……まっ、分かりやすく言い換えるとすれば不思議な不思議な、アリスが迷い込んだような不思議の国へと落とすという能力ですね」
――――その能力を味わったあなたなら分かるんじゃないですか、と彼女はそう言った。
確かに、彼女の説明を受けて俺はなんとなくではあるが、彼女の能力の本質というものを理解した。
(要するに、幻覚の一種か)
ガードマンが見せたあの映像では、俺は縮んでいなかった。
だけれども俺の記憶では、俺は縮小させられていた。
その矛盾の答え、それが"幻覚"である。
一歩歩いたと俺の頭では思っているが、実際の映像では俺の身体は動いていない。
彼女が巨大化したと俺の頭では感じているが、実際の光景は彼女は巨大化していない。
ただのごまかしだと思うと痛い目を見る。人間の脳と言うのは嘘であったとしても、それが脳内で本物と感じてしまうと実際にそうなってしまう事もある。少量の血しか流していないのに、大量の血を流していると感じてしまって死んでしまったケースもある。あくまでも極端な話、ではあるが。
新居さんにも確かめてみた所、彼女の異世界の能力内で死んでしまうと植物状態……生きながらにして死んでいる、呼びかけても意識がない状態になってしまうという。
「なかなかに厄介な能力……だな。もっとも、彼女本人はさほど脅威ではなかったが」
俺がそう言うと、新居智恵理は「それは仕方がないですよ」と何故か彼女の肩を持つような発言をする。
「普通、人間というのは自分の身体がそこまで変化してしまうと、焦って動けません。彼女は、その能力でほとんどの相手を仕留めて来たので、戦闘経験があまりにも少ないんですよ。まぁ、これは他の能力者も含めて、ほとんどの能力者全員に当たる事ですが。
あなたは精神で乗り切ってはいましたが、彼女の精神支配に対してそんな力技で対抗した人は初めて見ましたよ」
「そうか? むしろ、武術家としては普通だと思うが?」
まぁ、そうか。普通はその武術家と戦う機会が少ないのか。
俺は祖父に連れられて幾人かの武術家と戦う機会があった。
火炎を自在に操ってあらゆる物を焼き斬る事を得意とする、侍。
度重なる訓練によって骨を身体から出来るようになって骨を武器とする、拳法家。
海外の精霊を四肢に宿らせて敵を打ち倒す、空手家。
未来の技術と未知の機能によって生まれ出でた新時代の、格闘家。
そんな化け物揃いの古武術家達に比べれば、有栖川などマシな類であろう。彼女のように、身体を縮小化して来る者が居なかったため、対応に困ってしまったが……。
「まっ、ともかくそう言った能力者を外に出すと、困った事態になってしまう。
――――故にこう言った、島の上にあるこの学園を隔離施設として能力者を集めていた、という訳です」
"こうして一般人が迷い込んだのは予定外ですが"と、彼女は答えていた。
まぁ、なにはともあれ、俺はこの学園に通えるのだ。それだけが分かってよかった、よかった。
(……ちょっと待てよ)
そう言えば、さっき彼女は気になる事を言っていたな。
そう、確か彼女は言っていた。
ここは、能力者を集めるための隔離施設であり。
なおかつ、能力者というのは圧倒的に女性に多く発現するのだと。
(おいおい、待てよ。ちょっと待てよ。
あのガードマンは女学園だと勘違いしていたと言っていたが、本当は――――)
「まぁ、とりあえずの問題は後で考えるとしまして――――」
俺がちょっと嬉し、いやちょっぴり嫌な事を妄想している間に、その真実を新居智恵理は告げる。
「ようこそ、男女比2:255の夢島高等学校へ」