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ローラさんは今日もゴリラです  作者: 吠神やじり
第十章 怪人のいない世界
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第六十五話 クジョウの足跡

 大田区平和島。ゴリゴリカレー。ローラさんが近所の公園で爆発騒ぎを起こしていた頃、ヨシダさんは拠点内部の盗聴器を調査していた。

 拠点内を見回しながら、ヨシダさんは考える。以前、ビルダーピンクから教えてもらった盗聴器の特徴を思い出す。


『まず、盗聴器って言っても色んなタイプがあります。だけど、主流になっているのは盗聴発信器と呼ばれる、いわゆるワイヤレスマイクみたいな物ですね。

 簡単に言えば、マイクが捉えた音声を電波として飛ばすんです。この場合、すぐ近くに受信機もあるはずなんです。まず五〇〇メートルも離れていないと思います』


 ビルダーピンクによれば、拠点から五〇〇メートル以内の範囲に受信機、あるいは受信可能な距離をのばす中継器があるはずだという事だった。


『多分、中継器がどこかにあるはずです。多分拠点の内部じゃないかな。拠点の外では不確定要素が飛躍的に増えますから。

 関係無い人間に拾われたり、壊されたり。それを避ける為には、彼らにとっても安全な場所に受信機か中継器を隠す必要があるんですよ』


 盗聴器の電波を追ってもクジョウの拠点には辿り着けない。だが、その受信機なり中継器を見つけ出せば、そこからまた辿れる線が残る。


『まあ、どんな形をしてるのかすら分かりませんからね。私もどうやって探せばいいのか……。ただ、これは推測でしかないんですけど、多分かなり大きな物だと思います』


 拠点内部の盗聴器の数は、確認できただけで二〇を超える。そのすべての盗聴器から送信された電波を受信し、それをまた送り出す。それだけの事をやってのける機材となれば、それなりのサイズになってしまうはず。それがピンクの推測だった。


『とにかく捜し物の形も分からない状態ですから、まずはそれらを収納できるスペースを探してください。隠し部屋とか、そんな感じのものを……』


 それだけの情報で、ヨシダさんは拠点の家捜しをしている。入院する前は、毎日のように通っていた拠点。ほんの一ヶ月程度の入院で、拠点の内部は見る影もないほどにボロボロになっている。その廃墟にも似た拠点の有様に、ヨシダさんは少しだけ苛立ちを覚えた。

 しかし、その苛立ちも空回りしている。毎日のように通っていた拠点だが、隠し部屋なんて聞いた事がない。ローラさんとハセガワは拠点で暮らしているので、拠点内部の事はヨシダさんよりもずっと詳しい。だが、ハセガワも隠し部屋なんて見た事がないと言っていた。

 そもそも簡単に見つけられるのなら、それは隠し部屋とは言わないが。


 ヨシダさんは拠点の一階で店舗スペースの調査をするついでに、ボロボロの店舗スペースの片付けに取り掛かった。

 ヨシダさんも呆れるほどに荒れ果てている。拠点のゴリゴリカレーは、これまでに何度も襲撃にあっている。

 ゴリゴリ団の頃に『ホワイト』の襲撃を受け、そしてゴリレンジャーへと転身する直前に何度かヒーローからの襲撃を受けている。最後はドクター・ディアマンテが送り込んだ襲撃者との戦闘があった。

 初めてゴリゴリカレーにやって来た時、拠点の中はすぐにでもカレーショップとして営業できそうなほど綺麗だった。それが今や見る影もない。

 カウンターは既に半壊している。床に転がるテーブルや椅子は、ほとんどが壊れている。壁のいたるところに穴が空き、その周囲では壁紙も無残に剥がれ、壁から垂れ下がっている。


『……ん!?』


 ヨシダさんは店内を見回して、そして気が付いた。ゴリゴリカレーの一階部分にあるデッドスペース。本来なら収納スペースになっていてもおかしくない、ちょっとした空間。

 だが、その空間は閉ざされている。その周辺に扉なんて見当たらない。だけど、その中は空洞になっているはず。

 ヨシダさんが目を向けている先は、二階へと続く階段。正確に言えば、その階段の真下に当たる部分。

 上へと続いていく階段の足下部分には、空間があるはず。実際、一戸建ての家などで階段下が収納スペースになっている事は多い。

 だが、ゴリゴリカレーの二階に続く階段の下は、完全に壁で閉ざされている。だが、ヨシダさんはその場に近付かない。


『もしもあの場所に捜し物があるとしたら……』


 罠、あるいは盗聴器とは別の監視装置。そんな物が設置されているかも知れない。ヨシダさんは少し考え込んでから、拠点のブレーカーを落とした。

 拠点内の電気が消える。小さな灯りすら見当たらない。その中で、静かに階段下へと近付いていくヨシダさん。


『あんまり長時間ブレーカーを落としたままだと、怪しまれちゃいますね……』


 階段下を覆う壁を叩く。叩いた感触と音で分かる。階段下を覆う壁は極端にうすい。階段下の壁に貼られた壁紙に触れる。そして手を動かして、壁紙の凹凸を調べる。

 ヨシダさんは静かに微笑んだ。彼女の指先が、壁紙の奥にある『壁の切れ目』に触れた時、おもわず顔がほころんでしまった。

 一階厨房へ行き、包丁を持って帰ってくる。そして壁に突き立てて壁紙を切り裂く。

 壁紙の奥から出てきたのは、うすっぺらいベニヤ板でできた扉。その向こうに彼女が探していた『隠し部屋』がある。


 壁紙を剥がし、そしてベニヤ板の扉を開ける。中を見て、ヨシダさんは息を呑む。

 そこには小さなラックが備え付けられて、そこには緑色や橙色のランプを点滅させている通信機器らしき物がある。そこから何本ものコードが伸びていて、コードの先には複数のアンテナ。恐らくは盗聴器の電波を受信するためのアンテナ。それが隠し部屋の中にはいくつも並んでいた。

 狭い室内は、ちょうどトイレの個室を同じくらいのサイズだった。ただ階段下なので、その室内は天井が大きな傾斜を持っている。

 恐らく中に入っても立つ事は難しい。狭い上に、天井も低い。ヨシダさんも外から隠し部屋の中を覗き見るしかなかった。

 スマホを取りだして、写真を撮る。そしてベニヤの扉を閉じて、また壁紙を貼り付ける。剥がれてしまった壁紙には、もう貼られた当初の粘着力など戻っていない。

 しかたなくガムテープで補修しておく。ただ階段下一点だけ補修したのでは、ローラさんに気付かれてしまう。

 ヨシダさんは先にブレーカーを戻す。それから店舗スペースの壁紙が剥がれている部分すべての補修を始めた。

 途中で電話のベルが鳴っていたが、ガン無視。確認こそしなかったが、恐らく警察からだろうと予想していた。


『少し反省が必要ですよね』


 ほんの一時間ほど前の話。拠点の掃除を始めた直後の事。拠点外で爆発音が響き、ヨシダさんも慌てて拠点の外に飛び出した。

 そこで目にしたのは、なんとも言い難い光景。少し離れた公園から上空に向かって立ち上る煙。それは自然に発生したとは思えないほど、色とりどりな煙。赤い煙、青い煙、そして緑の煙。


『ああ、ローラさん。なんかやらかしたな』


 それが一時間前の事だった。公園まで行って、警察に連行されていくゴリラに冷ややかな視線を浴びせるヨシダさん。ただローラさんは人混みの中のヨシダさんに気が付いてはいなかった。

 ローラさんの後ろにはハセガワ。


『お巡りさん、あのオカマっす。捕まえてくれっす、むしろ撃ち殺してもいいっす』


 涙ながらに訴える幼女。ただし訴えている内容は最悪だった。


 そして今、拠点に電話が鳴り響く。ヨシダさんはそれを無視して拠点から離れた。結果的にこの行為によって、ゴリレンジャーの身元引受人はビルダーレッドになってしまった。

 拠点の外でスマホを取り出す。そしてビルダーピンクへ電話。


「ピンクさん。見つけました」


『オッケー。今すぐ行きます』


 極めて短いやりとり。こうして彼女たちはクジョウの足跡を追い始めた。


     ***


 二時間後。


「ああ、確かに中継器ですね。多分、このアンテナで盗聴器の電波を受信してます。それからこの通信機器でネットに接続してんのかな……。ブレーカーが落ちてんのに動作してるって事は、これだけで別の電力会社と契約してんのかな。ちょっと調べてみる必要がありますね」


 そう言いながらピンクはカバンから取りだした小さな機械を中継器に取り付ける。隠し部屋の外へと伸びる回線と、中継器との中間にその機械を取り付けた。


 そしてもう一度階段下の壁紙を戻して、二人は拠点から離れた。


「さて、時間はかかりましたけど、こっからも大変かも知れないんです」


 ピンクはヨシダさんに説明した。盗聴器の信号は、そのままネットに送られている。それを捕捉するために、追跡装置を中継器に取り付けた。


「さっき付けた装置は、あの中継器がどこと通信しているのかを追跡します。少し待てば、あの中継器から情報が送られている先が分かるはずです」


 ただし事はそう簡単でもなかった。ピンクが取り付けた装置から分かるのは送信先のIPアドレスや、送信した時刻とその情報量。その程度の事しか分からない。


「すいませんね。このIPアドレスってヤツだけじゃ、個人や所在地までは特定できないんですよ。有名な企業とかならまだしも、個人のアドレスとなると大雑把な情報しか得られないはずですね。まあ、一応一歩前進って感じなのは、間違いないと思いますけど……」


 ピンクはノートパソコンを広げ、早速さっきの追跡装置から得られた情報を確認する。


「正直まだ時間はかかると思います。だけど……、え!? なにこれ……」


 ノートパソコンのディスプレイを凝視するピンク。怪訝に思い、一緒になってヨシダさんものぞき込んでみるが、彼女にはなんの事かサッパリ分からない。

 そのまま画面を凝視し続けるピンク。ヨシダさんが何度か呼びかけてから、ようやく彼女は口を開いた。


「いえ、あの……。このIPアドレス、見覚えがあったもんで……。結構最悪な展開かも知れないです」


「IPアドレスだけじゃ特定できないって言ってませんでした?」


「普通はできません。ただ私は、このアドレスを知ってるんです」


 ピンクは深呼吸を一つ。それから真剣な目をヨシダさんに向けて言った。


「これ……『東ヒー』本部のアドレスです」


     ***


 ビルダーイエローは絶望にも似た気分を味わっていた。たった今入った連絡が、彼をそんな精神状態へと導いた。


『すいません、イエローさん。やっぱり俺たち、もう続けられません』


 ビルダーブルーとビルダーブラックの二人が、揃ってイエローの元にやって来た。そして彼らはビルダーファイブを辞めると宣言した。

 『辞めたい』とか『辞めようか悩んでる』ではなく、『辞める』。そうハッキリと宣言した。

 イエローにそれは止められなかった。自分の無力さを痛感した。自分に戦隊はまとめられない。そうハッキリと自覚する羽目になった。


 ビルダーレッドから受け取った真っ赤なダンベル。正直、イエローはその扱いに困っていた。

 親友から預かった物を、自宅やジムに置きっ放しにするのも気が引けた。だから、彼はいまだに持ち歩いている。

 もちろん二〇キロのダンベル二つを、普通に手に持って歩いている訳ではない。強化スーツに備わっている機能。簡易収納フィールド、通称『四次元ポケット的なアレ』に収納されている。


 以前はレッドが自分の強化スーツに収納していた。それと同じ事をしているだけ。だが、イエローはそれを使う気になれない。単純に足技ベースで戦う戦闘スタイルだという事もあるが、彼は親友の真似をするつもりにもなれなかった。

 なぜ親友から預かった武器を使う気になれないのか、それを尋ねてもイエロー自身さえ言葉に詰まるだろう。彼もまだその理由を自覚していないから。


 彼は夢見ている。レッドが復帰するしかないような、巨大な敵の到来を。そして彼は自分のスーツから取りだした赤いダンベルをレッドに渡す。

 完全復活を果たしたレッドは、赤いダンベルで巨大な敵を打ち倒す。そんな展開を、ビルダーイエローは期待していた。


 だが、現実は厳しい。現に今も、ビルダーファイブがイエローとピンクの二人になってしまったのだから。


「ああ、ピンクにも二人が辞めたって伝えておかねえとな……」


 ボンヤリしながらスマホを取り出す。そしてピンクに電話。


「もしもし、ピンク。ちょっと大事な話が……」


『ゴメン、後にして』


 ピンクの短い返答の後、電話はすぐに切られてしまった。


「なんだよ、それ……」


 イエローは戸惑いと苛立ちを隠せなかった。ポケットにスマホを突っ込んで、そのまま歩き出す。ビルダーファイブの拠点であるジムへ。


 もう仲間がやって来る事のない拠点。


 そう思いながらジムへと入っていく。落ち込んだまま、スタッフルームへと向かっていく。


『もう終わりなのかな……』


 スタッフルームのドアを開けた。そのまま言葉を失う。


「なんだ、こっちに向かってたんだ」


 ピンクがぶっきらぼうに言った。


「あっ、お邪魔してます」


 見た目一般人のヨシダさんが普通に挨拶してきた。


「じゃあ、話聞くよ。レッドさん来るまでの間でよければ」


「え!? なに? レッド来んの? 今日、ここに?」


 動揺するイエローにピンクは真剣な顔で答えた。


「今日はくだらないボケは抜きにしてね。超緊急事態だから」


 彼は夢見ている。レッドが復帰するしかないような、巨大な敵の到来を。

 そしてその夢は、もうすぐ現実になる。

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