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最初のうちはよかったのだ。
私は目立つのが好きだ。人の上に立つのも大好きだ。取り巻きとかいると素敵だと思っている。
傲慢と言われよう不遜と評されようが、私はそれが上級貴族にふさわしい資質だと思っている。身分なくして人間社会は成り立たず、生まれながらに高位貴族として生まれたなら尊大であるべきなのだ。公爵令嬢として生まれた私は偉い。そして天才だ。内実伴った栄光を持ち合わせている貴人なのである。
だから、身に着けた衣装と用意した舞台のすべてを使ってクリスティーナ・ノワールの威を見せつけるのは快感でもあった。
ノワール家の中庭を解放しての、簡略なパーティー。まだ未成年の若者と子供のみに開かれた集まりは、天才の私が用意したのだから始まったその時から成功していたと言える。
カリブラコア家長女の紹介で王立学園在校生の話を興味深く聞いたり、最愛の妹のミシュリーのかわいさを説明したり、私が仲介して年少のグループを年長者に紹介したり、当家ご自慢のミシュリーを披露したり、死にそうな目をして慣れない社交の場でびくびくしているサファニアを連れまわしたり、地上に舞い降りた天使のミシュリーを自慢するのは楽しかった。楽しかったのだ。
会場にシャルルが途中入場してくるまでは。
「……なんでシャルルが来たの?」
ぶすっとした顔で目を三角にしているのは最愛の妹だ。私と同じ疑問を抱いたミシュリーは小さい体でシャルルとの射線を遮ってくれている。そうしながら不満たらたらな不平を漏らしているのは、私の気持ちを察してのことだろう。
いまの私はシャルルとの不意打ち気味の遭遇で心臓がバクバクと脈打っている。シャルルに発見されたらたぶん私の心臓は爆発する。なんかそんな気がする。
サファニアの影に隠れる私にチラッと視線をよこしたミシュリーは、ますます敵意の色を強くしてシャルルをにらんだ。
「こんなかわいい状態のお姉さまがシャルルを招待するわけないし……まさか勝手に来たの? それだったらいくらシャルル相手でも追い出せる名目がたつけど、そこまで脇が甘いとも思えないんだよね。どうやって潜り込んできたんだろう、あいつ」
「難しいことは何もないわ。シャルル殿下はただ単純に正式な手順で招待されただけのはずよ」
「どういうこと?」
私が弱気になったとたんなぜか生き生きし始めたサファニアがあっさりとシャルルがこの会場を訪れた原因を特定したようだ。ミシュリーとサファニアの推論を聞き流しながら、私は息をひそめて気配を消すことに腐心していた。一言でも話すとシャルルに気づかれそうで怖いのだ。
「姉よ。私の姉がシャルル殿下を招待したんでしょうよ。おそらくは公務……まあ、勉強の時間があってその後に来たから途中入場になったんだと思うわ」
「なんでサファニアさんのお姉さんがシャルルを招待するの? シャルルとカリブラコア家長女さんって知り合いじゃないはずだよね。お姉さまが招待してないんだから、サファニアさんのお姉さんが招待するのはおかしいよ」
「簡単なことよ。おそらく招待リストに目を通して、シャルル殿下の名前がないことに気が付いたのね。それでシャルル殿下に招待状を送ったのよ。あの姉なら絶対にやるわ。『あらクリスティーナちゃんたらシャルル殿下を招待し忘れちゃったのねうふふ』とか言いながらクリスティーナ本人には確認を取ることもなくシャルル殿下に招待状を送る光景が目に浮かぶもの」
「……余計なお世話」
「そうね。うちの長女はお節介なのよ」
珍しく不機嫌顔で評したミシュリーに、サファニアはおっくうそうに賛同する。
カリブラコア家長女と面識ある私でもサファニアの推論には異論をはさむ余地はなかった。おそらく一言一句たがわないだろう。なんだかんだ言いつつもそこはさすがの姉妹ということだ。よく姉のことを理解している。
共同主催の弊害がこんなところにでるとは誰が予想しえただろうか。いや、誰だってこんな未来は想像だにしなかったに違いない。だって天才の私の予想を超えてきたのだ。
カリブラコア家長女は善意の塊のような人だ。あの人の行動に悪意はまるでない。今回のことだって純粋な好意で行ったのだろう。それは分かる。
分かるけど、やめてほしい。
「せめてこっちに確認をしてくれればよかったのに」
「たぶん、ミスを報せたら恥をかかせるとでも思ったんでしょう。これであの姉のうっとうしさがわかった? あの人、何の悪気もないけど余計なおせっかい焼きでありがた迷惑を量産するタイプの人間なのよ。いいえ。悪意がない分たちが悪いわ。やめて欲しいって言ったらこっちが悪者みたいになるんだもの」
直接の交流のないミシュリーだけではなく私までもが擁護できなくなりつつあるが、サファニアにやり込められるなんて私のプライドが許さないので返答は後回しにしておく。
運よくシャルルを先に発見してからサファニアとミシュリーの背後に隠れ続けているが、たぶん無駄だ。何せ相手は市井の通りにいる群衆の中から私を見つけ出した超直感の持ち主である。この会場には数十人が詰めかけているとはいえ、意思を持って探されたら見つかるのは時間の問題だ。
いや、しかしと思う。
いま私の近くにはミシュリーがいるのだ。私が社交界に燦然と輝く天才児なのは確かだ。目立ってしょうがない優秀さを持ち合わせているのはどうしようもない。
でもミシュリーの近くにいれば、四方千里にまで照らすかわいさに隠れてシャルルも私を見逃すんじゃなかろうか。だとすれば、こうやってかくれんぼを続けていればそのうちシャルルも諦めて――
「――ぁ」
目が、合った。
心臓が一際大きく跳ねる。何気なくこちらを向いたシャルルの青い目が、まっすぐ私を捕らえる。どくんとはねた心臓が、全身に血液を送らずになぜか直接頭に熱を注ぎ込む。私とシャルルの視線が絡み合って、互いの位置をしっかりとらえた。頭にいった発熱は、なぜかそこにとどまったままエネルギーをため込んでいく。私とシャルルの視線の邂逅をサファニアはどうでもよさそうに見過ごした。逃げ場のない頭に熱がたまって、感情がぐらぐらと沸騰してオーバーヒートしていく。ミシュリーが顔をしかめるけれども、シャルルは意に介した様子もなく一歩こちらに近づいてくる。頭にたまった熱はもう限界まで膨れ上がって、何にも考えられないぐらい脳みそをいっぱいにしていて、頭が破裂していないが不思議なくらいで、シャルルがもう一歩近づいてきたのと同時に限界を突破して
「うぁ」
私の頭が噴火した。




