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ヒロインな妹、悪役令嬢な私  作者: 佐藤真登
九歳編

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 シャルルは笑顔でいることが多い。

 少なくとも私の前だとそうだ。ニコニコしていて嬉しそうな顔をしていることが一番多い。もちろんずっと笑顔でいるわけでもなく、いろいろと表情豊かだ。最初に顔を合わせるときは笑顔だし、何かを考えるときは眉根を寄せて腕を組む。嫌なことははっきり嫌だと言い切り、時々ミシュリーと大声でケンカしたりもする。喜怒哀楽がはっきりしていて、くるくると変わる表情は見ていて楽しい。

 ただ、普段は違うらしい。シャルルの世話役のオックスに聞いた話だと王宮にいる時はいつもつまらなそうな顔をしているらしい。たぶんシャルルは抑圧されることが嫌いなのだろう。だからこそ、自分を押さえつけようとする王宮にいる時のシャルルは大抵つまらなそうな顔をして、時々自分の部屋から抜け出そうとしてオックスを半泣きにさせているのだろう。

 そのシャルルが私を前にしてなぜか仏頂面になっていた。

 なんでだろ。

 首をひねって考えるけど分からない。さっきのやり取りを思い起こしてもシャルルが不機嫌をなる要素は見当たらない。別にシャルルを押さえつけようとした覚えはない。つまり私は何にも悪くない。

 天才にふさわしい完璧な理論にうむと頷いていると、シャルルがぽつりと呟いた。


「クリスはさ」


 傍から見ていてあからさまに拗ねていたシャルルがようやく切った口火に意識を向ける。


「クリスは、だれとでも肩車をするの?」


 うん。

 意味が分からない。


「必要があればするけど?」

「するんだ」


 するけどなんだよ。

 肩車をしたら何か悪いのかよ。

 どことなく非難の混じった声色にそう思う。たまにミシュリーが突飛な行動をすることがあるけど、今のシャルルはそれと同じ状態だ。さすが従兄妹だと謎の納得をしてしまう。

 別に私は何にも悪くない。もう一度断言する。私は何にも悪いことなどしていない。してないのに、なぜかシャルルが非難がましい目で見てくる。


「僕だってやったことないのに……」

「ん? なんだシャルル。もしかして肩車してほしいのか? なら今は人目もないし、肩に乗せて――」

「なにわけの分からないこと言ってるの、クリス。そんなわけないじゃん」


 さっきからわけの分からないこと言ってるのはシャルルだ。私じゃない。せっかくの好意の申し出をわけのわからないことと却下された私は、むっと唇を尖らす。


「だいたいなんで肩車なんてしたの? そんなの絶対おかしいよね」

「いやおかしくないし、別になんでもいいだろ」

「おかしいし。よくないし」


 ぷくっと頬を膨らませて否定する。

 よくわからない聞かん気を発揮しているシャルルをどうすればいいのか。機嫌を損ねているのは分かるけど、何が原因でどうすれば解消するのかがさっぱり分からない。

 まあそれでも、質問されているならと素直に答える。


「そりゃシャルルを見たかっただからだけど……」

「え」


 シャルルの肩がぴくっと反応した。


「僕を、見たかった……? どういうこと?」

「どういうことも何もパレード中のシャルルを見たかったからだよ。マリーワに抱っこしてって頼んでも嫌だって言われたし、人がすごかったから自力じゃ絶対無理だった。そこにちょうど良い高さのレオンがいたから肩車してもらったんだよ」

「……そうなの?」

「そうだよ」

「……僕、どんなだった?」

「ん? そうだな」


 聞かれて、思い起こす。

 パレード中のシャルル。家族と一緒に馬車に乗り、着飾った服で群衆に手を振っていた。つまらなそうな笑顔で顔を振っていた時はともかく、私を見つけてくれたのは嬉しかった。

 じーっとこちらをうかがうようにしているシャルルに答えを返す。


「よかったぞ」

「そっか!」


 素直に褒めると、ぱっとシャルルの顔が輝いた。


「そっか……クリスが……うん!」

「……?」


 経緯はよくわからないが嬉しそうにしているあたりシャルルの機嫌は直ったようだ。


「で、シャルル。肩車って悪い事なのか?」

「全然悪くない」


 なんだこいつ。

 確認の質問でなされた高速で手の平返しに苦笑が漏れる。別に嫌悪感は湧かなかった。ただ、やっぱりころころと変わる顔は見ていて楽しいなぁとだけ思った。


「ね、クリス」


 さっきとは打って変わって上機嫌になったシャルルの手が、私の目の前に差し伸べられる。

 王族らしく、きれいに整った手。そこから腕を伝って顔まで視線を登らせる。いつもは頭半個分下にあるはシャルルを見上げるのは新鮮な体験だ。


「どうした?」


 提案の内容を悟りつつも、いたずらっぽく問いかける。


「おどろう」


 ダンスのお誘いは紳士にあるまじき拙さだったけれども目をつぶる。

 この庭園で、二人で踊る。

 それは、あの日に失敗した分も含めて三回目で、恒例となりつつるささやかな催しだ。

 淑女の私はシャルルの手を取って、しとやかに一礼。


「はい、喜んで」


 にっこり笑って、シャルルのダンスの申し込みを受け入れた。

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ヒロインな妹、悪役令嬢な私
シスコン姉妹のご令嬢+婚約者のホームコメディ、時々シリアス 【書籍化】
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