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ローラさんは今日もゴリラです  作者: 吠神やじり
第五章 さらばゴリゴリ団
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第三十五話 祭りの後

 明治神宮の騒乱から一週間後。ローラさんは一人拠点でゴロゴロしていた。特に何をする訳でもなくゴロゴロ。

 結論から言えば、ゴリゴリ団は解散寸前の状態だった。


 ヨシダさんは入院中。マダム・クリマーとの戦いで肋骨を数本折っていた。その他にも負傷箇所は多く、全治二ヶ月、少なくとも一ヶ月は入院が必要との診断だった。


 ハセガワは『東ヒー』に身柄を拘束された。元々ハセガワは『東ヒー』で身柄を保護されているという扱いだった。今回の騒動をきっかけに、再びハセガワは『東ヒー』の管理下に置かれる立場に戻ってしまった。


 ゴトウダは蒲田の工房へと戻った。ビルダーレッドのために武器を作るつもりらしい。


 ミドリ君は逮捕されていた。


 そしてローラさんは拠点でゴロゴロ。二階のリビングで今日もテレビを見てボンヤリしている。テレビではサメが暴れまくる映画が放送されていたが、ローラさんにはその内容がまったく頭に入っていない。

 ローラさんはサメの大暴れを眺めながら、この一週間の出来事を思い出していた。


     ***


 ゴトウダの運転でゴリゴリ団の一同はまず病院を目指した。負傷しているヨシダさんとハセガワのために、品川区の病院で二人を降ろす。

 急患という形で診察を受けさせてもらったが、即日入院が必要だと告げられる。特にヨシダさんは、『この子、一歩間違えたら死んでたよ』と告げられ、ローラさんも血の気が引く思いだった。

 ハセガワは軽傷ではあったものの、ついでに入院させた。それが間違いだった。ハセガワは数日で退院できる事になっていたが、その退院の日を迎えても拠点には戻らなかった。


「迎えとかいらないっす。大丈夫っす、一人で戻れるっすから」


 その連絡を最後にハセガワは消えた。『東ヒー』で身柄を拘束している、という事を知ったのはその翌日だった。


「今は落ち着いてください。間違っても『東ヒー』に乗り込んだりしないでくださいね」


 入院中のヨシダさんから止められていなければ、ローラさんは確実に『東ヒー』の本部に殴り込みをかけていただろう。

 この一週間で何度かヒーローの襲撃があった。その度にローラさんはストレス解消に暴れまくった。既に一階の店舗部分は廃墟同然の状態になっている。

 時折、ローラさんのゴリラビンタを食らってもかろうじて立っていられるヒーローもいた。そんなヒーローにはドンキーに買い物へ行かせた。


「この紙に書いてあるモン買ってきて、五分で帰ってこい。一分でも過ぎたらお前の仲間もぶっ飛ばしに行くから」


 悪の秘密結社に突撃して、使いっ走りをやらされるとは誰も思わない。だが一週間もしたらゴリゴリ団の悪名も響き渡り、誰も襲撃には来なくなった。


「自分で買い物行ってもいいけど、その間に拠点荒らされてもムカつくしなあ……」


 テレビではサメ無双も佳境に入っている。それに目もくれずタブレットをいじり始めるローラさん。

 ネットでは明治神宮の騒乱と、その原因となった戦隊とライダーの確執について様々な噂が語られている。そして当然ゴリゴリ団に関する噂も流布していた。

 ローラさんはゴリゴリ団の噂をまとめたサイトを見て眉をひそめる。


     ***


 秘密結社ゴリゴリ団のまとめ


ゴリゴリ団:ニシローランドゴリラ男率いる秘密結社。構成員五名。


組織の野望:『自分らしく生きる』


構成員  :首領、無敵のゴリラ『ローラさん』

      怪人の女王マダム・クリマーを撃破した『女帝ヨシダ』

      最強にプリティなマスコットキャラ『ハセガワ』

      戦慄のオネエ『クレイジー武器職人ゴトウダ』

      でっかいオッサン『ヘタレ』


拠点   :大田区平和島


     ***


「拠点まで普通にバレてんだな……。て言うか、組織の野望がフワッとし過ぎだろ……」


 独り言の後、ローラさんは少しだけ気持ちが落ち着いた。構成員の項目を見て、ある事に気が付いた。


「この噂、流してんのハセガワだな。アイツ、一応自由にネットとかできるんだな」


 身柄を拘束されているとは言っても、ある程度の自由は与えられているようだった。それが分かって少しだけ落ち着く事ができた。だが自由にネットができると言っても、メールやSNSを使う事はできないようだった。

 少しだけ気が落ち着いたローラさんはテレビのリモコンを手に取る。唐突に登場しサメを素手でぶん殴り始めていたマッチョなアメリカンから、チャンネルを午後のワイドショーへと移した。


 ワイドショーでは連日、明治神宮の騒乱について特集を組んでいた。『東京のど真ん中で起きたヒーローの不祥事』と題してヒーローと『東ヒー』の批判が繰り返されている。

 だが、その特集の中でゴリゴリ団の名前が出てくる事は無かった。

 もう一度タブレットでゴリゴリ団の噂を確認する。戦隊とライダーの衝突には、ゴリゴリ団も深く関わっている。だが、それに関する噂はすべて否定されていた。


「分からん。ハセガワはなにを狙ってんだ……」


 ゴリゴリ団の知名度は高まっていく。だが、その一方でテレビや雑誌はゴリゴリ団をガン無視している。今見ているワイドショーでもゴリゴリ団の名前はまったく出てこない。

 そしてネットでは、ゴリゴリ団の噂を根絶する事こそできないものの、明らかに噂の方向性を誘導するような動きがある。


『ゴリゴリ団は戦隊とライダーの衝突を止めようとしていた』


 ネットの噂話をまとめるとそんな印象を受ける。そしてなによりローラさんが気にかかるのは、ゴリゴリ団が『秘密結社』と呼ばれている事だった。『悪の秘密結社』ではなく『秘密結社』。それは大きく異なる。


「一応、『悪の』って入れて欲しいよな。ただの秘密結社じゃ、なんか締まらないって言うか……」


 割とどうでもいい所にこだわるローラさんだった。ただ問題はそれだけではない。むしろもう一つの問題が深刻だった。


 お金が無い。


 組織のお金はすべてヨシダさんが管理していた。そしてそのヨシダさんもお金に関しては『少し厳しい』と漏らしていた。

 だが、そのヨシダさんが入院した後、ローラさんは拠点にあるお金や銀行の預金通帳を確認して愕然とする。


「マジで金ねえじゃん。どうすんだ、これ……」


 ローラさんの脳裏に再び『経営破綻』という言葉が浮かぶ。今度は訴えそうな戦闘員こそいないものの、それでもお金が無ければ活動はできない。


「バイトでも探そうかな……」


 悪の秘密結社の首領としてあるまじき発言。再びリモコンを手にしてチャンネルを変える。素手でサメを殴り倒したアメリカンが、頭の悪そうな金髪ねーちゃんとラブシーンをやらかしていた。


「強けりゃいいって訳じゃないんだよな」


 映画の中では、暴力が肯定されている。それがすべて。敵を倒したら称賛されて、ハッピーエンド。おまけにヒロインと上手くいく事すらある。

 無敵のゴリラがため息を一つ。戦えば最強のゴリラの現在の所持金は、四五〇〇円。


「ヨシダさんの入院費用……、どうやって用意しよう……」


 ゴリラが本気で落ち込んでいた。今更ながらに後悔をしている。拠点にやって来たヒーローたちから有り金を奪えばよかったと。

 もっとも使いっ走りとして買い物をさせていたが、そのお金はヒーローに出させていた。その辺はちゃっかりしているローラさんだったが、手持ちの現金までは奪わなかった。


「よしっ! 今度来るヤツは、有り金全部むしってやろう!」


 そんなどうしようもない思惑を胸に抱きながら、ローラさんはボンヤリと過ごしていた。そんなダラダラした時間が続き、ローラさんの腹の虫が鳴った頃、一階の店舗スペースから物音が聞こえた。

 ローラさんは跳ね起きてニヤリと笑う。指をポキポキと鳴らしながら笑顔で一階へと降りていく。


「はい、いらっしゃい! 何人で来たの?」


 悪の秘密結社だか、妙に馴れ馴れしい居酒屋だか分からない挨拶。だが、店舗にいたのはゴトウダだった。


「ねえ、ローラさん。どうしたの、これ?」


「なんだ、お前か……」


 露骨に嫌そうな顔をするローラさん。そんなローラさんに構わずゴトウダは店舗を見回す。この一週間でスッカリ廃墟のようになった店舗を。

 まともなテーブルや椅子は見当たらない。ほとんどが壊れている。壁には穴が空き、所々に焦げ目すらついている。もっとも焼け焦げた跡はゴトウダの仕業だったが。

 店舗入り口の扉も外れかけている。どう考えても不用心だが、ローラさんは気にもしていない。


「とりあえず少し掃除しない? これからお客さん来るし」


 ローラさんは怪訝そうな顔でゴトウダを見つめる。その表情からローラさんの疑問を理解するゴトウダ。


「電話くらい出なさいよ。レッドちゃんが『電話したけど出ない』って言ってたわよ」


「なに? アイツ、来んの? アイツ、貧乏そうな顔してたけど、いくらくらい持ってくるかな……」


 今度はゴトウダが怪訝そうな顔。


「貧乏そうってなによ……。お金の話?」


「うん、今度ヒーローが来たら有り金奪ってやろうと思ってな」


「やめなさいって。レッドちゃんはお仕事の話を持ってきてくれるのよ。とりあえずレッドちゃんが来るまでに掃除しときましょ」


 腕組みをしながら唸るローラさん。掃除をする気は無いらしい。それ以上に気になっている事がある。


「ヒーローが悪の秘密結社に仕事の依頼? アイツ、俺が悪の怪人だって分かってんのか?」


「元々は『東ヒー』のクジョウから支援を受けて、活動を再開したんでしょ?」


「なんかグダグダだな……。そこら辺しっかりしようぜ。ヒーローはヒーロー。怪人は怪人。その辺の線引きはしっかりとさ……」


「はいはい。分かったから、その辺の転がってる椅子から使えそうなのを拾ってきてよ。掃除用具ってある? とりあえずホウキとちりとりが欲しいわね」


 ブツブツ言いながら掃除を始めるローラさん。一応来客を迎えるのに、最低限の礼儀は必要だと心得ていた。

 元がなにかも分からない破片をかき集めゴミ箱へ。使えなくなった椅子を片付けて、とりあえず使える物を並べる。

 そんな事をしている内に空は赤く染まっていた。ローラさんが、ゴトウダに夜食の買い出しでも頼もうかと考えていた時、ゴリゴリカレーの入り口に人影が見えた。


 その人影を見た途端、全身の毛を逆立たせるローラさん。恐らくはヨシダさんでも見た事のない、殺意に満ちたローラさんの姿がそこにあった。

 絶句するゴトウダ。気が付けば足が震えていた。ローラさんの姿はまるで別ゴリラ。ゴトウダの知る、人のいい悪の怪人とはまるで違う。

 声を上げただけで殺される。ゴトウダにそう覚悟させるほどの殺意。その殺意の塊に対して、平然と声をかける男。


「初めまして……かな。ニシローランドゴリラ男……。まさかこんな所に『生き残り』がいたなんてな」


 殺意の塊と化したローラさんに声をかけた男は、胸を張り堂々と拠点の中を歩く。そして当たり前のようにローラさんの眼前に立った。


 伝説の男。初代ライダーの姿がそこにあった。


 ローラさんは動かない。だが、その前傾姿勢はいつでも襲いかかる意志をあからさまに示す。そして口から吐き出した言葉が重苦しく響く。


「お前……、世界中を旅して『生き残り』を始末してるんだってな……」


 初代は沈黙したまま、上着を広げる。その途端、ローラさんから殺意が消えた。ボリボリと頭を掻くローラさん。その姿にゴトウダは本気で安堵する。そしてそれはゴトウダ一人では無かった。

 初代に遅れて拠点に入ってきたビルダーレッドとイエローも同様だった。イエローはじっとりと汗をかきながら初代に声をかける。


「ライダーさん。兄弟と因縁があるなら、事前に言ってくださいよ。マジで殺し合いが始まるかと思いましたよ」


 イエローの言葉にレッドも同調した。


「俺たち二人で止められるか不安だったな……。しかし、あれがローラさんの本気か……」


 ローラさんはまだ頭を掻いている。だがいまだに目には警戒の色が残る。大きく息を吐いてから、レッドの言葉に答えた。


「本気って言うかな、誰だって自分の命狙ってるヤツが現れたら必死になるだろ」


 そしてローラさんは初代に目を向ける。殺意に満ちた目から、普段のローラさんの目に戻り、そして冷静に初代を観察する。


「お前バカだろ? 命狙ってる相手のとこに来て、変身ベルトも身につけてないなんて。それになんだその右手? 結構なケガだな。お前殺すなら今がチャンスか?」


「兄弟、マジで勘弁してくれ。なにがあったのか知らないけど、とりあえず話を聞いてくれないか」


 イエローの言葉にローラさんは押し黙って、身振りで椅子に座るようにうながす。その仕草を見ても初代は動かない。


「はっはっはっ、さすがにあの組織の『生き残り』だ。殺気が凄まじいな」


 ローラさんの殺意にも動じる事なく向き合っていた初代だが、その後のローラさんの落ち着いた様子には驚きを隠せなかった。それを取り繕うように笑う。そして笑顔のまま、ローラさんに握手を求める。

 その差し伸べられた手を怪訝そうに見つめるローラさん。差し出された手をそのままに、初代は構わず話を続ける。


「なあ、ゴリラ男。ヒーローに転職する気はないか?」


 ゴリラは呆然と初代を見つめる。まさに『目が点になった』状態。依然差し出された手と、初代の顔を交互に眺める。


「もう一度言おう。ヒーローに転職しないか?」


 ようやくローラさんは反応した。たった一言。


「はあ!?」


 その一言の中には『お前、バカじゃねえの』という思いがギッシリと詰まっていた。

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