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ぶっとばす、ようじょ。

 ――――常に正直者であれ。ただし性はほどほどに。


 頑固者として、町のゴミ出しの曜日変更すら頑なに変えようとしなかった我が祖父が、自らの格言を変えたのは俺が小学4年生になった頃だった。その頃の俺はと言うと、学校で男と女の違いがようやく分かり始めていた。それまでの俺はと言うと、まことに恥ずかしい話ではあるのだが、男と女の違いは身体が柔らかいか、そうでないかくらいかと思っていたのだ。

 しかし、クラスで一番おませな女の子の話によると、男と女はその成長に大きな差があるとの事だ。


 男はたくましく、女は美しく。

 互いに本能として求め合うために、情緒的に、そして性的に成長していくのが普通なのだと語ってくれた。


 その女の子の言う通り、確かに大人の男の人はカッコよく、女の人は色っぽくなっていたが、まさかそれが自分達にも起こる事なんて思ってなかった。いや、なんとなくは自分の中で感じ取っていたが、その時点でしっかりと意識したのだ。

 俺はこういう風に、大人になっていくのだと。男になっていくのだと。


 そう考えると、何故だか急に女の子を見ていると身体がざわついた。初めは何かしらの病気かなにかだと疑うも、父に相談した所それが男としての普通の成長なのだと。

 なるほど、そうなのかと納得して、じゃあ自分の心の支えである『常に正直者であれ』という言葉を実践してみた所――――


 ――――何故か、急に祖父のお叱りが飛んで来た。


 訳が分からない。俺は祖父の言う通り、正直者であった。

 自らの心に従い、自らが欲するものに「欲しい!」と迫っただけである。


 おっぱい。

 大人の女の人のみが持つ魔性の果実。


 大きさに貴賤はないが、だけれどもその果実はたわわに大きく実れば実るほど、俺の心は揺れ動いた。

 おっぱいこそが至宝、俺が求めるものなのだと――――男には出来たとしても筋肉の塊であって、あそこまでたわわで胸を突き動かすおっぱいは出来ないらしく、だから俺は女の人に頼んだ。

 "是非、その魅惑的なおっぱいを触らせてくれ!"って。


 それからだったか。

 祖父の格言が先程の物に変わり、俺がこのような話し方をするように変えられたのは。




「お前のそのぺったんこな体型で、俺の本能リビドーが止められると思うなよぉ!」


 縮小して、ありとあらゆる物が巨大化している世界においても、少女の胸の大きさは変わらない。10分の1サイズに縮んでしまって、140cm前半くらいの少女が14mくらいに巨大化していたとしても、AカップはAカップ。身体つきが変わっていない以上、AカップはAカップなのである。

 普通ならこう言う場合は胸が大きい女の子が出て来て欲しい。胸が大きければその大きな胸に挟んで貰えたりするのかと妄想してたぎってくるのという最高なシチュエーションなのに、相手は幼女体型。


「"男は女に手を上げるべきではない、出来うる限り"。

 俺がさっきの技を教えて貰った師匠から教わった格言だ。女は男が守るべきというのが重要という意味の格言なのだが――――」


「そ、そうよっ! 私は女! あんたの格言かなにかが大切だとすれば、私は傷付けちゃいけないんじゃないの!?」


 と、俺の言葉に対して有栖川が少々涙目で言って来るが、俺は「だが、出来うる限りだ」と答える。


「女は確かにか弱い。そう、男に比べれば弱いのが多い。しかし、全ての男がたくましい訳ではないように、全ての女がか弱い訳ではない。

 故に――――暴力に対しては、男と女問わずに対処する! それが俺の格言だぁぁぁぁ!」


 俺は「はぁぁぁぁぁぁ!」と、力を込めて向かうと、有栖川は「ひぃぃぃぃ!」と怯えた声を出す。


「なんでよ、なんでよなんでよ、なんでよなんでよなんでよ! なんでこんな縮小された小人なんかが、この私に刃向えるのよ! 明らかにおかしいおかしいおかしい、おかしいわよ!

 私が負けるなんて敗けるなんて、マけるなんて!  ありえないのよぉぉぉぉぉぉ!」


 もう訳が分からないと言ったように、有栖川はこちらへと走って向かって来る。迫って来る巨大な脚に対してこのままだと踏みつぶされるなと思っていると、違和感を覚える俺。


(……あれっ? 可笑しい、さっきよりも縮尺が狂ってないか?)


 1/10なら足裏のサイズでも十分に人を踏みつぶせるくらいに巨大なはずだが、今はその大きさが俺の身体と同じくらいになっている。それでも十分巨大ではあるが、先程よりもその大きさは縮んでいる。

 恐らくは彼女の能力が、彼女が正気を失っているなら《俺を縮ませる》という謎の能力が弱まっているのか?


「……そうか、気を失えば俺の縮小は解除されるのか」


 それが分かった俺は、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「ひぃっ!」


 俺にその事を見破られた彼女が慌てるも、時既に遅かった。



(#これから先の内容は、幼女を男子高校生が殴るというある意味ショッキングな内容なために有栖川さんをクマさんのぬいぐるみとしてお伝えします)



「佐々木流流狼戦闘術、古城狼(こじょうろう)!」


 俺がそう言って、身体を大きく動かして足を振り回す。一般的には回し蹴りと称されるその技は、的確にぬいぐるみの胸元へとぶち当たり、ぬいぐるみはこてんっとその場に転がる。その後、ぬいぐるみはゆっくり元の位置へとダルマの要領で元に戻ろうとするも、俺の攻撃は止まらない。

 ぬいぐるみの足を蹴り上げて宙へと吹き飛ばす。大きさなんて関係ない、なにせ相手はただ綿が詰まっただけのぬいぐるみなのだから。

 空へと飛ばされたぬいぐるみは空中で風によってじたばたと揺れるが、俺はその尻を蹴り飛ばす。さっきよりも良く飛んだぬいぐるみの首にそっと手を置いて、衝撃波を放つとぬいぐるみの口からガハッと綿が飛び出す。


 どうやら、かなり縮小状態は解除されたらしく、俺とぬいぐるみの大きさはさほど変わらないくらいにまでなっていた。元のサイズの身長(たっぱ)が俺と同じなのに、無理矢理同じサイズに縮めたせいなのか、腕や足などはかなり可笑しな事になっているが、ここまで来たらあと一息である。


「佐々木流流狼戦闘術の1つ、古城狼(こじょうろう)。この技が生まれたのは戦国時代よりも少し後の頃だと言われている。

 古い城に住みつく兵士崩れの傭兵達数十人をただ1匹の狼が首を引き千切って食い殺したという、そんな嘘みたいな話から生まれたこの技は相手を蹴り飛ばす《牙狼(がろう)》、相手の身体に衝撃波を与える《狼吐(ろうと)》、そして自身の身体の熱量を上げて衝撃の威力と放つスピードを上げる《昇狼(しょうろう)》。この3つの技を的確に、相手の意識を奪い取るという組み合わせ技」


 ――――この技を発動したが最後、意識を刈り取るまで止まらない狼となる。


 止まらずに、一気に俺は最後までぬいぐるみで倒す。


 ぬいぐるみを倒す。

 縫い包みをたおす倒す。

 ヌイグルミをたおす倒すタオス。


 ぬいぐるみを倒す縫い包みをぬいぐるみを倒すぬいぐるみを倒す縫い包みをたおす倒すヌイグルミをたおす倒すタオス縫い包みをたおすぬいぐるみを倒す縫い包みをたおす倒すヌイグルミをたおす倒すタオス倒すヌイグルミをたおす倒すタオスたおす倒すヌイグルミをたおす倒すぬいぐるみを倒す縫い包みをたおす倒すヌイグルミをたおす倒すタオスタオスぬいぐるみを倒す縫い包みをたおす倒すヌイグルミをたおす倒すタオスぬいぐるみを倒す縫い包みをたおす倒すヌイグルミをたおす倒すタオス――――。


 そうして3つの、相手の意識を飛ばす程度(・・)の技を組み合わせた俺の技はぬいぐるみの……あれ、ぬいぐるみだっけ? いや、違う。そうじゃない。確かこれは"人"だったはずだ。


「そうだ、これは幼女だった」


 気付けば、ぬいぐるみは元の少女の姿へとなっていた。

 一応、知らず知らずのうちに手加減をしていたので顔に傷が残ったりはしていないが、幼女の身体は完全に泥と埃と土煙で汚れていた。汚された、といっても過言ではないだろう。


「元に戻れたか……」


 気付けば、俺の身体は元の大きさに戻っていた。見慣れた光景の姿に安堵を覚えつつ、携帯を取り出すと既に時間はお昼を回っていた。

 既に、始業式は終わっているのだろうか。人気(ひとけ)がすっかりと感じられなくなったのを感じつつ、ちょっと無茶をしたので保健室でも借りて休もう。

 

 その後家に帰ろうと思った俺の肩に、ぽんっと手が置かれる。



「ちょっとお兄さん。話、聞かせて貰えるか?」



 それは青い制服を着た、悪魔(ガードマン)だった。

幼女を吹っ飛ばすのは、

いけないことです。

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