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ヒロインな妹、悪役令嬢な私  作者: 佐藤真登
学園編

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 世の中、どんなことであっても多少の躓きはあるものだ。

 それは天才を自負する私も例外ではない。かつて運命を知らなかった私はただ平穏を享受していた愚か者であった。私の才覚は、運命をシナリオどおりに進めるために与えられたものだという事実から目を反らしていた。

 それを乗り越えて、悪役令嬢のクリスティーナ・ノワールは生まれた。

 どんな艱難辛苦が待っていようとも、私は立ち止まらないと心に決めた。運命の道が開けた言葉を聞いた時、私は運命を愛することを決意したのだ。

 そうして運命の味方となったはずの私の思い通りにならない慮外者がいた。


「エンド殿下はなんなんだよ!」

「なんだいきなり」


 生徒会室に怒鳴り込みにきた私に、殿下うろんな顔を向ける。まるで心当たりがないといいたげな表情だ。

 知らんふりをしているのか、本当に自分は悪くないとでも思っているのか。なんにしても、無知で無自覚で無能もいいところだ。

 そんな愚かな殿下に私は怒声を叩きつける。


「なんだも何もあるか! ふざけるのはその性格ぐらいにしろよ、殿下っ」

「人生を壮絶にふざけている貴様には言われたくないぞ。ふざけるなアホ」


 私の訴えに、殿下は目を吊り上げて返してくる。

 とんだご挨拶である。私は最愛の妹を幸せにするために、常に大まじめの真剣に生きている。

 その偉大な目的のために最初のイベントを起こしてから早三か月。

 私はフリジアを駒とし、悪役令嬢としてミシュリーの障害になるべく立ち振る舞ってきた。フリジアもフリジアなりに、私の言いつけを頑張って実行している。

 運命の道筋通り、イベントは発生する。場所も時間もタイミングも登場人物も完璧だ。私という天才が敵役と進行役をこなしているのだから、当たり前といえば当たり前の話ではある。

 だがなぜか殿下と接する対象がミシュリーではなくフリジアになるのだ。

 まるで意味が分からない。

 フリジアがミシュリーに嫌がらせをしているはずなのに、その後にフォローに入ると殿下とフリジアが交流を重ねることになっている。

 大丈夫だ、まだ取り返せるはずだというごまかしもそろそろ限界だ。このまま放っておくとフリジアと殿下が結婚しかねない。別にお似合いだからいいけどなっ。

 けど、そうなったらミシュリーはどうなるんだよ。


「なに? お前、フリジアのことが好きなのか? ミシュリーに一目ぼれをしていた気持ち悪い殿下はどこに行ったんだ? というか、フリジアが趣味だったら殿下の感性を疑うぞ。頭大丈夫か? あいつ、悪い奴じゃないがアホだぞ?」

「あの小娘はやっぱり貴様の差し金か!?」


 問い詰める私に対し、殿下が席を立っていきり立つ。


「あのフリジアとかいう貴様のアホさを暴走させたような小娘……! 俺の周りをうろちょろして挙句にいらん騒動を起こして後処理を増やしてくれるあのアホ娘っ。何がしたいんだ、あれはっ。嫌がらせか? 貴様の遠回しな嫌がらせなのか!?」

「そうだけどそうじゃないんだよっ」

「はぁ!? やっぱり嫌がらせなんだなっ」


 確かに嫌がらせだが、対象は殿下ではないのだ。ミシュリーに嫌がらせをして周囲から同情されるような悲劇のヒロインにすることこそ目的なのだ。

 まるで意思の疎通ができず、顔を突き合わせて互いにガンを飛ばす。

 先に視線をそらしたのは殿下だった。

 ちっ、と荒々しく舌打ちなんて無作法をして席に座りなおす。


「わかった。言いたいことが終わったのなら、もう帰って寝ろ。貴様、眠いんだろう? 不眠の苛立ちを俺にぶつけるな、クリスティーナ・ノワール。そしてあの小娘に変な騒動を起こさせるのはやめろ」

「……ちっ」


 正直、このまま手が出るレベルに発展して殿下をボコボコにしてもよかったのだが、殿下が引き下がったのなら私も落ち着こう。悪役令嬢とはいえ、私は淑女である。暴力に反撃することは許されていても、こっちから殴りかかるのは淑女的によろしくない。

 しかし良かった。別に殿下はフリジアに好意を持ち始めていたとかではないらしい。順調にフラグを重ねすぎていて、そろそろ殿下がフリジアのことを好きになっていないか不安になってくるレベルまで達していたのだ。


「……まあいい。別に私は殿下とケンカしに来たわけじゃない。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「そうか。言い終わったら早く帰れ。仕事の邪魔だ」

「なら忠告させてもらうけどな、殿下。手遅れにならないうちに聞け。このままだとお前、そのうちフリジアと婚約を結びかねなくて怖いからな。ミシュリーと添い遂げたいなら、ちゃんと私の言うとおりに動け」

「黙れ」


 運命を知る私の親切な忠告に対し、殿下は不信に満ちた目を向けてきた。


「俺は、貴様の話は一割以下で聞き流すことにしたんだ。貴様のいうとおりに動いたら破滅する。雑音をまき散らすな、うっとうしい」

「聞く気がないだろ、それっ!」


 物語がうまく進められない私は気が立っている。殿下の非協力的な態度に気持ちがささくれ立つ。 シャルルは意外なことにあれ以降、積極的な接触はない。

 静かすぎて逆に怖い気もするが、私に残された時間は少ない。あまりシャルルに意識を割きすぎるわけにはいかない。どっちにしろ、時間が過ぎれば私の交流関係はすべて潰えてなくなる。そういう罪を背負っているのだ。

 だというのに、それが思ったようにいかない現実を前にして、私はかなり焦っている。物分かりが悪い殿下になおも吠えたててやろうとしたが、私と殿下の間にロナが割って入った。


「何が起こったのかわかりませんが、クリス様も落ち着いて――」

「黙れロナ。私、まだお前のこと許してないからな。馴れなれしくするな」

「うぐっ!」


 どこぞの裏切り者を冷たい目でぎろりんとにらみつけると、ショックを受けたのかよろめいて引き下がる。

 それでも気丈に顔を上げたロナが一言。


「わ、わかりました。確かにクリス様の目の届かないところで勝手をしてしまったのは事実です。でもそれならば、せめて受け取りそこなったサインだけでもお恵みを……!」

「やるか。そんなことより、だ」


 何がわかったかさっぱりわからないし、ロナが私のサインを受け取ることなんて未来永劫ない。だからロナの請求はきれいに無視する。

 どうやら殿下はとうとう私のいうことを聞かないことにしたようだ。

 しかも理由が私が気に入らないからという、快と不快を基準とした愚か極まるものだ。好き嫌いで利益を頬り捨てる何てまるで子供みたいなわがままだが、目をつぶろう。直接言って聞かないのならば、その行動を誘導していけばいいのだ。


「殿下。近々、弁論会があるだろう。それの準備は順調か?」

「なぜ貴様が進捗を知りたいかは追及しないが、当然順調だ。……貴様、去年のように変なことはするなよ」

「別に、しないし」


 ぷいっとそっぽを向く。

 変なことはしない。ただ、運命にある筋書きに従うだけだ。確かに去年は細工をして多少派手にしてあげたが、それだけだ。イベントは目立つための格好の場所だから、私が悪役令嬢だと知らしめるためには好都合だし、盛り上がったからいいと思う。

 弁論会。リベラル・アーツの三学四科のうちの論理学を鍛えるために設けられる議論の場だ。学生のディベート力を高めるため、テーマを設けて議論を深める会である。今回は大規模なもので、三か月に一回生徒会が主催で行われ、四学年の中でも成績優秀者が集まり議論する。

 集められた成績優秀者は何組かに分けられ、それぞれテーマを与えられて順番に議論を交わす。班自体は学年混合で作られることになり、議論に参加できない多くの生徒は順番に行われる議論を会場で静聴する。

 そしてこれは、私が直接出向きミシュリーと勝負をする重要イベントの場でもある。


「もちろん、私は議論する側に選ばれているよな」

「……貴様は、成績だけはいいからな」


 さすがに殿下も個人的感情で人の器を測るのはやめたらしく、私の天才ぶりを認める。


「これは当たり前すぎて聞くのも馬鹿らしいんだが、ミシュリーも議論する側だな?」

「そうだな。彼女は非常に優秀だ。貴様と違って、その性格とふるまいを含めて瑕疵がない。少しは妹見習え」

「よし。私とミシュリーは同じ班にしろ」

「は?」


 班の中でディベートを戦わせる仕組みだから、そもそも同じ班にならないと議論が交わす場を持てない。だからのこその私の提案に、殿下は顔をしかめる。


「このシスコンが。なぜ俺が貴様の不正に手を貸さなければ――」

「ロナ。私の望みをかなえたら、サインを受け取るか取り巻きに戻るか、二択をくれてやる」

「わかりましたっ、クリス様のお望みのままに!」


 喜んで買収された生徒会メンバーに、苦虫をつぶしたような顔をする。


「貴様な……」

「どちらにしろ、お二方の成績を見れば、同じ班になるのは妥当ですので、不正には当たりません。まっとうな選出です」


 苦言をあげる殿下に、ロナはつんとすまし顔で明後日の方向を向く。

 何にしても、これで準備は整った。

 ディベートの場を借り、私が全生徒の前でミシュリーを貶めようとする。それに失敗し、私が悪役令嬢として凋落していく第一歩が、そのイベントの概要だ。

 イベントの準備は整った。議論の方向性の誘導方法も考え済みだ。あとはそれを実行するため心を固めている最中に、ふと気がかりが浮かんだ。


「……あ、そうだ。フリジアは、もちろん傍聴側だよな?」

「安心しろ。あのアホ娘は、学力もアホだ」

「そうか、安心した」


 意外性がなくて、素晴らしいことだと思う。そうとなれば、運命がひっかきまわされる心配もない。なんだかんだ、フリジアは事態をかき回してくれるからな。

 しかし、今回のイベントにフリジアはかかわらない。あのイベントの主な登場人物は、私とミシュリーの二人だけだ。

 不安要素をつぶし、準備は終えた。

 さあ、私が凋落する第一歩だ。

書籍版、二巻の発売日が決まりました。

8/26らしいです!


アマゾンで見られる美少女姉妹の表紙は素晴らしいですよー。二人とも一巻より大人っぽくなってさらにかわいくなっております。

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