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ローラさんは今日もゴリラです  作者: 吠神やじり
第六章 初めましてゴリレンジャー
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第三十八話 初仕事

 渋谷区『東ヒー』本部。既にローラさんは怪人サバ男を倒しに行った。ハセガワはローラさんの書いたヒーロー登録の申請書類を眺めてつぶやく。


「きったねえ字っすね。まあ、これで自由の身っすけど」


 申請書類を指でつまんでヒラヒラとなびかせる。ハセガワを監視していた『東ヒー』職員に向かって、見せつけるように。

 ハセガワを見つめていた職員は、なにも言わずハセガワから視線を外した。


 渋谷区『東ヒー』本部は、複合商業施設の地下にある。割と広いスペースがあるはずだが、本部の大部分が幹部クラスの職員の個室になっている。正確には、なっていた。

 現在は複数の内装業者が入り、幹部の個室を取り壊している。騒々しく動き回る職人と、破壊されていく個室。それを職員の多くは喜びを持って見つめている。


 かつて『東ヒー』の前身であったヒーローの互助会、そして現在の『東ヒー』を設立した人物。『初代』の帰還は『東ヒー』を大きく変えた。

 初代が最初に着手したのは、腐敗の一掃。ヒーローを支援するための組織で行われていた不正行為、それはおびただしい数に上った。


 若かりし頃の初代が、もっさりしたヘアースタイルでドヤ顔を決めた『東ヒー』の宣伝用ポスター。そこに書かれている言葉が虚しい。


『ヒーローのための組織。そして正義のための組織。私たちは、彼らを支えるために存在する』


 『東ヒー』が支えていたのは、一部の幹部だけ。そんな陰口すら叩かれる始末。それを初代は変えようとしている。

 だが、不満も大きい。明治神宮の騒乱以来、『東ヒー』に対する風当たりも強い。だが、それを口実に改革を見送らせようとする幹部を、初代は睨みつけるだけで黙らせた。


 初代の改革がスタートした直後から、数名の幹部が辞職した。もちろん退職金を山ほど受け取って。その幹部に従っていたと見られる職員も多数辞めていった。

 そして『東ヒー』に残った職員は、慌ただしい毎日を過ごしている。単純に人手が足りなすぎた。

 気が付けば監視対象だったハセガワにさえ、事務員の仕事を任せなければいけないほどに。


 ハセガワは慌ただしく働く。自分のデスクで書類をまとめたと思えば、本部入り口にあるカウンターで来客の相手をする。

 本部を訪ねてくる者の多くはヒーローか、その関係者だったが、カウンターでニッコリと接客する幼女には誰もがうろたえた。

 唯一、平然と接してきたのはビルダーレッド。彼は今日もやって来た。


「おう、やってるな。昨日はローラさんに会ってきたんだが、一度ゴリレンジャー全員で話がしたいって言ってたぞ」


 そんなレッドに向かって、ハセガワは真新しいカードをかざす。新品のヒーロー登録証。


     ***


ヒーロー名:ゴリレッド

所属組織 :ゴリレンジャー

本名   :ゴリ山ゴリ造


ランク  :新人

武装   :金属製ハリセン

備考   :改造人間


     ***


「あのゴリラ、登録証が出来上がるのも待たずに『賞金稼ぎ』に行ったっす」


「ああ、金に困ってるらしいな。まあ、色々とあるだろうけど……。なあ、ゴリ山って……」


「多分、偽名っすね。こんな名前のヤツはいないっす」


「……なあ、言いにくいなら無理には言わなくていいが、どうしてローラさんは金に困ってるんだ? あの人くらいの強さなら、金なんかどうとでも……」


「レッドさん。強さを金に換える方法は二つしか無いっす。『犯罪』と『見世物』っすね。あのゴリラはどっちも嫌いなんすよ。それと金に困ってる理由は、ヨシダさんの入院費用っすね、主に」


 レッドは自分の拳を見つめる。ハセガワの言葉が胸に突き刺さる。レッドよりも年上の幼女。ハセガワの言葉に、レッドは言葉を失う。

 自己鍛錬の果てにあるのはなんだろう? 常にレッドは自問していた。そして答えなど思い浮かばなかった。

 自分より強い男の人生。悪を名乗りながら犯罪を嫌っていた男は、今になってヒーローの道を進み始めた。そして仲間のために戦おうとしている。

 果たして自分にもそんな生き方ができるだろうか、自分は強さに溺れる事なく生きていけるだろうか。そんな事を拳に向かって問いかけた。

 しかしハセガワの言葉を聞いて、ローラさんの行動に疑問も生じた。


「待ってくれ、ハセガワさん。それなら『シビルウォー・プラン』って一体なんだったんだ? なんのためにローラさんは戦隊とライダーの衝突に介入したんだ?」


 ゴリラの考えなんぞ知らん。ハセガワはそう答えたかった。だが、ハセガワも同じ疑問を持っていた。ヨシダさんの提案した『シビルウォー・プラン』、あの作戦を実行したローラさんの真意は、いまだに分からない。


『仲間のため? 立案者であるヨシダさんのため? いや、なにか違う。自分はなにか見落としてる』


 そう考えたハセガワは、それ以上この件を考える事はやめた。誰にだって話したくない事くらいある。ハセガワにだってある。


「まあ、ゴリラの考えなんて自分らに分かる訳がねえっす。なんか理由があったんじゃねえっすか」


 きっといつか話してくれる。そう思いながら、ハセガワは話を変えた。ハセガワがレッドに見せつけたのは、もう一枚のヒーロー登録証。


     ***


ヒーロー名:ゴリターコイズブルー

所属組織 :ゴリレンジャー

本名   :ハセガワ ヤスオ


ランク  :新人

武装   :無し


     ***


「自分もヒーローっす!」


 レッドは苦笑いを浮かべる。この連中は止められない。レッドはそう確信した。だが一言だけ言わずにいられなかった。


「ゴリブルーじゃダメなのか?」


 ハセガワは胸を張って答える。


「ゴリ『ターコイズブルー』っす! これだけは譲れないっす!」


     ***


 品川区東五反田。ほんの一週間前まではライダー・ファンデーションの縄張りだった南側の街。

 現在は縄張りという概念自体が否定されている。


『ヒーローが縄張り争い? 他のヒーローとくだらない争いに明け暮れるのが、君たちの理想なのか?』


 初代の言葉に、すべてのヒーローが沈黙した。ただでさえヒーローが減っている現状では、元より縄張りどころではない。

 ヒーローを続ける者は、誰もが自分たちの理想に立ち返ろうとしていた。


 なんのためにヒーローになったのか? 誰のためにヒーローでありたいのか?


 サバオカ・ソウイチ。彼も自分の理想であるヒーロー像を見つめ直した一人だった。

 彼はサバ・ライダーと呼ばれているヒーロー。かつてはライダー・ファンデーションで強硬派と呼ばれた男。戦隊との直接対決も辞せずと主張し続けたライダー。

 彼は明治神宮でローラさんと出会った。そして倒された。大鳥居の前で。


 苦悶の中で彼は見ていた。ローラさんが巨大ロボにも怯まず戦う姿を。そして勝つ姿を。それからの彼は変わった。

 彼は自身がヒーローであろうとする理由を思い出した。


『生き別れの弟を探し出したい』


 それがサバ・ライダーの戦う理由。彼の弟は名も無い悪の秘密結社にさらわれた。そしていまだに帰らない。

 風の噂で、その秘密結社が崩壊したと聞いた。それでも彼の弟は見つからなかった。


『ソウジ……。お前は今……、どこにいるんだ……。兄ちゃんは、必ずお前を探し出してみせるからな……』


 サバ・ライダーの弟は、悪の秘密結社にさらわれ、そして姿を消した。弟を探し出すためには、悪の秘密結社の足取りを追うしかない。それがライダーであり続ける理由だった。


 そのサバ・ライダーの前に、一人の怪人が現れる。怪人サバ男。五反田の駅前で、彼らは再び巡り会う。

 兄であるサバ・ライダーと、弟であるサバ男。運命のイタズラは、血を分けた兄弟の血みどろの戦いを望んでいるようだった。


 秘密結社によって改造手術を受けさせられたサバ男。その知性は既に幼児レベルまで退行していた。そして彼は東京拘置所にいた。死ぬまでそこから出られないはずだった。

 だが『ホワイト』と共に彼は自由を得る。それでも彼は『ホワイト』を離れ、自分が暮らしていた街へと舞い戻った。温かい家族との思い出を頼りに、彼はおぼろげな記憶に残る街へと帰ってきた。


 サバ・ライダーの眼前には怪人サバ男。お互いに敵である事は理解している。だが、戦えない。

 長い歳月の果てに、お互いの姿が成長し変わり果てたとしても、彼らには分かった。お互いに支え合った幼い日々の思い出が、彼らに真実を悟らせた。


「ま、まさか……、ソウジなのか……。そんなバカな…………」


「サッ、サバ!? サババッ! ニ……ニイチャン?」


「おっ、いたいた。お前がサバ男か? やっと見つけたよ」


 いきなり割り込んだローラさん。既に殺る気まんまんだった。ローラさんを見て震え上がったサバ・ライダーを放置して、ローラさんはゴリセンをフルスイング。

 サバ男は二〇メートルほどすっ飛んだ。恐怖に怯えるサバ・ライダーだったが、弟に対して更なる追撃を仕掛けようとするローラさんを止めずにはいられなかった。


「待ってくれ! あれは、俺の弟なんだ!」


 そんなサバ・ライダーに対してもゴリセンのフルスイング。そして生臭いサバ男を抱えて、ローラさんは意気揚々と引き揚げていった。


     ***


 渋谷区『東ヒー』本部。所用を済ませたビルダーレッドは、ハセガワに挨拶をして帰宅しようとしていた。

 そこに生臭いサバ男を小脇に抱えたローラさんがやって来る。


「うおっ、早いっすね。もう狩ってきたんすか!?」


「まあ、チョロいもんだな。あれ!? レッドじゃん、なにしてんの?」


「ははっ、まあヤボ用ってヤツだな。それよりもうヒーローになったんだってな。その上やる事が早い。ヒーロー初日にいきなり怪人狩りとはな」


「大した事ねえよ。大体コイツ、スゲえ弱かったし。ついでだから近くにいたライダーもぶっ飛ばしてやったよ」


 ハセガワとレッドが凍りつく。


「ん? どうした? 俺の武勇伝聞きたい? 一発ずつで終わりだよ。怪人もライダーも」


 レッドは咳払いを一つ。そして小声でハセガワに言った。


「怪人はともかく……、ライダーに対する攻撃は一応『犯罪』なんだが……」


「なにかの間違いっす…………」


 ゴリラはやたらと上機嫌だった。凍りつく二人を尻目にバカみたいな夢を語る。


「俺、テレビの取材とか受けようかな。人気出るぜ、多分。ほら、俺強いしよ。なんか決めポーズ考えようぜ、ハセガワ」


「『見世物』になる気まんまんだな……」


「きっと気のせいっす…………」


「なんだよ、お前ら。ノリ悪いな。いいよ、もう。とりあえず金くれ!」


 生臭いサバ男をカウンターの上に放り投げ、ゴリラは幼女に片手を突き出した。手のひらを上にして、軽く上下させながらゴリラが吠える。


「なあ、ハセガワ。金だよ、金」


「最低っす……」


「酷えな……」


 二人は上機嫌のゴリラから目をそらした。カウンターの上でサバがか細い声でつぶやいていた。


「……ニ、ニイチャン、タスケテ……」


     ***


『今日のゴリレンジャー』


活動メンバー  :ゴリレッド


怪人一名撃破  :報酬二〇万円

ライダー一名撃破:罰金二〇万円


備考:サバ男は再び東京拘置所へ。近日中に親族であるサバ・ライダーが身元引受人となり、品川区の医療機関に移送予定。

 知能の後退は深刻であるものの、回復の兆し有り。


     ***


「どうしてライダーまで倒しちゃったんですか?」


 ヨシダさんのお説教タイム。病室の床であぐらをかいているゴリラに、ヨシダさんは延々とお説教を続ける。

 申し訳なさそうな顔をしながら頭を掻いているゴリラにも、一応反省の色は見える。だがヨシダさんは止まらない。

 時折苦痛で顔を歪ませながらもお説教を続けるヨシダさん。


「次は絶対に上手くやってくださいね! 絶対ですよ!」


 お説教の最後にヨシダさんは小さな声で付け加えた。


「……じゃあ、私はゴリピンクで」


 上目遣いでヨシダさんを見るゴリラはニヤニヤと笑っている。そんなゴリラをジト目で見つめるヨシダさん。

 深いため息の後、彼女は次の行動を指示した。


「ちょっと先輩ヒーローの助けを借りてください。まずは新人として勉強が必要です」


 こうしてゴリラーズの再結成が決定した。

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