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動画アイドル=平凡な主婦

作者: 猫まるまり

真由子は回る。

動画アイドルMaYuとして。

白い猫耳をショートカットのピンク髪にあわせ、もこもこしているが足が出たパンツをはいて。

PCの画面には可愛いか不細工かBBAかどれかが書かれてあるだろう。

余りにも酷いコメントは非表示だ。

耳にかけているイヤーマイクで好きな歌を歌う。

画面にはイタイとか嗤えるとか、一種のショーと化している。

真由子は腕時計を横目で見る。

この「全身の私を見て!!」といった時間はあと数分だ。

もう少しで普通の主婦に戻るから、声を張り上げる。


ショーが終われば片づけをしなければならない。

夫が見つけないような所にコスチューム、カツラを隠して何食わぬ顔でチューハイを一本開ける。

服装はワンピースにエプロン。薄いベージュのカーディガンを羽織っている。

深夜、夫は残業で帰ってこない。いつ帰るかも分からない。

夫が完済したこの一軒家。明かりが点いているのはリビングだけ。

真由子はここのところ、動画に熱中することで夜ご飯は食べなくなった。

しかしお酒の量は増えた。

痩せたけれど、健康的ではないのは自覚している。

真由子はチューハイをもう一本開けてバラエティ番組の音量を下げた。

とてもはしゃぐ芸能人の声が耳障りだった。

だからといって人声がないと心持ち寂しくも感じてしまう。


真由子夫婦は子供を作らない選択をした。

だとしたらペットで癒せというだろう。

だがペットは先に確実に逝く。

病気を持つ両親、義両親を抱えていてペットロスにでもなったら、自分は主婦業をこなせるだろうか。

無責任に命を預かろうとするのは真由子の信念に反する。

真由子は今両手にあるものだけで手一杯だ。


夫は努力の人だ。

浮気は分からないが、不倫はしたことがないだろう。

嘘をつくと鼻に汗をかくのが見分ける確証。

大企業のグループ会社の、同期を抜かして部長を勤め、帰りはいつも午前様。

昼食も会食に使われる可能性があるから、お弁当を持たせるかどうかを聞くために寝ないで帰宅を待たねばならない。

夕食はもちろん、真由子は一人で食べる。気が向いたときだけ。

夫は休みの日はひたすら寝ている。

もしくは早朝からゴルフだ。

出かけたのを確認して真由子はカツラをかぶって突然動画に現れる。


これはショーだ。

いや自傷行為だ。

自らを見世物にするなんて狂っている。

しかし真由子は止められない。

自分は狂っているのか。狂いあぐねているのか。


夫が自分を愛しているのか、必要としているのかここ20年で分からなくなった。

真由子の周りには夫の部下や上司からのお誘いがマグマのように噴出し続けている。

動画の世界でしか真由子の頭のイタイ部分を出せる処がないのだ。


夫を愛しているかって?

動画を見たら夫は真由子に離婚を願い出るだろう。

そのとき初めて夫を心から愛せるかもしれない。


夫が真由子の痛みを想像してくれただけでいい。

それだけで自分は報われるだろう。


そして真由子はカツラを被る。


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― 新着の感想 ―
[一言] 空虚な心を抱え込んだまま、自分を見世物にしている真由子が哀れでいじらしいですね。 ずっと自分を抑えてきたから、いざ解放しようとしても、それもまた自分を傷つけるような方法になってしまうのかなと…
[一言] 真由子にとって、物語が始まる前なのか、それとも物語が終わった後なのか。それが分からないひりひり感が、好きです。
2016/05/12 21:05 退会済み
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