第三十二話 全員集合!
明治神宮の大鳥居前で出会ったゴリゴリ団とビルダーファイブ。ビルダーファイブの三人に対して、妙にローラさんは打ち解けているがゴリゴリ団の残りのメンバーはその経緯を知らない。
顔面をアザだらけの上、パンパンに腫れ上がっているヨシダさんはフラフラの状態だがなんとか立っていた。横でハセガワが支えているものの、足下はやはりおぼつかない。
「えっと……、ビルダーファイブの方ですよね? 一体なにがあったんですか、どうしてローラさんと共闘なんて事に?」
お互いに面識のない両チームは、怪訝そうな顔でお互いを見つめる。
***
ビルダーファイブ。活動期間六年。レッドとイエローの二人で結成した『マッチョブラザーズ』に、新メンバーが加わった事を契機に改名。ただし活動期間の六年間に新メンバーは全員入れ替わっている。
ビルダーレッド。ビルダーファイブのリーダー。脳筋スピリチュアル野郎。気さくなお兄ちゃんだが、気さくすぎてローラさんにすらタメ口。現役ヒーローでは最強とも言われている。
『俺が強い? 魂で戦ってるからな!』
ビルダーイエロー。ボケ担当。本人は計算したボケを繰り出しているつもりだが、基本天然。キャラにこだわるあまりにひんしゅくを買う事が多い。レッドの幼なじみで親友。結構強い。
『面白くて格好いいヒーロー! それが俺、ビルダーイエロー!』
ビルダーピンク。現役の女子大生。先代のピンクが結婚して引退した事がきっかけでビルダーファイブに加入。脳筋とボケにツッコみを入れる毎日。意外と強い。
『ヒーローやってみるのも悪くないかな、バイト代もでるし』
ヨシダさんはビルダーファイブの顔ぶれを見つめて、彼らの情報を思い出す。実力は最強クラスのヒーローたち。なぜ残りの二人がいないのかを疑問に思っているが、それは置いておいて後ろを振り返る。そこにはゴリゴリ団の面々。
ローラさん。怪人『ニシローランドゴリラ男』。ゴリゴリ団首領。本人はツッコみのつもりだが時々天然。怪人歴三十三年。ぶっちゃけ強い。
『俺……、悪の怪人に向いてないのかな……』
ハセガワ。自称マスコットキャラ。見た目は幼女、中身はオッサン。ただし最近は中身も幼児化しつつある。放っておくとつまみばかり食べているが、お酒は飲めない。まったく戦えない。
『自分、幼女っすから』
ミドリ君。薬物戦隊アヘンジャー、アヘングリーン。ただし既に戦隊は解散している。巨大化能力の持ち主で、無類の打たれ強さを誇る。基本ヘタレ。年齢不詳だが、ヨシダさんよりは年上らしい。弱くはないが、戦いでは速攻ヘタレる。泣くと強い。
『夢はでっかくビッグなヒーロー! アヘングリーン!』
ゴトウダ。武器職人。数ヶ月前まで自分の工房を構えていたが、現在は無職。厳つい顔とゴツい身体のオッサン。見た目はヤクザレベルの怪しいオッサンだが性格はオネエ。ハセガワ曰く『クレイジーなオッサン』。あらゆる武器に精通しているが、自分が戦う事はあまり好まない。
『あら、やだ。可愛い子ね。斬馬刀持ってみる? きっと似合うと思うの』
ヨシダさん。ゴリゴリ団の女幹部。文学少女のような地味な風貌のヒーローオタク。性格は真面目。だがその反面、秘密結社の幹部としてあらゆる犯罪を学ぼうと努力している。身体能力は普通の女性。だが『武器を使う』『急所を狙う』といった行為に抵抗が無い。
『私がしっかりしないと……』
***
これまでの経緯を聞き、ヨシダさんも少しばかりテンションが上がっていた。ヒーローと悪の怪人の共闘。彼らを陥れようとした事はすっかり忘れている。
「それでプランはあるんですか? 巨大ロボが四体、それに周囲にはまだ暴徒のような状態のヒーローがやまほどいますよ」
「とりあえず一体ずつぶっ壊してやろうと思ってたけど、なんか名案ある?」
「ノープランっすか。この状況でノープランはヤバいっす」
「一番厄介なヤツから片付けるゴリ。あの四体の中で一番デカいのは、合体するヤツゴリ。アイツから狙うゴリ」
「そうか? 一番厄介なヤツを最後にした方が、盛り上がるんじゃないか? 合体するのを待ってから、それを全員のソウルで粉砕する。それがヒーローだろ」
「ゴメンね。ウチの脳筋とゴリラは気にしなくていいから」
「いえ、こちらこそウチのゴリラがすいませんっす。なんか頭良さそうなフリしてるけど、こっちも結局ゴリラっすから」
「と言うか……、合体させないとダメなんですか。その前に叩いた方が……」
ヨシダさんの発言にローラさんとレッドが凍りつく。だがピンクが二人の反論を遮ってヨシダさんの意見を聞く。
「なんか手があるの?」
「多分、あのタイプだと足に変形するのはトレーラータイプだと思うんです。この周辺でアレと合体しそうな大型車を探して、それを叩きます。と言うか、運転しているヒーローを引きずり下ろします」
「いや、それはつまらんよ。ヨシダさん、ああいうのはね、合体させてから叩く。これが基本。これだけは譲れん。うん、ゴメン。分かった、譲る。それで行こう」
反論の途中で折れたローラさん。ヨシダさんの冷ややかな視線にちょっと傷ついていた。ローラさんが折れた事でレッドも黙ってしまった。
気が付けば全員の輪から離れて巨大ロボを調べていたゴトウダが声を上げる。
「ねえ、これ、まだ動かせるけどどうする? 戦闘は無理っぽいけど、けん制くらいにはなるんじゃないかしら。誰か運転できる?」
ビルダーファイブの面々は揃って首を横に振った。誰も巨大ロボの運転免許を持っていなかった。
「あら、そうなの……。じゃあ私が乗ろうかしら。私はペーパーだけど免許持ってるし」
「つくづく謎なオッサンっすね。て言うか、巨大ロボって免許必要だったんすか……」
その頃、ミドリ君はライトバンの影で体育座りをして待っていた。できればローラさんが問題を片付けてくれるまで隠れていようと考えていた。だが、そんな事はローラさんが許さない。
「後はミドリ君だな。スタンガン持ってる?」
突然話を振られてビビるミドリ君。小刻みに首を横に振る。そこにハセガワが答える。
「ああ、スタンガンなら自分が持ってるっす。一応、電池も交換しておいたんで、すぐに使えるっすよ」
ミドリ君は泣きそうな顔でハセガワを睨む。『余計な事すんなよ……』と言いたげにふてくされていた。
スタンガンをハセガワから受け取ってウキウキしているローラさん。だが、すぐに表情が固まる。
「なあ、ミドリ君ってどのくらいデカくなれんの? やっぱ巨大ロボとやり合えるくらいにはなるんだろ? ……ん、あれ? これ、どうやって使うの? これ押したらいいんじゃないの?」
「ああ、ローラさん、無理に押さないでください。壊れちゃいますから。この横のスイッチがセーフティーになってるんです。だからこれをスライドさせて……」
スタンガンの使い方を説明するヨシダさんも睨みつける。『ホント、やめようよ。このゴリラ、マジで加減ってモンを知らないから……』、そんな泣き言を言いたいミドリ君だった。
スタンガンの使い方を教わって、ニコニコしながらミドリ君に近付いていくローラさん。手にはスタンガン。必死に抵抗するミドリ君。
「いや、いいです。ホント、いいです。ちょっと無理なんです。いや、ホント、僕そういうの違うと思うんです。ホント無理……、アウッ!」
笑顔でスタンガンを押し当てて、そのままスイッチを押す。悲鳴と共に少しだけ大きくなるミドリ君。
繰り返しスイッチを押すローラさん。ミドリ君の悲鳴が止まらない。スタンガンの電池が切れるまで悲鳴は続いた。
呆然とするビルダーファイブ。彼らの目の前で行われている珍妙な現象に目を丸くしていた。
ミドリ君は体長十五メートルの巨人になっていた。だが泣いている。なぜか腰に手を当てて涙ながらに唸っている。
「いたたたたたた、痛い、ホントに痛い。なんか腰が痛い。ホント、無理です。ローラさん、僕無理です」
ミドリ君のケツにゴリラビンタ。そして怒鳴りつけた。
「さっさと立て! しばくぞ!」
そんな光景を眺めながらゴトウダが巨大ロボを調整していると、その機体に無線で連絡が入る。
『おい! キャラハン、応答しろ! 一体なにがあった!?』
ゴトウダは全員に向かって口元に人差し指を当てるジェスチャーを見せる。少し気持ちが悪かったが、その辺は全員スルーした。
少し思案した後、ゴトウダは無線機に向かって、苦しそうに小声で話し始める。
「ああ、すまない。ビルダーファイブに遭遇した。機体は破壊されたが、ヤツらを道連れにしてやった……」
『……ビルダーファイブだと!? ヤツらを潰したんだな、よくやった! それなら後は任せろ。今からそっちに行く!』
ゴトウダはニヤリと笑う。
「最初に一体目が倒された理由を知りたかったみたいね。巨大ロボを倒せるようなヤツがいるって分かってたら、そりゃ近付いてこないわよ」
「で、今から近付いてくる訳か……。しかしだまし討ちのようなやり方はどうも好きになれないな……」
「レッドさん、今はそんな事言ってる余裕無いですよ。私はもう行きますね。とりあえず合体ロボの足部分を探してきます」
ピンクは変身したまま自転車にまたがった。そしてそのまま南参道の方へと走り去っていった。
残ったほぼ全員が大鳥居周辺の森に身を隠す。隠れきれないミドリ君は巨大ロボの側でうずくまり、ヨシダさんはライトバンへと向かう。
大鳥居周辺からでもその姿を確認できるほどに近付いてきた巨大ロボ。その姿をヘルメットで解析するイエローが声を上げる。
「近付いてくるのは三体。合体するヤツはまだ近付いてこない。多分、合体する手足がまだ到着してないんだろ」
「私とミドリ君はあまり期待しないでね。こっちの機体はボロボロだし、ミドリ君はヘタレだし」
そう言いながらゴトウダは巨大ロボを起動させる。軽く震えるような動きの後、ゴトウダの乗る機体はゆっくりと動き始めた。
「ローラさん、これ使ってください」
ヨシダさんはライトバンからローラさん専用ハリセン『ゴリセン』を持ってきた。それを受け取り、笑顔でゴリセンを振り回すローラさん。豪快なスイングが轟音を響かせる。
「うん。悪くないな、コレ」
***
代々木公園、野外ステージ前。ビリオンから受けた傷の治療を済ませた初代は、ヘルメットをとって周囲を見渡している。明治神宮に近付く三体の巨大ロボ。そして上空には合体前の巨大ロボの上半身が飛んでいる。
周囲は騒然となっていた。野次馬も避難を始め、警官隊は周囲を封鎖している。悲鳴と怒号、そしてわずかに混じる歓声。
「一体なにが起きてるんだ……」
ただのヒーロー同士の衝突を遙かに超える騒乱。巨大ロボには再三にわたって通信を試みているが、応答は無い。
初代の元に集まったヒーローたちも不安げな顔をしている。そのほとんどは実績のあるヒーローたちだったが、それでも巨大ロボと戦った経験のある者はいなかった。
巨大ロボが明治神宮へと到着した。そして神宮を囲む周辺の森の木々をなぎ倒しながら進んでいく。北参道からは二体。そして南参道から一体。
そんな混乱の明治神宮から包囲を突き破って一台の自転車が走り抜けていった。空飛ぶ上半身へと真っ直ぐ走っていくのはビルダーピンク。
「合体すんだから、アイツの下にいりゃ自分から近付いてくるよね」
どこかにいる足部分を待ち構えるために、空飛ぶ上半身へと向かった。ビルダーピンクの疾走を見て、初代は我に返る。呆然としている暇などなかった。
素早く現在の状況を確認する。問題は巨大ロボだけではない。周辺で暴れる他のヒーローも問題だった。
集まったヒーローたちに告げる。できるだけ、自分自身の動揺も見せないように。
「君たち、まずは民間人の避難に協力してくれ。神宮から可能な限り、民間人を遠ざけるんだ。暴徒と化したヒーローは後回しでいい」
初代には巨大ロボを止める手段が無かった。集まったヒーローの中には巨大ロボを呼び出せる者もいた。だが、それをやれば事態は悪化する。それが分かっているから動けない。
初代は再び自分の無力さを噛みしめていた。
「こんな時に……、なにもできない男のどこがヒーローだ……」
明治神宮へと踏み込んでいった巨大ロボの動きが止まる。なにかを見て、動きを止めたようだった。
その巨大ロボの視線の先から、同じように巨大な影が起き上がる。
ボロボロの巨大ロボと、そして巨大な全裸のオッサンだった。その場から隆起するように起き上がる巨大ロボ。そしてその巨大ロボに腕を掴まれて無理矢理立たされる巨人。
呆然とする初代。周囲のヒーローたちもそれは同じだった。




