ささき、るろう。
武蔵坊弁天の技は、全て爆発戦術。爆弾を用いる戦術である。
これは彼女がその爆弾の軌道を全部読めているからである。
世の中には天才と呼ばれる者が居るが、彼女もまたその1人。彼女にはこの世の、正解というものが見えている。『1+1=2』という簡単なものから、先も見えない地球温暖化の特効薬と成りうる技術の開発も、人体洗脳も、彼女にとっては全部いっしょくたの問題である。なにせ、全部答えが分かっているのだから。爆弾を、その中でも炸裂弾を好むのもそれと同じである。
炸裂して降り注いで来るガラス片の軌道も、不規則に思えるようなその破片も、彼女にとってはその落下軌道というものが見えているのだから。
故に、そんな天才である彼女には色々な道があった。
運動の道に進んでも、学問の道に進んでも、演芸の道に進んでも……どんな道に進もうとも、彼女の実力さえあればどの分野でも一流と成りえるだけの才覚を持っていた。
けれども、それではつまらない。
だからこそ彼女は演出することにこだわる事にした。面白いことになるように、そうなるように。
それには事の顛末が分かっていてはつまらないから、だから……。
後は簡単である、自分の電気を操る能力を用いて自分の脳内を――――。
これ以上は詮無きことである。悪役にも実は裏があった、悪に目覚めるきっかけがあったなどの話なんて――――本当に面白みもなんともない事である。
☆
「退路を断たれてびっくりしてるだろうけれども、私の投げた爆弾の処理はしなくて良いんですかぁ?」
そう言って笑いながら今度は白煙を生み出してその中へと隠れる武蔵坊弁天。そんな中でも、先に投げていた炸裂弾のガラス片が降り注いで来る。
「また、あのガラス片っ!?」
煙のせいでガラス片が見えないので上に注意する。腕で防ぐも俺の腕にガラス片が刺さり、ぷしゅしゅっと俺の腕から煙が立ち上っていく。そして、身体を再び弁天の拳の一撃が加わる。
「気をつけてねぇ、この炸裂弾には酸の一種を浸したガラス片を使ってるからさ。腕に刺さってもちょっとだけ肌が焼ける程度の濃度だから死ぬ事はないだろうけれども、目に入ってしまったらもう、水ですぐに洗い流さないと失明の危険性すらあるよ。勿論、私に迫って来るのは良いよ。ただしガラス片を完璧に避けきる、この私に一撃を与えられるかは別としてね」
そう言いながら煙から飛び出した弁天は、再び爆弾を取り出して今度は俺の方に向かって投げた。俺の方に向かって投げられたそれは、途中で爆発して酸付きのガラス片が迫って来ていた。
「……このまま、一方的には!」
俺はそう言って、そのまま床を蹴って突っ込む。その最中に酸付きのガラス片の所に突っ込み、ガラス片を防ぐために俺は服を千切ってタオルのような形になるように引っ張る。そして高速でガラス片を服で叩き落とす。
「おおっ……ガラス片を叩き落とされちゃったか。ありゃりゃ、最悪」
「おっ、らぁっ!」
そしてガラス片を含んで繊維が熔けつつあるタオルもどきを振るう。それをガラス片を避けるのと同じく、弁天はサッと避けていた。俺も当たるとは思ってはおらず、次の技の布石のために放っていた。
「――――あっ、れ?」
しかし、そのタオルは見事なまでに彼女の顔に"ぶつかっていた"。彼女は自分の肌が酸によって焼けたことにようやく気付いたようで、「マジかぁ……」と信じられないものでも見るかのようであった。
「いやぁ、久々だねぇ。こうやってダメージを喰らうだなんてちょっぴり考えてなかったよ。
――――なるほどなるほど、そう言う事。こりゃあ、彼氏いない歴がイコールで年齢な私からしたら、とーっても面白い事だよ?」
「……何のことだよ」
そう言いながら彼女はクスクスッと、自分の酸で焼けた肌を手でそっと撫でる。その上でさらに嬉しそうに笑っていた。
「いや、なんでもないさ。ほんとーうに、なぁんにも関係ないんだからさ。
君の名前って、佐々木の銀次郎だっけ? なるほど、なるほど、なるほど……だねぇ。他の剣豪の、たとえば宮本武蔵や沖田総司、伊達正宗とかだったらまた話とかだったら別だっただろうし、その程度だったら私は倒せなかっただろうねぇ。けれども、佐々木銀次郎……だから倒せたのか」
なるほど、なるほどと納得して、さらに嬉しそうだった。まるで初めておもちゃを買い与えられた子供のような……。
「――――これは本当に面白いよ。面白くて、楽しくて、凄すぎて娯楽として楽しめてますよねぇ。生まれてから初めて興奮したよ。本当に、本当に、ほんとーーーーうに、面白いんだよねぇ!
さぁ、もっと遊びましょう! 楽しみましょう! こんなのは、武蔵坊弁天という人生の中でもサイコーのエンターテイメントだよ! さぁ、やりましょう! すっごーーーーく楽しみましょうやあ!」
「……急にキャラ変わって、びっくりなんだが」
キャラが変わったことに困惑していたが、それ以上に俺は自分の能力とやらに困惑していた。
――――なにかが起きた。
明らかに届かなかったはずなのにも関わらず、何故か攻撃が届いていた。
(意味が分からん……。なんなんだ、これ?
――――けれどもこの状況を打破するには、好都合のようだし……とりあえずは、使わせて貰うか)
俺はとんとんっと、床を叩いて腰を据えて構える。そして右手を前に出して、拳の先を弁天へと向けていた。
「では、この能力と古武術を用いてお前を――――」
「うん、じゃあ再びこれで行こうかなぁ?」
そう言って弁天は再び爆弾を取り出す。それを自分の足元に落として、白い煙の中へと隠れた弁天はそこから大量の爆弾を投げ出していた。爆弾が破裂して先程と同じく、ワンパターンにガラス片が迫って来ていた。
それに対して俺は避けるそぶりすら見せずに、ただ相手が居るだろう場所を見据えて拳を向ける。そして、まったく距離が届いてないと分かっていながらも、俺は――――ただ放つ。
イメージするは、手。
眼前のものに対して向かって行く、掴み取ろうとする意思が反映された新しい腕。そこには距離も、障害も、視界も、全てが関係ない。
――――大切なのは、掴み取ると言うイメージだけ!
「佐々木流流狼戦闘術、長距離勤狼!」
距離が離れてようが、
酸のガラスを放とうが、
煙に隠れてようが、
「ひゃんっ!」
そのおっぱいを、掴み取る!
……あぁ、あとついでに倒しておこう。うん、そうしないとまるで俺がおっぱいを掴みたいだけに、この能力を手に入れたみたいじゃないか。
それは違う、うん。本当に違うから。
あまり関係ない話ですが、馬頭鬼さんの「JD→SM」という作品では「剣だけを求めてるので、剣以外の能力を貰うのはあまり嬉しくない」という表現があったのですが、
今作の主人公は、「便利なものは使う」という現代っ子観点からばんばん使います。




