第三十七話 メンバーと裏方
ゴリレンジャー誕生の瞬間から五分後。
「じゃあローラさん、頑張ってね! 私も応援するから」
ゴトウダはまるで他人事だった。
「え!? 応援ってなに? 一緒にやんじゃねえの?」
本気でうろたえるローラさん。てっきりゴトウダはゴリレンジャーに加わってくれると思い込んでいた。
「なによ、私もやるの!? 無理に決まってるでしょ! 私がどうやって戦うのよ!」
ゴトウダは真顔でそう言った。厳つい顔つきとゴツい身体。どうやってもクソもない。一般人なら速攻で土下座してしまいそうな威圧感を持っていた。
現在、拠点にはローラさんとゴトウダ、そしてビルダーファイブの二人がいた。
ローラさんの心は決まっていたが、その場での返事は保留にした。まずは仲間と話し合ってから、そう答えたローラさんに対して初代は爽やかな笑顔を向ける。
「じゃあ、いい返事期待しているよ」
そう言って初代は珍妙なバイクに乗って帰っていった。それから四人で話し合う事になったのだが、そこからいきなりのゴトウダ離脱。
「え!? いや、俺は『ゴリレンジャー』って戦隊をやろうかと思ってたんだけど……」
「なんだよ、兄弟。もうやる気じゃないか。……でも戦隊って?」
「まあ、仲間と話し合うのも必要だと思うが、決まってるならそう言って欲しかったな。しかし感謝するよ」
ローラさんの気持ちが決まっている事を知って、ビルダーファイブの二人は安堵していた。だが、ローラさんはしかめっ面でゴトウダを見つめる。
「あのね、できたら裏方がいいのよ。正直言ってね、戦うってガラじゃないのよ。別に強くもないし。ライダーの時も『ホワイト』の時もね、私がもう少し強ければヨシダさんもハセガワちゃんも守れたはず。だけどできなかった。正直、私はその程度よ」
イエローが珍しく神妙な顔つきで話に割り込んだ。
「ちょっといいかな、兄弟。戦隊って言ったけど、一体誰とやるつもり? 兄弟は自分のレベルを分かってないよ。まず俺らと比べても桁が違う。そんな兄弟と一緒に戦隊をやれるヤツなんていないよ」
レッドもそれに同意した。そして小言も付け加える。
「あの明治神宮の時のように、戦いの場に女性を連れてくるのも感心しない。まさかあの女性や子供と一緒に戦隊をやろうって言うんじゃないだろうな?」
そのまさかだった。
「兄弟……、それはダメだよ。いくらなんでも無茶すぎる……」
「そ、そうかな……。いや、いざとなれば俺が守ればいいだけだし……」
「兄弟、それは戦隊とは言わないよ。別に女だから戦えないなんて言わないよ、ウチにもピンクがいるし。だけど、あの……なんて言ったっけ? ヨシダさん? あの人、戦えるの? 怪人相手になにができるの?」
「こないだ『マダム・クリマー』ってヤツを倒したって。それで入院する羽目になったけど」
「え? マダム・クリマー?」
「うん。この拠点に攻めてきてな、ヨシダさんが返り討ちにしたって」
「もしかしてあの人も改造人間?」
「いや、一般人」
「兄弟……、それマジ?」
「マジ」
イエローは無言で土下座した。これ以降、イエローはヨシダさんを『姐さん』と呼ぶ事になる。
土下座しているイエローに呆れながらも、レッドは話を続けた。
「人は見かけによらないな。俺もまだまだか……。だが、あのハセガワって子は無理だろう。あの子は昨日も『東ヒー』の本部で会ってるが、普通の少女にしか見えなかったぞ」
「まあ、アレも中身はオッサンだけどな……」
ローラさんはこれまでの経緯を説明した。ハセガワが幼女に変わってしまった一件、そしてその原因であるドクター・ディアマンテについて。
今度はレッドが口をあんぐりと開けて呆れている。そんなレッドを眺めながら、ゴトウダも呆れたように口を開く。
「そもそもローラさんの周りは、変わり者ばかりなのよね。私なんて浮いちゃって仕方が無いわ」
最後はローラさんが絶句した。
***
それから一時間ほど経過して、ビルダーファイブの二人も帰っていった。そしてゴトウダと二人。
「さっきの話の続きだけどね。武器を中心に装備類は私に任せて欲しいの。だけど、やっぱり戦うのは無理」
ゴトウダは真剣だった。そもそも武器職人だったゴトウダは、武器の扱いには長けている。だが、それは強い武器を作るための知識であって、戦うための訓練はしていない。
「それとね、二人の前では黙っていたけど、私もヨシダさんとハセガワちゃんを戦隊メンバーにするのは反対。私たち三人でローラさんをフォローしていく体制にするべき」
相変わらず誰か一人忘れている。
「そうね、ヨシダさんは参謀、ハセガワちゃんはネット工作を中心に情報収集担当、そして私が武器や装備の開発担当。それでどうかしら?」
ローラさんは腕組みしながら唸る。ゴトウダとは付き合いが短いが、ここで初めて決定的な溝がある事を知った。
戦隊のメンバーと裏方には大きな違いがある。ローラさんはそう考えていた。言いかえればゴトウダは現実的だった。そしてローラさんは違った。
「ゴトウダ……。お前、ヒーローってもんが分かってないな……」
「一時間前まで悪の秘密結社の首領だったゴリラに言われてもね……」
***
翌日。品川区の病院。ヨシダさんは病院のベッドの上で悩んでいた。悩む事が多すぎて、なにを悩んでいるのか分からなくなる始末だった。
「ああ、これからどうしよう……」
一番の悩みはゴリゴリ団の今後について。金銭的にも既に限界は近い。ヨシダさんの入院費用すら用意できない。その事はヨシダさん自身がよく分かっていた。
緊急入院という処置をとってもらったので今は普通に治療を受けているが、退院までにはお金を用意しないといけない。
もちろん問題はそれだけではない。明治神宮の騒乱から一週間。その間に状況がどういう変化をしたのか、ヨシダさんは知らない。時折、病院内の図書室で新聞を読んだりはしているが、ゴリゴリ団についての情報はまったく得られない。
そして先に退院しているはずのハセガワはまったく見舞いに来ない。
「一体なにがあったの……」
寝返りを打とうにも肋骨が痛くてたまらない。大きく息を吐いて、なんとか身体を起こす。
「また図書室へ行ってみようかな……」
ヨシダさんの入院している病院には、入院患者用の図書室があった。そこにはネット回線も通っているが、肝心のパソコンは常に誰かが使用している。
「今日はパソコン使えるかな……」
とにかく情報を集めないといけない。そう考えて、身体にむち打ってヨシダさんはベッドから降りようとした。
ベッドから足を降ろし意識を足下に集中した所、つま先が床の振動を感じ取った。眉をひそめて足下を見つめる。
ドスン、ドスンという振動。その振動に彼女は思わず笑顔になる。よく知ったリズムの振動。そして聞こえてくる看護師の悲鳴。
「もしかして、ローラさん?」
振動は徐々に大きくなっていく。ヨシダさんはそのままベッドに腰掛けて待った。悲鳴が病院にこだまして、振動の原因は病室へと近付いてくる。そして病室の扉が開かれた。
「ヨシダさん、元気?」
「元気な人は入院しません」
お互いに笑顔で挨拶。ローラさんはヨシダさんの顔を見てホッとしていた。だが、ヨシダさんは笑顔になっているものの、若干の不安を抱いている。
「ローラさん、せっかく来てくれたのにこんな事言うのもなんですけど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ってなにが? ああ、あのね、ヨシダさん。いきなりで悪いんだけど、昨日から戦隊やる事になったんだ」
「え!? なんの話ですか?」
***
ヨシダさんの病室で二人は話し合う。病室に備え付けのパイプ椅子では、ローラさんの体重に耐えられない。床にベッタリと座ってローラさんは笑いながら説明する。
「まあ、そんな感じでね。俺にヒーローに転職してくれって言うのよ。まあ、ぶっちゃけ資金面でも厳しいじゃん。とりあえずヨシダさんの入院費用とかもあるし、あの拠点もまだ使いたいしさ」
「それは分かりますけど、ヒーローってどんな感じでやるんですか? やっぱりローラさん一人で?」
ヨシダさんも自分が戦えない事くらいは分かっている。マダムに勝てたのは、間違いなくまぐれ。たとえ一度倒したマダムが弱体化していたとしても、再戦すれば恐らく負ける。
だが、自分から『ローラさん一人で?』と尋ねながら、その言葉に寂しさも感じるヨシダさん。そんなヨシダさんを見て、ローラさんが告げる。
「俺と一緒に戦隊やってくれない?」
ヨシダさんの表情がコロコロと変わる。無言のままで、目を見開きローラさんを凝視してから、悩むように天井を見上げ、そして最後は目が泳いでいた。
「私、戦えませんよ……」
「それは俺がなんとかするから!」
「裏方じゃダメなんですか……」
「それは……、なんか違うと思うんだ。俺はヨシダさんと戦隊がやりたい」
身もふたもない事を言えば、戦隊の『メンバー』と『裏方』では大きく違う。二人はそう思っている。二人は揃って同じ事を考えている。
『裏方だって仲間には違いない。だけど、本当の仲間なら一緒に戦うはず』
ヨシダさんは戦えない。それが分かっていながら、ヨシダさんは戦隊のメンバーになりたいと思っていた。
きっと自分は足手まといになる、きっと自分にはなにもできない。それが分かっていながら、ヨシダさんはローラさんの隣でポーズを決める自分を想像してしまう。
わずかに距離がある『裏方』よりも、同じ戦隊の仲間でいたい。
「迷惑かけますよ」
「いいよ!」
「なにもできないけど、口うるさいですよ」
「……いいよ」
「それじゃあ、最高のヒーローになりましょう。ビルダーファイブにも、メジャーマンにも負けないような、最高のヒーローに」
「ああ! 一緒に頑張ろう!」
「ええ。それで、名前は決まってるんですか?」
「うん。ゴリレンジャー」
「…………ああ、そうですか……」
ヨシダさんは一気にテンションが下がった。なにがどう悪いとは言わないが、とりあえずテンションは下がった。
「それでなに戦隊なんですか? ほら、なんとか戦隊って言うじゃないですか」
「うーん、ゴリラ戦隊ゴリレンジャーなんてどうかな?」
「それは却下します」
ヨシダさんのテンションは、ローラさんがビックリするほど下がっていた。『あれえ、おかしいな……』とつぶやくローラさんを、冷ややかな目で見つめるヨシダさん。
気を取り直してローラさんは自分の考えを披露した。
「とりあえず俺が『ゴリレッド』でヨシダさんが『ゴリピンク』ね」
ヨシダさんはガン無視した。
「それじゃあ、まずは『賞金稼ぎ』から始めてください。多分、東京拘置所から逃げ出した怪人には賞金がかかってるはずです。『東ヒー』に行って確認してみてください」
「あれ? ピンク嫌いだっけ?」
「それから『東ヒー』に行ったらハセガワ君の事も調べてみてください。ハセガワ君も私たちの仲間ですから」
「じゃあ、ゴリピンクはハセガワか……」
「じゃあ頑張ってください。まずは資金を稼ぐ事が最優先です。『東ヒー』の助成金は、お小遣い程度の額だったはずです。それだけじゃ生活できません」
「うん、じゃあ今から行ってくるね。ヨシダさんは安静にしててね、入院費用くらいすぐに稼いでくるから」
ニコニコ笑うゴリラを笑顔で見つめるヨシダさん。勢いよく立ち上がって、最強のゴリラは颯爽と病室から出て行った。
そしてすぐに戻ってきた。
「ゴリオレンジなんてどう?」
ヨシダさんは寝たふりでやり過ごした。
***
「じゃあ、自分は『ゴリ・ハセガワ』でいいっす」
「なんでだよ!」
渋谷区、『東ヒー』本部。ハセガワは普通に本部で仕事をしていた。
「お前な、電話くらいよこせよ。なにかあったのかって心配してたんだぞ」
「ぶっちゃけまだ自由の身になってないっす。ローラさんと初代さんの話し合いが終わってから、今後の事が決まったんすよ。それまではずっと監視されてたっす」
「ああ、そうだったんだ……」
「一応、ローラさんがヒーローになるんなら、拠点に戻っていい事になってるっす。それまでは『東ヒー』の職員扱いっすね。あっ、これが登録に必要な書類っす」
「おう。じゃあ、これ書いたら戻ってこれるんだな。よっしゃ、……ヨシダさんに書いてもらうわ」
「いいから、さっさと書くっす」
「俺、字ぃ書くの苦手なんだよ……。ほら、手もデカいしさ。ペンなんて持てねえよ、この手じゃ」
「ビンタするしか能が無いんすか? ほい、これが怪人の目撃情報っす。今のところ、サバ男が頻繁に目撃されてるっすね」
「お前、なにげに仕事できるな……。て言うか、なんで『ホワイト』の怪人ってシーフードばっかりなんだ?」
「それは知らねえっす。とりあえずさっさと登録して欲しいっす。あっ、ちょっと待っててくださいっす。電話かかってきたんで……。はい、こちら東京都ヒーロー支援機構です。お電話ありがとうございます。はい、はい……。ご協力ありがとうございます。すぐにヒーローを向かわせますので……」
「お前、誰だよ……」
電話を切ったハセガワはニヤリと笑う。
「サバが出たっす。新鮮ピッチピチの情報っすよ。速攻で仕留めてくるっす!」




