第四十八話 第一回ゴリレンジャー会議
大田区平和島。ゴリゴリカレーの店舗スペース。ハセガワの間延びした声が響く
「じゃあ、始めまーす。第一回、ゴリレンジャーこれからどうすっかな会議ぃ」
スプーンをマイク代わりに口元で構えておどけたように話す。
「司会はわたくしー、プリチーハセガワとぉ」
ハセガワの悪ふざけに全乗っかりのローラさんが続く。
「でんじゃらすゴリラのローラさんでーす」
ゴリゴリカレーの店舗スペースには、ローラさんとハセガワの他にミドリ君も来ている。ローラさんから『小遣いやるから、ちょっと来い』というだまし討ちを食らって正座させられている。
そしてもう一人。たまたま遊びに来ていたビルダーイエロー。
「でも、こんな時期に戦隊を始めようなんて兄弟も無茶するウホね。今はほとんどのヒーローが活動を自粛してるウホってのに……」
「ウホウホうるせえな。そのキャラ、いつまで続ける気だよ」
「いや、兄弟。これはマジな話なんだけどさ、やっぱ今時のヒーローは強さじゃなくてキャラで人気が決まるんだよ」
「マジな話の割には恐ろしくくだらねえっす。またピンクにマジギレされるといいっす」
その一言でイエローは撃沈。小さな声でブツブツと合コンがどうとか言っている。会話の切れ目に、抜け目なくミドリ君が割って入る。
「……あの……、なんで僕、正座させられてるんですか? なんも悪い事してませんよね」
ローラさんは穏やかに答える。
「それはな……、良い事もしてねえからだよ」
そしてローラさんは一気にヒートアップ。
「って言うか、お前なんにもしてねえじゃねえか! 拘置所から出してやった後、お前なにやった? 一度だけ蒲田まで付いてきただけじゃねえかよ!」
「いや、だってそれは……、ヨシダさんが帰ってくるまで自由にしてていいって言うから……」
「だから遊んでたのか? 怪人一人でも仕留めたのか?」
「ムチャクチャですよ、そんなの。僕一人じゃ無理ですよ」
「アホか! それをなんとかすんのがヒーローってもんだろ!」
ローラさんの言葉に全員が『それは無茶だろ……』と思いながらも、誰もツッコみは入れなかった。
気を取り直したイエローが話に参加する。
「一応、戦隊の先輩として言わせてもらうウホ。今はヒーローの活動は控えた方がいいウホ。そのヨシダさんって人も、多分同意見だと思うウホ。常識で考えたら、今は動く時じゃないウホ」
「とりあえずお前も常識で考えて、ウホウホ言ってんのをやめるべきっす」
「やっぱ『ウホ』ってイマイチなのかな……」
「いや、イマイチって言うかな、まずキャラとか作ってんのやめとけよ。そんな事しなくても、お前結構強いんだし」
「うーん。兄弟にそう言ってもらえると悪い気はしないけどさ。でもなんて言うかね……、ヒーローとして俺も方向性に迷ってるって言うか……」
「ああ、イエロー君。僕もそれ分かるよ。スッゴくよく分かる」
「いや、巨大化しか能の無い人に言われてもな……」
「え!? 僕って戦隊歴、結構長いんだよ。僕の方が先輩だよ!?」
ミドリ君の抗議に、二頭のゴリラが無言で凄む。ミドリ君はうつむいて黙り込んだ。
***
品川区の病院。ヨシダさんの病室。
「じゃあ、今はみんな拠点にいるんですね?」
私服に着替えて外出の準備をしているヨシダさん。退院が決まり、一時的な外出許可も下りている。今はゴトウダと共に、出かける準備をしていた。
「ええ、間違いなく拠点に集まってるわ。なんか関係無い子が一人紛れてるみたいだけど」
事前にハセガワに電話をして、今日の予定を確認しておいたゴトウダが答える。今日はローラさんも怪人狩りには出かけず、一日中拠点で過ごす予定だった。
ハセガワによると、今日の内にゴリレンジャーの方向性や、新メンバーについて話し合う予定らしい。
「でも、話を聞いた限りだと新メンバーはビルダーイエローさんに決まりそうですね。毎日拠点に遊びに来てるらしいですし」
ヨシダさんの予想にゴトウダは首を横に振って否定する。
「多分、それは無いわね。オカマの勘よ。あの子はレッドちゃんに特別な感情を抱いてるわね」
「……えっと、そういう展開なんですか?」
「ん? なんの話? 私が言ってるのは、レッドちゃんとイエローちゃんの絆の話よ。あの二人はお互いに尊敬し合ってるわね。だからレッドちゃんが正式にビルダーファイブを辞めない限り、イエローちゃんも辞める事は無いって意味」
「ああ、なるほど。レッドさんは今のところ正式に辞めた訳じゃないですしね。それじゃあ、やっぱりしばらくは四人で活動するしかないですね」
「そうなるわね。唐突にまったく関係無い人を入れても、まとまらなくなるだけだし」
現時点でもまとまっていない事には二人とも触れない。そして二人は新メンバーについての話をそこで打ち切った。
話はこれから先の行動に関する内容に切り替わる。それでも話に上がるのはビルダーレッドの事だったが。
「それはそうとして、本当に大丈夫なんですか? いえ、私も信用していない訳じゃないんですけど、やっぱり私にとっては一度会ったきりの相手ですし……」
二人はこれから中野でビルダーレッドと会う予定だった。ゴトウダを通じて連絡を取り、ローラさんには内密で相談がある、そう伝えてある。
ビルダーレッドとの仲介を務めたゴトウダは胸を張って断言する。
「レッドちゃんは信用出来るわよ。今日だって忙しいのにわざわざ時間を空けてくれたのよ。しかも『東ヒー』の本部じゃ不安だからって、自分たちの拠点に招待してくれたんだから」
拠点と言ってもごく普通のトレーニングジム。そこでビルダーレッドと会う約束になっている。
「確かに今のままでは手詰まりですからね……。レッドさんを信用するしかありませんね」
ヨシダさんとビルダーレッドは一度しか会っていない。それも明治神宮の騒乱の中で、ほとんど会話もしていない。
彼女がレッドを信用していないのも仕方が無かった。しかしヨシダさんは、レッドに相談しようと提案したゴトウダの心情も理解していた。
ゴトウダはヨシダさんから受けた二つの頼み事の片方で、完全に行き詰まっていた。そして自分の不甲斐なさを痛感していた。
本来は武器職人であるゴトウダにとって、まったく専門外の事を頼んでいた自分にも責任はある。ヨシダさんもそれは理解していた。だからゴトウダの提案を断れなかった。
「じゃあ、行きましょうか。こちらが相談に乗ってもらうのに、待たせるのも失礼ですから」
こうして二人は、ビルダーレッドの待つ中野へと向かった。
***
世間では警察による怪人討伐が、喝采を持って迎えられていた。怪人を始末する度にマスコミは警察や、それを指揮する政府の采配を称賛する。
誰もが法の勝利を確信していた。法の埒外にいると思われていた怪人たちを、法の下で裁く事に安堵にも似た幸福感を味わっていた。
毎日のように世間を騒がせる怪人たち。その内容は、以前とまったく違っている。現在、世間を騒がせているのは『怪人が逮捕された』というニュース。
ヒーローによって『倒された』のではなく、警察によって『逮捕された』という報道。
ある政治家がテレビの討論番組でこう言った。
『我々の勝利ですよ。怪人の駆逐が終わったら、『東ヒー』の閉鎖も検討しないといけない。ヒーローなんて自警団は、もう必要ないんですよ』
その発言に、同じように討論番組に出演していた者たちはわざとらしく賛同する。そのやりとりはすべて台本通りに演じているだけの話だったが。
警察は怪人の出現場所を正確に予測していた。通報されてから動くのではなく、怪人が姿を現す前に部隊の配備を済ませる事すらあった。
フル装備の特殊部隊を前に、正気を失った怪人はいつもノコノコとやって来た。
そして今日も対怪人の特殊部隊に情報がもたらされる。特殊部隊の隊員たちは、期待すら胸に抱きながら指令を受け取った。
『明日は朝から第一種だとよ。秋葉原に複数って話だ』
彼らにもたらされた情報は、『明日の正午、秋葉原に複数の怪人が現れる』という内容だった。そして特殊部隊は『第一種』と呼ばれる最高度の戦闘準備に入る事となった。
即座に戦闘へと移行できる態勢を指示されながら、隊員たちに不安は無かった。彼らは小さな勝利を積み重ねて、その勝利に溺れていた。
そんな政府の犬に対して、彼らは動き始める。
メジャーレッドが、ビリオンとナナフシが、そして死を覚悟した怪人たちが。
***
中野区中野。ビルダーファイブの拠点であるトレーニングジム。ヨシダさんとゴトウダの二人は、ごく普通の雑居ビルにしか見えないトレーニングジムへとやって来た。
有名なトレーニングジムほど大きくもなく、会員数もそれほど多くはない。
入り口にやたらと大きなビルダーファイブの写真が飾ってある所を見ると、拠点である事を隠すつもりはまったく無いらしい。
二人は愛想笑いを浮かべながらジムへと入っていく。その二人を迎えたのは、敵意すら混じる視線。
その場にいる誰もが知っていた。ゴリレンジャーは、ほんの一ヶ月前まで悪の秘密結社をやっていた連中だと。
そして彼らの仲間であるミツオを陥れた張本人であると。
しかし知っていたとは言え、その視線から敵意が薄れていく。敵意よりも色濃く含まれていくのは戸惑い。
普通の人間ならヨシダさん相手に敵意を抱く事はない。なにしろ見た目はかなり地味な一般人女性。ついでに言えば、よく見ると顔立ちも割と整っている。
話に聞いた『女帝ヨシダ』の姿に、誰もが戸惑いを覚えた。
そしてもう一人の珍客。ゴツいオネエ、ゴトウダ。その場の誰よりもゴツい体躯を持つオカマ。その異形を目にした者は、一様に戸惑う。
そんな一般人と異形の二人組に、平然と声をかける男。快活な声でヨシダさんとゴトウダを呼びかける。
「よく来たな。待ってたよ。早速話を聞こうか」
ビルダーレッドは、笑顔で二人を迎えた。そしてジムの奥にあるスタッフルームへと招かれた。
スタッフルームにいた事務員の女性は、ビルダーレッドの目配せを受けて退室する。
「この部屋は一応盗聴なんかの対策もしてあってな。秘密の相談というのなら、ここ以上に俺が安全を保証できる場所は無い」
ビルダーレッドの口から出た『盗聴なんかの対策』という言葉に、二人は期待せずにはいられなかった。
ヨシダさんとゴトウダは、お互いに顔を見合わせてうなずいた。ビルダーファイブには、二人の期待に応えられる『専門家』がいる。
思わず笑顔になる二人に、ビルダーレッドは戸惑いながらも話を聞く事にした。
***
大田区平和島。ゴリゴリカレーの店舗スペース。
「だからゴリレンジャーは『ゴリラ戦隊』で行こうって言ってんだよ」
「だからゴリラが被ってるって言ってるんすよ。自分は『幼女戦隊』がいいと思うっす」
「僕は『巨人戦隊』で」
ゴリレンジャーは揉めていた。ゴリレンジャーという名称は決まっていたが、その前に付く『なんとか戦隊』の部分で大いに揉めていた。
「ホントにまとまりがないウホねえ……」
この問題はまったく解決の糸口が見えず、話は打ち切られた。そして数分後、今度は『戦隊の目標』で揉め始めた。
「だから『正義のため』でいいだろうが!」
「ローラさん、甘いっす。今時そんなザックリした目標じゃ、インパクトが弱いっす。この際だから、ゴリゴリ団の時と一緒で『自分らしく生きる』でいいっすよ」
「いや、そんな目標じゃねえし! 大体俺は十分自分らしく生きてるぜ!」
「うるせえっす、クソゴリラ」
「なんだと、テメエ!」
「……『ビッグになる』って言うのはどうですか……」
「ウゼえっす。マジで黙ってろっす」
「その目標ならすぐに叶えてやるよ。ハセガワ、ちょっとスタンガン持ってきて」
「うぃっす。ちょっと二階行って取ってくるっす」
ゴリレンジャー三人の醜い争いを眺めながら、ビルダーイエローは思った。
『ダメだ……。生半可なキャラじゃ、この人たちには敵わねえ……』
事態が進行していく中で、この四人だけがくだらない話を続けていた。




