1部 12芒星魔方陣 編 2章 デジタル魔法の本領 2話
その夕方、事務所に戻った俺と久田は藤井先輩に事情を説明した。
藤井麻未、俺よりも一つ上で高3の先輩でレベル4のテレポートが使える。髪は長く背中まで有りスタイルが良い。背も意外と高く170cm位有る。
「ほんと、凄かったんだから!」
事情を説明しているうちに久田があの時の事を思い出して興奮してきている。
「私も見たかったなー」
浅野が羨ましそうに言う。
「シフト・フレイムって言ったかしら?その人」
「そうそう、あの炎の矢を射る姿、ほんとに格好良かった」
藤井先輩は紅茶を飲みながらパソコンのキーを叩くと。
「この人ね」
パソコンの画面には学研都市のデータベースにアクセスしていた。
「良いんですか?これ極秘とかじゃないですか」
「これはただの学校の名簿よ」
データベースと言っても年齢や性別、通っている学校が表示されているだけだ。
「所で、どうやってシャッター越しに犯人の位置を特定出来たんだ?」
俺は不思議に思っている事を藤井先輩に訊いた。
「えっと確かねー、透視出来るデジタル魔法のプログラムが有るらしいわよ」
「デジタル魔法に透視が出来るプログラムが有るのですか?羨ましいな」
「えっとねぇ・・・有った有った!これ、このプログラムよ」
藤井先輩はパソコンの画面に映ったデジタル魔法のリストを見せた。
「こんなに有るのですか?」
「そうみたい、で、透視が出来るプログラムはこれ」
されに「透視」でさらに検索を掛けると3件がヒットした。
「どういう風に見えるのですかね?・・・それにしても怪しいサイトですけど大丈夫なんですか」
見るからに怪しいホームページにデジタル魔法のリストが表示されている。
「大丈夫、多分・・・ところで渡邊君は?」
「あっ」
久田も俺も同じタイミングで声を出した。
「で、どうしたの?」
「あいつ、今、病院だった」
「入院しているの?」
藤井先輩は戸惑った様に聞き返す。
「何処の病院だっけ?」
「私も知らない」
「あんた達、全く・・・」
呆れた様な表情でパソコンに振り向きキーボードを叩いた。
「問い合わせしたわよ。ときわ病院に居るわ」
その時丁度俺の携帯が鳴った。渡邊からだ。
「渡邊か、悪かったな調子どうなんだ。もう大丈夫なのか?」
『悪いな、これからそっちに戻る』
「大丈夫か?今何処なんだ」
『いま、ときわ病院だ。とりあえず薬貰ってこれから帰る所だ』
「そうか、気を付けて来いよ」
その言葉を聞くと『分かった』と返事を返し通話は切れた。
「渡邊君こっち来るって?」
「ええ」
それを聞いた藤井先輩は
「じゃあ、それまでに報告書まとめなさい」
「分かりました」
俺は席に着きブルーバンド活動報告書に記入し始めた。途中、久田が「こうじゃなかった」など相談しながら報告書を完成させた。
浅野はいつの間にかスナックケーキを食べながらパソコンで動画を見ていた。
「お疲れ様」
藤井先輩はコーヒーの入った俺のマグカップを机に置き、左手に持ったマグカップを久田に手渡した。
「有り難うございます」
藤井先輩はこう見えてみんなの事を大切にしている。俺にはブラックコーヒーを久田にはミルクティを浅野にはココアを用意していた。
「先輩、報告書終わりました」
「どれどれ」
俺の隣に座り入力した報告書の内容を確認する。報告書はブルーバンドで専用に作られたソフトウェアで選択ウインドウから選び足りない部分を補足する様になっている為に比較的短時間で効率良く報告書が出来上がる。久田を藤井先輩に挟まれ窮屈に感じる。
そんなタイミングで渡邊が事務所に入ってきた。
「なにやってんだ?朝倉」
「今日の銀行強盗の報告書をまとめているんだよ」
「両方に先輩と久田に挟まれて?」
「あ、渡邊君お帰りーもう体の調子良いの?」
「爆発の衝撃で気絶しただけでしたから」
藤井先輩は俺の隣の席を立ち紅茶を入れ始めた。渡邊は俺の後ろに立ち報告書の内容を見ている。
「あの後、どうなった」
「それがね、あの後凄い事が起こったの」
久田がまたデジタル魔法の事を話し始めると藤井先輩は渡邊に紅茶を持ってきた。
「紅茶は精神を安定させる効果が有るそうよ」
「あ、有り難うございます」
渡邊は紅茶の入ったカップを受け取ると紅茶を飲み始める。
「あち!」
だが渡邊は猫舌で熱い物が飲めない。その後紅茶を冷ましてから飲もうとしている。
「それで、今日の犯人はどういう連中だったんだ」
渡邊は報告書を印刷してみていた。
「これが犯人の攻撃ね」
藤井先輩もその時の動画を検索して見ている。既にネットに事件の状況の動画が流れている。浅野が藤井先輩の後ろに来て動画を覗いている。
「この火の玉がデジタル魔法なんですか?私、初めて見ました」
浅野が物珍しそうに見ている
「俺も見た事が余り無いですね。先輩は見た事が有るのですか」
「そっかぁ見た事が無いのね。デジタル魔法って色々な種類があるのよ水とかこのほかに風とか、能力者の様な極端な能力の個人差が無いと聞いているけど・・・、どうもそんな訳じゃ無いようね」
藤井先輩は俺の質問を返した。
「でもこのシフト・フレイムって呼ばれてる人ほんとに凄いわ、犯人をここまで狙いうちに出来るなんて、逸れもほぼ軽傷でしょ?」
「シャッターで全く中の様子が見えていない状況なのにどうして犯人だけを攻撃出来たのかしら」
「俺もよく分かりませんけどそれは中の様子が分かる魔法を使ったとしか言えないのでは?」
「そうね、透視出来るような魔法が有るのでしょうね」
「だったら超能力よりもデジタル魔術師の方がいいじゃないですか?何で超能力開発をやっているのですか?」
久田は訴える。
「何かデジタル魔法には欠点が有ると言う事なんでしょうか」
浅野も不思議そうに言う。
「あっ、朝倉!わりー」
唐突に渡邊が俺に謝ってきた。
「何だ。突然」
「俺がブルーバンドやってるとこ中野に見られた」
「まじか」
「中野さんって朝倉先輩の幼なじみの彼女でしたよね?」
「いや、幼なじみ」
浅野の言葉を間髪入れずに否定した。
「それより何処で見つかったんだ」
「今日の銀行強盗の30分前位、ここからプラザタウンに向かう途中で」
「それが何で問題なの?」
久田が不思議そうに訊く。
「俺がブルーバンドをやっている事は中野には内緒にしているんだ。あいつには昔から世話になっているから心配させたくないんだ」
「中野さんって大誠学園に通っているのよね、テレキネシスのレベル4の・・・」
「そうです先輩、だからあいつ、俺の事がいつでも自由に使えると思っているのですよ」
俺は嘆くように言った。
「それは大変ね」
藤井先輩は苦笑いしていた。
「で、それと渡邊先輩がブルーバンドやっている事がどう関係するんですか?」
久田は訊いてくる。確かに一見何も関係無いように聞こえる。
「俺はしょっちゅう、マンションに帰るが遅れる口実に『渡邊のうちに寄ってた』って言っているからだよ。この手が使えなくなる上に今までも同じ事言ってたから疑われないかどうかって事」
ここまで言って久田は納得した。しかし。
「いっそのことカミングアウトしたらどうなんです?」
浅野は痛いところを突いてくる。
「そんな事したら、『私も入る!』って言ってくるじゃないか」
「それでも良いんじゃ無い?」
「ダメなの?」
久田も同じ事を訊いてくる。
「確かに中野さんがブルーバンドに入ってくれると随分心強いけど朝倉君には朝倉君なりの考えがあるのでしょ」
藤井先輩が俺の様子を見てフォローに入った。
「ええ、まあ・・・」
俺は綾香にこんな街の底辺を這いつくばる様な事よりももっと高見を目指して欲しい。そう思っていた。