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ローラさんは今日もゴリラです  作者: 吠神やじり
終章 ローラさんは今日もゴリラです
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第八十五話 ゴリラと愉快な仲間たち

 上野動物園、表門前。相変わらず遊んでいるゴリレンジャー。


「だからな、全員揃って決めゼリフだよ! これから決着をつけようってんだから、そのくらいはやらねえと」


「いえ、ですからローラさん。今はそれどころじゃ……ん!? ああ、無線が入ったんでちょっと待ってください。……あっ、初代さんですか。ええ、一緒です。…………地下? はい、分かりました。すぐに伝えます」


 ローラさんは頑なに決めゼリフを言いたいと訴える。だが、そもそもゴリレンジャーは四人しかいない。

 ゴトウダの立場について、ゴトウダ本人とヨシダさんが話し合っている。


「私は裏方だからね。いや、ホントに。言ってみれば司令官的なポジション?」


「そうですか? むしろドラ○もん的なポジションかと……」


「そうね、色んな道具を用意するしね……って、誰がドラ○もんよ!」


 ローラさんがニヤニヤ笑いながら口を挟む。


「ドラ○もん。俺、空を自由に飛びたいな」


「うるさいわよ、そこのゴリラ。ビルから飛び降りるか、ヤバいクスリに手を出すか、好きな方選びなさい」


 上野動物園表門前は、緊張感とは無縁の空間と化していた。今朝までは、集まったヒーローたちの緊張が公園全体を包んでいた。

 ピリピリした空気の中で、動物園からガネーシャが現れた。そのガネーシャに挑んだのは、デカいオッサン。のちにヒーローたちは語る。


『なんか、あの辺りから妙な空気になってたんだよな……』


 象とオッサンの戦い。その最中に公園中央でナマコが軽トラックにひかれ、挙げ句の果てにはゴリラと愉快な仲間たちがくだらない事で言い争いを始めた。


「じゃあ、今だけ! 今だけだから! 今だけは、お前もゴリレンジャーな!」


「いや、だから! 爆薬も四つしか用意してないのよ! だったら、最初から言ってよ!」


「なにやってんだよ! お前、それでもドラ○もんか? ネコ型ロボット何年やってんだよ!」


「一日だってやった覚えないわよ!」


 遠巻きにゴリレンジャーを見つめるヒーローたちがつぶやく。


『アイツら、一体なんなんだよ……』


『なあ、俺らってなにしにここに来たんだっけ……』


『動物園から動物が逃げないようにするためだろ、確か』


 確かにデカいオッサンと超重量級クリーチャーの戦いは、見ている者を震撼させた。特にガネーシャを仕留めた最後の大技は、動物園前に大きなクレーターを作り、更に周囲のヒーローを数名巻き添えにするほどの被害を出した。

 だが、そのデカいオッサンも今はチ○コを押さえてうずくまっている。


 ビルダーピンクは何度もため息を繰り返す。呼吸器官に問題があるのかと疑いたくなるほど、何度も深く息を吐く。


「すいません……。本当に真面目にやってもらえませんかね……。今、連絡があって……、『ホワイト』の拠点の場所が分かったらしいんですけど……」


 ため息交じりに途切れ途切れで言葉を発する。どうせ真面目に聞く訳が無い。ピンクはそう思っていた。あらぬ方向に目線を向けながら、やる気が感じられないゴリレンジャーに『ホワイト』の拠点の場所が判明した事を告げる。

 そして違和感を覚える。それまで騒々しくはしゃいでいたゴリラが沈黙していた。何事かと目線をゴリラに向けた。

 そこには真剣な面持ちのローラさん。そして彼と言い争いをしていたゴトウダも、それを眺めていたヨシダさんも沈黙してピンクを見つめていた。


『あれ……、なにこれ……。いきなりマジになっちゃったの!?』


 ヨシダさんが微笑みながらローラさんに言った。


「じゃあ、行きましょうか。決着をつけに」


 ローラさんは小さく口角を上げる。


「そうだな。クジョウと、決着をつける時だ。じゃあ、お姉ちゃん。案内してくれよ」


 思わず目を見開いてしまうピンク。ローラさんは相変わらず軽いノリだが、目は真摯にピンクを見つめている。

 咳払いを一つして、ピンクは気持ちを落ち着ける。


「すいません。拠点の場所は分かったんですけど、問題はどうやってそこまで行くかなんです」


「どういう意味?」


「『ホワイト』の拠点は、この地下にあります。現在は使われていない駅が、彼らのアジトになっているそうです。ただ、入り口がどこにあるのか……」


 ローラさんはヨシダさんに目線を送る。ヨシダさんはすぐにスマホを取りだして、上野恩賜公園の地下にあるという廃駅を検索した。


「『博物館動物園駅』だそうです。入り口は二つ。動物園の旧正門の近くと、それから国立博物館の敷地内です。ピンクさんが言っていた、旧正門近くの怪しい建物っていうのが入り口だと思います」


「ありがと。そこまで分かれば、もういいよ。クジョウの方から仕掛けてくるかと思ってたけど、アイツも意外と小せえよな。多分、守りをキッチリ固めてんだぜ」


 ローラさんは笑う。これから敵の拠点に踏み込もうというのに、まるで緊張感が無い。


「でも、拠点の守りを固めるのは基本じゃないですか。むしろ正しい判断かと」


「まあ、分かるけどさ。悪の秘密結社なら、拠点の外にやまほど戦闘員を配置しても良さそうじゃない?」


「きっと人手不足なんですよ。やっぱり今のご時世、どこも大変ですよね……」


 ピンクは頭を抱えそうになった。


『あれ!? なにこれ……。私がおかしいの? マジになったと思ったけど、やっぱりどっかふざけてない?」


 どこまで本気か分からない。それがローラさん。


「じゃ、じゃあ、今から案内しますね。……でも、一つ聞いてもいいですか?」


「なに?」


「……えっと、言いづらいんですけど……。もしかしてヨシダさんも一緒に行くんですか?」


 既にピンクはゴリレンジャーについて詳しく知っている。特にヨシダさんとは行動を共にする事も多かった。それだけに不可解に思えていた。

 ヨシダさんは一般人。戦う力なんて持っていない。確かに彼女はマダム・クリマーを撃破している。だが、むしろそれがリスクを高めている。

 『ホワイト』の拠点にはマダム・クリマーもいるはず。彼女が待つ拠点に、ヨシダさんを行かせるのはどう考えても危険だった。

 ヨシダさんはニッコリと微笑み、ピンクに言った。


「私たちは仲間なんです。確かにローラさん一人の方が動きやすいかも知れませんけど……」


 ヨシダさんの言葉を、ローラさんが引き継ぐ。


「それなら最初から戦隊なんてやらねえよ。ヨシダさんなら、大丈夫。俺が守るから」


 ピンクは頭を掻きながら、呆れたようにつぶやく。


「なんかもう、理解できないですね。ローラさんたちがそう言うのなら、私も止めませんけど……」


 ピンクは諦めた。どうせ止めても聞く訳がない。そう思った。それなら自分のやる事は一つしかない。


「じゃあ、私も行きます」


「よしっ! じゃあ、行くぞ!」


 ローラさんは後ろを振り返り、彼の仲間たちに声をかける。


「ローラさん。私は行かないわよ。さすがに体力の限界」


 ゴトウダが拒否る。


「僕も行きたいんですけど、地下だと僕入れないですよ」


 ミドリ君も拒否る。


「ハセガワは……、クソッ! アイツ、着信拒否してやがる!」


 ハセガワも拒否る。そもそも連絡すらつかない。スマホをポケットにしまったローラさんは、ヨシダさんとピンクの顔を交互に見て言った。


「じゃあ、三人でゴリレンジャーって事で……」


 ピンクはジト目でローラさんを睨む。


「もうゴリレンジャー解散したらどうですか?」


 ヨシダさんも深くため息をついてつぶやく。


「ここまでまとまりがないとは思いませんでした……」


 ローラさんが慌てて取り繕う。


「ほら、よくあるじゃん。最後の戦いを前に、一人ずつ仲間が死んでいくの。そのパターンだよ。ちょっと待ってて、今コイツら殺すから」


「お前が殺すのかよ!」


 ピンクはガマンできずに叫んだ。ゴリレンジャーのツッコみ担当が不在のため、ビルダーファイブのツッコみ担当が全力を尽くす羽目になった。


「あっ、そうだわ。ローラさん。ちょっと待ってくれる。軽トラにゴリセンが積んであるのよ」


 ゴトウダとハセガワが徹夜で仕上げた、改良型ゴリセン。ゴトウダはそれをローラさんに手渡した。

 以前のゴリセンは金属製にもかかわらず木目状の模様がついた真っ赤なハリセンだった。

 たった今、ローラさんが手にしたゴリセンは、折りたたまれた真っ赤な金属板の間に、小さなパーツがいくつも取り付けられている。そして手元には謎のスイッチ。


「簡単に説明するわね。ピンクちゃんに渡したライフルと同じで、それにも同じ機能をつけてあるの。つまりEMPハリセンってところね。

 その小さなパーツは圧電素子って言ってね、それが衝撃や圧力で発電するのよ。後は柄の部分に内臓したバーカトール発振器で、電力を……」


「要するに『スタン・ハリセン』って事だな」


「昔のプロレスラーみたいな名前ですね」


 『ゴリセン』から『スタン・ハリセン』へ。ローラさんは進化した新たな武器を手にした。


「話は最後まで聞いて。その手元のスイッチでモードチェンジするの。今は『オフ』ね。それで叩いても発電しないわ。それから……、そう、それを上にずらすと『EMPモード』と『雷神モード』に切り替えられるの。

 それから、使う時は電子機器を持ってちゃダメよ。スマホとかはヨシダさんに預けておいてね。EMPの範囲はライフルよりも狭いけど、ローラさん自身にも影響はあるから」


「面倒くせえ武器だな……」


「文句言わないの。それがあれば、怪人の自爆を防げるんだから」


 しかめっ面のまま、ローラさんは『スタン・ハリセン』を振り回す。そしてゴトウダにニッコリと笑顔を向ける。


「そうだな。自爆を防げるのはデカい。良い武器だな、ありがとよ。ゴトウダ」


 ゴトウダも満面の笑みをローラさんに向ける。


「どういたしまして。じゃあ、頑張ってね」


 そしてローラさんは歩き出す。その隣にはヨシダさん。そしてビルダーピンク。彼らはたった三人で、『ホワイト』の拠点に乗り込もうとしていた。


「あれ……、これってヤバいかも……」


 ピンクがつぶやく。


「なに? いきなり不吉な事言うなよ……」


 怪訝そうな顔でピンクを見つめるローラさん。当のピンクは自分のヘルメットに向かって話しかけている。


「おい、マジでどうした? なんか怖いぞ、お前……」


 ピンクがひきつった顔でローラさんに告げる。


「レッドさんと連絡がとれなくなりました…………」


 単独で動物園に乗り込んだビルダーレッド。これから『ホワイト』の拠点に乗り込む事をレッドに報告しておこうとしたピンクは、レッドとの通信が不能になっている事に気付いた。


「ちょっと待ってください。今、初代さんにも連絡しますから」


 ローラさんとヨシダさんは顔を見合わせる。三人で乗り込むつもりだったが、いきなり一人脱落しそうな気配に顔をしかめた。


「あっ、すいません。ピンクです。あの……、なんかレッドさんと連絡が…………あっ、そっちもそうなんですか!? うわぁ、どうしよう……。いえ、私はローラさんたちと……」


 初代と通信中のピンクに、ローラさんが声をかけた。


「いいよ。レッドのとこ行ってやれ。アイツの事だから心配いらないと思うけど、どっちにせよ連絡とれなきゃマズいだろ?」


「いや、でも『ホワイト』の拠点に二人だけって……。しかもヨシダさんは戦えないし」


「大丈夫だよ。俺がいるから」


 ローラさんとヨシダさんは、まるでなんでもない事のように笑う。


「そうですね。ローラさんがいますから。なにも問題無いです」


 ひきつった顔のピンク。それを眺めるゴトウダとミドリ君は呆れ顔。一般人のヨシダさんが敵の拠点に乗り込もうとしているのに、誰も止めようとしない。


『マジか、この二人。正気とは思えない………………いや、それだけ信頼し合ってるって事かな……』


 ピンクはゴリレンジャーを理解する事を諦めた。彼らは別次元のヒーロー。そう自分を納得させた。


「わかりました。私はレッドさんの応援に行きます。お二人とも、どうか気をつけて」


 そしてピンクは閃光のように加速して動物園へと乗り込んでいった。


     ***


 上野動物園、東園。人間も動物も変異させてしまうウィルス『アルファ』はいまだ空気中に漂っている。その中をビルダーレッドは赤い閃光と化して駆け抜けていた。


「どこだっ! メジャーレッド!」


 動物園へと乗り込んでから、レッドは何度も怪物へと変異した動物たちと交戦していた。だが、肝心のメジャーレッドは姿を現さない。

 怪物たちは少しずつだが、確実に強くなっていった。変異は止まらず、元の動物がもはや分からないほど変わり果ててしまった怪物もいた。


 そして今、レッドの眼前にトラの死体が横たわっている。わずかに変異したトラ。だが、既に死んでいる。

 そのトラを仕留めた怪物が、高台からレッドを見つめている。


「つくづく俺はゴリラと縁があるようだな……」


 ヨロイを身にまとったように肌を硬質化させたゴリラが、高台からレッドを見つめている。


「これでお前とは三度目だ。もう逃げるなよ」


 戦うたびに強くなっていくアーマード・ゴリラが、ビルダーレッドの前に立ちはだかる。

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