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ローラさんは今日もゴリラです  作者: 吠神やじり
第八章 女帝の帰還
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第四十七話 グッドニュース

 品川区の病院。ヨシダさんの病室。カニパン男がボコられたのを見届けた後、ローラさんは拠点に帰らずヨシダさんのお見舞いへと向かった。


「まあ、そんな感じで今日は成果無しだな。もうちょい頑張るけどさ、なんかキツくなってきたよ」


「警察が先手を取るようになって来ましたか……。確かに目撃情報を聞いてから拠点を出発したって間に合わないですよね」


「うん。どうしたって警察の方が早い。それに警察もかなり対策を練ってるね。装備も戦略も、普通の犯罪者相手とは対応が違う。完全に怪人対策が出来上がってるね」


 ローラさんの言葉にヨシダさんは眉をひそめる。ローラさんも渋い顔。


「正直ね。ヒーローで食べていけるか分からなくなってきたよ」


 ヒーローの資金源は決して怪人討伐の賞金だけではない。だが、怪人も倒せないヒーローには、他の資金源もない。

 力を証明できないヒーローなんて、グッズも売れないし、テレビにも出られない。ただの変なコスプレ野郎。

 怪人相手に勝ってこそヒーロー。その怪人がいなくなったから、多くのヒーローが迷走して明治神宮の騒乱に発展した。

 そして今、再び『ホワイト』の怪人たちが暴れ始めたが、その怪人の対処はヒーローよりも警察の方が進んでいる。


「でも、ちょっと気になりますね……。あのテロ以降、まだ自爆した怪人って一人もいないんですよね?」


「……うん。それは俺も気になってる。それに怪人の出没する場所も、広範囲に拡散し過ぎててね。巧妙ってほどじゃないけど、なんか狙ってる気がするよ」


 テロ以降、東京では怪人が頻繁に出没するようになっていた。だが、ほとんどの場合は単独で、しかもほとんど知性が残っていない怪人が、目的も無く暴れているだけだった。


「とち狂った怪人がどっかに隠れてて、ソイツらがいつも違う場所に現れる。しかも決まって一人ずつ。そんなの偶然じゃあり得ないよなあ。それを仕掛けてるヤツがいる」


 ローラさんもヨシダさんも、揃ってクジョウの顔を思い浮かべる。


「だけど目的が分かんねえんだよな。アイツ、どこでなにしてんだろ……」


「ところでローラさん。他のみんなはどうしてるんですか?」


 ヨシダさんのお見舞いに来るのはローラさんとゴトウダだけ。ハセガワはあまり来ない。そしてミドリ君はテロの直後に一度来ただけ。


「うん、まあ、バラバラだね。ほら、いまだに人数足りないしさ。戦隊の目的とかも決まってないし」


 現在のゴリレンジャーは四人。ローラさん、ヨシダさん、ハセガワ、そしてミドリ君。ゴトウダはゴリレンジャーには加わっていない、ただしそれは表向きの話。ゴトウダはローラさんと時間をずらして度々お見舞いに来ていた。そしてローラさんには秘密の頼み事をしている。

 ある意味でゴトウダはゴリレンジャーの一員と言える。だが、そのポジションはあくまで『サポート役』、本人もそう希望しているし、ヨシダさんもそれには納得している。

 そのゴトウダへの頼み事は二つ。ゴリレンジャーを離れ、その二つの仕事に専念してもらっている。

 まずゴトウダは拠点の盗聴器から、クジョウのアジトを特定する方法を探している。そしてもう一つ。ローラさん専用の強化スーツ『ゴリラ・マキシマム』の開発。


「ゴトウダも誘ってんだけどさ、やる気無いみたいなんだ」


 ローラさんはヨシダさんとゴトウダの動きを知らない。そんなローラさんにヨシダさんは微笑みかける。


「もう一人、ゴリレンジャーに加える必要がありますよね。やっぱり戦隊と言えば五人組ですし」


「新メンバーか……、誰かいる?」


 ローラさんの問いかけに、ヨシダさんも思わず唸ってしまう。心当たりなんてあるはずがない。


「まあ、いいよ。退院してからゆっくり話そ。まだ四人だけどさ、その四人で腹割って話した事も無いじゃん。これからゆっくりやっていこうよ」


 そんなローラさんの言葉に、ヨシダさんは苦笑いを浮かべた。そのローラさんのノンビリとした言葉だけで、なんとなくゴリレンジャーの自堕落な日々が予想できてしまった。


     ***


 大田区平和島。ゴリゴリカレーの店舗スペース。


「兄弟、遅いウホ……。なんかあったウホかな……」


 拠点に遊びに来てハセガワとダラダラ話していたビルダーイエローは、自分の腕時計を見つめながらつぶやいた。


「多分、ヨシダさんのとこに寄ってるっす。なんだかんだで毎日お見舞い行ってるらしいっすよ」


「ハセガワ君は行かないウホ?」


「あの二人の邪魔はしたくねえっす」


 唐突にイエローは大声で食いついた、既に語尾も忘れている。


「ああ! それよ、それ! 一度聞いて見たかったんだよ。兄弟はなんで恋人とかいんだよ!? なんか秘訣とかあんのかな?」


「知らねえっす。あと、別に付き合ってる訳でもねえっす。ぶっちゃけ、どっちもどんだけ本気か分かんねえし」


「へえ、別に付き合ってる訳じゃねえんだ……。そうだよな、ゴリラだもんな……。ゴリラに恋人なんてできるはずがねえよな……」


 自分とローラさんを重ねて、あからさまにションボリするイエロー。そんなイエローをハセガワが慰める。


「イエローだってその内いい出会いがあるっす。それまで努力する事が肝心っすよ」


 そう言いながらハセガワは思った。


『イエローの場合は、外見よりも妙なキャラ設定のこだわりが問題だと思うけど』


 しかしイエローの顔を見つめている内に、少しだけ考えを変えた。


『まあ、顔も問題だな』


 ハセガワがそんな事を考えていると、イエローは突然自分のスマホを取りだして電話をかけ始めた。


「あっ、もしもし、ピンク? 今大丈夫? あのさ、次の合コンはいつ頃……」


『ああ、コイツは全部ダメだ……。なにもかもダメだ……』


 イエローは電話を切って、そしてまたションボリしている。


「ピンクにメチャクチャキレられた……」


「ヒーロー辞めちまえっす」


 ハセガワは思わず本音を言ってしまった。


     ***


 文京区根津、上野恩賜公園を見下ろす高層マンションの一室。メジャーレッドは薄笑いを浮かべながら雄弁に語る。

 ヘッドセットを通じて、電話の相手をひたすら褒め続けた。観客がいる訳でもない自室で、大袈裟な身振り手振りを繰り返しながら。


「先生。警察の対応は見事の一言です。僕らの時代は終わったのかも知れませんね。しかし時代の流れだけでなく、先生の尽力あればこその結果でしょう」


 メジャーレッドは見え透いたお世辞を並べる。電話の相手は、怪人への武力行使を訴えていた政治家の小男。

 この二週間、メジャーレッドはなにもしていない。テレビのインタビューで堂々と『正義のために戦う』と宣言しながら、実のところ一切動いていない。

 ただ事あるごとに警察の対応を称賛するだけ。時には警察への協力を匂わせる発言もしていたが、実際にはなにもしない。


「先生。今こそ攻める好機ですよ」


 自分以外誰もいない自室で、メジャーレッドは大きく両手を広げる。満員の観客席に、自分の存在をアピールするスーパースターのように。


「僕も微力ながら協力させていただきたいところですが、恐らく今の警察にはヒーローの助力など煩わしいだけでしょう。それに怪人に対する警察の対応を批判し続けていた先生の努力を無駄にしてしまう結果にもなりかねません」


 メジャーレッドは彼の周辺に集まってきた権力者の中で、もっとも利用できそうな人間を見つけた。

 その人物をおだて、なだめすかし、その小男の権力を利用していた。


 小男は警察を批判し続けた。怪人に対して『無関係』を装う対応を批判していた。そして現在、東京拘置所で起きたテロを利用して小男は警察の大幅な改革を進めた。

 誰もその改革を止められない。テロが世間に与えた衝撃は、これまで通りの『我関せず』という政府の姿勢を許さなかった。むしろ政敵すら彼の改革に賛意を表明するしかなかった。

 そして警察は怪人に対して『武力行使もやむなし』という姿勢を取らざるを得なくなった。


 そして『戦争』が始まった。少なくとも政府関係者はそれを『戦争』だと思っている。散発的に現れる怪人に対する、警察の武力行使。それを『戦争』と呼んでいる。

 警察も、そして政府も、自分たちが狩られる側の『獲物』だとは気付いていない。


「先生。あと、もう一息です。ヤツらを駆逐して、法治国家の威信を取り戻すべきです。貴方の手腕によって」


 大袈裟に身をひるがえし、舞台に立つ俳優のようにポーズを決める。主人公が愛を語るワンシーンを演じるように。

 冷ややかな目と薄笑いがなければ、そのまま舞台に立てるほどその仕草には熱が入っている。


 メジャーレッドと小男の電話は終わり、メジャーレッドは冷ややかな目はそのままに、ソファーへと倒れ込む。身体を投げ出すようにソファーに沈み、手足を投げ出して面倒そうに声を上げる。


「ドクター。聞いていたか?」


 メジャーレッドと小男の通話を、別の場所で聞いていた男。ドクター・ディアマンテの声が、メジャーレッドのヘッドセットに響く。


「あの男、自分が歴史に名を残す偉人にでもなれると思ってるようだな。傑作だよ、無能なヤツほど大層な夢を見る」


「まあ、そうでなければ利用価値も無いだろう。自分を知るヤツほど扱いづらい。そういう意味じゃ、あの小男は無能だが有益だよ」


 メジャーレッドとドクターが嗤う。メジャーレッドは話を続けた。


「聞いての通りだ。政府は本格的に怪人討伐に乗り出す。成果を上げさせた甲斐があったよ。さて、そっちの準備はどうだ?」


「ああ、相変わらずだ。『次世代型』の準備は間に合いそうにない。『因子』が発見できなければ使い物にならん」


 ドクター・ディアマンテは『次世代型怪人』の研究を進めていた。面倒な手術を必要としない、レトロウィルスを利用した人体改造。だが、その完成は遠い。人体改造自体は可能になっているが、次世代型は従来の怪人以上に肉体の崩壊が早かった。

 ドクターは自分の研究の後れを指摘される事を好まなかった。苛立ちながらドクターは話を変える。


「失敗作はどうしてる? アイツの動きがお前の邪魔になるんじゃないか?」


「クジョウか……。穴蔵に閉じ籠もって悪巧みの最中ってところだな。アンタの事はまだ話してない。アイツはどうも怒りに満ちてる、その怒りの矛先がアンタに向かうと厄介だ」


 メジャーレッドはマンションの窓から見下ろせる上野恩賜公園を眺めた。その地下にクジョウがいる。


「怪人としては欠陥もいいとこだが、まさか『ホワイト』を牛耳るとはな……。その点だけは褒めてもいいが、確かに厄介だ。早めに始末しておけ」


 かつては秘密結社『アルルカン』の幹部だったドクターは、クジョウを改造した張本人だった。

 クジョウを特別優れた人間だと思っていた訳でもない。ただ適当に誘拐して、適当な手術を施した。自身の研究の一環として。

 ドクターは自分がクジョウに恨まれている事も分かっている。クジョウの人生をもてあそび、そして現在もメジャーレッドの片腕としてクジョウを利用している。

 当のクジョウはメジャーレッドの影に、自分の人生を狂わせた男が隠れている事を知らない。


 だがクジョウは知っている。ドクターが求める『因子』。ウィルスによって人体を変化させられた者の中で、唯一変化後の体組織が安定している存在を。

 その存在をクジョウは監視している。影に潜むドクターが、求めてやまない存在を。


     ***


 大田区平和島。ゴリゴリカレーの二階。


「あっ、お帰りっす。イエロー、さっきまでいたんすよ。ローラさん遅いんで帰ったっすけど」


「なんだ、アイツまた来たのか。なんか暇そうだな……」


 ノンビリとした日常。ローラさんはお土産に買ってきた和菓子をハセガワに放り投げる。


「おっ、美味そうっすね。今、お茶いれるっす。それで怪人は狩れたんすか?」


 なぜか上機嫌のローラさんは、『今日はダメだった』と嬉しそうに言った。そんなローラさんの態度に思わず怪訝そうな目を向けてしまうハセガワ。

 そんなハセガワに対して、ローラさんはもう一つのニュースを告げる。


「ヨシダさん。来週には退院できるってさ」


 そのニュースに思わずハセガワも顔をほころばせる。そして深く息を吐いた後、ドヤ顔で言った。


「じゃあ、ゴリレンジャーもこれから本格的に活動開始っすね。いよいよゴリターコイズブルーの活躍が始まるっすよ。そりゃっ! 変身! ゴリターコイズブルー!」


 唐突に変身するハセガワ。ターコイズブルーの強化外骨格をまとい、誇らしげに荒ぶる鷹のポーズを決める。


「お前、それホントに気にいってんな。でも戦いの時は下がってろよ。それ頑丈だけど、お前は弱いんだから」


 ローラさんは笑いながら、ハセガワがいれたお茶を飲む。ハセガワも笑う。ターコイズブルーのヘルメットに隠されているが、ハセガワも満面の笑みを浮かべていた。

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