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ヒロインな妹、悪役令嬢な私  作者: 佐藤真登
学園編

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本日二度目の投稿です。


 いきなりのシャルルの登場に固まっていた私とミシュリーだが、再起動したのはミシュリーのほうが早かった。

 扉を開いて中に入ってきたシャルルを視線で追って、思わずといった様子でぽつりとつぶやく。


「……なんでシャルルが来たの?」

「足止めが無駄になって残念ね」


 ミシュリーのつぶやきを、サファニアが拾って投げ返す。


「……っ! なんで――」

「なんでもなにも、ひょっとしたらもしかしてまだ知らなかったかもしれないけど、私、あなたのことが大っ嫌いなの」


 ばっと顔を上げたミシュリーを、サファニアが嗜虐的にあざ笑う。


「あなたがくっだらない理由で決別したあたりで、シャルル殿下とは共闘していたわよ。殿下の計画、あなたがとっても嫌がりそうだったものね」

「……っ」


 そういえば、シャルルに本をもらったときにサファニアと思しき悪口が書いてあった。

 放心しつつもそんなことを思う私をよそに、黙り込んだミシュリーが無言のままツカツカとカタリナに近づいていく。そのまま部屋の隅まで引っ張っていって「匿った恩が――」とか「いや、ちゃんと止めてたはずっす――」とかとぎれとぎれ何か言ってたが、詳細は聞こえてこない。

 というかシャルルの登場に、私の思考が完全に止まっていた。何かほかに割く余裕がない。

 シャルルの登場に固まったままだった私の背中を、とん、とサファニアが押す。


「ほら、さっさと行きなさい」


 軽く押された勢いで、よろめきながら、一歩二歩。

 天才の私だけれども、この世に勝てない人間が三人だけいる。

 一人は恐怖と絶対的信頼のあるマリーワ。

 もう一人は、私の最愛の妹のミシュリー。

 そして最後の一人が、シャルルだった。


「久しぶり、でもないよね、クリス」

「あ、うん」


 目の前に立った私に、シャルルがにこりと笑いかける。

 シャルルに気持ちが変わっていないと、宣言を受けた時以来だから、まだひと月も経っていない。だから、すごく久しぶりというわけでもなかった。


「話は聞いてないけど、クリスのやりたいことは大体わかるよ。まずはノワール公爵を引きずり落としたいんだよね」

「あ、ああ。そうだな」


 ミシュリーの修道院行きを回避するために、お父様の引きずり降ろしは急務だ。

 だが、まずお父様と戦えるだけの名分が存在しない。政争に限らないが、大義がなければ人は集まらない。いくら私がカリスマを持った才女とはいえ、そればかりはいかんともしがたいのだ。


「僕はミシュリーのことはどうでもいいけど、それでもクリスのためだったらいくらでも協力するよ」


 こいつほんとに素直だな。

 

 赤裸々に本心を語るシャルルは、昔と変わりないように思える。

 でもやっぱり、いろいろと成長していた。途中から入ってきたくせに、すらすらと私のやりたいことを読み取って語る。それは、シャルルも私に協力してくれるつもりだったということだろう。


「そのために、一ついい方法があるんだ」


 にっこり笑ったシャルルが、そのための方法を私に告げる。


「僕と結婚しよう、クリス」


 一瞬、何を言われたかわからなかった。

 話がつながってなくて、意味が分からなかった。

 そうして言われた意味を理解して、顔が、ぼんっと赤く染まった。


「あの腹黒王子、ぶっコロ――」

「み、ミシュリーちゃん、何をしてますの! いま何を言おうとしましたの!? 相手は王族ですのよ!?」

「離してフリジアちゃん。今すぐあの腹黒王子は滅さないといけないの! 妹の義務としてっ、なにがあってもやり抜かなきゃいけないの!」

「なにを言ってますの!?」


 なぜかミシュリーがフリジアに羽交い絞めにされていた。

 いつもは聞き分けが良くて賢い私の妹がなぜかよりにもよって非常識の塊みたいなフリジアに押さえつけられていた。部屋の一角が騒然としてきたが、そんな騒ぎを気にした様子もなく、シャルルは続ける。


「クリスのやりたいことの障害として、まずは正当性の問題があるもんね」

「う、うん」


 その通りだ。

 さっきはものすごく悪し様に罵ってやったが、実のところ社交界でお父様の評判は悪くない。堅実な当主としてノワール家の立場を確立させている。それを無視してお父様を当主の座から引きずり下ろすのは大変だ。

 その前段階として娘の私直々にお父様の評判を引き下げてから私が実権を握ってやろうと思っていたが、その代案をシャルルが用意してくれる。


「僕とクリスが結婚すれば、当主の座を得る名分ができるよ。だって僕がノワール家に婿入りする理由って、そもそもノワール公爵になるためだもん」

「いらない! わたしが自分の出自を発表すれば――」

「は? 何言ってんの? バカなの? あ、ごめん。ミシュリーはバカだったね」


 シャルルが悪口を言いながら満面の笑顔をミシュリーに向ける。


「そんなお馬鹿なミシュリーの出自なんて何の役に立つのかな。僕、ちょっとわからないから教えてくれない?」

「立つもん! 私のお母さん、王族だったんだよっ!」

「ふぇ!? そうなんですの!?」


 フリジアのみ驚いているところを見るに、他のメンツは知っていたようだ。

 ミシュリーの出自を聞いても、シャルルは揺らがない。


「ふーん? で? 僕も王族だけど? しかもミシュリー、その出自だから修道院送りになりそうになってるんだけど? あとこの作戦、エンド兄様の協力も取り付けてあるんだけど?」


 仮にも王位継承権第一位の王族が協力してくれるという。

 いろいろと根回しも住んでいるようだ。


「そういえば、殿下は来ないんだな。いや、こなくていいんだけど」

「なんか、どっかの誰かさんが用意した足止めを食らってるよ?」

「あ。足止め要員、そっちに行ったんすね……。そっすよね。クリス様と仲の良い王族って、学園生活で知ってるだけだとどう考えてもエンド殿下になるっすよね」


 シャルルの答えに、ぼそっと何かカタリナがつぶやいた。

 どうにも何かしらの手違いがあったようだ。別に私と殿下の仲は良くない。むしろ険悪だ。

 それはさておき、いきなり結婚しようといわれて、私もいささか狼狽している。なぜか無意識に、断る理由を探してしまう。


「で、でも。シャルルだって学校とかあるだろ?」

「そうだよ! タイムリミットはわたしが卒業するまで! そっから結婚したって遅いんだよっ」


 私の意見に同意して、がるると唸りそうな勢いでミシュリーが反論する。

 すごく必死だ。どうしたんだろう。お姉ちゃんを取られたくないのかな。なるほど。やっぱりかわいいな、私の妹は。後で頭を撫でてあげよう。だから今はちょっとだけおとなしくしてくれ。


「なら、辞めるよ」


 シャルルは笑顔のままあっさりと言う。

 柔和でいて真剣な顔が、私の心を揺さぶった。


「クリスが卒業した後、僕は学校を辞める。それで、クリスと結婚する。クリスのためなら、そんなのへっちゃらだよ」

「そんな絶対許さなふぎゃぁ!」

「ちょっと黙ってなさい。そこのクリス二号もこの腹黒を抑えつけるのを手伝って」

「は、はいですわ! ミシュリーも少しは落ち着いて――」

「離してフリジアちゃんっ。カタリナさん、助けて! いまこそ、あの時に着せた恩を返してっ」

「いや、いまロナ様に捕まってるんで無理っす」

「ミシュリー様にはかくまってもらった恩が確かにありますが、クリス様の幸せを邪魔するのは、ちょっと見過ごせません」

「くっ。じゃあ、フリジアちゃんがこの場をめちゃくちゃにして! 大丈夫。フリジアちゃんならできるって信じてるっ。フリジアちゃんは、一言投げればすごく明後日な解釈をして勝手に踊ってその場の空気だって粉みじんに粉砕してくれる! そんな爆弾みたいな威力を秘めてるもんっ。こんな万が一の事態のためにフリジアちゃんを呼んだんだよ!?」

「――やっぱりロクなこと考えてませんでしたわねっ。ミシュリーちゃんのそういうところ、大っ嫌いですわ!」


 後ろで何が起こってるのか、ちょっぴり気になった。

 ただ、ここでシャルルから視線をそらせるほど、私は人でなしではない。

 私はいま、求婚されているのだ。

 シャルルの意思で、だ。親が決めた婚約者だからではなく、シャルルはシャルル自身の気持ちで私に求愛してくれている。


「クリスを元に戻す役目はミシュリーに譲ったけど、これからのクリスを変えるために、僕はクリスに協力していきたいんだ」


 それを受けるか受けないか、私の意思に任せてくれている。そういうチャンスを、シャルルはくれた。


「え、ええっと……」


 気持ちの面でも、利害の面でも断る理由はなかった。

 受け入れる理由は、たくさんあった。

 はっきり自覚するほど赤面している私は、おずおずと手を差し出す。


「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……?」

「あはは、変なクリス」


 我ながら情けない承諾の言葉を、シャルルは柔らかく笑ってくれた。


「でも、やっぱりかわいい」


 その褒め言葉に、なんだか逆に緊張と照れが抜けた。

 いつの間にか私の背を追い越したシャルルの笑顔を見つめる。

 そうしていたら、自然と顔がほころんだ。


「やっぱり、お前には勝てないや」

「僕は、最初っから負けてたんだから、すごく必死だったよ? ……ものすごくうっとうしい邪魔者もいたし」

「誰が邪魔もむぐぐぅ!?」


 ごめんな、ミシュリー。もうちょっとしたら助けてあげるから、ちょっとだけ待っててな。

 心の中で最愛の妹に謝っていると、差し出した私の手を取ってシャルルが跪く。

 そうして手袋を丁寧にとって、私のあらわになった手の甲に口づける。

 くすぐったい感触にこらえる私を、シャルルはいたずらっぽく笑って見あげた。


「僕は最初からクリスのことが大好きだったんだからさ」

「そっか。私も、お前のことが好きだぞ」


 そういって、私とシャルルは自然体で笑い合った。

そして、次の話で完結になります。

長く付き合ってくださり、ありがとうございました。

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