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ヒロインな妹、悪役令嬢な私  作者: 佐藤真登
学園編

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 かつかつと足音を立てて、廊下の真ん中を歩いていく。

 昼休みが始まったとあって、廊下には学園の生徒が多くいた。だが、私が人波に足を止めることはなかった。

 なにせ私が歩くと、まず多くの人が振り返る。次にさっと身を引いて場所を開ける。廊下の端によった生徒達からはひそひそという話し声が漏れてくるし、ところによっては小さな悲鳴すら上がる。

 そうやって遠巻きにされるのがいまの私の立場である。


「……ふんっ」


 わざとらしく尊大に鼻を鳴らして周囲を威嚇する。今日は授業をサボってそのまま食堂に向かっているため、取り巻きもいない。一人でいるぶん、なおのこと目立ってしまっているのだろう。

 こんな状況だが、私は現状を意外と楽しんでいる。

 良くも悪くも、人の視線は心地よいものだ。恐れの視線と畏れの視線とはよく似ている。

 それに城下町で散財するのも、ガラの悪い連中との付き合いも、割り切ってみれば楽しいものだ。淑女としてあるまじきことではあるが、あれはあれで楽しい。いまの私の趣味は、あちらこちらでする買い食いだったりする。

 それらは全て、優良な生徒ならばあり得ないような行いばかりだ。それを積み上げて出来上がったのが、みなから遠巻きにされている公爵令嬢、クリスティーナ・ノワールだ。

 もちろん意図してつくった評判ではあるものの、その生活習慣は苦ではない。結局、私の性質というものは、悪役令嬢としての素養がはっきりあったのだろう。

 もちろん、悪役令嬢らしく取り巻きだっている。私の人格的評判は地に落ちているから、取り巻きになったのは公爵令嬢という地位に惹かれてやって来た数名のみだ。いつもはその数名を率いて、私は学園を闊歩している。

 権力に惹かれたとはいえ、私の取り巻き達には罪はない。かいがいしく私に付き従っている理由は、私の将来的な権威を見込んでいるからこそだろうが、利害の絡む人間関係を否定するほど私は子供ではない。私が破滅するその時は、彼女たちには被害が及ばないように配慮しよう。

 いまの状況を再確認しているのは、私がこれからミシュリーに会いに行くからだ。

 その食堂の場で、私はミシュリーに暴言を叩きつけに行く。お前は私の妹などではないのだと明言し、ノワール家の後ろ盾は使えないのだぞと嫌味ったらしく周囲に示して、入学早々ミシュリーの立場を悪くさせるイベントがあるのだ。


「……」


 うん。

 なんだかお腹が痛くなってきた。

 あっという間に食欲すら失せた。唐突かつ切実に早退したくなってきたが、今日はダメだ。逃げるわけにはいかない。逃げたら、この二年あまり、ミシュリーと一切顔を合わせなかったという苦行の意義が潰える。その他、サファニアやレオン、シャルルとの交流すら絶って自分を追いこんだのだ。

 大丈夫。いまでこそ、私は学園の素行不良者筆頭であるが、その内面は天才である。だからやれる。いまさら引ける立場にいないのだ。


「うん、行くぞ。行くんだクリスティーナ。私は天才だ……!」


 ぶつぶつと自己暗示をかけた私は、改めて決意をして顔を上げる。

 運命の始まりだ。私の破滅のための、なによりミシュリーの栄光のための晴れ舞台。その開幕を告げるべく、堂々と食堂に入った。

 ミシュリーはどこだろうかと、最愛の大天使の威光を探そうとして、様子がおかしいのに気がついた。


「ん?」


 私が食堂にはいっても、誰一人反応がなかったのだ。いつもなら、誰かしらが気がついて波紋が広がるようにして注目が集まるのだが、それがない。

 というか、食堂の一角でなにやら騒ぎが起こっているらしく、みんなの目がそこにそそがれている。


「……なんだ?」


 疑念をぽつりと呟いて、騒ぎが起こっているところに近づいて行く。ここで数名の生徒が私に気がついて驚愕を顔に貼り付けたが、それだけだ。

 野次馬根性というよりは、怒りを主な理由として騒ぎの元凶へと向かう。これからミシュリーの将来が決まるイベントが始まるというのに、私たち姉妹より目立とうなどという輩には天誅を下さねばならない。

 だが、いったいなにが起こっているのか確認しようにも、人垣がぶ厚すぎるため見通せなかった。


「ちっ」


 小さく舌打ちをもらしてしまう。

 途切れ途切れ私の耳まで届くやりとりは、言い合いというより片方が一方的にがなりだてているようだ。癇癪持ち特有のきいきいとした金切り声が耳をつんざく。おかげで、もう片方の声はまるで届いてこない。

 うるさい。


「ちょっと、そこを通せ」


 決して大声ではなく、私の存在を知らせるために目の前の人垣に告げる。

 私に背中を向けていた生徒は、不審そうな顔で振り向き、ぎょっとした顔になる。声を掛けたのが私だと気がつくや否や、慌てて道を譲る。その現象が連鎖して、少しずつ人垣が割れて私が通る道ができる。

 私には、これから入学したばかりのミシュリーに「お前はノワール家の一員ではないし、私の妹などではない」という宣告を叩きつけなければいけないという辛い役目があるのだ。それは、この場にいる多くの生徒の注目を集めて周知させなければいけない。

 だからこそ、人垣を割って言い合いをしている人物を確認してこの馬鹿騒ぎを収めようと意気込み、


「ミシュリー・ノワール! わたくしは、あなたのことをクリスティーナ様の妹だなんて、絶対に認めませんわ!!」

「!?」


 どこぞの誰かが、私のセリフをぶんどってミシュリーに暴言を叩きつけているのがこの騒ぎだと知って、思わず咳き込みそうになった。


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ヒロインな妹、悪役令嬢な私
シスコン姉妹のご令嬢+婚約者のホームコメディ、時々シリアス 【書籍化】
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