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たまにこういう無駄話を書きたくなります。


 ――というわけで、今度の記事作成のインタビューをお願いするっす。

「なんですか、いきなり。どういうわけか知りませんが、時間の無駄ですので失礼します」

 ――ちょ、ロナ様!? 時間の無駄はひどいっすよ。

「なにもひどいことはありません。それに、私がどうしてあなたの新聞作成に付き合う必要があるのですか、カタリナ」

 ――いま作っている新聞は、今年入ってくる新入生たちにクリス様の偉大さを知らしめるためのものっすよ?

「……なるほど。意外と考える頭があったのですね」

 ――もー、あたしのこと能無しみたいに言わないでくださいっすよ。それに、ロナ様って、あたしも含めたクリス様の取り巻きの中でもより熱心なクリス様信者じゃないっすか。どれだけ肯定的な意見を行けるかの実験っすよ。

「そうですか。前々から思っていましたけど、あなたにはクリスティーナ様への敬意が足りないような気がします。その点についてはどう思いますか、カタリナ」

 ――大丈夫っす。クリス様のことは尊敬しているっす。それ以上に、クリス様の威を借りて好き勝手できるのは最高っす。

「……そうですか」

 ――ちなみに取り巻き内で陰湿ないじめとかが始まったら、全力でクリス様に泣きつく用意はできてるっす。クリス様はきっと、弱い者いじめとは許さない方っす。

「……」

 ――というわけで、いいっすか?

「……まあ、いいでしょう」



 ――クリスティーナ様の日頃の態度が問題視される点については?

「ああ、普段の言動のことですね。確かに貴族としては珍しく、初見では荒っぽいようにも見えますが、実のところクリスティーナ様の所作は、ああいう仕草の中ですら隠し切れない気品を感じます」

 ――というと?

「よほどのこと、礼儀作法の基礎がしっかりされているのでしょう。教養というものは、どうあっても隠し切れない良い例です。立ち方からなにもまで、すべてに貴人としての格が違います」

 ――そういうもんすか?

「そういうものです。できないものができないからああいうふるまいをしているのではなく、教養を修めていてなおああいうふるまいをされているという点を鑑みれば、いたずらに態度を崩しているわけではないのでしょう。きっと、何かしらの意図が隠されてます」

 ――へえ。そうなんすか?

「そうなのです。あなたは、今までなんだと思っていたのですか?」

 ――あたしみたいな身分出身だと、とっつきやすくていいなっ、クリス様は素敵っすって思ってたっす。

「そうですね。あるいはクリスティーナ様は、あなたがた平民の存在をおもんばかっているのかもしれません。ところで、問題視している人物とは誰のことです?」

 ――あ、情報提供者については機密っす。記事作成の協力者が闇討ちとかされるとかわいそうなので。

「……そうですか。で、次は?」

 ――いや、闇討ちは否定してくださいっすよ……。あたしの信用にもかかわるんっすよ?

「次は?」

 ――……。


 ――貴人の身でありながら、下町で遊び歩き、散財をしているという噂について一言。

「下町の経済を回せということを示唆されているのだと思います。貴族社会しか顧みない貴族の多い中、真の上流階級としての思慮深さがうかがえますね」

 ――マジっすか。あたしはあれ、クリス様は普通に楽しんでんじゃないかなぁと思ってたんですけど、そんな理由があったんすか?

「あなたの考えなしにはあきれますね。クリスティーナ様がそのような無用なことをするとでも?」

 ――いや、あたし付いていったことありますけど、終始楽しそうでしたし、町の人にも気さくにしゃべりかけてたりしたっすよ。あればっかりは素としか思えないっす。

「おそらく、人脈づくりでしょう。あるいは庶民への人気取りの側面あります。将来、役に立つ財産になりますからね。間違いありません」

 ――そうっすかねぇ。クリス様、あれでけっこう大衆的なところもあるっすからねぇ。単に食べ歩きとかが好きなだけだと思うんすよ。たまにうちの兄貴と……あ、いえ。なんでもないっす。次の質問、いいっすか。

「いいからお次の質問をしなさい。……いえ。いまなんと言いました?」

 ――あ、すいません。これも機密っす。

「ちょ!?」


 ――暴行事件を起こしたという話もありますが? それを、公爵家の権力でもみ消したという話ですが。

「暴行事件!」

 ――え? 驚くならともかく、なんで目を輝かせてるんすか? 不祥事っすよ。我らが敬愛するクリス様の不祥事っす。

「なんでも何もありません。暴行事件――それは、私とクリスティーナ様が初めてであった、二年前のある日のことでした」

 ――うわ、なんか語りだしたっす。

「興味本位で下町にお忍びで出た私は、使用人とはぐれてしまいしました。そして、そこを狙ったように悪漢たちに絡まれたのです」

 ――あ、なんかそれは申し訳ないっす。心底申し訳ないっす。

「あなたに謝罪されるいわれもありませんが……あの時、さっそうと現れたクリスティーナ様が助けてくださったんです! 騎士もかくやという手並みでした!」

 ――クリス様、なんであんなに強いんすかねぇ。貴族の令嬢なのに……貴族の令嬢っすよね? たまにクリス様がご令嬢だってことを忘れそうになるんですけど。

「しかも権力を使って、私がそこにいたという事実をもみ消してくださいました。あれほどお優しい方がいらっしゃるなんて……!」

 ――ああ、なるほど。そうなんすね。兄貴の件の被害者ってロナ様だったんっすか。どうりで前々からやたらと熱心なクリス様信者だと……

「なにか?」

 ――いや、なんでもないっすよ。うちの家族にごくつぶしの犯罪者まがいなんていないっす。

「……?」

 ――だからなんでもないですって。


 ――ロナ様への質問はこんなところっすね。あ、そういえば、新聞部が半期ごとにやってる人気投票の結果が出たっすよ。これ、よくわからない伝統っすよね。

「あら。結果を聞かせてもらえるかしら」

 ――ぶっちぎりでクリス様っす。王族のエンド殿下を置き去りにしてんすけど、いいんすかねぇ。

「当然です。身分と人望に関わりはありません。直接触れ合う機会の多い学園の中でしたら、なおさらです」

 ――エンド殿下が不憫でならないっす。そんでもって、不人気投票ではサファニア様が票を集めてたっすね。

「それも当然です」

 ――……ま、否定はしないっす。

「これで終わりですか?」

 ――あらかた終わりっす。次は否定的な意見も聞きたいんで、そっちに行くっす。

「否定的な意見? ……誰のところです?」

 ――そりゃ、サファニア様一派のところっすよ。

「……」



「……カタリナ。一つ、あなたに聞きたかったことがあるのです」

 ――ん? 改まって、なんすか。

「クリスティーナ様がおっしゃっていましたわ。あなたは、自分が興味のないことには動かない人間だと。自分の興味のあることにのみ、その行動力を注げる人間だと。

 ――うお。クリス様、ほんと鋭いっすね。さすがっす。

「ごまかされませんよ?」

 ――あー……。油断できなっすね、ほんと。

「それで、あなたはどうしてクリスティーナ様のことを探っているのですか?」

 ――いや、あたしだってクリス様のことは好きっすよ? 最初は入学式の挨拶で興味惹かれて近づいたんですけど、しばらくして気が付いたんすよね。……クリス様って、なんか諦めているんすよ。

「諦めている……?」

 ――ええ。それなのに、クリス様ってすごく頑張ってるじゃないですか。その二面性が、どーしても気になるんすよ。

「諦めて、頑張っている……? なにをですか?」

 ――いや知らないっすよ。だから、知ってみたいじゃないっすか。結局はそういう好奇心っす。

「微妙な理由ですね。やはり、あなたへの警戒は解けません」

 ――やめてくださいよ、あたしはクリス様の後ろ盾がないとただの平民なんすから。それに、ロナ様こそなんでクリス様の側近やってるんですか? ロナ様だって、自分の派閥作れるくらいの高位貴族じゃないっすか。

「それこそ愚問です。クリスティーナ様は将来、歴史に名を残す方です。わたしごときでは到底及ばぬ方に付き従うのは当然のことです」

 ――その信望ぶりはどうなんすかねえ……。

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