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ローラさんは今日もゴリラです  作者: 吠神やじり
第五章 さらばゴリゴリ団
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第三十一話 巨大ロボの謎

 明治神宮、大鳥居前。ビルダーファイブの三人と、ローラさんは相変わらず談笑中。どうにも緊張感の無い四人は、自分たちのヒーローや怪人となった経緯を打ち明け合っていた。


「いや、俺はな、単純に悪の秘密結社に憧れてたのよ。ただそんだけ」


「そんだけ!? もの凄いくだらない理由で人間辞めちゃったんですね」


 ビルダーピンクの容赦ないツッコみ。ローラさんは頭を掻きながら照れている。


「でもよ、ガキの頃ってそんなんじゃないか? まあ、俺の場合、だいぶ無茶したような気もするけどさ」


「悪の秘密結社で改造手術を受ける事を『無茶』の一言で済ませるなよ……」


 レッドが呆れかえる。レッド自身もかなり無鉄砲な行動をする事はあるが、それでも人間辞めるレベルの無茶はした事が無い。


「すいません。て言うか、ローラさんって今いくつなんですか? 話聞いてると結構年上って感じなんですけど……」


「俺? もう五十超えてるよ。オッサンて言うか、もうジジイだな」


 ピンクが目を丸くする。ローラさんは彼女の知る常識から大きくかけ離れた存在だった。


「改造手術を受けたのって若い頃なんですよね? 何年前の事ですか?」


「えぇ……。もう覚えてないな、多分四〇年くらいは経ってると思うけど」


 大雑把なゴリラは自分の経歴をいい加減に説明した。自分の過去について話すのが、少し照れくさいという事もあったが。

 正確にはローラさんは十八歳で改造手術を受けた。そして現在は五十四歳。改造手術を受けてから三十六年が経過している。

 ピンクはローラさんの大雑把な説明を真剣に受け止めて、更に驚きを露わにする。


「四十年!? いくらなんでもありえない! 普通改造手術を受けて五年も経過したら、身体とか脳に異常が出てくるはずですよ」


「毎日、青汁飲んでるからね」


「青汁か……。俺も飲んでみるかな……」


「いや、レッドさん。青汁にそんな効果無いから」


「しかし、結構年上だったゴリね。兄さんじゃなくて、『師匠』って呼んだ方がいいゴリか?」


「お前、なんか芸人みたいな基準で生きてんな。仕事間違えたんじゃねえの?」


「ああ、それは私も思いますね。どうします? イエローの枠が空いたらビルダーファイブに入りませんか? このゴリラは上野動物園にでも捨ててきますから」


「酷いゴリ……」


 そんなやりとりの中で、レッドが重々しく口を開いた。


「そう言えば昔な……。まだ二人だけでヒーローをやっていた時……、なぜか犯罪者を捕まえた後、野次馬の前でショートコントをやらされた時代があったな……」


 唐突に吐き出されたレッドの黒歴史。当時はイエローがツッコみで、レッドがボケだったらしい。


「私、それ、聞きたくなかった……」


 ピンクのレッドに対する尊敬の念が、少しだけ揺らいでいた。


「ちょっと話変えてもいいゴリか? 少し妙な事になってきたゴリ」


「なにが? お前の顔か?」


「師匠に言われたくないゴリ。ぶっちゃけ俺ら、他人から見たら見分けがつかないゴリよ」


「いや、ローラさんの方が男前でしょ。イエローはゴリラっぽいけど、なんかスケベっぽいし」


「その辺にしておけ。それでイエロー、妙な事って言うのは巨大ロボの事か?」


「そうゴリ。動きが妙に遅くなったゴリ。まるでなんか待ってるみたいゴリ」


「お前、バカか? そんな事は分かってるよ。アイツらがここまで来るのを待ってんのが暇だから、くだらない話してたんだろうが!」


「え!? そうだったんゴリ? 単に師匠の緊張感が無かっただけかと思ったゴリ。ああ、でもそれだけじゃないゴリ。妙な事って言うのは、コイツで検索した結果ゴリよ」


「とりあえず語尾のゴリって言うのやめろ。それから師匠って呼ぶな」


 イエローは自分のヘルメットを指差した。ヘルメットのセンサーを使って巨大ロボを調べ、その後データベースで巨大ロボの型番や所有者を調べていた。

 ようやく事態が進展した事で、レッドは顔を引き締めた。同時にピンクもそれまでのどこか砕けた態度が消え、真剣な表情でイエローを見つめている。


「巨大ロボ四体の内、三体の所有者に問題があるゴリ」


 ローラさんが眉をひそめる。とりあえず語尾の『ゴリ』については諦めた。だが、イエローの話にはまだ理解が追いついていない。


「問題って?」


「所有者の情報は見つかったゴリ。だけど、その所有者がどうもヒーローを辞めていたり、入院中だったりしてるゴリよ」


「つまり誰が乗っているのか分からない。そういう事か? ただの戦隊とライダーの衝突とは話が違ってきたな……」


 レッドの言葉の最中にピンクも変身した。そして自分のヘルメットで再度、巨大ロボの情報を集める。


「そうですね。妙です。あの合体するヤツ。旧式ですけど、あの四体の中じゃ一番デカいヤツですけど、本来の所有者は現在入院中です」


「でも合体するヤツなら、五人で操縦してるんじゃねえの? その中の一人くらい入院してたって動くだろ」


「いえ、五人全員入院中です。二週間前に北側の空白地帯を調査中に何者かの襲撃を受けたようです」


「じゃあ、その入院中の五人のソウルが巨大ロボを動かしてるって事か?」


 レッドの言葉にローラさんが露骨にドン引きした。そして頭を掻きながらツッコミを入れる。


「ソウルってなんだよ!? そんな理屈で巨大ロボが動くか! 要するにアレだろ、北側を根城にしてる厄介な連中が、その五人を襲った時に巨大ロボの鍵かなんかを奪ったんだろ」


「まあ、その線が濃厚ですね。巨大ロボって意外と本人認証システムが脆弱なんですよ。さすがに鍵とかじゃないですけど。ネットを調べたら巨大ロボの盗み方とか見つかりますし」


「そう言えば地方では巨大ロボの盗難が問題になってるゴリ。確か中東の方に売られるとか、そんな話を聞いた事があるゴリ」


「いや、ソウルで動く巨大ロボもあると思うぞ。やっぱり科学とかで全部片付けるのはロマンが無いだろ……」


「レッドさん、その話、後にしましょう。とにかくあの巨大ロボは誰が操縦しているのか分かりません。要するに、バカが暴れてるのとはちょっと様子が違ってきているって事です」


 タイミングを合わせるように進行速度を落とし始めた巨大ロボ。わざとらしく歩くスピードを遅くしたようにしか見えなかった。


「なあ、嬢ちゃん。ちょっとそのアホの素性を確認してみてくれない?」


 ローラさんは先ほど片付けた巨大ロボの搭乗者を指差す。アロハシャツを着た酔っ払い。今はローラさんに蹴っ飛ばされたために気を失っている。


「ああ、コイツがこれの操縦してたんですか……。あれ!? コイツも違いますよ。コイツ、北側に拠点を持ってる『宇宙刑事部長キャラハン』です。この巨大ロボの本来の所有者は……、行方不明ですね」


「そう言えばコイツ、巨大ロボの拡声器で散々わめいてたけど、一度も名乗らなかったな。要するにそういう事か……」


「この巨大ロボが購入されたのは一週間前。購入者はワカバヤシ・ノリヤス。中古品ですけど、酷いですね。三体分の部品をまとめて組み立てた機体みたいです。本当なら五人で操縦する機体なのに、一人しか乗れなくなってますね。その分、安かったみたいですけど」


「ほんで、そのワカバヤシってヤツは行方不明になってる訳ね」


「はい。三日前から連絡がつかなくなっているようです。家族から捜索願いもでてますね」


「つまりどういう事ゴリ? 兄弟、少し分かり易く言って欲しいゴリ」


「最終的に『兄弟』かよ。て言うか、お前馴れ馴れしいな。ホント今更だけどよ。まあ、いいや。要するにな、お前ら戦隊とライダーを衝突させようとしたのは、俺たちゴリゴリ団だけじゃなかったって事だよ。もっと周到に準備してたヤツらがいた。衝突を戦争レベルまで引き揚げるつもりで準備してたヤツらがいたって事だ」


 全員の視線が一点に集中する。ローラさんに倒されてグッタリしている宇宙刑事部長を、全員が見つめていた。


「まあ、今のところ、コイツらの思惑通りには行ってないな。俺らの行動までは計算に入ってなかっただろうし。コイツらの準備はまだ途中だったはず。コイツらの準備が終わってたんなら、俺らが動くよりも先にコイツらが仕掛けてたはずだから」


「兄弟、コイツらの目的はなんだゴリ?」


「さすがにそこまでは分かんねえよ。ただ戦隊とライダーをまとめて潰したかったんだろ。その後の事は分かんねえ」


 レッドが深いため息をついた。そのため息はあまりにも大きく深いもので、レッドは深くうつむくような姿勢になっていた。

 その表情はうかがえない。ため息の後は数秒の沈黙。そのレッドの様子に、全員の視線が宇宙刑事部長からレッドに移る。

 ゆっくりと顔を上げるレッド。そこには気さくな体育会系兄ちゃんの穏やかさは見えない。怒りに満ちた目を真っ直ぐ宇宙刑事部長に向けている。

 だが、どこかおかしい。視線こそ倒れた宇宙刑事部長に向いているが、その目は別の誰かを見つめているように見えた。


「言いたくねえなら、言わなくていいけどさ。お前、知ってんな。この件の裏側にいるヤツ」


 ローラさんがつぶやく。そのつぶやきを聞いたレッドは黙ってローラさんを見つめる。ローラさんの言葉に答えたのはピンクだった。


「まだ確証はないんで迂闊な事は言えないんですけど、確かに心当たりはあります。でも『彼』が黒幕だとすると、一体どうしてこんな真似を……」


 レッドはローラさんから視線を外し、そのままわずかに顔をしかめる。苦悩するように、あるいは苦悩に耐えるように歯を食いしばる。

 そこにローラさんのゴリラビンタが飛ぶ。豪快な破裂音が響き、ピンクはドン引きした。さっきの戦いとは違い、かなり手加減したゴリラビンタ。それだけにイエローは苦笑いするだけで黙って見ている。


「お前の都合はどうでもいいよ。いきなり全部話せとか言わないから。だけど、やる事は変わらないよな。とりあえず巨大ロボ、全部潰すぞ!」


「いやいや、私らだけで、そんな事すんの? いや、無理でしょ」


「まあ、兄弟の言う事が正しいゴリね。今は『メジャーレッド』の事は忘れて、目の前の事に集中するゴリ」


 あっさりと黒幕の正体をバラすゴリラ。まるで空気を読まないバカなゴリラの発言に、まともな方のゴリラは慌てて目線を反らした。とりあえず『聞こえませんでした』というポーズだけしておく。

 バカな方のゴリラの発言を全員がガン無視した。レッドはまるでゴリラビンタによって奮い立ったようなフリをして宣言する。


「そうだな。やるべき事は変わらない。今は、街の平和を護る事こそ、俺たちが成すべき事だ」


「……うん、まあ、無理っぽいけど、実際一体は倒してる訳だしね。でも巨大ロボ四体を相手に、私たち四人だけってのも……」


「ピンク、今、俺たちに、必要なのは、ソウルだ!」


 言葉を妙に細かく句切って断言するレッド。自分のセリフを強調したかったようだが、あまり上手くいっていない。ピンクは小さく『うえぇぇぇ』と呻き声を上げるが、とりあえず反論はしなかった。


「では、もう一度、共に、戦おう! ゴリラーズ!」


 レッドは叫びと共に拳を空へと突き上げた。その姿にレッド以外の全員が目をそらした。


「えぇ……、なによ、それ……。ゴリラーズって……」


 ピンクのつぶやきに、ローラさんが小さく頭を下げる。


「俺が悪いわけじゃない。でもとりあえず謝っとく。すまん」


 イエローが目をそらした先に、この場にそぐわないものを見かける。それは薄汚いボロボロのライトバン。ギシギシと車体をきしませながら、四人の元へと近付いてくる。


「なんか新手が来たゴリ。でも妙ゴリね、ヒーローが乗るにしちゃボロい車だな」


「あれ!? アイツ、ウチのモンだよ。よしっ、ゴリラーズ解散!」


 ボロボロのライトバンの窓から身を乗り出して、ブンブンと手を振っている銀髪の幼女。ハセガワが大きな声で叫ぶ。


「おーい! ローラさん、加勢に来たっすよー!」


「兄弟、こう言っちゃなんだけど、あんな女の子も戦わせてるのか?」


「いや、アイツは自称マスコットキャラだって。主な仕事はツッコみとネット工作だな」


 ローラさんはライトバンの運転手を見て顔をしかめる。一見ヨシダさんのようだが、顔面がアザだらけで腫れ上がっているように見える。フロントガラスの光の加減かと思い込もうとしたが、近付いてくる内にそれが見間違いでもなんでもない事に気付く。


 そしてライトバンは四人の目の前に止まった。少し車高の高いライトバンから飛び降りるハセガワ。運転席から出てきたヨシダさんは、そのまま『ボテッ』と車から落ちた。

 慌てて駆け寄るローラさん。そしてヨシダさんを抱きかかえた。顔面だけでなく、全身が傷だらけのヨシダさんを見て驚きと怒りに言葉を失っていた。

 そんなローラさんにヨシダさんがささやく。


「ローラさん。負けないで……、あんなヒーローなんかに……。どうか、戦って……、そして勝ってください…………。がくっ」


「ヨシダさん!? ヨシダさん!? ねえ、今、『がくっ』て口で言ったよね? なんかいい感じのシーンにしようとしたよね?」


 ライトバンから更に二人のオッサンが降りてくる。ゴツいオネエと三メートルの全裸。とりあえず三メートルの全裸に全力のゴリラビンタ。


「お前、なにしてんだよ! ヨシダさん、ボロボロじゃねえか!」


「僕、悪くないですよぉ。ホントですよ、ヨシダさんに聞いてくださいよ」


 バカデカい全裸が泣いている。その様子を見ながらレッドは爽やかな笑顔で言った。


「そっちは全員揃ったのか。じゃあ、今からビルダーファイブとゴリゴリ団の共闘だな!」


 やたら爽やかなレッドの笑顔に、全員が訳も分からず『お、おう……』と応えた。

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